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東京高等裁判所 昭和41年(う)2101号 判決 1967年6月05日

控訴人 原審検察官

被告人 株式会社蛯名製作所 外一名

弁護人 二階堂信一

検察官 丸物彰

主文

原判決を破棄する。

被告人株式会社蛯名製作所を罰金五万円に

被告人蛯名喜代人を罰金二万円に

処する。

被告人蛯名喜代人において右罰金を完納することができないときは金一〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

原審及び当審における訴訟費用は全部被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意及びこれに対する答弁は、それぞれ検察官検事荻野[金寉]一郎作成名義の控訴趣意書及び被告人両名の弁護人二階堂信一作成名義の意見書と題する書面に記載されたとおりであるから、これを引用し、これに対し当裁判所は次のとおり判断する。

一、控訴趣意第一の一ないし三(違法な時間外労働の時間に関する理由のくいちがい)について。

論旨は、要するに、原判決は、満一五歳以上で満一八歳に満たない労働者(以下年少労働者という)に対し、一週間の労働時間が四八時間を超えず、かつ、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日について八時間を超えること五〇分ないし二時間二〇分に亘る時間外労働をさせた事実を認定しながら、法令の適用に当り、年少労働者の労働時間については労働基準法第六〇条第三項が基準規定であつて、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに一日の労働時間が一〇時間以内であるが八時間を超えた場合も右規定により規制されるが、同項違反となるのは労働時間が一週四八時間の限度を超える場合と、一日一〇時間の限度を超える場合の二者である旨説示していて、これによると右の短縮措置をとらないで一日八時間を超える労働をさせても、一〇時間を超えない限り違反にはならないとしているものと解せられる。してみると、原判決の事実摘示と法令の適用に関する説示とは矛盾していて、理由のくいちがいがあるから、原判決は破棄を免れないというのである。

よつて按ずるに、原判決がその事実摘示において、被告人蛯名喜代人が被告人株式会社蛯名製作所の事業に関して、年少労働者に対し、一週間の労働時間が四八時間を超えず、かつ、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日につき五〇分ないし二時間二〇分に亘る時間外労働をさせた事実を認定し、これに引用の年少者時間外労働一覧表において、一日の労働時間が八時間を超えた限り、たとえ一〇時間以内でもすべて超過時間として計上し、この超過時間のすべてを違法な時間外労働としていること、法令の適用の部において、年少労働者の労働時間については労働基準法第六〇条第三項が基準規定であつて、同項は年少労働者については一週間の労働時間が四八時間を超えてはならないこと及び一日の労働時間が一〇時間を超えてはならないことの原則を規定し、その範囲内で各労働日の労働時間を定めることができるとしたものと解せられ、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間を超えた場合も同規定により規制され、従つて同項違反となるのは、一週間の労働時間の限度(四八時間)を超える場合と、一日の労働時間(一〇時間)を超える場合の二者となる旨説示していることは所論のとおりである。しかして、右の法令の適用に関する説示は、一見本件事実のうち一日の労働時間が一〇時間以内の八時間を超えた部分は違反にならないとする趣旨に解されるおそれのあることは所論のとおりである。しかし、原判決は右第六〇条第三項の全文を引用したうえ、右のような説示をしていることに徴すると、措辞正確を欠く憾みなしとしないが、その趣旨は、ひつきよう、右第六〇条第三項は、同項に定める労働時間短縮の措置をとつた場合においても、一週間の労働時間が四八時間を超えてはならないこと及び一日の労働時間が一〇時間を超えてはならないことの原則を規定したものであること、右の措置をとらない場合において一日の労働時間が八時間を超えた場合も右規定によつて規制されるものであること、従つて同項に違反する行為の態様は、一週間の労働時間の限度(四八時間)を超える場合と、一日の労働時間の限度(一〇時間、但し、前記の短縮措置をとらない場合は八時間)を超える場合の二者となるということをいうものと解せられ、所論のように本件のうち一〇時間以内の八時間を超えた部分は違反にならないとする趣旨ではないことが看取せられる。このことは原判決の法令の適用を見ると、一日の労働時間が一〇時間以内の八時間を超える部分をも違反行為と認め、かかる行為を含め、認定事実のすべてについて刑罰法令を適用していることによつても明らかである。してみると、原判決の事実摘示、法令の適用の間に格別矛盾するところはなく、原判決には所論のような理由のくいちがいはない。論旨は理由がない。

二、控訴趣意第一の一及び四(本件には労働基準法第三二条第一項の適用がないとする点に関する理由のくいちがい)並びに第二の一及び二(右の点に関する法令の解釈、適用の誤り)について。

