東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)58号 判決
本件においては、錨の形状に係る本件登録意匠が引用刊行物である米国特許第二二四九五四六号明細書の第一一図ないし第一三図に記載された錨の形状(引用例)と類似するかどうかが実質上の争点である。
右争いのない事実と成立について争いのない乙第一号証および同第三号証と引用例に係る錨の模型であることに争いのない検乙第一号証とによれば、
(一) 本件登録意匠に係る錨の形状は、別紙第一のとおり、上端部にシヤツクルを取りつけた断面正方形の棒状錨幹の下端基部から、先端に丸味を附与した丸棒状の長い錨腕(錨幹と錨腕との長さの割合は、およそ八・五と六・七である。)を両側方に対称に突出させ、その上方に一片がほぼ直角台形状の四辺(この四辺の長さの割合、およそ三・五、一、一・四、四・二で、一と一・四との辺が平行、この両辺に一・四の辺がほぼ直角に交わる。)より成るほぼ板状の錨掌を、その下縁と錨腕との間に横方向の少許の間隙を存して、左右対称に配して成るもので、その錨掌は、錨幹の基部から錨幹の両側にやや間隔を置きながら直線状となつて沿い上方に伸びて爪部となり、錨掌の腕部をやや肉厚にし、爪部は鋭角状となつて錨幹の長さの二分の一よりも長いところまで至り、錨掌の側辺は、爪部から両側方に傾斜線となつて続き、その下方に近いところから錨幹に平行した縦線となり、さらに錨腕にやや距離を置いた直線状の錨掌下辺となり、錨掌の腕部に近いところで上方に傾斜した正面形状をなし、錨冠部は、これを両側面から見ると、角棒状錨幹の下端において円形となつており、錨冠部の頂部に四角形の突出部があり、右円形部は、これを平面および底面より見るとほぼ方形となつていること、
(二) 本件登録意匠出願前国内に頒布された前示米国特許明細書の第一一図ないし第一三図の錨の形状は、別紙第二のとおり、上端部にシヤツクルを取りつけた断面がやや扁平な四角形の棒状錨幹に連なる錨冠部において、両側方に長い錨腕(錨冠部を含む錨幹と錨腕との長さの割合は、およそ八・一と六・二である。)を左右対称に突出させ、その上方に一片が三角帆形(三辺の長さの割合は、およそ四・九、二・一、四・六である。)の錨掌を錨腕に連続せしめて左右対称に配して成るもので、その錨掌は、錨幹の基部から錨幹の両側にやや間隔を置きながらやや傾斜して直線状となつて沿い上方に伸びて爪部となり、錨掌の腕部をやや肉厚にし、爪部は鋭角状となつて錨幹の長さの二分の一よりも長いところまで至り、錨掌の側辺は、爪部から両側方に傾斜線となつて続き錨腕にまで至り、錨幹の基部には正面および背面に卵形の凹状部があり、基部を両側方から見ると底辺が弧状となつた三角形状となり、錨冠部は曲面状であり、錨幹部は前後に動くように枢着されているものであることが認められる。
本件登録意匠に係る錨の形状と引用例のそれとについて、右に認定した事実と前掲各証拠とを合わせ考えると、
(1)両者は、これを全体的にみれば、錨幹の基部から両側方に長い棒状の錨腕部を対称に突出させ、その外観T字状部の左右直角部分に一片がほぼ三角帆形板状の錨掌を左右対称に大きい形で配し、錨腕の両先端部が錨掌の下縁より長く突出した形状において類似し、各部の大きさの割合もほとんど同一であり、この形状は、意匠全体において顕著に支配的特徴的であることが認められる。(2)ただ、本件登録意匠においては、錨掌の下縁と錨腕との間に少許の間隙が存し、かつ、錨掌は正確な三角帆形でなく外側の鋭角部において三角帆形に相似に錨掌の約一九分の一の大きさが欠け、また内側の直角部において三角形状に僅かの部分が欠けているけれども、それは、右錨幹、錨腕、錨掌の三主要部分から成る本件登録意匠の錨の形状全体においては部分的であり、一方、両者は錨掌と錨幹との間に少許の間隙があり鋭角状の爪部となつている形状においては類似し、これが全体の中心部に存し看者の注意を引きやすい一つの点になつていることにも影響され、結局、右差異点は、軽微なものにとどまるといわざるをえないし、(3)また、両者を側面、平面および底面からそれぞれ観察した場合に、錨幹基部ないし錨冠部において、円形状かほぼ三角形状か、錨腕下縁より下方に突出した部分があるかどうか、ほぼ正方形か矩形かなど若干の差異のあることが、両者の形状について右(一)(二)の認定事実および前掲証拠上明らかであるけれども、これらの差異点は、両者を全体的に対比しかつ右(1)に示した支配的な類似点とともに考察するとき、これらの差異点あるが故に特に看者に美感を抱かせ、一方の物品に比し他方の物品を区別選択させるほどのものとは認められず、これもまた部分的で軽微な差異に過ぎないといわざるをえない。
右のとおりである以上、本件登録意匠は、引用例の錨の形状と類似するものというべきである。
したがつて、本件登録意匠をもつて本件に適用のある旧意匠法第三条第一項第二号に該当し同法第一条の規定に違背して登録されたものでありその登録を無効とすべきものとした本件審決には原告主張のような誤りがあるとして、その取消を求める原告の本訴請求は、理由がない。
〔編註〕 本件に関する意匠は左のとおりである。
本件登録意匠
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米国特許第二二四九五四六号明細書第一一図、第一二図、第一三図(引用例)
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