東京高等裁判所 昭和41年(う)675号 判決
被告人 笠原敏郎 外三名
〔抄 録〕
論旨は、原判決は山崎一郎、早川正、寺田一司の検察官に対する各供述調書を刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の書面として採用し、判示事実認定の用に供している。しかし、右各供述調書は、警察官が暴力団を一挙に検挙しようとして、本来パチンコ遊技場警備の謝礼金である本件金員交付の事実を捉え無理にこれを恐喝罪に問擬したうえ、右山崎らに対し、被告人らの所属する服部組に資金の提供を継続すれば暴力団の共犯と認める旨、或いはパチンコ営業の許可を停止する旨申し向けて脅迫したため、営業上警察の監督下にある同人らが警察に迎合した結果でき上つたものであるから、前記条項にいわゆる特信性がなく、証拠能力がない。従つてこれを判示事実認定の用に供した原判決には、判決に影響を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があり、破棄を免れないというのである。
よつて按ずるに、記録によると、原判示被害者である山崎一郎、早川正、寺田一司の検察官に対する各供述調書はいずれも刑事訴訟法第三二一条第一項第二号の書面として採用、取調べられたものであることは所論のとおりである。しかし、原判決は早川の供述調書はこれを罪証に供していないのみならず、山崎、早川が警察官から所論のようなことをいわれた事実を認めるに足る証拠がなく、ただ、寺田の原審公判における証言によると、同人は、取調べの際、警察官から、今後暴力団に資金を出せば営業を取り消す旨申し向けられたことが認められるが、警察官は将来における資金供与について警告したに止ることは右の供述自体に徴し明白であるから、右警告の事実がその際寺田に対し何らかの心理的影響を与えたとしても、これを捉えて所論のように寺田が過去における本件金員の交付またはその趣旨についてまで警察官に迎合して虚偽の供述をするに至つたとする理由とはなし難い。しかのみならず、右三名の原審公判における各証言は、いずれも的屋服部組の組長或いは幹部である被告人ら四名の面前においてなされたものであつて、しかも、同証言中にあるおとり、いずれも証人召喚状を受領した後、検察庁に出頭して、検察官に対し、被告人ら及び関係者ないし傍聴人のいないところで証言したい旨申し出た事実のあることを考えると、被告人らに対するはばかりのない情況の下において作成された検察官に対する供述調書は、他に特別の事情の認められない本件においては、公判における供述に比し信用度の高いことは否定し得ないところであるから、前記条項にいわゆる特信性を具備し、証拠能力があると認めるのが相当である。さすれば原判決には所論のような訴訟手続の法令違反はない。論旨は理由がない。
(松本 海部 石渡)
(註) 本件は他の理由で破棄