大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和40年(行コ)33号 判決 1967年5月30日

東京都墨田区梅田七丁目一五番四号

控訴人

東京観光株式会社

右代表者代表取締役

平沼栄

右訴訟代理人弁護士

落合修二

東京都千代田区大手町一丁目三番地

被控訴人

東京国税局長

吉国二郎

右指定代理人大蔵事務官

三輪正雄

広瀬正

岡崎栄

法務大臣指定代理人法務省訟務局付検事

川村俊雄

法務事務官 長谷川謙二

右当事者間の昭和四〇年(行コ)第三三号更正決定取消請求控訴事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴会社の負担とする。

事実

控訴会社代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人が控訴会社に対し昭和三七年三月三〇日付でした控訴会社の昭和三二年度分の法人税に関する審査決定を取り消す。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、援用、認否は、控訴会社代理人において、「タクシー業界におけるいわゆる名義貸は昭和三一、二年頃運輸省陸運局の行政指導により次第に排除されていく状況にあつたが、大沼照喜ら一二名は昭和三一年一〇月頃別表(1)ないし(15)記載のとおり各自東京日野モータース株式会社(旧商号東京日野自動車株式会社)から一九五六年式ルノーをいずれも控訴会社の名義で買い受け、控訴会社振出名義の約束手形を以て代金の支払をし、控訴会社所有名義の自動車登録をし、これを以て各自が控訴会社名義の営業許可によるタクシー営業を営んでいた。そして、別表(1)ないし(10)の各自動車は昭和三二年一月二一日小田急交通株式会社に代金二一〇〇万円で、(11)ないし(15)の各自動車は同年八月二〇日東京コンドルタクシー株式会社に代金一二二五万円で売り渡され、その売主は形式上控訴会社となつているが、実際は右各自動車の所有者である大沼照喜ら一二名が真実の売主であつて、売主を控訴会社と表示したのは右大沼ら一二名と小田急交通又は東京コンドルタクシーとの間においてなされた通謀虚偽表示によるものである。従つて、控訴会社と小田急交通又は東京コンドルタクシーとの間には右各自動車売買の事実は存在しないのであつて、控訴会社が原審においてした、控訴会社は実質上の所有者である大沼ら一二名から右各自動車を買い上げて買上げ代金と同権でこれを小田急交通及び東京コンドルタクシーに譲渡したに過ぎないから売却利益は発生しない、との主張は撤回する。」と述べ、当審証人大沼照喜の証言を援用し、被控訴指定代理人において、「控訴会社の右主張のうち、昭和二七年以来タクシー業界におけるいわゆる名義貸が陸運局の行政指導によつて排除されていたことは争わない、その余の事実は不知。」と述べたほか原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

理由

控訴会社がタクシー営業を目的とするものであり、昭和三二年二月二八日足立税務署長に対し昭和三二年事業年度の法人税につき課税所得金額、留保所得金額を零、従つて税額も零となる確定申告をしたところ、昭和三五年七月二〇日同税務署長は控訴会社に対し益金未計上分が金二六〇〇万円ありとして課税所得金額を金二六九九万四四二〇円、留保所得金額を金三八四万〇二〇〇円、これに対する基本法人税額を金一一一三万一七八〇円、過少申告加算税額を金五五万六五五〇円とする更正処分をし、合計金一一六八万八三五〇円の税金を支払うよう通知し、同年八月二二日控訴会社が右更正につき被控訴人に対し審査の請求をしたところ、昭和三七年三月三〇日被控訴人は審査の請求を棄却し更正を維持する旨の決定をし、同年四月二日控訴会社に対しその通知がなされたことは当事者間に争いがない。

そこで、まず別表(1)ないし(15)の各自動車を小田急交通及び東京コンドルタクシーに売却したのが被控訴人主張のように控訴会社であるかどうかについて判断する。

成立について争いのない乙第一ないし第四号証、同第八ないし第一一号証、当審証人大沼照喜の証言(後記措信しない部分を除く)によると、右(1)ないし(10)の各自動車は昭和三二年一月二一日いわゆるナンバー権なる営業上の権利ともども控訴会社から小田急交通に対し代金二一〇〇万円で売り渡され、(11)ないし(15)の各自動車は同年八月二五日頃同じくナンバー権ともども控訴会社から東京コンドルタクシーに対し代金一二二五万円で売り渡されており、(1)ないし(15)の自動車の右各売買時において所有者であり売主であつた者はすべて控訴会社にほかならないことが認められる。

当審証人大沼照喜の証言中、昭和三二年頃右各売買前において右各自動車はいずれも別表記載のように大沼ら一二名の所有であつて同人らはいわゆる名義貸の形で控訴会社名義によりタクシー営業をしていたとの部分はたやすく措信することができず(なお同証人は他の部分において右各売買における売主が控訴会社である旨を肯認する証言をしている)、控訴会社提出の甲第一ないし第一二号証も成立を真正と認め得るにしても、原本の存在とその成立に争いのない乙第五、六号証と照しあわせると、果して真実に沿うものであるかどうか著しく疑問であつて同じく直ちに措信することができない。

そうとすると、右各売買の代金合計金三二二五万円は控訴会社の昭和三二年事業年度における所得であると認められ、甲第一四ないし第一六号証の存在及び本件弁論の全趣旨からすると、控訴会社は昭和三二年事業年度の決算書中に右金額のうち金七〇〇万円のみをキングタクシー企業組合に対する仮払金として記載したに過ぎないことが明らかであるから、残額金二六二五万円の範囲内である金二六〇〇万円を同事業年度の益金に加算した足立税務署長の更正処分及びこれを維持した本件審査の決定はいずれも適法といわなければならない。

しかして、他に右更正及び審査決定における課税所得金額の計算が違法であり、控訴会社主張のごとき仲介料、使用人退職金の支出等損金計上さるべきものが脱落していると疑わしめるに足りるような措信すべき証拠はなく、右金二六〇〇万円が控訴会社の昭和三二年事業年度における益金に加算された場合、その課税所得金額、留保所得金額、基本税額及び過少申告加算税額が前示認定の更正及び審査決定のとおりとなることは控訴会社の明らかに争わざるところであるから、本件審査決定には違法の点はなく適法なものというべきである。

しからば、控訴会社の本訴請求は失当であり、これを棄却した原判決は相当であつて本件控訴は理由がない。よつて、民事訴訟法第三八四条に従い本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担について同法第八九条第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川美数 裁判官 外山四郎 裁判官 鈴木醇一)

別表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例