東京高等裁判所 昭和39年(行コ)17号 判決 1967年12月25日
控訴人(原告) 黄色合同株式会社
控訴参加人 大橋清 外一名
被控訴人(被告) 東京都知事
主文
本件控訴を棄却する。
控訴参加人らの請求を棄却する。
当審における訴訟費用中、控訴人・被控訴人間に生じた部分は、控訴人の負担とし、参加人両名・控訴人・被控訴人間に生じた分は、参加人らの負担とする。
事実
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人が、控訴人に対し、別紙目録記載の建物につき、昭和二七年五月一二日付文書をもつてなした建築物除却命令が無効であることを確認する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決及び参加人らの請求を棄却するとの判決を求め、参加代理人は、「参加人らと控訴人及び被控訴人との間において、被控訴人が、控訴人に対し、別紙目録記載の建物につき、昭和二七年五月一二日付文書をもつてなした建築物除却命令が無効であることを確認する。参加による訴訟費用は、控訴人、被控訴人の負担とする。」との判決を求めた。
当事者の事実上の陳述並びに証拠の提出、援用及び認否は、控訴代理人において、原審における主張を左記のように訂正、補足した。
(証拠省略)
参加代理人において、控訴人の主張を援用し、参加人らは、控訴人から昭和四〇年八月二日別紙目録記載の建物を譲り受けて各二分の一の共有持分を取得し、同月二五日所有権移転登記を経由したものであると述べたほか、原判決の事実摘示と同一であるので、これを引用する。
控訴人の主張
一、原判決四枚目表九行目「原告は、」以下同上五枚目表三行目「道路占用を許可した。」までを次のとおり訂正する。
控訴人が、本件土地に建物を建築する目的で、被控訴人に対し、本件土地の占用許可願を提出したところ、当時東京都建設局道路課長であつた滝尾達也らは、建築目的で右土地の占用を許可するには、同地上にある港区所有のバラツク建の建物を同区の指示に従つて移築するとともに、同建物に居住する同区役所吏員須賀宇太郎のため代替家屋を提供し、さらに広告板の所有者ルビオー社及び広告主ロマンス社からその権利を買取り、本件土地を更地にすること、右条件を履行するまでの間とりあえず材料置場の名目で一年間の占用を許可し、右条件を履行した場合には建物建築目的の占用許可を与える旨を述べ、控訴人においてこれを承諾したので、被控訴人は、控訴人に対し、同年三月三〇日付をもつて材料置場の名目で占用期間を同年三月二九日から翌二六年三月三一日まで、占用料を金七二八〇円として占用許可をなした。そこで、控訴人は、昭和二五年四月から翌二六年二月までの間約金二二五万円を費し、前記三条件を完全に履行し、その旨滝尾課長に告げたところ、同課長から建物建築目的の占用許可の内意を得た。
二、公有水面埋立法に基き被控訴人が東京都に対しなした汐留川埋立免許による埋立工事は、昭和三九年六月完成し、同月埋立竣工認可がなされた。右埋立工事完了にともない、汐留川は、その公用を廃止されたので、もはや河川法の適用を受けるべきでなく、従つて、右汐留川に架設された土橋は、当然橋としての機能及び効用を永久に失い、その橋台敷地であつた本件土地もまた当然に公物たる性質を失い、もはや道路法の適用を受けないものである。仮りに、橋台敷地の公物性を消滅させるために公用廃止の意思表示が必要であるとしても、右意思表示は、必ずしも明示たるを要せず、黙示でもよく、従つて汐留川の埋立又は埋立竣工認可により、本件土地が橋台敷地たる公用は廃止されたものというべきである。仮りに、黙示の公用廃止が認められないとしても、土橋が橋としての形体的要素を永久に滅失した以上、被控訴人は、土橋の橋台敷地たる本件土地の公用廃止を直ちになすべきであり、これをなんらの理由なく遷延し、旧道路法の規定を適用して本件建物の除却を命ずるのは、行政権の濫用であつて、許さるべきではない。
そもそも、汐留川の埋立は、京橋川及び外濠の埋立とともに、その上に地下一階地上二階の建物を建て、その屋上に高速道路を建設する目的でなされたものであり、汐留川、京橋川及び外濠には、鍛冶橋をはじめ有楽橋、新有楽橋など合計一三の橋が架設されていたが、右河川の埋立とともにこれらはいずれも撤去され、これらの橋の橋台敷地もすべて公用廃止となり、現在では本件土地を除きいずれも被控訴人から第三者に賃貸借又は占用許可によりその使用が許され、高層建物等が建築されている。このように、被控訴人は、控訴人以外の者に対してはこれら旧橋台敷地の使用を許していながら、控訴人に対してのみ使用を認めず、本件建物の除却を求めるのは、衡平を欠く行政権の行使であつて、許さるべきではない。
被控訴人の主張
橋は、機能的には道路と一体となつて道路の効用を全うしているのであつて、法律上も道路の範疇に属するものとして全面的に道路法の適用を受けるものである。橋及びその橋台敷地は、道路管理者の道路区域の決定という道路法上の道路を構成する敷地の範囲を確定する行政行為によつて、道路の敷地の一部に包含されるのである。従つて、橋及び橋台敷地の機能ないし法律上の性質は、その橋が架けられている河川の区域が埋立てられてその公用が廃止されても、そのことによつて直接にはなんらの影響を受けず、また、埋立工事の完了にともない、橋が撤去されてしまつても、撤去された橋及びその橋台敷地の部分につき、道路法に基く路線の廃止、変更又は道路の区域の変更等新たな行政行為がなされ、その部分が道路の範囲から除かれないかぎり、埋立工事により従前の橋の部分に造成された土地及び従前の橋台敷地は、依然として道路の区域であつて、それらが道路法上の道路の敷地の一部であることに変りはない。
