大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(ネ)2780号 判決

次に、被控訴人らは、控訴人の解除権の行使は権利の乱用として許されない旨主張するので、この点につき判断する。

〔証拠〕によれば、被控訴人植木は訴外芳賀鋼次郎から昭和八年一〇月本件土地上の建物を賃借し、三界堂なる商号で楽器店を経営していたところ、昭和二〇年八月五日空襲に会い、右建物が焼失したため、当時の土地所有者であつた前記芳賀鋼次郎の長男から普通建物所有の目的で本件土地を賃借し、同地上に本件建物を建築し、昭和二二年からは店の組織を株式会社とし、株式会社三界堂楽器店なる商号で、被控訴人植木が同社の代表者となつてこれを経営していること、昭和三五年六月ごろ本件土地は訴外芳賀静枝他一二名の共有であつたが、控訴人はそのころ右芳賀静枝らからこれを買いうけ、被控訴人植木との本件借地契約を引き継いだこと、そのころ、被控訴人植木が本件土地の地代を右旧地主に届けたところ、その地代が手紙と一緒に戻り、本件土地の権利一切を玉木という者に譲つたから、同人が地代を取りに行くまで地代の支払を差し止めておくようにとの連絡があつたこと、ところが、昭和三八年一月二一日になつて、控訴人から被控訴人植木に対し、昭和三五年八月分から同三七年一二月分までの月額金二、一〇〇円宛の未払賃料を三日以内に払われたい旨の条件付解除の意思表示を含む催告書がきたこと、そこで、被控訴人植木は同年一月二四日控訴人に対し右合計金六三、〇〇〇円を支払つたこと、その際、控訴人から地代増額の話が出て、控訴人と被控訴人植木との間で地代増額の交渉が進み、昭和三八年八月になつて、同年一月分に遡り月額を金一五、〇〇〇円とすることに双方合意が成立したこと、しかし、被控訴人植木は同年八月から被控訴会社の店舗の改装にかかつていて営業は半休状態のため殆んど収入がなかつたので、右増額賃料分は「ぼつぼつ支払わせて貰いたい」旨申出をし、控訴人もこれを了承していたこと、その後同年九月一杯で改装は終つたが、改装後は地代を一考する旨の話が前記値上げの時に出ていたところから、控訴人は同年一〇月になると再度地代値上げの話を持ち出し、被控訴人植木は、前記改装のため収入は殆んどなく、昭和三八年一月分から同年九月分までの賃料も未払であつたため、今値上げされても一度に支払うことはできない旨主張したが、結局同年一〇月分から月額二〇、〇〇〇円とする値上げを応諾したうえ、昭和三八年一月分から同年九月分までの合計金一三五、〇〇〇円も極力早く払うようにするから、ぼつぼつ支払わせて貰いたい旨申し出で、控訴人もこれを了承し、同年一〇月三日に右遅滞分ならびに同年一〇月分の増額賃料金二〇、〇〇〇円を同月末日までに支払うことに双方合意したこと、したがつて、右交渉に際し、控訴人が「ぼつぼつ支払えばよい」旨発言したのは、被控訴人植木が右賃料合計金一五五、〇〇〇円の支払いに困つた場合には支払方法を再考してもよいという趣旨であつたが、右金員の支払時期としては同年一〇月末日と約定されたものであること、控訴人と被控訴人植木との家は歩いて十数分の距離にあること、控訴人には本件土地の明渡しを求めねばならないような特段の事情はなく、また同人は本件以外にも本件土地の近所に所有する土地につき二件の土地明渡訴訟を提起していること、被控訴人植木が同年一〇月末日までに前記金一五五、〇〇〇円の支払をしなかつたところ、控訴人は、すかさず、右支払時期の翌日である同年一一月一日に前段説示のとおり書面到達後五日以内に右金員を支払われたい旨の催告および条件付賃貸借契約解除の意思表示をなし、右書面は同月二日被控訴人植木に到達したこと(以上の催告ならびに条件付契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争いがない)、そして、被控訴人植木は同年一一月五日には右金一五五、〇〇〇円全額を控訴人に対し支払うため準備をととのえ、その旨を控訴人宅に電話したが、控訴人が不在であつたため支払の連絡がとれなかつたこと、同月六日、七日は、被控訴人植木が会長をしている群馬コロンビヤ会で約三〇〇名の客を信州に招待していたので同人は責任上やむなくこれに同行し、右催告期間の最終日である同月七日には早く帰宅して支払に行く予定であつたところ、事故のため同夜おそく帰宅したので深夜の訪問を遠慮し、翌八日午前一一時ごろ電話で、控訴人に対し、右金員全額を前夜届けるつもりだつたが遅かつたので、これから早速持参支払いたい旨申し出たが、控訴人は、「すでに弁護士に依頼したから、右金員は受け取れない」旨答えたこと、一方控訴人は同月七日の催告期間がすぎるや、さつそく翌八日には早朝家を出て午前中郵便局より速達便をもつて被控訴人植木に対し本件土地賃貸借契約が解除されたから建物収去土地明渡を求める旨の前日付の通知書を発送していること、被控訴人植木においては同日前記のとおり控訴人より賃料の受領を拒絶されたので直ちに訴外荻原源弥にとりなしを依頼したが結局不調に終り、被控訴人植木は同月一一日右金員を供託し、その後の賃料も引き続き毎月確実にこれを供託してきていること(供託の点については当事者間に争いがない。)が認められ、原審ならびに当審における控訴本人尋問の結果中右認定に反する部分は前顕証拠と比照しにわかに信用できないし、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上の認定事実によると、被控訴人植木は控訴人の催告にかかる賃料を催告期間内に支払わないまま、一日後れて控訴人にその提供の申出をしたものであるが、前記認定の諸事情を勘案すると、被控訴人植木には賃貸借の基調たる相互の信頼関係を破壊するほどの不誠意があつたものというべきではなく、催告期間を一日後れたことの故をもつて本件賃貸借契約解除の効果を肯定することはかえつてかかる契約関係における当事者間の信義公平の原則にもとるといわなければならない。他方、控訴人の前認定のような余りにも速急な催告および解除効果の主張の態度は当初より本件土地の明渡を企図したことによるものではないかと疑われても致し方ないことと思われるが、それはともかくとして、被控訴人植木において右説示のように催告期間内に賃料を提供しなかつたことも別段誠実を欠くものといいえない以上、控訴人がこれをとらえて解除の効果を主張することは信義に反し許されないものというべきである。してみれば本件賃貸借契約が有効に解除されたことを前提とする控訴人の本訴請求の部分は失当として棄却を免れない。

(青木 高津 弓削)

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