東京高等裁判所 昭和40年(う)98号 判決
被告人 黒沢益
〔抄 録〕
よつて考察するに、記録によれば、原判決が罪となるべき事実第一(恐喝)の証拠に挙げている中川一雄の検察官に対する供述調書は、原審第二回公判期日において右中川一雄が証人としてこれと相反し又は実質的に異る供述をしたため、同第三回公判期日において検察官から右証言よりもこれを信用すべき特別の情況があるものとして刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段によりその取調請求がなされ原審がこれを採用して取り調べたものであることは所論のとおりである。そして(論旨第一の二について、)かかる供述録取書については検察官は必ずその取調を請求しなければならないことは同法第三〇〇条の明定するところであり、その請求の時期については、これに録取された供述につき被告人に十分な反対尋問の機会を与えるため供述者に対する証人尋問中、又は尋問終了直後、遅くともその退廷前にこれをすることが同条及び同法第三二一条第一項第二号後段の法意に照らして望ましいことは言うまでもないところであるが、被告事件の公判審理を通じて被告人の反対尋問権が実質的に保障されている限り、かかる供述録取書に対する証拠調の請求及びその取調が供述者を証人として尋問した公判期日の後の公判期日に行われても違法ではないと解すべきところ、原審第二回公判調書中、右証人中川一雄の供述記載と同人の検察官に対する所論の供述調書とを対照検討すれば、既に先の中川一雄に対する証人尋問に際し、同証人による立証事項中、主要の争点である被告人の原判示第一(恐喝)の犯行に対する共同加功の事実の有無、その態様等につき、被告人側に反対尋問の機会が与えられ且つ現に十分な反対尋問が行われたことを看取することができるから、原審がその後の公判期日に取調の請求及びその取調の行われた右供述調書を採つて罪証に供したのは毫も違法ではなく、更に(論旨第一の一について)記録に窺われる被告人と中川一雄との所属暴力組織内における兄弟関係にかんがみ、右中川一雄の検察官に対する供述(調書)と同人の原審公判廷における証言内容とを対比し、かつ各供述のなされた情況に徴すれば、検察官の面前において被告人に憚るところなくなされた前の供述は、被告人の在廷する公判廷においてなされた後の証言よりもこれを信用すべき特別の情況があるものと言うことができるから、前者は刑事訴訟法第三二一条第一項第二号後段による証拠能力を有し、原判決がこれを罪証に供したのは正当である。
(小林健 遠藤 吉川)