東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2821号・昭40年(ネ)2808号 判決
控訴人林源太は同控訴人と訴外会社との間に成立した本件土地建物の代物弁済の予約は債権担保のためにするもので、債権者である訴外会社において右物件を換価し、その売得金をもつて控訴人林源太の債務の弁済にあて売得金に残額があるときは同控訴人にこれを返還すべき趣旨のものであり、従つて本件土地建物の価格と被控訴人の債権額との差額の支払を受けるのと引換でなければ右土地建物につき被控訴人のため本登記手続をする義務はないと主張する。代物弁済の予約が消費貸借契約にもとづき抵当権設定契約とともに締結せられ、特に債権担保のため締結されたことが明らかな場合においては、右予約締結時における物件の価格が弁済期における元利金と比較して必ずしも合理的な均衡を欠くものとはいえない場合であつても、債権者において特に一方において債権確保の手段とするとともに、他方みずから物件の所有権を取得して使用収益すべき等格別の事情もあるため、右債権確保のためにする趣旨に加えて右格別の事情のための代物弁済の予約をあわせ約定したというような特段の事情のない限り、それは本来の代物弁済の予約ではなく、その実質は担保権と同視すべきものであるところ、前掲甲第一号証および弁論の全趣旨によれば、本件代物弁済の予約も消費貸借契約にもとづき抵当権設定契約とともに締結せられ、右債権回収の実現には債権者に両者いずれの方法をもつてするかの自由を保障するとともに、債権者たる訴外会社は担保の目的以外に特に自らこれを使用収益する等本件土地建物を必要とすべき特段の事情は有しなかつたことが認められるのであつて、これによれば本件代物弁済の予約もまたその実質債権担保のため締結されたものであり、しかもいわゆる清算型すなわち債権者においてこれを換価処分し、その処分しえた物件の価格と債権額とを比較し、差額があるときは、物件価格が債権額を超える場合はこれを債務者に返還し、不足があるときはなお債務者にこれを請求して清算をなすべき類型に属するものというべきである。従つて債権者がこのような代物弁済の予約にもとづいてその目的物件を処分して債権の満足をうる前提として所有権を取得し、かつ当該物件についてした所有権移転請求権保全の仮登記の本登記手続および引渡の請求をするため訴訟によるときは、まだ処分にいたらないからその処分価格を具体的に定めることはできないが、事実審の口頭弁論終結時の物件の価格を評価し、右価格は特段の事情の見るべきもののない状況のもとでは当然これをもつて処分しうべき価格と解し、もしその価格がその時の債権額を超過するときはその差額を担保提供者に返還すべき清算を伴うべきものと解するのが相当である。この場合担保提供者の有する差額返還請求権は物件の所有権が債権者に移転し登記ないし引渡を了した後においては必ずしも確保せられがたいことを考えれば、右差額の返還と物件の登記引渡とは、債権者が物件の換価処分による売却代金を取得した後にも差額の返還が確実に保障される客観的合理的理由がある等特段の事情のある場合を除いては同時履行の関係にあるものと解するのが最も公平にかなうゆえんである。
控訴人林博江は控訴人林源太の同時履行の抗弁を援用する。その趣旨は被控訴人が本件建物について控訴人林源太に対し本登記を求めうるにいたる時には同時にその引渡をも求めうるものであることを前提とし、右控訴人林源太に対し本件建物の引渡を求めうるにいたつた後でなければ被控訴人に本件建物を明渡す義務はないと主張するにあるものと解せられる。よつて案ずるに、控訴人林博江が控訴人林源太の家族の一員として同控訴人の占有権にもとづいて本件建物を占有使用しているものであることは(1)において述べたとおりであるから控訴人林博江は控訴人林源太の抗弁を右の趣旨において援用しうるものであり、しかして控訴人林源太は被控訴人から本件口頭弁論終結時の本件土地建物の価格から被控訴人の債権額を差引いた差額金一、五〇四万四、三〇六円(右金額は本件土地と建物とを一括して評価した額との差額であることは前記のとおりであり、本件建物評価額の前記時点におけるものは金一〇五万二、〇〇〇円であることは前記鑑定の結果から明らかであるがこの点についても前記第一の三(5)において述べたと同様に解して処置すべきものとする)の支払を受けるのと引換でなければ本件仮登記の本登記および本件土地建物の引渡をする義務を負わないことは前記のとおりであるから、結局控訴人林博江の同時履行の抗弁は理由があり、同控訴人は被控訴人が控訴人林源太への右金員の支払と引換に控訴人林源太に本件建物の引渡(本登記と同時)を求めうるにいたるまでは被控訴人に本件建物を明渡す義務はないが、右の時以後においてはこれを明渡し、かつその時から明渡ずみまで当事者間に争いない一カ月金一万五、〇〇〇円の割合による賃料相当の損害金を支払うべき義務があるものというべきである。
(浅沼 岡本 田畑)