大判例

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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)649号 判決

一 成立に争のない甲第一号証の一、二、第四六号証、第五九号証及び第六二号証並びに右甲第五九号証によつてその成立を認める甲第二号証の一、二によると、控訴人の内縁の夫である訴外横田俊三は昭和二五年九月四日訴外永井貞雄から別紙第一目録記載の土地及びその地上にある別紙第二目録記載の建物(以下、本件土地建物という。)を訴外永井貞雄から買受け、翌二六年九月一〇日その所有権取得登記をしたこと、控訴人は、横田俊三が買受けて間もない昭和二五年九月二四日頃本件土地建物に移転居住するにいたつたが、昭和二七年六月二〇日横田俊三から、同人との間に生れた二人の子女の養育費にあてるため、その贈与を受け、爾来今日まで所有の意思をもつて、平穏、公然に本件土地建物の占有を継続し、しかも所有の意思をもつてその占有を始めるにつき善意、無過失であつたことが認められる。右認定を左右するに足りる証拠はない。

被控訴人らは、要するに控訴人は本件土地建物には抵当権設定登記があることを知つて占有を始めたのであるから、その取得時効については占有の始め過失があつたと反論するのである。しかし、取得時効の要件である占有の善意無過失とは、占有者が自己に所有権があると信じ且つそう信ずるについて過失がないことをいうのであり、抵当権の存在はなんら所有権取得の障害とはならないのであるから、不動産の占有者がそれに抵当権設定登記のあることを知つていることは、その者の占有を右にいう善意、無過失の占有という妨げにはならない。本件の場合、仮に、被控訴人らが主張するように、控訴人は、本件土地建物には既に第三者のため抵当権設定登記のあることを知り、従つて本件土地建物の所有権が将来第三者に移転することがあるべきことを予期して、占有を始め、且つ結果的には後記のように、本件土地建物が競売により被控訴人鈴木の所有物となつたとしても、そのことによつては、横田俊三から本件土地建物の贈与を受けた控訴人がこれを自己の所有物として占有を始めたことにつき過失があつたとすることはできない。

以上認定のように、控訴人は昭和二七年六月二〇日以来本件土地建物を所有の意思をもつて平穏、公然に占有を継続し、その占有の始め善意、無過失であつたのであるから、一〇年後の昭和三七年六月一九日の経過と共に時効により本件土地建物の所有権を取得したものといわなければならない。被控訴人らは、控訴人の本件土地建物に対する取得時効の期間は占有の始め過失があつたことを理由に二〇年間であると主張するのであるが、その理由のないことは既に明らかである。

二 被控訴人鈴木が昭和三〇年五月三一日東京地方裁判所昭和三〇年(ケ)第一二三号不動産任意競売事件において本件土地建物の競落許可決定を受け、昭和三四年二月九日その所有権取得登記をし、被控訴人安達が昭和三五年八月一七日被控訴人鈴木から本件建物を買受け、同月二九日その所有権取得登記をしたことは、当事者間に争がない。しかるところ、被控訴人らは、控訴人の本件土地建物に対する取得時効の起算日は前記各登記の日であるから、まだ時効期間を経過していないとし、控訴人の本件土地建物所有権の時効取得を否定するのである。しかし、不動産所有権の変動に伴う登記が法定の時効中断事由(民法第一四七条、第一六四条)のいずれにも該当しないことはいうまでもない。また、右登記は、不動産の時効取得者の所有の意思及び占有状態とは無関係であつて、時効取得者に対する関係では、時効の基礎である占有という事実状態を破壊するに足りる不動産所有者の権利の行使とは認められないから、法定の時効中断事由に準ずる中断事由と解することも相当でない。時効期間は時効の基礎たる事実状態が始まつた時を起算点として計算すべきであつて、不動産所有権の変動に伴う登記がなされたからといつて、その登記の時までに既に経過した時効期間の効力を失わせる理由はないのであるから、控訴人の本件土地建物に対する取得時効の起算日を前記各登記の日であるとして云々する被控訴人らの主張は採用することができない。

(村上 吉田豊 花淵)

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