論旨は、要するに、原判決は、年少労働者に対し、一週間の労働時間が四八時間を超えず、かつ一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日につき八時間を超えること五〇分ないし二時間二〇分に亘る時間外労働をさせた事実を認定し、法令の適用に当り、年少労働者の労働時間については労働基準法第六〇条第三項が基準規定であつて、同項は一週間の労働時間が四八時間を超えてはならないこと及び一日の労働時間が一〇時間を超えてはならないことの原則を規定し、一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに一日の労働時間が八時間を超えた場合も右規定によつて規制され、同法第三二条第一項の適用はない旨説示している。しかし、右の第六〇条第三項と第三二条第一項の関係をみると、第六〇条第三項は第三二条第一項を前提としていて、実質的にはこれを排除しておらず、年少労働者の労働時間については第三二条第一項が適用せられると同時に、これを緩和した第六〇条第三項も適用され、その結果第六〇条第三項により許容される限度において第三二条第一項の違反が消滅し、第六〇条第三項の許容する範囲を逸脱すればそれが同時に第三二条第一項に違反して可罰性を生ずるものと解せられる。してみると、原判決が前記のとおり四時間以内の短縮措置をとらないで一日の労働時間が八時間を超えたことを違反と認定しながら、法令の適用に関し右は前記第六〇条第三項により規制され、第三二条第一項の適用はない旨説示したのは矛盾していて、理由のくいちがいがあるとともに、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の解釈、適用を誤つた違法があり、破棄を免れないというのである。

よつて按ずるに、原判決が所論のとおりの事実を認定し、法令の適用に関し所論のとおり説示していることは判文上明らかである。しかして、これによると、原判決は年少労働者に対する労働時間はすべて労働基準法第六〇条第三項により規制され、一日の労働時間が一〇時間を超えた場合、一週間の労働時間が四八時間を超えた場合はもとより、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間を超えた場合も、いずれも同法第三二条第一項を全く考慮に容れないで右第六〇条第三項違反になるとしたものであることは所論のとおりであり、法令の適用においても原判決は右第三二条第一項を適用していない。所論は本件違反行為には右第六〇条第三項のほか第三二条第一項が同時に適用せられる関係にあるという。しかし、原判決もいうように、右第六〇条第三項は、原判決引用の最高裁判所判例(昭和三七年九月一四日第二小法廷判決、最高裁判所判例集第一六巻第九号一三六六頁)のとおり、右第三二条第一項に対する特別規定であつて、年少労働者の労働時間についての基準規定であると解せられ、これによれば本件には一般規定である右第三二条第一項の適用はないものといわなければならない。即ち、労働基準法は第三二条第一項をもつて労働者一般につきその労働時間を規制し、これを原則としたうえ、業態、経営規模その他諸般の実情を考慮しこれにそうため、第三二条第二項、第三六条、第四〇条等をもつて右の原則に対する変形、例外を認めたが、年少労働者については、未だ発育途上にあることの特殊性を考え右のような変形、例外を許さず、その保護育成にかなう労働生活と使用者の事業運営上の支障とを調和させた形態として、右第三二条第一項を基礎とする第六〇条第三項の規定を設け、同項においては第三二条第一項に規定する一週四八時間の原則はこれを変更しないことを明示すると共に、一日八時間の制限については、「一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合」であることを条件に、「第三二条第一項の規定にかかわらず……他の日の労働時間を一〇時間まで延長することができる」ことに変形し、従つて右の短縮措置をとらない場合は一日八時間の制限を維持する趣旨をも含ませ、これをもつて年少労働者の労働時間についての基準規定としたものと解せられる。尤も、所論のとおり、同法第六〇条第一項が年少労働者に対し同法第三二条第二項、第三六条、第四〇条の適用を排除しながら、第三二条第一項の適用を排除していないこと、また、第六〇条第三項の規定は、第三二条第一項の原則に対し一定の条件の下に一定の範囲までこれを緩和するという許容の規範形式をとつていることからすると、右の許容の範囲を逸脱する行為はすべて第三二条第一項の規定する禁止に触れて可罰となり、従つて右の行為には第六〇条第三項のほか、第三二条第一項が同時に適用せられると解される余地がないわけでもなく、前記労働時間の短縮、延長ということを併せると、右のような解釈が寧ろ明快であるかの如くである。しかし、年少労働者に対する特別規定を設けるについて一般規定の排除を明示するのはもとより望ましいことであるが、当該特別規定の趣旨その他によつて一般規定が排除されるものであることを看取し得られる場合、その明示がないからといつて直ちに一般規定が排除されないとは解されず、第六〇条第一項はただ同項に掲げる前記条項の時間形態が第六〇条第三項のそれと同位にあつて、年少労働者にも適用されると解せられることを慮り、専らこれを排除することに重点が置かれたに過ぎないものと解することができ、また、第六〇条第三項の規定が許容形式であることをもつて、これを逸脱する行為は第三二条第一項の禁止に触れて可罰となると解することは、結局において独立して第六〇条第三項違反の罪の成立することをすべて否定することに帰し、同法第一一九条第一号において第六〇条第三項違反の罪を認めこれに罰則を設け、或いは少年法第三七条第一項第三号が右第三二条第一項を除外しひとり第六〇条第三項違反の罪を家庭裁判所の管轄に属せしめている法意にそわないこととなるのであるから、前記所論には左袒することができない。そこで前記のとおり第六〇条第三項の規定には第三二条第一項の規定する労働時間の制限が規範内容として取り入れられていて、これを内包し、従つて、第六〇条第三項の許容する範囲を逸脱する行為は、改めて第三二条第一項の禁止規範を俟つまでもなく、第六〇条第三項によつてすべて禁止され、それ自体によつて犯罪となり、ただ第三二条第一項の構成要件が第六〇条第三項のそれと競合する範囲において潜在的に第三二条第一項にも違反することとなると解せられ、従つて、年少労働者に対する一日及び一週間の労働時間の限度を超える場合はすべて第六〇条第三項に違反し、同法第一一九条第一号の罰条が適用せられることとなる。してみると、原判決が本件の違反行為には右第三二条第一項の適用がない旨説示し、第六〇条第三項、第一一九条第一号を適用して処断したのは正当であつて、原判決には所論のような理由のくいちがい、法令の解釈、適用の誤りはない。論旨は理由がない。

