大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)1331号 判決

一、控訴人が昭和二十八年九月二十一日設定登録にかかる登録第四〇六、〇七九号実用新案(本件権利)につき、設定の登録と同時に職務考案による実施権および許諾による実施権(昭和三十五年四月一日以降はいずれも通常実施権)を取得したことについて、当裁判所は、原判決と同一理由により、これを認めるから、この点に関する原判決理由(原判決二十五枚目表二行目から二十六枚目裏八行目まで)をここに引用する。

次いで控訴人が本件実用新案権につき、昭和三十七年二月十二日から昭和三十八年九月二十一日までの間、範囲は全部、実施料は無償とする専用実施権を有したことは、当事者間に争いがない。

二、本件実用新案の説明書の「登録請求の範囲」の項に「袋用紙の一半片2には横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設けると共に他半片1には、適宜の表示カード差込孔4、4又は4´、4´を設けて両半片2・1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなるカード容器における書類袋において、上記挿入口を傾斜せる開口5に形成してなる構造」と記載されていることは、当事者間に争いがなく、右の記載にその成立に争いのない甲第一号証の二(本件実用新案公報)の「要領」の項および「考案相互の関係」の項の各記載並びにその成立に争いのない乙第一号証(日下繁の鑑定書)を総合すると、本件実用新案の要旨は、

(一) カード容器における書類袋において

(1) 袋用紙の一半片自体に文書等を横方向から挿入しうるように挿入口が設けられていること

(2) 右挿入口は傾斜した開口に形成されていること

(3) 袋用紙の他半片には適宜の表示カード差込孔が設けられていること

(4) 右両半片が重ね合わされ、周囲の各辺がそれぞれ適宜の方法で接着されていること

の各要素の結合にあり、その作用効果は、

(A) 文書等の挿入に当つてその左下隅を斜め上方より開口内に突き入れた後奥へ入れられるので挿入がきわめて容易であること

(B) 挿入した文書等の右上隅の相当の部分が傾斜した開口から露出して見えるので文書等の索出がきわめて容易であること

(C) 挿入口に挿入された文書等と表示カード差込孔に差し込まれた表示カードとの関連性をもたせることにより、その索引記入が容易であること

にあるものと認められる。甲第二号証(加藤正信の鑑定書)および原審における鑑定人松沢統の鑑定の結果中の右認定に反する見解は、前記各証拠と対比してたやすく採用し難く他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

控訴人は、文書等の挿入口が一半片自体に設けられることは、本件実用新案の構造上の要素をなすものではないと主張するけれども、前記「登録請求の範囲」の項の「袋用紙の一半片2には横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設けると共に他半片1には、適宜の表示カード差込孔4、4又は4´、4´を設けて両半片2、1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなる………書類袋において………」との記載、本件実用新案公報の「要領」の項の記載特に、「5は伝票、文書等を横方向から挿入するため裏半片2に設けた挿入口の傾斜せる開口」との記載、「考案相互の関係」の項の「本考案は………袋用紙の一半片2には横方向から挿入し得べき伝票、文書等の挿入口を設ける」との記載によれば、文言上文書等の挿入口の設けられる場所、すなわち開口の位置は一半片自体の上にあると解されること、同公報に記載された図面には挿入口の傾斜した開口が一半片自体の上に設けられていることを考え合せれば、本件実用新案の書類袋における文書等の挿入口は袋用紙の一半片自体に設けられる開口と解するを相当とすべく、同公報中に挿入口の設置場所、開口の構造を限定する記載がないこと、「開口」と「孔」との用語上の差異のあることおよび傾斜した開口に形成された右挿入口の奏する作用効果の点等を考慮しても、袋用紙の上下(または表裏)の各片の周辺によつて両片間に形成される間隙ないし開口をも「一半片に設けられた開口」と解すべき十分な根拠を見出し得ないから、控訴人の前記主張は採用することができない。

さらに、控訴人は前記(一)の(4)の点につき「登録請求の範囲」その他の項における「両半片2・1を重ね合わせその周辺を適宜接着してなる」との記載の「適宜」とは、接着の場所において適宜の趣旨で周囲各辺毎の接着を必要としないと主張するが、公報の「要領」の項には「6は裏半片2に切込んだ舌片7を形成する切込線で、8は表半片1に切込んだ切込線で、切込線8に舌片7を嵌挿することによつて両半片1・2の一辺を接着することができる」と接着の方法について特定の構造を記載し、これに次いで「9は両半片1・2の周辺を接着した綴着金具で、糊着してもよい」のように、具体的に各種の接着の方法を挙げ、しかもこれらについて「………することができる。」「………してもよい。」との記載があることおよび上述のとおり、本件実用新案における文書等の挿入口が一半片自体に設けられた開口であつて、本件考案にかかる書類袋がこの半片と他の一半片とを重ね合わせ両半片を接着して形成されるものであることを勘案すれば「適宜接着」とは、重ね合わされた両半片を、四周の各辺において、必ずしも前記具体的に記載された方法に限らず適宜の方法によつて接着する趣旨に解すべきであつて、この点に関する控訴人の主張も理由がない。

三、第二物件および第三物件がそれぞれ原判決添付の別紙目録(二)および(三)の記載のとおりであることは、当事者間に争いがなく、右第二、第三物件の構造に前記乙第一号証、第二物件および第三物件であることに争いのない検乙第三号証および検甲第一号証を総合すれば、次の事実が認められる。すなわち

(一) 第二物件の構造は、

(1) 袋用台紙の一半片に右側上部内方から下部外端へほぼ二十度傾斜した切欠縁を設けること

(2) 袋用紙の他の半片には帳票差込孔を設けること

(3) 両半片を重ね合わせてその上下および左側縁部を接着して、一半片の切縁部と他半片とにより伝票、文書等の挿入口を形成すること

(二) 第三物件の構造は、第二物件の構造中の(2)の帳票差込孔を欠くこと、接着された両半片の上下縁部をプラスチツク板で挾持することの二点のほかは第二物件の構造と同じであること

(三) 右の構造により、第二、第三物件においては、文書等の挿入、取り出しが容易であるという作用効果は得られるが、本件実用新案の場合と異なり、挿入された文書の右肩部が露出するとしても露出部分は小さく、しかもその露出部分も切欠縁により他半片に圧着されて他半片に密着するから、文書等が袋から脱落するおそれがない作用効果はあるとしても、挿入された文書等を引き出さずにそのままの状態で索出する点においてきわめて容易とはいえないこと

以上の事実が認められる。前記甲第二号証、鑑定人松沢統の鑑定結果および原審における証人松沢統の供述中、第二、第三物件が本件実用新案におけると全く同一の索出の容易さを具有するとの見解は、前記各証拠に照らしてにわかに賛同することができない。

四、そこで、上記二、三の認定に基いて、本件実用新案と第二、第三物件とを比較検討すると、後者は、いずれも前者の前記二の(一)の(1)、(4)の構成上の要素を欠く点において、前者とその構造を異にするのみならず、その作用効果において上述のような差異を有し、これを前者の均等物とみることもできないから、第二、第三物件は、本件実用新案の権利の範囲に属しないものといわなければならない。

してみれば、第二、第三物件が本件実用新案の権利範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求はその理由がなく、これを棄却すべきものとした原判決は相当である。

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