大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2056号 判決 1968年10月31日

控訴人

小林六治

外一名

代理人

高野三次郎

被控訴人

秋川建設

消費生活協同組合

代理人

横山唯志

外一名

主文

原判決を取り消す。

本件訴を却下する。

訴訟費用は、第一、二審とも、東京都西多摩郡五日市町五日市八二〇番地平塚貢の負担とする。

事実

第一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、「本件控訴を棄却する。」との判決を求めた。

第二  当事者双方の事実上の陳述《省略》

第三  当事者双方の証拠の関係《省略》

理由

一よつて按ずるに控訴代理人は、本案前の抗弁として二つの主張をしており、その一は、本訴は被控訴組合の理事谷合吾一が被控訴組合を代表して訴を取り下げたことによつて終了しているとするものであり、その二は、本訴は被控訴組合を代表する権限のない平塚貢によつて提起されているから、不適法であつて却下されるべきであるとするものである。

(一)  控訴代理人主張の前者について判断するに、本件記録によれば、昭和四一年四月一五日訴外谷合吾一が被控訴組合理事の資格をもつて当裁判所に同月一九日附訴取下書を提出していることが明かであるけれども、当裁判所は、これによつて本訴取下の効力を生じていないものと判断する。控訴代理人の右主張は訴外平塚貢に被控訴組合理事の資格のないことを前提とするものであつて、そのことは、後段認定のとおり同訴外人の総会による理事選任手続が不存在であることよりして当然論定することができるところであるが、右認定の事実によれば、訴外谷合吾一の理事選任もまた同様にその手続が不存在であること明かであつて、同訴外人は被控訴組合の理事の資格あるものといえないから、当然被控訴組合を代表する資格もあるものといえないのである。

(二) つぎに控訴代理人主張の本訴提起の適否について考える。<証拠>によれば、被控訴人は、消費生活協同組合法にもとづいて昭和二六年八月二一日設立された組合であり、その組織としては、総組合員をもつて構成する総会があり、役員としては、理事五名および監事二名が総会において組合員によつて選任され、理事長および専務理事各一名が理事によつて互選され、理事長は組合の事務を統理し、組合を代表すると定められていることが明らかである。したがつて、被控訴人を代表する理事長は、総会において組合員によつて選出された理事の互選によつて定まる訳であつて、これを平塚貢についてみると、前掲<証拠>によれば、被控訴人の商業登記簿には平塚貢が昭和三三年一二月五日理事に就任した旨の記載があるが、<証拠>によれば、1被控訴組合においては総会の運営および役員の選任は、きわめてルーズに行われ、このようにして定められた役員が組合を運営してきたのであつて、右商業登記簿に役員就任の日として記載され、いわゆる総会議事録(乙第三号証の二)に被控訴組合の臨時総会が開かれた日として記載されている昭和三三年一二月五日についても、理事選出のためのあるいはその他の目的のための組合総会が開かれたこともなければ、平塚貢が理事に選ばれたこともなく、実際は、訴外大谷佐太郎が同年一一月二五日被控訴組合の理事名義で沼田省太郎、平塚貢、中嶋虎太、小林六治(控訴人)、田中市蔵、大谷佐太郎、小林勇、谷合勝衛、谷合吾一、長田鉄五郎の一〇名に、組合の運営経営についての協議をするため同日二九日午後一時組合会議室に参集されたい旨の通知状を発し、同日同所に参集した平塚貢、小林勇、谷合勝衛、大谷佐太郎、小室大治(控訴人)の間で平塚貢、沼田省太郎、谷合勝衛、谷合吾一および大谷佐太郎の五名を理事に、小林勇および田中市造を監事にすることを定めたが、この議事録は作成せず、後に、同年一二月五日組合総会の招集、開会がなかつたにもかかわらず、同日組合総会において組合員総数三二五名のうち出席二三二名によつて行われた選挙により右の者らが理事および監事に選出された旨の議事録を作成し、これを添付して右登記を行つたものであること、2同年一一月二九日の右会合には右通知を受けた一〇名以外の組合員は一切その通知を受けておらず、したがつてまた右決定に関与していないことおよび3右昭和三三年一一月二九日の会議の招集通知発送控によるも、組合総会の招集と目すべき記載なく、唯「出資者、理事者、代表者会議招集通知状」と記載されているのみであり、また当日の議事事項の記載として提出されている書類によるも、「理事会議案」と標題にかかげられているのみで、総会の議事たることを思わせる記載のないことを認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

