大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1022号 判決

本件各配当事件がいずれも東京地方裁判所に係属中その担当裁判官が昭和三二年八月三日本件各配当事件の供託金をいずれも債権者宇田川安三郎に全額配当する旨の各配当表を作成しその実施を命じたものであることは当事者間に争がない。

そこで担当裁判官の前記各配当表の作成が本件委任状(甲第六号証)の真偽の判断を誤つた過失にもとずく違法なものであるかを判断する。東京地方裁判所昭和三一年(リ)第一二一号配当事件について昭和三一年二月二〇日債権者である被控訴人が訴外弁護士高橋秀雄を代理人とする委任状を裁判所に提出し、本件各配当事件について昭和三一年三月(三月何日であるかは争がある。)債務者である訴外マルセ商事株式会社および同ダイヤモンド商事株式会社が訴外弁護士高野亦男を代理人とする委任状を提出したことは当事者に争がない。

〔証拠〕を総合すれば債務者である前記両会社の代表取締役鈴木正二は被控訴人に無断で被控訴人が本件各配当事件について前記高野弁護士に代理権を委任する旨の被控訴人名義の委任状(甲第六号証)を作成しこれに昭和三二年八月一日と作成日付が記入されて高野弁護士から裁判所に提出されたこと、そのころ本件各配当事件の供託金が全額債権者の一人訴外宇田川安三郎に配当されても異議ない旨の協議書(甲第七号証)が昭和三二年七月三〇日付で作成され高野弁護士、訴外弁護士唐沢高美らから各債権者および各債務者間に示談がととのつたものとして裁判所に提出されたこと(この文書が提出されたことは当事者間に争がない。)そこで担当裁判官は各債権者および各債務者間に示談ととのつたものとし、配当期日を昭和三二年八月三日と指定し、この指定の告知は被控訴人については前記高野弁護士に告知されたことそして右期日に前記協議書どおりの配当表が作成されその実施が命ぜられたことが認められ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実にもとずいて担当裁判官が本件委任状の真偽を疑いこの点について調査すべき事情があるかを考える債権者被控訴人はすべてに前記第一二一号配当事件について高橋弁護士に対する代理委任状を提出し、債務者両会社は本件各配当事件について高野弁護士に対する代理委任状を提出している。従つて、右両委任状は記録に編綴され、担当裁判官は何人が代理人であるかを知り、少なくとも記録を見ればたやすくこれを知ることができることは明らかである。このような場合に被控訴人から前記高橋弁護士の外更に追加的に債務者の代理人と同一人の高野弁護士を代理人と定める委任状が提出され、しかも、被控訴人を含む全債権者と全債務者との間に被控訴人は一銭の配当も受けることなく供託金全額を債権者の一人訴外宇田川安三郎に配当するも異議がないという協定書が提出され、前記甲第七号証によるとこの協定書には前記高橋弁護士でなく右高野弁護士が被控訴人の代理人としてその氏名が記載され同人の印影が押捺されている。このような事情の下では担当裁判官が本件委任状について被控訴人主張のような疑問を懐くべきであるようにも考えられるかも知れない。しかし前記協定書である甲第七号証を検するとその体裁において何ら不審を懐かせるものはなく、その内容において供託金は右宇田川が配当を受けるが弁護士唐沢高美と右高野弁護士の両名が同人から委任状を受けて配当金を受領しこれを預金し、右両弁護士外三名の者がこの預金をもつて信義良識に従つて各債権者に配当する金額を決定し配当することを約し、この協定は円満に配当手続を完了することを目的とする旨記載されていることが認められる。本件のような債権に対する強制執行における配当手続では債権者と債務者が同一人を代理人としても直ちに双方代理禁止の民法第一〇八条の規定と同様の法理により無効とされないことまた弁護士法第二五条第一、二号に違反するとしてその効力を否定することもできないことは、本件を破棄差戻した上告判決(昭和四〇年(オ)第六九一号、昭和四一年四月二二日云渡)の説示するところである。さらに本件委任状(甲第六号証)を検するにその体裁内容に何ら不審を懐せるものはない。してみれば本件委任状は受任者である高野弁護士によつて提出されたものであるから被控訴代理人主張のように本件委任状についてその真偽を疑いまた双方代理禁止を疑うような事情は認められない。蓋し双方代理について以上述べたところの外、既に代理人を選任している当事者がその後追加的に他の代理人を選任することは時としてありうることであり、弁護士が自己の代理権を主張しこれにそう委任状を提出している場合には裁判所としては原則として真正の代理権があるものとして取り扱えば足り、依頼者に確認する必要のないことは前記上告判決の説示するところであつて、叙上認定によれば右上告判決のいう代理権の真偽を疑わせるような特段の事情は認められないからである。

以上判示したところによれば担当裁判官は本件委任状について被控訴人について調査する要なく真正なものとして取扱つたことについて何ら過失がないといわなければならない。

(西川 上野 外山)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!