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東京高等裁判所 昭和40年(く)31号 決定 1965年3月29日

少年 U・G(昭二五・二・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨および理由は、附添人提出の抗告状記載のとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

まず、所論は、本件強姦致傷の非行後約半年を経てから少年に対し同行状を執行し、少年鑑別所送致をした原審判の手続には、決定に影響を及ぼす法令の違反があるというのである。

なるほど、本件強姦致傷の非行は昭和三九年八月一日であるのに、右非行により少年に対し緊急同行状が発せられたのは昭和四〇年一月八日、その執行は同月一二日であつて、この間に五か月余が経過しているが、しかし、右非行を含めて本件各非行が司法警察員より検察官に送致されたのは昭和三九年一二月一〇日、検察官より原裁判所に送致されたのは同月一二日であるから、原裁判所の右緊急同行状の発付が右のような時期となつたのはやむをえないところであり、むしろ遅滞なく行われたというべきであるのみならず、右非行の態様および罪質、記録から窺われる少年の性格および素行、保護者の右非行についての態度、ことにその関係者への働きかけの状況などからすれば、少年に対し緊急同行状を発し、かつ、少年鑑別所送致をするに十分な理由があり、原裁判所のした少年の身柄拘束の措置にはなんら違法の点は発見できない。論旨は理由がない。

次に、所論は、原決定の認定した本件各非行のうち、強姦致傷の非行は少年がこれをしたと認めるに十分な証拠がなく、また、恐喝の非行は単なる貸借と解すべきであり、他の各非行はいずれも軽微であるから、原決定には重大な事実の誤認があり、かつ、原決定の処分は重きに失して著しく不当であるというのである。

そこで、記録を調査すると、強姦致傷の非行が少年のしたものであることは、少年の司法警察員に対する昭和三九年九月三日付供述調書(所論中これに任意性の欠如をいう点があるが、そのしからざることは、原審判における参考人五十嵐武男尋問調書および右供述調書の形式、内容に照して明らかである。(原審判における参考人○内○子、同○内○○ヨの各尋問調書、右両名の司法警察員に対する昭和三九年八月六日付各供述調書○沢○子、○沢△子の司法警察員に対する各供述調書、原審判における参考人○山○ね、同○山○勝の各尋問調書、○山○信、○山○ね(昭和三九年九月四日付)の司法警察員に対する各供述調書を総合することによつて優に認定できるところであり、○沢○○江の司法警察員に対する供述調書はこれにてい触するものではなく、少年の原審判廷における陳述および家庭裁判所調査官に対する陳述、○谷○清の家庭裁判所調査官に対する陳述のうちこれにそわない部分は、○沢○○江の供述調書をも含めた前記の各証拠に照してとうてい信用しがたい。また、本件恐喝の非行が恐喝罪の成立に欠けるところのないことは、その際少年のした被害者に対する言動が、その以前一か月に満たない間に二度までも少年の言に従わながつたと無態な言い掛りをつけて少年が被害者に対し暴行を加えていることから、原決定摘示のとおり脅迫といいうることにより明らかである。してみれば、原決定にはなんら所論のような事実の誤認はなく、従つて、事実誤認のあることを前提とする原決定の処分の不当をいう所論も採ることができないのみならず、原決定の説示する事情をみるとき、少年を初等少年院に送致した原決定の処分はむしろ至当というべきである。(なお、原決定が罪となるべき事実第一として摘示する傷害の非行は、少年が一四歳に満たないときに行い、かつ、原裁判所が都道府県知事または児童相談所長から送致を受けていないことが明らかであつて、もともと審判に付することができないものというべきであるが、右非行を除いてみても、被告人に対する処分に変動を来さない。)論旨は理由がない。

よつて、少年法第三三条第一項、少年審判規則第五〇条により、本件抗告を棄却することにし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 松本勝夫 裁判官 竜岡資久 裁判官 横田安弘)

参考二

意見書

昭和四〇年三月一日

水戸家庭裁判所少年審判部

裁判官 武田平次郎

東京高等裁判所御中

調査審判において争われたのは、第八の非行についてであるが、少年の司法警察員に対する昭和三九年九月三日付供述調書の信憑性を裏書する事実として、少年が現場にさしかかるまえ○山○ね親子と出合わせたことは少年が自ら供述したものであつて、これに基いて警察において裏付捜査が行なわれていること(捜査報告書一〇九丁等)、「前を歩いていた男が物蔭にかくれて通り過ぎたところをいきなり後から抱えて乱暴した、その男の声は少年に似ている」旨の参考人○内○子尋問調書(」九〇丁、)「現場の附近で少年のあとを被害者が歩いていくのを見た」旨の参考人○山○ね、同○山○勝各尋問調書(二一〇丁、二一八丁)、「少年が述べているように八月一日の夜は一緒になつていない」旨の○沢○○江の供述調書(二四四丁)等(家族の者が関係人に種々画策をこころみている事実等)を総合してその証明があると認めたことを付言する。

参考三

抗告の趣旨

原決定を取消す

本件を水戸家庭裁判所に差戻すとの裁判を求める。

理由

一 原決定において第一乃至第七事実として認定した行為の事実は少年の認めるところであるが本件決定の主眼と目される第八の事実は極力否定するところであるに拘らず原審においては充分なる取調をせずにこれを認定している仍てその当否につき詳述すると。

