東京高等裁判所 昭和41年(う)1128号 判決
被告人 西友吉
〔抄 録〕
所論は原判決の事実誤認を主張し、被告人はまさかりで岡口芳正の頭部を殴打したことはなく、金員を物色中芳正の妻が目覚めて枕元のスタンドの灯をつけ、これと同時に芳正も起き上ろうとしたので、あわててまさりをその場に投げ出して逃げたのである。芳正の傷は、被告人が投げ出したまさかりを芳正が持つて被告人に追いかけてきて格闘となつた際、芳正自らが負うたのである。結局被告人はただ逃げるためにまさかりを投げ出したのであり、従つてまきかりを投げ出してからは、金員強取の所為には及んでいないのであるから、強盗致傷罪は成立せず、原判決は事実を誤認したものであつて破棄を免れないと主張するのである。
よつて案ずるに、被告人の司法警察員に対する供述調書(二通)、検察官に対する供述調書(三通)及び当審公判廷における供述を総合すれば、初め被告人がまさかりを持つて芳正方へ侵入したときは、家人に見つかれば同兇器でおどしてでも強盗しようという考えであつたことは明らかであるが、いざ二階に上り芳正夫妻の寝ている枕元で金員の物色を始めたところ、物音に目覚めた芳正の妻がにわかにスタンドの灯をつけて叫び声をあげ、これと殆んど同時に芳正も起き上ろうとしたので、被告人は驚きあわててまさかりで芳正の頭部めがけて殴打し、同人のひるむすきに逃げ出したのであり、換言すれば被告人はただ逃げるために芳正を殴打したのであつて、殴打してからは金員を強取する所為には及んでおらず、またそのような気配もなかつた次第で、被告人はまさかりを芳正らの側に投げ出したに過ぎないとの主張は採用できず、まさかりで故意に芳正の頭部を殴打した事実が認められるのであるが、殴打したのは、同人をおどして金員を強取するためではなくて、一途に逃げるために、すなわち、逮捕を免れるための手段としてなされたものと認められるから、本件は準強盗致傷罪を構成するものというべく、原判決がこれを強盗致傷と認定したのは、判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認を犯すものであり、原判決は爾余の論旨についての判断をまたずして破棄を免れない。
(樋口 関 金末)