大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1048号 判決 1966年3月31日

控訴人(原告)

五十嵐博・外二名

代理人

渡辺喜八・外一名

被控訴人(被告)

三条郷土地改良区

代理人

吉田謙輔

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は 「原判決を取消す。被控訴人は、控訴人五十嵐博に対し金三〇万円、控訴人若林イシに対し金一〇万円、控訴人若林良子に対し金二〇万円および右各金員に対する昭和三一年七月一九日以降完済に至るまでの年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は主文第一項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用および認否≪省略≫

理由

<証拠>によれば、金子周平が昭和二九年五月二五日被控訴人に対する資材納入および新川施工区の工事請負代金の内金六〇万円の債権を控訴人五十嵐博および亡若林利治の両名に譲渡したこと、および同日被控訴人の理事で、新川施工区の区長である佐藤権七(この事実は、当事者間に争がない)にその旨通知したところ、佐藤権七はこれを異議なく承諾したことが認められ、他に右認定を動かすことのできる証拠はない。

控訴人らは、右佐藤が被控訴人の理事で、新川施工区の区長であつたことから当然被控訴人を代表する権限があるものと信じて、上記債権譲渡の通知をしたのであつて、佐藤もこれを異議なく承諾した以上、善意の第三者である控訴人五十嵐博および若林利治は右譲渡を被控訴人に対抗できる旨主張するのに対し、被控訴人はこれを争い、土地改良法第三五条が準用している民法第五四条の規定は、土地改良区の代表である理事の代表権に制限が加えられた場合にのみ適用されるべきものであるから、本件のように被控訴人の代表者でない理事の佐藤権七に対する債権譲渡の通知又は承諾についてはその適用がないと主張するので、次に判断する。

土地改良法第十九条第一項は「理事は、定款の定めるところにより、土地改良区を代表する。」旨規定する。従つて、理事は当然には土地改良区を代表する権限を有せず、定款で土地改良区を代表するものと定められた理事のみが代表権を有するものと解するを、相当とする。このことは、同法第三五条が民法第五三条の規定を準用していないことに徴しても亦、明らかである。ところで土地改良法第三五条は民法第五四条の規定を準用しているが、右は民法第五四条の文言から明らかなように、理事の代表権に一定の制限を加えた場合のことを指称しているのであつて、代表権を有しない理事については、同条適用の余地は全然存しないのである。

成立に争のない乙第一号証(三条郷土地改良区定款)によれば、理事の互選によつて定められた理事長が被控訴人の三条郷土地改良区を代表するものと定められていることが認められ、佐藤権七が上記債権譲渡の当時理事長でなかつたことは、当事者間に争がないから、佐藤権七が上記債権譲渡を承諾したとしても被控訴人にその効力が及ぶ筋合はないものといわなければならない。控訴人らは佐藤権七が被控訴人を代表する権限を有するものと信じていたから、土地改良法第三五条、民法第五四条の規定によつて右譲渡を被控訴人に対抗できる旨主張するけれども、上段判示のとおり、かような場合、右規定の適用をみる余地はないから、控訴人らの右主張は理由がなく、採用することができない。≪以下省略≫(村松俊夫 兼築義春 吉野 衛)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例