1 原審の取扱について

事件は昭和三九年八月○日の午後八時半頃に行われたが本件少年同年九月三日午前九時頃から午後五時頃迄、翌四日も同様の時間那珂湊警察署において取調べを受け爾来約半歳になんなんとする昭和四〇年一月一二日に至り突如として同行令状を執行され自宅内から手錠を掛けられて引致され即日鑑別所に収容されたものである。このような取扱は少年法第一二条所定の要件を具備せず同条を適用した違法あるものと信ずる。

2 証拠関係について

(イ) 原決定は何等の証拠説明をしていないので認定の証拠は確実ではないが記録を通覧するに参考人として被害者○内○子、○山○ね、○山○勝及少年の昭和三十九年九月三日付の供述書並に参考人取調に当つた警察員五十嵐集の供述参考人○沢○○江の供述調書等が一応少年に不利益な証拠として考えられる。右の内少年の供述書は供述しないことを勝手に書かれたものであると弁解し任意性を否定して居る。而して少年は嫌疑を受けている犯行当時である午後八時頃から友人の○谷○清、○藤○二の両名と連れだち歩いて居り途中で○沢○○江に出会い四人で午後九時過ぎ迄歩いていたと弁解しているが少年の供述書にそのことを明示せず○谷○清、○藤某、○○賀某の三人と八時頃自宅前で出合つたが○藤、○○賀は相ついで夕食に帰宅したので自分も自宅に帰つたようにしてその間に犯行を実行した旨供述したことになつている。

而かも行為の内容としては射精をして淫行を遂行した旨記載されているが被害者○内○子の診察をした医師の「カルテ」に依れば精子及出血は認められない旨の記載がある。又参考人○内○子の供述によれば犯人は水色の半袖シャツを着巾広のバンドをした、同人の兄より少し大きい人であることが推定されるが本件少年とは符合しない。

本件少年より年上でその容姿が少年に酷似し而かも水色の半袖シャツを着用し居り問題時間頃その附近に行つたことを疑うに足る者のあることを看過して居る事実もあるらしいが専ら自己の白日を証することだけを考えている。

次に参考人○山○ね、同○山○勝の供述が有力な認定の資料となつていることと思うが同人等の供述によれば少年と出合つたのは親子四人連れであり少年と言葉を交わしたものではなく暗がりで見たもので服装はわからなかつたが「やだい」の息子であることはその時○勝が弟に対し「あいつこの頃イカレテいるのか」と言葉をかけたので間違いない旨供述しているか警察員に聞かれた時は四人とも思い出せなかつたが少年がそのように申しているとのことで思いだしたと述べているが行為の時から一ヵ月位のときに被害者の少女と本件少年の両名に出会つておりながら四人とも忘れていたとは不審に思われないでもない。あるいは出会つたのが真実だとすれば前述の別な少年であつたかの疑もある。参考人○沢○○江の供述書は少年が言わないことを書かれたと弁疏する警察員と同一人の作成に依るものであつてその内容も極めて疑問が多い、即ち問題の行為(犯行)当時一緒に歩いたと少年が弁解しているのを日においても時間においても全然否定している同じく一緒に歩いたと申している○谷○清は少年の弁解に符合する供述をしているに拘らず右○○江の供述の内容に出てくる五名の人物に確めることをせず○○江の供述が正しく○谷○清が虚偽の陳述をしていると解釈するが如き忘断といわざるを得ない。しかも一緒に歩いた者にはさらに○藤○二がいるに拘らずこれも全然聞いておらず少年の母が少年が嫌疑を受けたことを知り少年の弁解するように果して一緒に歩いた事実があるかどうかを確かめ「聞かれたらその通り話して下さい」といつて来たので人の親として当然のことであるに拘らずこれを虚偽の供述をするよう頼まれたと結んである点に至つては言語道断というべきである。

(ロ) 調査官が取調べた参考人○谷○清の供述書によれば大体少年の弁解と一致している、○場○しの供述書によつてもこれに反する結果とはならない。

以上の通りであつて現在の段階にあつてはいまだ半信半疑の範囲を出ていないものであつて少年の行為なりと断定することはできない前述の関係人を参考人として取調べ更に確認の一方法として少年の射精が真実なれば血液型の鑑定をもなすべきであると思うがそうすることにより少年の行為でないことが判明すると信ずる

二 第一乃至第七の事実は罪となるべき事実として文章に記載すれば一応その通りなるも第一の事実中本件少年の責任現度も不明あり第五の恐喝の事実についても友人から強引に金二〇円を借り受けたと解すべきであつて恐喝を以て断ずるは苛酷に過ぎるものというべく、その余の第二乃至第四、第六、第七事実の暴行の如きは単なる子供の喧嘩であつて犯罪として取上げ少年院に送致して保護教育の対象となすに足りないものと信ずる要するに本件は第八事実が最も関心を持たるる問題でありその事実が叙上述べる通りでありこのまま少年院に収容するようなことになれば少年の前途は寒心に堪えない結果を招来する虞れあり、少年保護の精神にも反することとなると思われますので原決定を取消し事件を差戻し慎重御審理の上御処置願いたく本件抗告に及んだ次第であります。

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