三、控訴趣意第二の一及び三(罪数に関する法令の解釈、適用の誤り)について。

論旨は、要するに、原判決は法令の適用において労働基準法第六〇条第三項に違反して一日の労働時間の限度を超え労働させた本件の罪は、労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立するものとしているが、右の罪は労働者各個人別に、各違反日毎に一罪が成立するものと解すべきであるから、原判決には法令の解釈、適用を誤つた違法があり、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから破棄を免れないというのである。

よつて按ずるに、原判決は所論のとおり本件の罪は労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立するものと解して、これが法律の適用をしている。そこで、先ず、労働基準法第六〇条第三項に違反する行為の態様を見ると、(1) 一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合であると否とに拘らず、一日の労働時間が一〇時間を超えた場合、(2) 右の短縮措置をとる場合でないのに、一日の労働時間が一〇時間以内であるが八時間を超える場合、(3) 一週間の労働時間が四八時間を超えた場合の三者となり、右の(3) の場合は、一週を通じての労働時間の制限に違背する態様のものであるから、その性質上労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立することは明らかである。しかし、右の(1) 及び(2) の場合は、いずれも一日の労働時間の制限に違背する態様のものであり、同法第三二条第一項の一日単位の労働時間の規制を変形したことによつて二個の態様に分類されるに至つたものであるが、第三二条第一項の右の規制に違反した場合は労働者各個人別に、各違反日毎に一罪が成立するものと解されるのであるから、右の(1) 及び(2) の場合も労働者各個人別に、各違反日毎に一罪が成立すると解するのが相当であつて年少労働者に対する労働時間についての違反行為を成人労働者に対するそれに比し本質的に異る法律評価をする理由はない。尤も、右の(1) の場合、その違法状態は一日一〇時間を超えて労働させた時点において成立、確定するから、その時点において右第六〇条第三項違反の一罪が成立するとすることは容易であるが、右の(2) の場合は、四時間以内の短縮措置、その意思の存否に関して問題があり、一週の経過を待たないと違法状態を確定することができず、従つて各週毎に一罪が成立するものの如く解されないでもない。しかし、成人労働者の労働時間につき同法第三二条第二項は就業規則その他により定めた場合に、また、同法第三六条は労使双方が書面により協定してこれを行政官庁に届けた場合に同法第三二条第一項の規制と異る態様を許容することとしていて、同条項と異る態様の労働時間を許容するについてはその条件の明確化を厳に要求していること、第六〇条第三項は、心身が未だ発育の途上にある年少労働者の健全な育成のため、これに休養、勉学の機会を与えるなどその労働生活について成人労働者に比し厚く保護する必要があるので、使用者の事業運営上の便宜をも考慮しながら、労働時間の緩和を認める条件を成人労働者に比し厳格にしたものであるから、その条件については成人労働者の場合と同様或いはそれにも増してその明確化が要求されて然るべきであること、そして第六〇条第三項は一日の労働時間の延長については、一週間の労働時間の制限のほか、「一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合においては」という表現を用いてこれを条件にしていることに鑑みると、年少労働者についてもその秩序ある労働生活を維持させるため、右の延長の際には既に短縮措置の条件が確定、明示されていなければならないと解するのが相当である。従つて、右の労働時間の短縮、延長については、就業規則、使用者と年少労働者との話合い等により予め各週の就業計画を定め、これにより難い事情のあるときは週の初めにその週の就業計画を定め、週の途中において計画の変更を余儀なくする事情が生じたときは速かに爾後におけるその週の就業計画を定めるなどして、年少労働者に対しそれが予め明示されている場合に限り、労働時間の延長が許され、遅くとも延長の際までに短縮の計画が明示されていない場合は、使用者にその週のうちに短縮措置をとる意思があると否とに拘らず、一日八時間を超える労働をさせ、外形的に違法な状態が成立した限り、その時点において第六〇条第三項違反の罪が成立するというべきであり、後に至つて短縮措置がとられたとしても、もとよりこれによつて右の違法性ないし可罰性が失われるものではないと解するのが相当である。