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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)124号 判決 1967年2月23日

控訴人(被告) 安田武男

右訴訟代理人弁護士 坂田豊喜

<外二名>

被控訴人(原告) 朝倉宇市郎

右訴訟代理人弁護士 安藤章

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

<省略>当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は左記(一)ないし(三)のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

(一)  控訴代理人は、原審における主張に付加して、次のように述べた。

(1)  本件借入金は訴外株式会社安田工務店がその事業資金に充てるため借り入れたものであるところ、その弁済期である昭和三三年一月二〇日から本訴提起まで約六年一〇か月経過しており、また、右訴外会社の訴外遠藤花子に対する請負代金の譲渡の時(同年六月四日頃)からでも約六年五か月、更にその最終支払日であった昭和三四年六月三〇日からでもすでに約五年五か月を経過しているので、本件借入金債務は時効により消滅している。

<以下省略>

理由

一、成立に争いのない甲第一ないし第八号証、乙第一、第二号証、原審証人遠藤宇吉、原審及び当審証人安田フミの証言、原審及び当審における控訴人及び被控訴人各本人の供述によると、

(一)  控訴人は昭和二九年四月二四日、建築請負、建築設計出願代理、土地測量の請負等を目的とする株式会社安田工務店(以下「訴外会社」という)を設立し、その代表取締役となったが、訴外会社はその実体において控訴人の個人営業であるのとほとんど変りがなかったこと、

(二)  被控訴人は知人の訴外遠藤宇吉の紹介により家屋の建築工事を訴外会社に請け負わせたことがあり、そのような関係で控訴人から事業資金の融通を懇請され、昭和三二年一二月一〇日金四六〇、三五〇円を、次いで同月一八日金二〇四、六〇〇円を、いずれも返済期日昭和三三年一月二〇日、利息日歩四銭の約で貸し渡し(ただし、この貸借が訴外会社又は控訴人個人のいずれを借主とするものであるか、その点を明示して右貸借がなされたことを認めるに足りる証拠はない)、その際控訴人から右各貸金の担保として、各貸金額を額面金額とし、右返済期日を振出日として記載した右会社振出の小切手二通の交付を受けたこと、

(三)  その後昭和三三年六月頃控訴人は被控訴人に対し、重ねて資金の融通又はその斡旋を依頼し、結局この融資は実現しなかったが、右の依頼をするに当って控訴人は、融資実現の折には控訴人の個人保証のある訴外会社振出名義の手形を差し入れる旨を被控訴人に申し出たこと、

(四)  前記(二)の貸金(以下「本件貸金」という)は前記期日を過ぎても返済されなかったため、遠藤宇吉は紹介者としての立場上責任を感じ昭和三三年六月四日同人の(名義上は同人の妻である遠藤花子の)訴外会社に対する建築工事残代金(月賦払い)を被控訴人に支払って本件貸金の返済に充てることを控訴人に申し出たところ、その承諾を得たので、同月以降右支払いをした結果、合計金一六九、〇〇〇円が本件貸金の返済に充当されたこと、

以上の事実が認められ、<省略>。

右認定事実に徴すると、本件貸金は控訴人を代表取締役とする訴外会社がこれを借り受けたものであるが、その貸借の際に控訴人が個人としてその債務の連帯保証をしたものと認めるのが相当である

二、そこで、控訴人の時効の抗弁について判断する。

訴外会社の本件貸金の借り受けが商行為であることはすでに認定したところにより明らかであるから、これによる同会社の債務の時効期間は五年である。そして、右債務の履行期は前示のように昭和三三年一月二〇日であるから、その翌日から起算すると右五年の時効期間は昭和三八年一月二〇日の終了をもって満了する。

被控訴人は、昭和三七年一二月末被控訴人が控訴人を訪れ右債務の履行を催促した際、訴外会社は被控訴人に対し支払猶予を乞うて債務の承認をしたから、これにより時効は中断した旨主張する。そして当審における被控訴人本人の供述によると、その頃控訴人が被控訴人に対し右債務の履行の猶予を乞うた事実が窺われないでもない。しかしながら、成立に争いのない甲第八号証、乙第二号証によると、訴外会社は昭和三三年九月三〇日株主総会の決議により解散し、清算人として訴外江藤文市が選任されたことが認められるから、控訴人が被控訴人に対し右債務の履行の猶予を乞うた昭和三七年一二月末頃においては控訴人はすでに右会社の代表権を失っていたものである。また、連帯保証人のなした債務承認の効果は主たる債務者には及ばない。従って、前示のように控訴人が被控訴人に対し右債務の履行の猶予を乞うた事実により、訴外会社の右債務につき時効中断の効果を生じたものということはできない。

してみると、右債務は前示昭和三八年一月二〇日の終了時に時効により消滅したものであり、これに伴い控訴人の連帯保証債務も消滅したものといわなければならない。

三、以上に説示したとおりであるから、控訴人に対し右保証債務の履行を求める被控訴人の請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきである。

よって、被控訴人の右請求を認容した原判決は失当たるに帰し、本件控訴は理由があるから、民訴法三八六条により原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却する<以下省略>。

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