東京高等裁判所 昭和41年(ネ)1450号 判決
一、国税徴収法(昭和三四年四月二〇日法律第一四五号昭和三五年一月一日施行、以下新法という。)第一二七条第一項によれば、土地およびその地上の建物がともに滞納者の所有に属する場合においてその土地または建物につき差押、公売が実施された結果これらの所有者が異なるに至つたときは建物について地上権が設定されたものとみなされるから、右新法施行後は一律にこれによるべきこととなるところ、右新法が直ちに本件に適用されるかどうかは後に判断することとして、右にいわゆる法定地上権が発生するためには必ずしも土地およびその地上の建物が公売時まで同一所有者に属することを要せず、差押時においてこれらがともに滞納者の所有に属すれば足りるものと解すべきである。けだし、右条項は法定地上権の発生する場合につき公売時まで土地および地上の建物が同一所有者に帰属することを要するものとは定めていないのみならず、土地建物が同一所有者に帰属する場合に建物につき当然に随伴する敷地利用の権能が公売による所有権の移転に伴い顕現するものとみて、公売による所有権の移転があつたときに右公売時における建物所有者につき地上権を取得せしめこれにより建物の存続をはかろうとするのが土地または建物の右制度の趣旨であり、この点で民法第三八八条の場合と軌を一にするものであるから、差押後公売時までの間にたまたま土地および建物の所有者が異なるにいたつた場合においても同様に解すべきこともまた右民法の場合と同一というべきであるからである(民法第三八八条の場合につき大審院大正一二年一二月一四日民事連合部判決民集二巻六七六頁参照)
二、本件の国税滞納処分による差押は新法施行前になされ、その公売は新法施行後になされたものであることは前記事実関係から明らかであるところ、新法附則第二条によれば新法施行前に右改正前の国税徴収法(旧法)の規定によつてした処分又は手続は新法附則に別段の定めがあるものを除き新法の相当規定によつてした相当の処分又は手続とみなされるけれども、同附則第一二条第三項によれば、前示同法第一二七条の規定については別段の定をおき、右第一二七条は新法施行後に換価に付する建物または立木について適用があるものと定めているからその反面新法第一二七条の適用の有無についてはもつぱら右条項によるべきものとしていることはおのずから明らかである。これによれば新法第一二七条の要件を具備する場合、すなわち土地及びその地上の建物または立木が同一の滞納者の所有に属する場合において建物または立木につき新法施行前に滞納処分による差押があり、新法施行後にこれが換価されるときには建物または立木につき法定地上権が発生することが明らかであり、その結果右建物等の換価代金はしからざる場合に比し相当高額たるべきことが期待せられ、ひいて国の租税債権確保に利することとなるが、建物の敷地たる土地につき新法施行前に差押があり、新法施行後に換価されるべきときについては、附則の右条項はなんら触れるところがない。ところで、新法施行前においては抵当権の設定されていない、同一所有者に属する土地および建物につき滞納処分の結果所有者を異にするに至つたときでも民法第三八八条の類推適用がなく、従つて地上権の設定があつたものとはみなすべきでないと解するのが相当であるところ(最高裁判所昭和三八年一〇月一日第三小法廷判決民集第一七巻第九号一〇八五頁)、右掲記の場合新法施行後土地につき換価がなされるとき新法第一二七条の適用を肯定するものとすれば公売による土地取得者は法定地上権の制約の附著した土地を取得すべきこととなり、地上の建物または立木の公売の場合とは逆に、その公売の評価額ひいて換価代金がかかる負担のない場合に比し低廉とならざるを得ないことは見易い道理である。されば、国は租税債権確保の見地から建物または立木については新法第一二七条を遡及的に適用して公売価格の増加を期待し、土地についてはその遡及的適用を否定して公売価格の低下の招来を防ごうとしたものと解するのが右附則第一二条三項の解釈として最も合理的であり、従つて新法施行前に差押があり、新法施行後に換価されるべき土地については新法第一二七条の適用を除外したものと解すべきである。
(浅沼 間中 柏原)