東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)92号 判決
一、原告が一ないし三において主張する本件の特許庁における手続経過、本願発明の要旨及び審決理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二、右争いのない事実と成立に争いなき甲第三号証とによれば、本願発明の要旨は、「単数の電動機が扇風機、真空掃除機、洗濯機、脱水機、ミキサー、エツグビーター、サイレン、揚水器あるいはミシンなどの各種家庭器具のいずれかと選択的に組をなすように両者のそれぞれに対応係合アタツチメントを設けて、互いに結合せしめることにより、家庭電気器具の任意の一つを完成し得るようにしたことを特徴とする家庭電気器具セツト」にあり、そしてその目的とするところは、単一の電動機を選択的に前記各種の家庭用器具と組み合わせることにより、従来の家庭用電気器具が個別に備えていた高価な電動機を節約するにあることが認められる。
三、次に成立に争いなき甲第四号証によれば、第一引用例には、「単一の電動機を混和器(ミキサー)、混合攪拌器(ビーター)あるいは果汁抽出器(ジユーサー)のいずれかと選択的に組み合わせることができるように、両者のそれぞれに対応係合する支持用基台を設けて互いに結合させるようにした食物混合機」が記載されていることが認められる。
四、そこで本願発明と右引用例記載のものを対比するに、本願発明は扇風機、真空掃除機、洗濯機等広範囲にわたる各種家庭用器具を対象としているのに対し、右引用例のものは食物混合機であつて、ミキサー、ジユーサー等食物の調理に関係のある家庭用器具を対象としている点において相違するが、単一の電動機により、複数の家庭用器具を選択的に作動することができるよう、連結装置(本願発明においては係合アタツチメント、引用例においては支持用基台)により、右単一の電動機とこれらの器具とを選択的に結合するようにした点では一致している。
ところで本願発明が特定の連結装置によつてすべての各種家庭用器具を選択的に結合することを可能ならしめたというのであれば格別であるが本願発明の技術思想は、単に単一の電動機を種類の異なる家庭用器具と選択的に結合させるということ以外には一歩も出ないものであり、そしてまた前記引用例にこれと同等の技術思想が開示されていること前記のとおりである以上、本願発明は右引用例の記載から容易に推考できるものというの外はない。
五、原告は、右引用例のものは、一個の食物混合機の範囲を出ないのに対し、本願発明は、扇風機、真空掃除機等多数の家庭用電気器具にかかり、その間相互セツト性のある「家庭用電気器具一揃のセツト」を対象としたものであり、セツトとは単なる無秩序の列挙ではなく、自から規定された範囲内のものであるとし、引用例は本願発明の「家庭用電気器具一揃のセツト」を対象とした技術思想を示唆するところがないという。
ところで引用例には原告のいう家庭用電気器具一揃のセツトなる観念は示されておらず、そして本願発明の家庭電気器具セツトと引用例の食物混合機におけるミキサー、ジユーサー等とは、家庭電気器具としての観念に広狭の相違のあるのは事実であるとしても、本願発明は引用例の器具の範囲を単に観念的に拡げただけのものに過ぎず、それに伴う格別の技術手段はないのであつて、かように引用例に狭い巾で示されている家庭用電気器具の観念を原告のいう一揃のセツトにまで拡大するだけのことは、発明力を要せずして当業者の容易にできるものというべきであり、従つて本願発明の一揃のセツトなる観念が第一引用例に示されていないからといつて、本願発明が右引用例の記載から容易に推考できないとはいえない。
なお原告の主張中には、第一引用例における支持用基台と本願発明におけるアタツチメントとが構成上相違する旨主張する部分があるが、本願発明におけるアタツチメントの構成については、明細書の特許請求の範囲にはなんらの記載もないのであつて、発明の詳細なる説明の項にも単に「電動機に適切に設計された係合部を設け、相手方電気器具部品に、前記係合部に係合すべき係合部をもつたアタツチメントを与え」と記載してあるに止まるのであつて、ただ、図面及びその説明部分において、アタツチメントを各種家庭器具のそれぞれに一個づつ用意する如き記載となつているのではあるが、本願発明における右アタツチメントの果す役割の主たるものは、これを要するに電動機と電気器具部分との係合を適切にするという点にあり、この点においては、引用例のものにおける支持用基台もまた同様のものなのであるから、本願のものにおけるアタツチメントの構造が明細書記載の実施例のようなものに限定されるものとも解されず、またこれをそう限定されたものと見るとしても、引用例のものの構造を本願のものの構造にかえる程度のことは当業者の容易に推考実施し得ることと解するの外はなく、右差異の故に本願発明の進歩性を認めることはとうていできないものといわなければならない。
六、以上のとおりであるから審決が、本願発明が第一引用例の記載から容易に推考できるもので、旧特許法第一条の発明を構成しないとしたのは相当であつて、原告主張の違法は存しないこと明らかである。そして審決はさらに、本願発明が第二引用例の記載との関係においても同様であるとしたのに対し、原告はこの点についても審決の違法を主張しているが、すでに本願発明が第一引用例の記載によつてその特許を否定さるべきこと右の如くであるから、原告の右主張の当否については判断を加える要を見ない。