大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(う)2122号 判決

被告人 増田伊佐夫

〔抄 録〕

論旨は、破棄差戻後の第一審の審判に当つた原裁判所は、先ず公判手続を更新するに際し従前の資料を記録から取り外ずし再び起訴状一本の状態に戻したうえで審理を行うべきであつたのに、被告人において事件を否認し弁護人から異議を申し出たのに拘らず、右のような措置を採らず、破棄差戻前の手続を踏襲して簡易公判手続によつたのは、訴訟手続に関する法令に違反したものである、というのである。

そこで、記録について調査すると、本件は昭和三九年一一月二五日及び昭和四〇年一月二六日の二回に亘り台東簡易裁判所に起訴されたものであるが、同裁判所において簡易公判手続により審理のうえ同年二月二〇日有罪の判決を言い渡し、これに対し被告人から控訴したところ、当高等裁判所第一〇刑事部において審理の結果、同年六月一七日、右の第一審判決言渡に関する公判調書が存在しないため右言渡が適法な方式を履践してなされたものか否か不明であるとの理由により判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続上の法令違反があるものとして、右判決を破棄し台東簡易裁判所に差し戻す旨の判決が言い渡され、よつて原裁判所において再び右差戻後の公判審理を行つた、という経過を辿つていることが明らかである。ところで、右破棄差戻後の原審第一回公判調書によれば、原裁判所は公判手続を更新していることが明らかであるが、右破棄の理由が単に判決言渡手続の法令違反の点に存することにかんがみると、右公判手続の更新は正当であつて、その際所論のように従前の訴訟資料をすべて記録から取り外ずし起訴状一本の状態に戻す必要はないものというべく、又同公判調書によれば、被告人は「事実はそのとおり相違なく私の刑事責任を認める」旨の従前の供述を変更して居らず且つ弁護人も簡易公判手続によることにつき一応意見を述べているが結局異議がない旨陳述していることが明らかであるから、原裁判所が右公判手続の更新に際し破棄差戻前の第一審と同様簡易公判手続によつたことは固より違法であつて、所論のように通常の公判手続によらねばならなかつたものというのは当らない。(なお所論中に、昭和四〇年一月二六日の追起訴の公訴事実に関する書証については証拠とすることに同意しなかつた旨主張している箇所が見えるが、既に前記の如く簡易公判手続による以上刑事訴訟法第三二〇条第二項により特に訴訟関係人から異議を述べない限り書証に関する証拠能力の制限は存しないことになるところ、左様な異議が述べられた形跡も存しないから、所論のような同意がないからといつて右書証能力に何ら消長を来すわけではない。)従つて、いずれの点から観ても、原審の訴訟手続には所論のような法令の違反はなく、右論旨は理由がない。

(新関 吉田 伊東)

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