若しかかる解釈を採らないとすれば使用者の恣意によつて年少労働者不知の間に労働時間の操作が行われることとなり、自然に違法な労働を強いる結果を生じ、年少労働者保護の目的を達し得ない虞れがあるからである。してみると、右の(2) の場合においても労働時間の延長の時点において違法状態が確定するから、一週の経過を待たなければ犯罪の成否を決し得ないとする理由は何もない(なお、所論のうちに原判決は一日の労働時間の限度と一週間の労働時間の限度とに重複して違反する場合も労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立すると説示しているが、前者の違反が成立する限り後者の違反は成立しないという点があるが、なるほど、労働時間規制の原則規定である労働基準法第三二条第一項が労働時間を一日単位で規制したうえ、更に一週単位で規制していることからすると、同法は労働時間を第一次的に一日単位をもつて規制し、一週単位の規制はただ第二次的なものであることが看取され、また、一日の超過労働をさせた行為が一日と一週との二重の法律的評価を受け、重ねて処罰の対象とされることはもとより不当であるから、一日の労働時間の限度違反が成立する限り、重ねて一週間の労働時間の限度違反は成立しないというべきことは所論のとおりである。)。さすれば原判決が法令の適用において労働基準法第六〇条第三項に違反する本件の罪を労働者各個人別に一罪とした点は格別、労働時間の延長短縮措置に関する就業計画が予め明示されていたことが肯認されない本件の場合において使用各週毎に一罪が成立するとした点は法令の解釈、適用を誤つた違法があり、右の誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書により次のとおり自判する。

当裁判所の認定する罪となるべき事実及び証拠の標目は原判決と同一であるからこれを引用し、右事実に法律を適用すると、被告人蛯名喜代人の判示各所為(労働者各個人別に、各違反日毎に一個)はいずれも労働基準法第六〇条第三項、第一一九条第一号に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、右被告人蛯名は被告人株式会社蛯名製作所の代表取締役であつて事業主である同被告人会社のため右の違反行為をしたものであるから、被告人会社にも同法第一二一条第一項により同法第一一九条第一号所定の罰金刑を科すべきところ、以上はいずれも刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四八条第二項に従い各罰金の合算額の範囲内において、被告人蛯名を罰金二万円に、被告人会社を罰金五万円に処し、被告人蛯名において右罰金を完納することができないときは同法第一八条により金一、〇〇〇円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、原審及び当審における訴訟費用は、刑事訴訟法第一八一条第一項本文、第一八二条により被告人両名に連帯して負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 松本勝夫 判事 石渡吉夫 判事 深谷真也)

原審検察官の控訴趣意

原判決は、公訴事実のとおり、労働基準法違反の事実を認定し、被告会社を罰金五万円に、被告人蛯名を罰金二万円に、各処する旨の判決を言い渡したが、右判決には、理由に齟齬があり、かつ、法令の適用に誤りがあつて、それが判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、到底破棄を免れないものと思料する。

第一理由齟齬について

一 原判決は、本件の罪となるべき事実を摘示するにあたり、労働基準法第六〇条第三項に違反する事実として、「満一五才以上で満一八才に満たない労働者佐藤昭二他一名に対し、一週間の労働時間が四八時間を超えず、かつ、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日につき五〇分ないし二時間二〇分に亘る時間外労働をさせたものである。」と判示し、さらに、罪となるべき事実に引用の別紙年少者時間外労働一覧表においては、一日の労働時間が八時間をこえたかぎり、たとい一時間以内でも、すべて違法な超過時間として計上し、この超過時間のすべてを違法な時間外労働として認定している。

