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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)248号 判決 1968年4月17日

控訴人 株式会社入中本社

右訴訟代理人弁護士 斉藤治

被控訴人 安藤勇

右訴訟代理人弁護士 中野寛一郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決中控訴人敗訴の部分を取消す、被控訴人の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする、との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠の関係は左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

被控訴代理人の陳述

一、被控訴人と控訴人との間の本件消費貸借については、弁済期は昭和三九年一〇月一七日とするがそれ以前の支払いにも応じ、その場合の利息は弁済の日までとして精算するむねの約束があり、被控訴人は控訴人に対し、担保として別紙目録記載の不動産の所有権を移転し、その所有名義の移転により控訴人に課せられる税金は被控訴人の負担とすることを約し、これに基づき昭和三九年七月二一日右不動産の所有権移転登記手続を了しなお右税金負担分として金五〇万円を控訴人に支払った。

二、被控訴人が現実に受領した金二一二五万円に対する利息制限法第一条の制限利率年一割五分の割合による三ケ月分の利息は七九万六八七五円となるので、天引された三七五万円から右七九万六八七五円を差引いた金二九五万三一二五円は、利息制限法第二条により元本の支払に充てたものとみなされるので、それだけ控訴人は不当に利得したことになる。

三、控訴人の主張は争う。

控訴代理人の陳述

一、控訴人が昭和三九年七月二一日被控訴人に金二一二五万円を交付したこと同年八月二二日被控訴人から金二五〇〇万円を受領したことは認めるが、被控訴人のその余の主張事実は否認する。

被控訴人が受領した右金員は、控訴人が同年七月二一日被控訴人から別紙目録記載の不動産を代金二一二五万円で買受け、再売買代金二五〇〇万円、期限昭和三九年一〇月一七日、期限後は予約完結権を失うと定めて再売買の予約をし、これに基づき、右不動産の再売買代金として受領したものであり、消費貸借による貸金の弁済として受領したものではない。

二、仮に右二五〇〇万円が消費貸借による貸金の弁済であるとすれば、控訴人が被控訴人に交付した金二一二五万円との差額三七五万円は約定の弁済期である昭和三九年一〇月一七日までの利息となるところ、被控訴人は同年八月二二日にこれを任意に支払っており、かつ利息付金銭消費貸借の場合においては期限の利益は当事者双方にあって、一方の都合による放棄は認められないから、右利息の返還請求は許されない。<証拠省略>

理由

被控訴人が控訴人から昭和三九年七月二一日金二一二五万円を受取ったことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>を総合すると、被控訴人は昭和三九年七月頃訴外鈴木仁三から別紙目録記載の土地、建物を代金約二三〇〇万円で買受ける契約をしたが、その所有権移転登記末了の間に鈴木から、同人が右建物の建築中に他から借入れた借金を早急に返済しなければならないから被控訴人が鈴木に支払うべき右不動産の売買代金を支払期日前に支払って貰いたいむねの申入があったので、被控訴人は右代金支払のため昭和三九年七月二一日右土地、建物を担保として控訴人から金二五〇〇万円を期間三ケ月、利息月五分三ケ月分前払の約定で借受け、三ケ月分の利息金三七五万円を天引されて残金二一二五万円を受取り鈴木に対し売買代金を支払ったが、右借受の際控訴人の要求により買戻約款付売買の形式を取り、被控訴人が昭和三九年一〇月一七日までに金二五〇〇万円および控訴人が右不動産に関して支払い又は将来支払うべき一切の公粗公課その他の費用を支払うことにより右不動産を買戻し得る特約の下に担保不動産の所有権を売買名義により控訴人に移転したうえ鈴木より控訴人に所有権移転の登記を了し、なお被控訴人は控訴人に対し登記費用、不動産取得税、仲介手数料、司法書士の手数料を含め合計約一〇〇万円を支払ったことが認められ、被控訴人が控訴人に対し昭和三九年八月二二日金二五〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。

控訴人は被控訴人から代金二一二五万円で買受けた別紙目録記載の不動産につき、期限昭和三九年一〇月一七日、再売買代金二五〇〇万円と定めて再売買の予約をし、これに基づく再売買代金として金二五〇〇万円を受取ったもので、消費貸借による貸金の弁済として受領したものではないと主張するけれども、甲第一号証中に「売渡し」「買受け」もしくは「買戻し」等の文言があってもそれは前記認定の経緯により取られた形式に過ぎないから前記認定の妨げとなるものではなく、<証拠省略>その他には前記認定を覆えし控訴人主張事実を認めるに足る証拠はない。

したがって右金二五〇〇万円は前記借受金の元金の弁済としてなされたものというべきである。そして被控訴人が現実に受領した金二一二五万円に対する利息制限法第一条所定年一割五分の割合による三ケ月分の利息は七九万六八七五円となること算数上明らかであるから、天引された三七五万円からこれを差引いた金二九五万三一二五円は同法第二条により元本の支払に充てられたものとみなされるので、被控訴人の弁済金中右金額に相当する部分は債務なくしてなされた弁済というべきであり、控訴人は不当利得としてこれを被控訴人に返還すべき義務がある。

そうすると、その余の争点につき判断するまでもなく、控訴人が被控訴人に対し右金二九五万三一二五円の範囲内である金二六一万九九五二円およびこれに対する訴状送達の翌日であること記録上明らかな昭和三九年一二月一日から完済まで民法所定年五分(本件返還債務を商行為に基づいて生じたものと認められないこと原判決理由説示のとおりである)の割合による遅延損害金を支払う義務あるものとして被控訴人の請求を右の限度で認容し、その余の請求を失当として棄却した原判決は相当で本件控訴は理由がない。<以下省略>。

(裁判長裁判官 福島逸雄 裁判官 武藤英一 岡田潤)

<以下省略>

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