大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(ラ)177号 決定

原審が、民事訴訟法第五一八条第二項にいう条件をもつて積極的事項に限るべきものとするのは、成法の解釈上狭きに失し、右は債務不履行のごとき消極的事実をも含むものと解するのを相当とし、この解釈は執行文付与に慎重な手続を定めた法の配慮にも合するとして、再抗告人の主張を採ることができないとしていることは、再抗告人の主張するとおりである。民事訴訟法第五一八条第二項の「他の条件」が、賃料の支払を怠つたというような、本来債務者がこれを支払つたことの立証責任を負う事項までをも含むかどうかは、説の分れるところであるが、同条の場合に限つて、これを別異に解しなければならないとすることは、条文の字句以外には合理的な理由が認められないところであるし、右のように解することは、立証責任の分担を定める衡平の精神に照しても相当でなく、また、消極的事実について立証責任を負担させることは難きを強いることにもなるから、このような事項については、同条の場合にあつても、支払義務を負う債務者が、これを弁済したとの積極事実について立証責任を負担するものと解するのが相当である。債務者は執行文付与に対する異議の訴によつて支払の事実を証明することは容易であるから、このように解しても債務者に苛酷な負担を課するものということはできない。したがつて、第五一八条第二項の「他の条件」とは、債権者が一般的に立証責任を負つている条件をいい、立証責任を負つていない条件までをも含む趣旨ではないものと解するのを相当とする。民事調停法第一六条、民事訴訟法第五六〇条によつて同法第五一八条第二項の規定が準用せられる調停調書の場合にも、この理に変りはないものといわなければならない。

実務の取扱においても、原審の判断のように、消極的事実をも同条にいう条件に当るものと解し債権者にその事実の証明をさせている例がないではないが、このような場合にも、形式的な極めて簡易な方法で証明があつたものとして処理しているのが実情であるし、本件記録によれば、再抗告人は、内容証明郵便による通告書及び配達証明書を提出し賃貸借契約解除の事実を証明していることが窺われるが、右通告書には賃料不払の事実も記載されているから、一応相手方が五ケ月分の賃料を延滞していることを推認できないではない。

上記の次第で、賃料の懈怠五ケ月分に達したときは、申立人は、催告を要せず土地の賃貸借契約を解除することができ、この場合相手方は地上の家屋を収去して係争土地を申立人に明渡す旨の本件調停条項に関する限り、右賃貸借契約解除の意思表示がなされた事実が証明せられる以上、執行文付与を拒む理由はないものといわなければならない。もつとも、本件第一審の記録に添付されている供託書によれば、相手方が再抗告人の解除の通知をなす前日である昭和四〇年一一月一日に同年六月からの五ケ月分の延滞賃料を供託していることを認めることができ、また、第一審での相手方本人の審尋調書によれば、相手方本人が右供託前に延滞賃料を提供したが再抗告が人これを拒んだとの記載を認めることができるし、現に第一審裁判所はこの点について審理をしたうえ、延滞の事実について消極に事実を確定している。したがつて、事実審である原裁判所は五ケ月分の賃料を延滞したかどうかの点にまで判断を進めなければ、執行文付与の条件が成就したかどうかを判断できないものといわざるを得ない。それなのに原審はこの点について、なんら事実の確定をしていないのは、審理不尽といわざるを得ない。

(村松 江尻 兼築)

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