大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(う)650号 判決 1965年6月22日

控訴人 原審検察官

被告人 三木浅重 弁護人 恒次史朗

検察官 大平要

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一〇月に処する。

原審の未決勾留日数中八〇日を右本刑に算入する。

原審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、東京高等検察庁検事大平要が差し出した静岡地方検察庁検察官検事渡辺薫名義の控訴趣意書に記載してあるとおりであり、これに対する答弁は弁譲人恒次史朗が差し出した答弁書に記載してあるとおりであるから、いずれもこれを引用し、これらに対して当裁判所は、次のように判断をする。

所論は、原判決には、刑法第二一条の規定の適用を誤り、いわゆる裁定通算をすることのできない未決勾留日数を本刑に算入した違法があつて、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄されるべきであるというのである。

記録によれば、被告人は、昭和三八年五月三一日神戸地方裁判所において銃砲刀剣類等所持取締法違反、火薬類取締法違反罪により懲役六月に処する旨の判決の言渡を受け、控訴をしたが同年一一月一九日控訴棄却の判決を受け、更に、上告をしたが昭和三九年四月一三日上告棄却の決定がなされ、右決定は同月一九日確定して、同年六月一日右刑の執行が開始され、同年一一月三〇日その刑の執行を受け終つたものであるところ、右受刑中昭和三九年九月二五日静岡地方裁判所に対し本件について公判を請求されるとともに令状を請求され、同日同裁判所裁判官発付の勾留状により静岡刑務所に勾留され、現在に至るまで引き続き勾留されている者であるが、昭和四〇年二月二三日本件につき原判決が宣告され、その中で、判決の宣告日も未決勾留日数として、裁定通算することができるとして、右別件の刑の執行終了の翌日である昭和三九年一二月一日より右判決宣告日をも含めて八五日間を本刑に裁定通算する旨を宣告していることを認めることができる。しかしながら、上訴の提起期間は、裁判が告知された日から進行し(刑事訴訟法第三五八条)、判決宣告の日にも上訴を申し立てることができるのであるから、判決宣告後の勾留は、その当日をも含めて、すべて「上訴の提起期間中の未決勾留の日数」ということになり、判決確定後その執行にあたり、法定通算をされることとなる(同法第四九五条)ものと解せられるから、判決宣告後も勾留が続けられた本件の場合においては、判決宣告日は裁定通算の対象とはならないものというべきである。されば、判決宣告日をも含めて八五日間の未決勾留日数を算入する旨を宣告した原判決には、刑法第二一条の規定の適用を誤り、その誤が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。

(裁判長判事 河本文夫 判事 宮後誠一 判事 清水春三)

原審検察官の控訴趣意書

原判決は「被告人を懲役一〇月に処する。未決勾留日数中八五日を右刑に算入する。」旨を言い渡した。

しかし、右判決には、刑法第二一条の規定の適用を誤り、いわゆる裁定通算をすることのできない未決勾留日数を本刑に算入した違法があつて、その違法が判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄されるべきものと考える。

一、被告人に対する本件の勾留及び処理の経過は次のとおりである。

すなわち、被告人は

1 昭和三九年九月二五日

別件受刑中、静岡地方裁判所に公判を請求されるとともに令状を請求され(いわゆる求令状起訴)、同日同裁判所裁判官発付の勾留状により静岡刑務所に勾留され(記録第一三三丁)

2 昭和四〇年二月二三日

原判決が宣告され(同二五七丁及び二五八丁)

引き続き勾留のまま今日に至つている。

二、前掲の別件とは、被告人に対する銃砲刀剣類等所持取締法違反及び火薬類取締法違反事件であつて

1 昭和三八年五月三一日

神戸地方裁判所において「懲役六月に処する」旨の判決が宣告され(記録第二〇二丁)

2 昭和三九年四月一九日

上告棄却決定により右判決は確定し(同二〇一丁)

3 同年六月一日

右懲役六月の刑の執行が開始され(同二五四丁)

4 同年一一月三〇日

右刑の執行が終了し(同二五四丁)

ている。

三、したがつて、昭和三九年九月二五日以降同年一一月三〇日まで、勾留状による勾留と刑の執行が併存している本件において、本刑に裁定通算し得べき未決勾留日数は

自昭和三九年一二月一日(刑の終期の翌日)・至同 四〇年二月二二日(原判決宣告の日の前日) 八四日

でなければならない。

四、しかるに、原判決は未決勾留日数中「八五日」を本刑に算入しているので、裁定通算し得べき日数八四日を一日超えて通算したことになる。

これは、原判決が、判決言渡し後も被告人が引き続き勾留されている本件の如き場合にも刑法第二一条の規定にいわゆる「未決勾留ノ日数」には判決宣告の日が含まれると解したためであることは判文上明らかである。

五、しかしながら、上訴の提起期間は裁判が告知された日から進行し(刑事訴訟法第三五八条)、判決宣告の日にも上訴を申し立て得るのであるから、判決宣告後の勾留は、その当日を含めて、すべて「上訴の提起期間中の未決勾留の日数」に含まれ、判決確定後その執行にあたり、刑事訴訟法の規定にしたがい法定通算の対象となる(同法第四九五条)。

かような場合においては、裁定通算し得る未決勾留日数は判決言渡しの前日までのものであることは、既に東京高等裁判所の裁判例の示すところである(昭和三八年五月二七日第九刑事部判決、同年(う)第四八六号)。

六、原判決が執行猶予言渡しによる勾留状失効の場合の不合理として挙げている例は、勾留中の被告人が判決宣告による勾留状失効の結果として拘束を解かれる場合であつて、「判決宣告後の勾留」は存在せず、したがつて法定通算の規定適用の余地はない。未決勾留日数を判決宣告日まで裁定通算するのに何ら支障のない場合である。

そもそも、未決勾留算入について法定通算のほかに裁定通算についても規定の設けられた趣旨は、法定通算の規定の及ばない範囲の未決勾留日数をも事案に応じてその全部又は一部を裁判官の裁量により本刑に算入する点にあるのであつて、法定通算されるべき期間にまで、裁定通算をなす余地のないことは明らかである。原判決のこの点の説明は合理的なものとは考えられない。

七、原判決は、さらに「判決宣告の日が重ねて算入されることがあつても、刑執行の際調整すれば足りる」との説明を加えているが、検察官にはかような調整の権限は認められておらず(昭和二八年一一月七日福岡高等裁判所決定-高等裁判所刑事判例集六巻一〇号一、三七八頁)、原判決がそのまま確定したとすれば、裁定未決勾留日数中の一日は前掲の刑の執行期間と競合する結果となり、被告人に対し衡平の観念に反する不当な利益を与え、最高裁判所の判例にも反することとなる(昭和三二年一二月二五日最高裁判所大法廷判決-最高裁判所刑事判例集一一巻一四号三、三七七頁)。

八、以上いずれの観点からみても、本件(実刑)判決宣告の日の勾留を裁定通算すべき理由はなく、原判決は、刑事訴訟法第四九五条の規定の解釈を誤り、刑法第二一条の規定の適用を誤つたものであることが明らかである。

よつて、原判決を破棄してさらに適正な裁判を求めるため本件控訴に及んだ次第である。

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