二 つぎに、原判決は、本件に対する法令の解釈適用にあたつて、「労働基準法は、成年労働者の労働時間について、同法第三二条第一項を設けているが、満一五才以上で満一八才に満たない労働者(以下、年少労働者という。)の労働時間については、特別規定として、同法第六〇条第三項を設け、これを基準規定としている。」、「同規定の趣旨は、(中略)年少労働者については、一週間の労働時間が四八時間をこえてはならないこと、および一日の労働時間が一〇時間をこえてはならないことの原則を規定し、その範囲内で各労働日の労働時間を定めることができるものとしたものと解せられる。」とし、さらに、「年少労働者について一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合でも右規定により規制され同法第三二条第一項の適用はないというべきである。」として、結論的に「したがつて、右第六〇条第三項違反となる場合は、一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合と、一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合の二者となる。」旨判示している。右の見解によれば、年少労働者の時間外労働については、労働基準法第三二条第一項の適用はなく、もつぱら同法第六〇条第三項が適用され、同規定の違反となる場合は、一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合と一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合の二者に限られるというのであるから、一日の労働時間につき八時間をこえて労働させても、一〇時間に満たないかぎり、違反にならないことになるものといわねばならない。

三 しかるに、前記のように原判決は、本件の罪となるべき事実を認定し、これを摘示するにあたつて、一週間のうち、一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとらない場合で、一日の労働時間が一〇時間に満たないが、一日八時間をこえて労働させた場合をも違反事実として摘示しているのであり、このことは、本件についての法令の適用に関する右判示と矛盾し、まさしく理由に重大なくいちがいがあるものというべきである。

四 もつとも、原判決は、法令の適用に関する前記判示の中で、「年少労働者について一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合でも労働基準法第六〇条第三項の規定によつて規制される。」といつているが、右の場合は、はたして、右規定によつて違反となるのかどうかにつき、結論を明示しないで、ただ「同法第三二条第一項の適用はないというべきである。」と判示するにとどまつている。

そこで、原判決の右判示が、年少労働者について、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合も労働基準法第六〇条第三項によつて違反になるという趣旨であるとすれば、それはいかなる根拠によることになるのであろうか。この場合、原判決は、同法第三二条第一項の適用はないと判示しているので、右規定を全く考慮の外に置き、もつぱら同法第六〇条第三項の規定だけによつてその違反となる理由が合理的に説明されなければならない。

ところが、同法第三二条第一項を全く考慮に入れないで、同法第六〇条第三項の規定のみから、年少労働者に対して、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮するという措置をとらない場合に、一日の労働時間が一〇時間以内の八時間をこえて労働させることが違反になるという合理的根拠を発見することは不可能である。すなわち、同法第六〇条第三項からは、原判決もいうように、年少労働者の労働時間が一週間を通じて四八時間をこえてはならないことと、一日の労働時間がいかなる場合でも一〇時間をこえてはならないことが、その規範内容として看取できるだけで、一日の労働時間が八時間をこえてはならないという禁止規範を導き出すことはできない。たとえば、年少労働者をして、一週間のそれぞれの日に、九時間・九時間・九時間・八時間・八時間・五時間というように労働させた場合、これがはたして違反となるかどうかは、同法第六〇条第三項のみによつては解決できない問題といわねばならない。

年少労働者に対し、一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとらないで、一日の労働時間が一〇時間以内ではあるが、八時間をこえて労働させた場合、それを違法と認定するためには、これに対して、同法第六〇条第三項が適用されると同時に、同法第三二条第一項も適用されて始めてこれが可能となるのである。かく解することが、後述のような理由から、正当な解釈といえよう。

ところが、原判決は、前記のように、年少労働者の労働時間については、同法第三二条第一項の適用はないといいながら、「一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合にも同法第六〇条第三項によつて規制される。」と判示するにいたつては、一日の労働時間が一〇時間以内ではあるが、八時間をこえて年少労働者を時間外労働させたという事実を、違反と認定することができないものといわねばならない。よつて、原判決が、前記のように、罪となるべき事実の認定にあたつて、右のような場合をも違反として摘示していることと、原判決が法令の適用として、「年少労働者について一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合でも右規定により規制され同法第三二条第一項の適用はないものというべきである」と判示する部分とが矛盾抵触し、この点においても、原判決には理由にくいちがいのあることが明らかである。

第二法令適用の誤りについて

一 原判決は、本件に対する法令の適用として、

1 労働基準法第六〇条第三項は、年少労働者の労働時間についての基準規定であり、年少労働者について一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合でないのに、一日の労働時間が八時間をこえた場合でも、右規定により規制され、同法第三二条第一項の適用はない。

