東京高等裁判所 昭和39年(行ケ)73号 判決
本願実用新案について。
右の当事者間に争いのない事実と成立に争いなき甲第一、第一三号証の説明書の記載とによれば、原告出願にかかる本件実用新案の登録請求の範囲は、「金属箔(2)に予め所望の模様(1)を型付けし、その金属箔の上面に透明ないし半透明シート(3)を、その下面にビニールシート(5)並びにビニールシート(5)の下面に裏地(4)を重ね合せて全部を一体に接着した装飾雑貨用反射性シートの構造」にあり(なお右裏地(4)の構成材料は限定されていない。右甲第一三号証の説明書の「登録請求の範囲」の項の記載及び「実用新案の説明」の項末部の「裏地4に例えば布を……」の記載等参照)、そしてその作用効果は、(イ)単純なシボ模様の従来品に比し、遥かに興趣に富んだ精ちかつ高級な模様をあらわすことができ、(ロ)表面が平滑であるに拘わらず、透明ないし半透明シートを透して金属箔に型付けした模様を表示することができ、しかもその模様が非常に立体感のあるものになつてみえ、(ハ)裏地に織物を使用した場合裏地の織目等が金属箔の模様をこわすようなことを防止し、金属箔に型付けした模様のみを鮮明に表示することができる、すなわち金属箔の型付けした模様の型崩れを防止する、とされるものであることが認められ、また右の(イ)は、金属箔に予め型付けしたことによるもの、(ロ)は第一層を透明ないし半透明シートとし、第二層を所望の模様が型付けされている金属箔としたことによるもの,(ハ)は第二層の金属箔の次に第三層ビニールシートを介装せしめて第四層の裏地と接着したことによるものであることが窺われる。
各引用例について。
(一)成立に争いなき甲第八号証によれば、第一引用例には、「透明シート(1)の裏面に凹円部(2)を無数形成し、これの面(裏面)に反射体(3)(アルミニユーム箔等金属性の反射体)を接着し、かつ反射体(3)の裏面より布地(4)及び裏地(5)(合成樹脂等の裏地)を接着して成る反射性シートの構造」のものが記載せられており、その作用効果は要するに「透明シート(1)の表面に光線が投入されれば、入射光線は透明シート(1)を透して反射体(3)に当り、屈折反射し、透明シート(1)より反射光線が出て、その際反射体の凹面により乱反射して優美な輝きをなし(第一層が透明シート(1)で、第二層が凹凸面を有する金属性の反射体(3)であることによる。)、寒暖のために透明シート(1)のビニール樹脂等が伸縮して凹円部)2)の形状を損つたり、また完全に折り曲げて製品とする品物を製作しても容易に切断するおそれがなく(反射体(3)に布地(4)を裏打ちしたのによる。)、かつ金属性の反射体(3)が外気のために酸化したり、湿気による老化、剥離等を来したりする等のおそれがない(布地(4)の裏に合成樹脂等の裏地(5)を更に接着したのによる。)。」とされるものであることが認められ、
(二)次に成立に争いなき甲第九号証によれば、第二引用例には、「透明シート(1)の裏面に反射体(2)(金属箔等の金属性の反射体)及び裏地(3)(合成樹脂シート、同レザーその他の裏地)を接着し、前記透明シート(1)並びに反射体(2)の表裏両面にしぼ(4)、(5)を形成して成る装飾用反射性シートの構造」が記載されており、そしてその作用効果は要するに「これに投入された光線は右の表裏両面に形成したしぼ(4)、(5)の凹凸面の作用で強烈に乱反射また全反射して光り輝き、かつ光源の方向、強弱によつて光り方が異るので極めて優美であり、また模様しぼ等を形成すれば非常に高雅なる製品を製作し得られ(第一層がー表裏にしぼを形成したー透明シート(1)で、第二層が表面にしぼを形成した金属性の反射体(2)であることによる。)、また金属性の反射体(2)が老化、剥雑等の損傷を来すおそれがなく、長期使用に耐える(反射体(2)を合成樹脂シート等の裏地(3)で裏打ちしたことによる。)。」とされるものであることが認められる。
そこで本願実用新案が右各引用例から容易に考えられるものであるとした審決の判断が原告主張の如く違法であるかどうかについて検討する。
(一)まず本願においては、「金属箔(2)に予め所望の模様(1)を型付けし、その金属箔の上面に透明ないし半透明シート(3)を接着し」第一引用例のものは「透明シート(1)の裏面に凹円部(2)を無数形成し、その裏面に反射体(3)(アルミニユウム箔等金属性の反射体)を接着し、」また第二引用例のものは「透明シート(1)の裏面に反射体(2)(金属箔等の金属性の反射体)を接着し、ー透明シート(1)及びー反射体(2)の表裏両面にしぼを形成し、」それぞれ下面に裏打ちを施して成ること前記のとおりである。
しかるところ本願における右の「金属箔(2)に予め所望の模様(1)を型付けし、」というのは、経時的な観念であつて、被告のいうように製造過程ないし製造方法を説明したものに過ぎないものというべきところ、旧実用新案法が登録することにより権利の対象とする同法第一条にいう物品の型とは、物品の形状、構造または組合せ自体をいい、これらを実現するための方法、順序の如何は、型の類否について、何らの影響をも来すものではないと解すべきことーなお、かように旧実用新案法における実用新案が型について存し、方法について存しない以上、方法による効果は実用新案による効果としては考慮されるべきものではない。ー正に被告の主張するとおりであるから、本願における右の部分はこれをそのまま登録さるべき実用新案の構成要件に入れることはできず、この意味における本件実用新案の要旨は「所望の模様(1)が型付けされている金属箔(2)」の上面に透明ないし半透明シート(3)を接着し、これに前記のとおりの裏打ちが施されている構造ということになるのである。
