東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)34号 判決
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【判決理由】本件再審審判の対象とされた抗告審判の審決が昭和三八年四月一七日被告代理人弁理士杉村信近に送達され、同年五月一七日の経過をもつて確定したこと、被告が特許庁に対し、同年八月一六日、日本特殊鋼株式会社を相手方として同審決について審決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があるとして、本件再審の請求をしたことは、前記のとおりである。
代理人によつて審判手続が行われている場合には、一定の事実の知不知は、まずその代理人について決するのを相当とする。したがつて、その代理人が審決の送達を受けた場合には、その代理人は、審決理由中に、いわゆる判断の遺脱(もつとも、本件再審の審決は、抗告審判の審決が特許庁における甲第七号証をもつて本件特許発明の出願後国内に頒布された刊行物であるとしただけで、進んでその内容につき判断しなかつたことを判断の遺脱としているのであり、本訴においては、これが判断の遺脱になるかどうかも争われている。なお、これが再審事由としての判断の遺脱に当らないことは、後に判断するとおりである)のかしのあることを知つたものと認むべきこと後記のとおりであるから、当事者本人は、その事由の不知を主張することは許されないといわなければならない。そして、右の判断遺脱というような再審事由は、そのことがらの性質上、通例審決謄本の送達を受けこれを一読すれば容易に知りうるはずのものであるから、別段の事情のないかぎり、被告(再審請求人)代理人は、右抗告審判の審決謄本送達当時すなわち同審決確定前に、いわゆる判断の遺脱のあつたことを知りえたものといわざるをえず、特段の事情の認められない本件においては、結局、この事由は、右審決の謄本が代理人に送達された昭和三八年四月一七日から三〇日の期間内、つまり同年五月一七日までに、特許法第一七八条第一項の規定による審決取消の訴を提起してこれを主張すべく、再審によることは許されない。このことは、同法第一七一条第二項の準用する民事訴訟法第四二〇条第一項但書後段、特許法第一七八条第三項の規定により明らかである。なお、右但書に「上訴ニ依リ……之ヲ知リテ主張セサリシトキ」ということの中には、現実に訴を提起したにかかわらずその訴において主張しなかつた場合のほかに、訴によつてこれを主張できたにかかわらず、結局、訴の提起を怠つた場合をも含むと解すべきことは、いうまでもない。
本件において、代理人が右のとおり抗告審判の審決の謄本の送達によつていわゆる再審事由たる判断の遺脱を知つたとき、その代理人に出訴についての権限があつたかどうかは、以上の結論に差異をもたらすものではない。それは、審判手続の代理人が右審決の送達を受けるまでの権限を有する以上、同審決の送達によつて委任が終了し代理権も消滅したとしても、送達を受けたことにともない生じた結果にかわりがなく、かつ、その者には、受任事務処理のてん末について遅滞なく本人に報告すべき法律上の義務があることに徴しても明らかである。
したがつて、本件再審の請求を許されるべきものとした本件再審の審決は、この点において違法のそしりを免れない。
さらに、本件再審の審決は、前示のとおり、抗告審判の審決をもつて特許庁における甲第七号証について判断を遺脱したものとするが、右抗告審判審決の同号証についての説示は、同審決が本件特許発明の出願後に国内に頒布された刊行物であるので、その内容につき審理するまでもなく、本件特許発明の特許要件存否判断の資料とならないと判断を示したものであることは明らかというべきであるから、このように、判断がされている以上、仮にその判断が誤つていたとしても、これをもつて判断の遺脱といいえないことはいうまでもない。本件再審の審決は、この点においても、民事訴訟法第四二〇条第一項第九号の再審事由たる判断遺脱の解釈を誤つた違法のものといわなければならない。 (三宅正雄 影山勇 荒木秀一)