2 さらに、右第六〇条第三項違反を一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合と一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合の二者に限定し、一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合はもとより一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合も、また、前者と後者が重複する場合も、すべて労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立するものと解するのが相当である。

旨判示している。

しかしながら1のように年少労働者の労働時間は、もつぱら労働基準法第六〇条第三項のみによつて規制され、同法第三二条第一項の適用がないとする解釈、および2のように、同法第六〇条第三項違反は、常に労働者各個人別に、使用各週毎に一罪が成立するという解釈は、いずれも法令の解釈適用を誤つたものというべきである。

二 年少労働者の労働時間については、つぎのような最高裁判所の判例がある。

すなわち、「労基法三二条一項は、使用者は労働者に休憩時間を除き一日について八時間、一週間について四八時間を超えて労働させてはならないと規定する。これは労働者に対する原則基準であるが、年少者に対しては同法六〇条の特別規定を設け、同三項において満十五歳以上十八歳に満たない者については、右三二条一項の規定にかかわらず、一週間の労働時間が四八時間を超えないかぎり一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合においては他の日の労働時間を十時間まで延長することができると規定している。すなわち、この種の年少者に対しては同法六〇条三項をもつて労働時間の基準規定となす趣意であることはあきらかである。」というのである(昭和三七年九月一四日最高裁第二小法廷判決、最高裁判例集第一六巻第九号一三六六頁以下)。

ところが、右判例は、「労基法六〇条三項が年少者の労働時間の規整に関する基準規定であつて、三二条一項の特別規定である。」と判示するが、右両規定の実質的な関係については、なんら論及されていない。

そこで、労働基準法第六〇条第三項と同法第三二条第一項を対比しながら、その両者の関係を検討すると、つぎの諸点が指摘される。

1 同法第六〇条第一項は、満一八才未満の者に対して、同法第三二条第二項の適用を明文で排除しているが、同法第三二条第一項の適用を排除するとはいつていない。

2 同法第六〇条第三項が、その冒頭で、「第三十二条第一項の規定にかかわらず、」という表現を用い、また、後段で、「一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合」とか、「他の日の労働時間を十時間まで延長する」という規定の仕方をしていて、この短縮するとか、延長するとかいうことの基準としては、当然一日八時間労働という規定の存在が、その前提をなしていると考えなければ、到底理解できないことである。

3 同法第六〇条第三項違反の行為が可罰的であるためには、それが同規定による命令ないしは禁止に違背するものでなければならない。しかし、同規定は、それ自身として、禁止規定でも、命令規定でもない。同規定は、単に特定の日の労働時間を四時間以内に短縮するならば、他の日の労働時間を一〇時間まで延長することができることを規定しているに過ぎない。この規定が同時に禁止規範を示すものであるというためには、どうしても同法第三二条第一項の規定と結びつかねばならない。

これは、同法第六〇条第三項が、もともと同法第三二条第一項によつて規定されている禁止を、ある範囲緩和するという内容を持つものであることからくる当然の帰結である(宮崎澄夫「労働基準法違反と裁判所の管轄」判例評論五五号、二二頁以下)。してみれば、労働基準法第六〇条第三項は、同法第三二条第一項を基礎としており、同条項の適用を実質的には排除していないものといわねばならない。すなわち、年少労働者の労働時間については同法第三二条第一項も適用されるが、同条項の禁止を一部緩和する規定である同法第六〇条第三項が当然に適用される結果、同条項の許容する限度においては、同法第三二条第一項違反が消滅することになるし、同法第六〇条第三項の許容する範囲を逸脱すれば、それが同時に同法第三二条第一項に違反して可罰性を生ずることになると解すべきである。このように理解してこそ、はじめて一週間のうち、一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとらないで、一日の労働時間が一〇時間以内ではあるが、八時間をこえて年少労働者を労働させた場合に、これを違法とする根拠を見い出すことができるのである。

しかし、いずれにしても、年少労働者の労働時間超過労働が違法とされるのは、同法第六〇条第三項で許容される範囲を逸脱する場合に限られることになるので、その意味において、同規定が、年少労働者の労働時間規制についての基準規定であり、また、同法第三二条第一項に対する特別規定であると思料される。

以上述べたところから、原判決が、年少労働者の労働時間は、もつぱら労働基準法第六〇条第三項のみによつて規制され、同法第三二条第一項の適用がない旨判示しているのは、法令の解釈適用を誤つたものであり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

