東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1432号 判決 1967年12月18日
控訴人 渋谷兼吉
右訴訟代理人弁護士 小原栄
被控訴人 江藤仁之
右訴訟代理人弁護士 大島英一
同 竹原茂雄
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一、〇八五、〇〇〇円およびこれに対する昭和三九年一〇月四日以降完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の関係は<省略>。
理由
一、被控訴人が控訴人に対して、先に控訴人から提供された本件不動産の担保(抵当権)を消滅せしめその登記を抹消すべき債務について遅滞の責を負うべきことに関する当裁判所の判断は、原判決理由記載<丁数省略>と同一であるから、これを引用する。
二、そこで右遅滞によって控訴人が受けた損害について判断する。
<証拠省略>をあわせ考えると、昭和三五年一〇月頃控訴人の長男茂が当時勤務していた昭和発色写真株式会社が株式会社大和銀行から融資を受けるについて、控訴人所有の土地に根抵当権を設定し、その保証料として一ケ月金一万五千円を受けていたが、翌昭和三六年一月頃控訴人は右昭和発色写真株式会社の社長河本某から茂を通じ追加担保として更に控訴人所有の本件土地二筆に根抵当権を設定するため提供せられたく、その保証料としては前同様一筆について一ケ月金一万五千円宛を諸種の事情から給料名義で支払うべき旨の申入を受けた。ところが当時本件土地については前認定のとおり被控訴人の債務のため抵当権が設定されていたので、同年二月二二日付(翌二三日到達)の内容証明郵便で被控訴人に対して本件土地に対する担保を解除されたい旨の催告をした上、茂を通じて昭和発色写真株式会社に対しその申込を承諾する旨回答した事実を認めることができる。控訴人は、昭和発色写真株式会社の債務のための担保は根抵当で、普通根抵当の担保する期間は特別の事情のない限り四年ないし五年、長いものは七年から一〇年位であるが、本件における右根抵当は控訴人所有の他の物件を提供して設定された根抵当との比較からいっても昭和三六年二月二三日以降昭和三九年二月一三日まで継続すると認められるから、その間被控訴人の担保解除債務の不履行により一日金一〇〇〇円の割合で合計金一〇八万五〇〇〇円の得べかりし利益の喪失による損害を受けたと主張するが、<証拠省略>によっても、一般に根抵当についてはその担保する期間は定めないのが通例で、各具体的取引によって異なり最近は長くなる傾向にあるが短期のものもあって一概にいうことはできない事実を認められ、本件昭和発色写真株式会社の債務のための根抵当については、控訴人の全立証によっても未だ控訴人主張の右期間継続するという事実を確認することはできない。しかしながら、根抵当は継続的契約関係において生ずる増減変動する多くの債権を一定の限度額まで担保するもので、通常相当期間継続するものであるから、本件においても反証のない限り少くとも控訴人主張の期間継続するものと認定することもあながち無理な認定ということはできないかも知れないが、この点に関する判断はしばらくおき仮に控訴人主張のような損害が発生するとしても、物上保証人が担保として提供した不動産について、その担保を解除された場合、別の他人の債務のためこれを担保に提供して保証料を得るということは、いわゆる特別の事情であり、このような特別の事情は債務者がこれを予見しまたは予見することを得べかりし場合に限ってよって生じた損害の賠償を請求し得るのであるが、<証拠省略>によれば控訴人は被控訴人に対して昭和三六年二月二二日付(翌二三日到達)の内容証明郵便で「万一履行催告期日迄に履行なき時は前記条件の満期日たる昭和三六年二月二三日より履行日までその不履行に対する損害賠償金として日額一〇〇〇円の支払を請求する。担保物件は他にも利用価値があり、これを利用することにより利益を得ることができるので右要求する」旨通知した事実を認めることができるが、このように本件担保不動産を他に利用することにより利益を得ることができるから、その損害金として一日金一〇〇〇円の支払を請求するという通知をしただけでは、<証拠省略>によって認め得る。被控訴人が控訴人から本件不動産を担保として提供して貰うについては、その間前認定のような特殊な関係にはあったが、保証料を支払っていない事実と併せ考えると、未だ被控訴人が前記特別事情を予見しまたは予見することを得べかりしものであるということはできず、その他控訴人の全立証によってもこれを認めることができない。
三、以上のように、控訴人がその主張のように本件不動産を他に担保として提供して保証料を得るというような事情を被控訴人において予見しまたは予見することを得べかりしであったということについて、控訴人において他に何等かの主張および立証をしない以上、その他の点についての判断をするまでもなく控訴人の本訴請求を認めることができないのであり、これと同趣旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、<以下省略>。
(裁判長裁判官 鈴木信次郎 裁判官 岡田辰雄 舘忠彦)