東京高等裁判所 昭和41年(う)2982号 判決 1967年3月24日
主文
本件控訴を棄却する。
理由
<前略>
論旨は要するに、原判決は判示第二の所為を窃盗罪に該るものとし、また判示第三の(一)乃至(三)の各所為を窃盗未遂罪に該るものとしたが、それらの事実関係によれば、郵便物の包紙に対する私文書変造罪と郵便物に対する詐欺罪乃至詐欺未遂罪とが成立し、両者は牽連犯の関係に立つて、詐欺罪乃至詐欺未遂罪を以て処断せらるべきであり、仮に原判示第三の(一)乃至(三)の各所為が詐欺未遂罪により処断せらるべきでないとしても、郵便物が被告人の自宅に配達されたときか又はこれに近接した状態に至つたときに初めて窃盗の着手があつたものと考えるべきで、原判示第三の(一)乃至(三)の事実関係のもとでは窃盗の予備行為があつたにとどまり未だ窃盗の着手があつたものとはいえず、以上の点において原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな法令適用の誤があつて破棄を免れないというに帰する。
よつて本件記録を精査するに、被告人の原判示第二及び第三の(一)乃至(三)の各所為は、孰にも被告人が世田谷郵便局郵便課に勤務し郵便物区分の業務に従事していた際、原判示各差出人名義の郵便物在中の現金、郵便切手或は雑誌等を領得しようと企て、同局郵便課事務室においてひそかに、それら郵便物の各受取名義人の記載を、被告人の当時の住居であつた東京都世田谷区太子堂四三〇番地の同姓虚無人である宮内久子と加筆訂正したうえ郵便物区分棚に差し置き、以て情を知らない配達担当者の配達によりそれら郵便物を自己に入手しうるよう工作を施し、原判示第二の各郵便物は自宅に配達されて所期の目的を遂げたが、原判示第三の(一)乃至(三)の各郵便物は上司に怪しまれて配達されるに至らず目的を遂げなかつたことが明らかであり、孰れも各郵便物の管理者である世田谷郵便局長の処分意思に基かずしてその占有を離脱せしめ或は離脱せしめんとして遂げなかつたもので、それらの所為が窃盗罪の既遂及び未遂に該ることもとよりであつて(最高裁判所昭和二六年あ第一一一六号窃盗・同未遂被告事件、昭和二七年一一月一一日第三小法廷判決、最高裁判所裁判集刑事六九巻一七五頁参照)、原判決には何ら所論の如き法令適用の誤があるとは認め難く、論旨は理由がない。
(その余の控訴理由は省略する)(松本勝夫 石渡吉夫 深谷真也)