三 つぎに、労働基準法第三二条第一項による一日八時間、一週四八時間という労働時間の規制は、国際的水準をゆく労働者保護の規定であり、また、労働時間を一日及び一週の両面から規制することは近代労働法の根本原則ではあるが、その業態及び使用者の経営規模からしてこの原則を貫き難いので、その業態によつて規制を緩和し(労基法第四一条第四〇条)、あるいは労使の協定によつて事実上労働時間の規制はないものとすること(同法第三六条)を認めている。しかし、このように一日八時間制の原則の緩和を年少労働者についても同様に及ぼすことは、心身の発育途上にある年少労働者に有害な影響を与え、心身ともに健全な熟練労働者の確保育成という社会的目的にもそい難いので、年少労働者については、このような全面的な緩和を認めなかつた(同法第六〇条第一項)が、ただ、年少労働者に休養、勉学の機会を与えるための便宜と使用者の事業運営上の支障の緩和を考えて、一日八時間を超過する労働による弊害を最少限度に止めるべく、一定の条件のもとに、一定の範囲を限つて、「やりくり操業」を認めたものが同法第六〇条第三項にほかならない。

そして、同法第六〇条第三項においては、同法第三二条第一項の原則中、一週四八時間制は変更されていないけれども、一日八時間制が「一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する場合」を条件として、「他の日の労働時間を一〇時間まで延長することができる」ように緩和されているのである。そこで、同法第六〇条第三項に違反する場合を態様別に分けて考察すると、年少労働者に対し、

1 一週間のうち一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとると否とにかかわらず、一日の労働時間一〇時間をこえて労働をさせた場合

2 一週間のうち、一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとらないで、一日の労働時間が一〇時間以内ではあるが、一日八時間をこえて労働をさせた場合

3 一週間のうち、一日の労働時間を四時間以内に短縮する措置をとり、毎日の労働時間が一〇時間以内ではあるが、その週の労働時間が合計四八時間をこえて労働させた場合

の三者に分けることができる。

ところで、前叙のように、労働基準法第六〇条第三項違反は、同規定で許容する範囲を逸脱して年少労働者に労働をさせたことにより、それが同時に同法第三二条第一項の禁止にふれることによつて可罰性を生ずるものと解すべきであるから、同法第六〇条第三項違反の各態様は、すべて実質的にはこれを同法第三二条第一項の違反としても考察すべきである。

そこで同法第三二条第一項違反は、一日八時間をこえて労働させた場合(一日当りの労働時間の制限に違背する態様のもの)と一週四八時間をこえて労働させた場合(一週間を通じての労働時間の制限に違背する態様のもの)に分かれるが、前記1、2はいずれも前者に属し、3は後者に属することが明らかである。

いうまでもなく、同法第三二条第一項が第一次的には、労働者の労働時間を一日単位で規制しているのは、各一日の労働が長時間にわたることを禁ずることによつて、労働者の疲労の蓄積をさけ、その健康と福祉を確保し、ひいては労働災害の発生を未然に防止しようとする趣旨に出たものであると解される。右の趣旨が心身ともに未成熟な年少労働者の保護という観点から、とくに重要視されなければならないことは、労働基準法第一条に規定する同法の精神に照らして明らかであるといわねばならない。そのことと、さらに、同法第六二条違反の罪数につき、「多数日にわたり多数の年少者または女子労働者を深夜業に使用した場合には、特段の事情ある場合を除き、その使用日毎に各就業者各個人別に独立して同条違反の罪が成立するものと解すべく、これらを包括して一罪が成立するものとなすべきではない。」とした控訴審判例を是認する最高裁判所判例(昭和三四年七月二日、最高裁第一小法廷判決、最高裁判例集第一三巻七号一〇二六頁以下)の趣旨および本件と同様な労働基準法第六〇条第三項違反の事案に関し、「一日当りの労働時間の制限に違背する態様のものについては、各労働者ごと各違反日ごとに一罪が成立する」旨を判示した下級審判例(昭和四一年七月二九日東京家庭裁判所判決、昭和四一年(少)イ第一八号、同年三月一六日同裁判所少年第二部判決、昭和三九年一二月一五日岐阜家庭裁判所判決)があることなどを併せ考えれば、前掲1、2の同法第六〇条第三項違反は、いずれも、原則として各労働者別、各違反日ごとに一罪が成立するものと解すべきである。

ことに、前掲1の場合は、一日一〇時間をこえて労働をさせること自体が、明らかに同法第六〇条第三項で容認される限度をこえているため、労働基準法上いかなる意味においても、これを正当視しうる余地がなくなり、一日一〇時間超過の労働をさせた時点において、直ちに違法状態の成立が確定的になるものというべきであつて、一週間の経過をまたなければ、その違法状態が確定できないと解すべきなんらの根拠もない。したがつて、前記の同法第六二条違反の罪数に関する最高裁判例の趣旨に照らしても、前掲1の場合は、各労働者ごと各違反日ごとに、一罪が成立するものと解することが、極めて当然といわなければならない。