してみれば、右三者は共に透明性シートの下面に、表面に凹凸模様を有する金属箔を接着し、その下面に裏打ちを施した構成であり、これによつて光線反射の作用効果をもたらすものである点において一致するものというべきであつて、右の裏打ちの具体的構成において次記のような相違を示すに過ぎない。もつとも仔細に検討すれば、前記のように本願においては、金属箔に所望の模様が型付けされているのに対し、第一引用例のものにあつては、金属箔は透明シート裏面の凹円部に接着造形されており、また第二引用例のものにあつては、金属箔の表裏面にしぼが形成されているのであつて、このような金属箔の凹凸の形状の相違のもたらすところとして、原告主張の如く、本願のものが引用例のものに比し、表現する模様の形状、態様等に若千の差異を示すことは否めないであろうし、それはー必ずしも予め型付けされたことによる効果ではなく、所望の模様が型付けされたことによる効果であるからー被告主張の如くいわゆる製造方法に基づく効果であると断じ去ることはできないものであるにしても、もともと三者共金属箔面上に形成した凹凸によつて光線反射の作用効果をもたらすものである点において構想を同じうするものであるところ、その際右の凹凸の形状をいかにするかというようなことは、当業者が必要に応じて容易に選択できることである(現に第二引用例のものにあつては模様しぼ等を形成する場合のあること前認定のとおりである。)から、この部分に関しては、本願は第一、第二引用例から容易に考えられるもので、類似の範囲を出ないものと認めるのが相当である。
(二)そこで本願と第一、第二各引用例とにおけるいわゆる裏打ち構造の類否について検討する。
この点においては、前記の如く三者いずれも、第一層を透明性シート、第二層を金属箔とした上、その下面にいわゆる裏打ち層として、第一引用例のものは第三層として布地、第四層として裏地(合成樹脂等の裏地)を接着したもの、また第二引用例のものは単に第三層として裏地(合成樹脂シート、同レザーその他の裏地)を接着したものであるのに対し、本願においては第三層としてビニールシートを介在させて第四層として裏地(材質に限定はない。)を接着したものであること前記によつて明らかであるから、本願は第三層をビニールシートとした点において第一引用例のものと異り、第四層を設けて裏打ちを二層とした点において第二引用例のもの(その裏地として合成樹脂シートを用いた場合)と相違するといえよう。しかしながらすでに第一引用例にみられる如くこの種反射性シートにおいて反射体の裏面に二層の裏打ちをすること自体は本願出願前公知の技術手段であつたのであり、加うるに本願においては裏打ち部分の二層目である前記第四層の裏地については材質の限定もない以上、本願の裏打ち構造はあたかも第二引用例のものの第三層として合成樹脂シートを用い、さらにその下面に裏地(この種物品に通例用いられる任意の裏打材)を接着して二層の裏打ちをしたものとして、第一、第二引用例から必要に応じ当業者が容易に考えられるものといわねばならない。
なお原告は、第二引用例のものの裏地(3)は同引用例の記載によれば金属箔等の反射体にしぼ模様を型付けするものであつて、本願の、型付けされた模様をこわさないようにするためのビニールシート(5)と目的及び作用効果を異にするというが、右引用例の裏地(3)に「しぼ(5)は裏地にても形成す」(同引用例中原告指摘の記載参照)るの作用効果があるにしても、すでに前記認定のとおり、その作用効果として金属性反射体の老化、剥離等の損傷を防ぐともせられるものであるから原告の右主張は理由がない。そして原告は本願におけるビニールシート(5)、裏地(4)を順次重ね合せて一体に接着した裏打ち構造は、単なる二層のものではなく、型付けされた金属箔の模様をこわさないための特定の構造であり、これによつてその目的とする作用効果を奏するものであるとして、各引用例の裏打ち構造と異別のものである旨強調するが(さらに原告は本願の裏打ち構造は「予め型付けした金属箔」を前提とし、これと不可分に結合して特殊の構造であるとするのであるが、かかる主張の失当なるは前記(一)の説示によつて明らかである。)、すでに前記の如く本願においては「裏地」については材質になんの限定もないのに加え(原告の主張中には、本願が裏地として布、レザーの如きものを「対象」としている、とする部分があるが、前記甲第一三号証の訂正説明書には、何らの限定もされていない。)、右説明書には裏打ちの作用効果については単に「裏地4と型付けした金属箔2との間にビニールシート5を介装せしめたから、裏地4に例えば、布を使用したような場合でも裏地の織目等が金属箔の模様をこわすようなことを防止し、金属箔に型付けした模様1のみを鮮明に表示せしめることができる。」と要するに、ビニールシート(5)の金属箔の保型、補強の作用効果が摘記されているだけで、これと裏地(4)と相俟つての特殊の作用効果等については何の記載も存しないところ、右のビニールシート(5)の金属箔の保型、補強の作用効果は第二引用例のものの裏地(3)もこれを有すること前記のとおりであるから、結局本願の裏打ち構造の特異性をいう原告の前記主張は採用できない。
(三)従つて本願の実用新案は第一、第二引用例から容易に考えられるものであるとした審決の判断は相当であり、原告主張の違法は存しない。
よつて審決の取消を求める原告の請求を棄却すべきものとする。