東京高等裁判所 昭和41年(う)2109号 判決
被告人 中沢一雄
〔抄 録〕
論旨は要するに、原判決は判示第一の三、第二、第三及び第四の各事実につき業務上横領罪と詐欺罪との各成立を認め両罪が観念的競合の関係に立つものと判示したが、横領にかかる物件を担保に供して金円を借用しても別に詐欺罪を構成するものでないこと明治四四年(れ)第一一〇九号大審院刑事二部判決の示すところであるから、この点につき原判決には判決に影響を及ぼすこと明らかな法令適用の誤があり破棄を免れないというのである。
しかしながら、定期預金証書の横領によつて侵害される預金権利者の被害法益とその預金証書につき処分権限あるものの如く詐つてそれを担保に供し貸付名下に金員を騙取する行為によつて侵害される信用金庫の被害法益とは別個であつて、横領罪のほかに更に新たな法益侵害によつて詐欺罪の成立することもとよりであり(最高裁判所昭和二二年(れ)第一〇五号同二三年四月七日大法廷判決集第二巻四号二九八頁、同裁判所昭和二四年(れ)第二八五二号同二五年二月二四日第二小法廷判決、第四巻二号二五五頁参照)、所論の如く不可罰的事後処分として別罪を構成しないという見解は採用し難く、論旨は理由がない。
(松本 真野 深谷)