前掲3の場合は、事柄の性質上、一週間の経過をまたなければ、その違法状態が確定できないから、その罪数も、原判決の判示するとおり、労働者各個人別に、使用各週ごとに一罪が成立するものと解するのが相当と思料される(同一条項に違反した行為が、ある場合には、一日一罪であり、他の場合には一週一罪であるということは、一見不合理のようであるが、労働基準法第三六条によつて緩和された同法第三二条第一項違反にあつても、同法第三六条の協定内容が一日の労働時間あるいは超過労働時間数を協定した場合には、それを超えてさせた労働については、一日一罪であるが、週の総労働時間のみを協定し、毎日の労働時間は使用者において自由に決定しうるように取り決められた場合には、その協定に違反しても、一週四八時間労働の違反が成立するのみである)。

しかし、前掲1の一日一〇時間超過違反と一週四八時間超過違反の関係は、前者が成立するかぎり、後者の成立する余地はないものと解すべきである。

その理由は、つぎのとおりである。

すなわち、労働時間規則規定である同法第三二条第一項の規定の構造が、労働者の労働時間につき、第一次的には、一日八時間単位で規制し、第二次的に一週四八時間単位で規制するというかたちをとつていることから、労働基準法は、まず、一日単位の労働時間を規制することによつて労働者を保護し、その第一次的規制が不可能な場合にのみ、第二次的に、週単位の労働時間の規制によることを予定していることが看取されるからである。

また、前叙のように、一日一〇時間超過の場合は、各労働者別、各違反日別に一罪が成立すると解すべきであるが、右の労働時間を含めて当該週の合計労働時間が四八時間をこえたことにより、さらにこれを別個の違反として扱うことになると、一日一〇時間超過の日の労働時間が、実質的には二重に法律的評価を受けて、重ねて処罰の対象になるという不当な結果を招来することになるからである。

以上述べたところから、原判決が前記のとおり、労働基準法第六〇条第三項違反を、一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合と、一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合の二者に限定し、一週間の労働時間の限度(四八時間)をこえる場合はもとより一日の労働時間の限度(一〇時間)をこえる場合も、また、前者と後者が重複する場合もすべて労働者各個人別に使用各週毎に一罪が成立するものと解するのが相当である旨判示したのは、法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、この誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかである。

なお、労働基準法が女子、年少労働者を成人労働者に比し、より厚く保護すべきものとし、それを法の理想としていることは、「女子及び年少者」保護のため、とくに一章を設けていることによつても明らかであり、また、前述した昭和三七年の最高裁判例も年少労働者の保護の全きを期そうとする法の本旨に従つたものであると解される。したがつて、使用者が労働者に対し同種の違法行為をした場合において、年少労働者に対する違法行為が成人労働者に対するそれよりも重く罰せられるか、少くとも平等に処罰されなくてはならない。しかるに、原判決のように年少労働者に時間外労働をさせた行為について一週一罪説をとるときは、使用者は、成人労働者に対する労働基準法第三二条第一項違反より甚だしく軽い処断刑によつて処罰されることとなつて、法の本旨に反するのみならず、使用者に対する刑の教育的効果を著しく減殺することとなる。加うるに、法は年少労働者を保護するごとき体裁をとりながら、実質的にはこれに反する処断をするという矛盾が生じ、そのため法の権威や法の保護に疑惑を生ずるにいたらせ、ひいては遵法精神を麻痺させるおそれのあることも看過してはならない。さらに、実務上からみても、一週一罪説によるときは、正義に反する結果の生ずる場合がすくなくない。一例をあげれば、近時悪質な使用者が時間外労働のカードを作成しないで証拠湮滅を図つているので、労働基準監督官が、時間外作業の現場に臨検することなどによつて、ようやく違反を摘発しているのであるが、たまたま週の途中に年少労働者に時間外労働をさせている現行を発見した場合において、当該事業場では、当該週には、一日四時間以内に短縮する措置をとつていないことが明らかな場合でも原判決のような法律見解をとるかぎり、週四八時間労働をこえるまでは、労働基準法第六〇条第三項違反として捜査に着手することができないので、悪質な違反者の検挙が、極めて困難となることがありうるのである。

以上のべたように、原判決には、理由の齟齬があり、明らかな法令の解釈適用の誤りがあつて、到底破棄を免れないものと思料されるから、原判決を破棄し、正当な判断を求めるため、本件控訴に及んだ次第である。

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