消費生活協同組合法にもとづいて設立された組合の総会の決議または選挙については、同法第九六条が「組合員が総組合員の一〇分の一以上の同意を得て、総会の招集手続、議決の方法又は選挙が法令、法令に基づいてする行政庁の処分又は定款に違反することを理由として、その議決又は選挙若しくは当選決定の日から一箇月以内に、その議決又は選挙若しくは当選の取消を請求した場合において、当該行政庁は、その違反の事実があると認めるときは、その議決又は選挙若しくは当選を取り消すことができる。」と定めて別に行政庁に対する決議取消請求の途を開き、かつ、中小企業等協同組合法第五四条のような決議取消または無効に関する商法の規定を準用する規定をもうけなかつた趣旨からすると、総会の招集、議決の方法または選挙に前記第九六条が定めるような瑕疵があるにすぎない場合には右商法の規定において認められている決議取消の訴を直接裁判所に提起することは許されない(裁判所がこれらの瑕疵を前提問題として判断することができないことはいうをまたない)が、議決の内容または選挙の結果に瑕疵があつて当然に無効の場合および議決または選挙が不存在の場合については右規定はなんらの定めをしていないから、この場合には、これが現在の権利関係に影響を及ぼすかぎり一般原則に従いその旨の確認の訴を提起することが許されるのみならず、場合によつては裁判所は前提問題として無効または不存在の事由を調査判断できると解するのが相当である。そこで、右に認定した平塚貢外四名の会合が総会の実体を有し、その決議または選挙が存在していると認めうるかどうかについてみるに、被控訴組合の総会についての定款の定めは、前掲<証拠>によれば、総会は原則として理事がこれを招集するが、その招集にあたつては少くとも五日前までに会議の目的である事項、日時、場所を記載し、招集権者がこれに署名した書面で組合員に通知しなければならず、急を要する軽微な事項を除いては右による通知事項以外の議決は禁止され、かつ、総会の定足数は総組合員数の二分の一以上とし、ただ定足数の出席がなかつたため流会になつた後二〇日以内に招集された総会においてはその制限に服しないこととされているにすぎないことが明らかであり、また、右平塚貢外四名の会合の行われた昭和三三年一一月二九日当時の総組合員数については、これを直接把握する資料はないが、<証拠>によれば昭和二七年三月三一日当時で五三七名とされ、<証拠>によれば昭和三八年六月一五日当時で四三六名とされていたことが認められ、その間被控訴組合の組合員数に大きな変動があつたとうかがうに足りる資料はないから、昭和三三年一一月二九日当時の組合員数は右数字と大きく異なるものではなかつたと推定できるところ、会合の通知を受けた人員一〇名は総組合員数の数十分の一にすぎず、総会の定足数にはるかにみたない数である、右会合を総会と呼称されたこともなければ、総会としての必要な手続がふまれた訳でもなく、出席した人員はそのうちのわずかに五名であつて、後日大谷佐太郎において当日通知を受けながら欠席した人から右会合の決定事項についての事後承認をえたとしても、右決定に関与した人が合計一〇名にすぎないことに変りはなく、右会合の議事録すらなく、当日役員に選ばれたという平塚貢らさえ右期日と異なる昭和三三年一二月五日に総会が開かれ選任が行われた旨の議事録を作成していて、同年一一月二九日に総会が開かれたとは扱つていない位であるから、右会合は組合総会としての実体を有しないものというべく、平塚貢らを理事とする旨の右会合の決定は組合総会の決議または選挙として存在していないものというべきである。

被控訴人は、組合は創立以来慣例として右のような会合によつて運営されてきたが、組合員からはなんの異議もなかつたのであるから、右会合は実質的には組合の最高議決機関であり、総会と同様の性質を有するものであると主張し、前記認定事実からすれば、被控訴組合が事実上その主張のような方法で運営されてきたことを推測しえないことはないが、消費生活協同組合法、被控訴組合の定款の定めによれば、組合員による総会を組合意思を決定する最高の機関とし、その招集、構成、議決方法等を厳格に規制し、組合員の具体的意思によつて組合意思を決定することを期していることが明らかであつて、その趣旨からすれば前記のような形態でなされてきた組合運営は明らかに違法のものというべく、これに対して組合員から異議ができなかつたとの一事をもつてこれを適法視できないものといわなければならない。したがつて、右会合を組合総会と同様の性質を有するものと目することはできないというべきである。

そして、他に平塚貢が理事に選出されたと認めるに足りるなんらの主張も立証もないから、平塚貢は、理事によつて理事長に互選されうるものではなく、その代表資格は否定されるべきである。

二被控訴人は、控訴人らは平塚貢を理事、理事長に選任することに関与しかつこれを認めていたのであるから、本訴においてその資格を争うことは禁反言の原則に違反し信義則ないし権利濫用禁止の原則に照らし許されないと主張するが、訴訟追行者が法人の適法の代表者であるかどうかは、当事者の主張をまたずに裁判所において常に職権で調査し、顧慮すべき事項であるから、被控訴人が主張するような事由によつてこれが職権事項でなくなることはありえないし、そもそも禁反言の原則は取引の場において妥当するものであつて、ことに消費生活協同組合のごとき公益的要求の強い法人の組織に関し代表者選出に関与し、これを認めていたことをもつて右代表者選出が不存在、無効であるのに、右関与者に対する関係ではなお代表者でありうるとすることは、法律関係をいちぢるしく混乱させ、ひいては法人の存立自体を危うくするものであつて、とうていこれを認めがたいといわなければならない。

三そうだとすると、平塚貢は被控訴組合の理事長でなく、これを代表する権限を有しないことが明らかであるから、その提起した本件訴は、その余の判断をまつまでもなく不適法として却下を免れないというべきである。したがつて、本件訴を適法とし、被控訴人の請求を認容した原判決は失当であるから、これを取り消して本件訴を却下すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条前段、第九九条を適用して、主文のとおり判決する。(小川善吉 松永信和 川口冨男)

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