もつとも、橋台敷地は、橋の撤去にともない、その直接的な機能を失うこととなるが、そのために直ちに道路としての公物性を喪失するものではなく、このような場合、道路管理者としては、橋台敷地を従前どおり道路の区域として管理すべきか、又は道路修理用の材料置場等道路の附属物として管理すべきか、或は道路の区域変更の手続によりその公用を失わしめて、道路の範囲から除外すべきかを道路管理者の立場において検討し、そのいずれかに決定すべきものなのである。
ところで、本件土橋及びその橋台敷地である本件土地は、道路法第一八条の規定に基き、都道一七〇号線(起点港区芝新橋二丁目一級国道一五号線交点、終点文京区春日町一丁目一〇号線交点)の道路の区域に決定されているので、それらは、汐留川が埋立てられ、その竣工認可によつて河川としての公用が廃止されるに至つても、それによりなんら直接の影響を受けるものではなく、依然として都道一七〇号線の道路の区域として道路法の適用をうける道路敷地であることに変りはない。
また、本件土橋は、その構造がアーチ式鉄筋コンクリート造であつて、汐留川の埋立により通風性が失われても腐蝕等のおそれがないので、現在これを撤去する方針はなく、従つて、本件土地は、橋台構造の保護上なお橋台敷地としてその効用を失うに至つていないのであり、さらに、本件土地が、将来仮りに橋台敷地としての効用を全く失うようなことになつても、都道管理者としては、本件土地周辺の交通の安全と円滑を図る観点から、本件土地を従前どおり道路の敷地として管理してゆく方針であつて、本件土地の公用を廃止し、それを道路の区域から除外する意思は全くない。
理由
当裁判所は、当審における新たな証拠調の結果を参酌しても、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべく、また参加人の請求も理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は左のとおり附加、訂正するほか、原判決理由記載と同一であるからこれを引用する。
附加、訂正する点は次のとおりである。
一、原判決理由六枚目表八行目「昭和二六年一一月二〇日」とあるのを「昭和二六年一一月二日」と改める。
二、同上七枚目裏三行目以下を削り、次を加える。
違法であるかどうかの判断の基準時を口頭弁論終結時とすべきものとしても、道路と一体となつて道路の効用を全うする施設又は工作物として道路法の適用を受ける本件の土橋及びその橋台敷地たる本件土地の公用を廃止するためには、道路管理者において道路の供用廃止の意思を表示し、その旨を告示する等の手続をなすを要することは道路法第一八条第二項の明規するところであつて、仮りに汐留川埋立工事による河川の公用廃止がなされたとしても、これによつて土橋及び橋台敷地たる本件土地について道路の供用の廃止がなされたということはできない(黙示の公用廃止が認められる場合があるとしても、控訴人の主張する汐留川の埋立工事の竣工認可をもつて、客観的に土橋及び本件土地についての道路の供用廃止の意思を推測せしめる事実と見ることができないのは勿論である。)し、汐留川の上に建てられた本件建物の木造部分が建築基準法に違反していることは前記のとおりである。従つて本件除却命令が事情の変更により、その意義を失い、違法ひいては無効となると解すべきなんらの根拠もなく、控訴人主張のような事実があつたとしても、右除却命令をもつて行政権の濫用ということができないことも明らかである。
従つて、控訴人のこの点に関する主張も理由がない。
三、参加人らの請求について判断する。
参加人らの本件参加申出は、民事訴訟法第七三条、第七一条に基くものであつて、本件除却命令を発した被控訴人及び該命令の対象たる建物の所有者たる控訴人の双方に対し本件除却命令の無効確認を求めるものであるところ、私人たる控訴人に対する訴が不適法であることはいうまでもなく、仮りに右請求を控訴人に対する所有権確認の請求に変更するとしても、該請求は本訴の除却命令無効確認の請求と関連する請求とは認められないから、本件参加申出は不適法なものと解せられるが、建物除却命令は特定人の主観的事情に着目してなされた命令ではなく、建物の客観的事情に着目してなされたいわゆる対物的性質の命令に属し、その効力は、該建物の譲受人に及ぶと解するのが相当であり、本件建物の譲受人たる控訴参加人の趣旨は、窮極において被控訴人に対し本件建物の除却命令の無効確認を求めようとするにあると解されるから、参加人らの本件参加申出は、行政事件訴訟法第一八条の規定する第三者による請求の追加的併合に該当すると解するを妨げない。(被控訴人は参加人らの請求棄却の申立をなし、参加人らの訴提起に同意した。)
しかしながら、本件除却命令が無効とは認められないことは、控訴人の請求に対する判断と同一であるから、参加人らの請求も失当たるを免れない。
よつて、控訴人の本件控訴はこれを棄却し、参加人らの請求もこれを棄却し、民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に則り主文のとおり判決する。
(裁判官 仁分百合人 池田正亮 小山俊彦)
(別紙目録省略)