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東京高等裁判所 昭和41年(ラ)357号 決定 1967年6月26日

理由

抗告人の抗告の趣旨ならびに理由は別紙抗告状記載のとおりである。

一、抗告人は、当初本件競売は、(イ)競落許可となつた本件建物、(ロ)本件建物の敷地である宅地九八坪五合四勺、(ハ)別地に所在する建物の三筆の不動産について申立があり、原裁判所は前記(ハ)の建物を競売に付したところ、途中で変更し(イ)の本件建物のみについて競売手続を進行させ競落許可決定をしたが、(イ)の本件建物は(ロ)の宅地上に所在し、且つその所有者は同一人であるため、本件建物の競落によりこれに法定地上権が発生することになりその敷地である(ロ)の宅地は無価値同然となり債務者の多大の損害を与える結果を招来するので売却条件を変更する場合に該当し、利害関係人の合意を要するのに拘わらずその合意を得ておらず、従つて本件競売は売却条件に抵触して競売をしたる違法、および利害関係人の合意を得ずして売却条件を変更した違法があると主張する。よつて検討するに本件記録によれば債権者から前記(イ)(ロ)(ハ)三筆の不動産について競売の申立があり、原裁判所は右三筆全部について競売開始決定をし、所定手続を経た上昭和三九年一二月七日の第一回競売期日に三筆の内(ハ)の建物のみを競売に付し以後第五回目の競売期日迄右物件について手続を進行したがいずれも中止となつたこと、その後昭和四〇年七月二六日の第六回競売期日に競売物件を変更し、(イ)の本件建物のみを競売に付し、爾後昭和四一年五月九日の競売期日迄本件建物の競売を続行し、同日競売申出があり同月一〇日原裁判所はこの競落を許可したこと、および抵当権設定当時(イ)の本件建物は(ロ)の宅地上に所在し、且つ同一所有者に属しており抵当権も右土地および建物を一括して設定されたものであること、従つて建物と土地とが各別に競売目的物件とされ競落された場合には法定地上権が発生することが認められる。ところで不動産の任意競売事件において、数個の不動産に対し競売の申立があり執行裁判所が右申立不動産全部について競売開始決定をし、所定の鑑定を経た上で各個別の不動産の価額と請求債権額とを比較勘案して、一個の不動産の競売のみで請求債権と執行費用を償うに足りると認められる場合、当初いずれの不動産を競売物件となすかの不動産の選択は執行裁判所の自由裁量に属し、この理は競売手続の続行中従来の不動産に代えて他の不動産を競売物件として選択するときも同様である。そしてこのことは更らに新らしい不動産を個別に競売することにより法定地上権が発生する場合にも別異に解すべき理由はない。個別競売にすると法定地上権が生ずるようなときには一括競売にするのを相当とする場合もあり得るが、法定地上権が生ずるからとの一事で必らず一括競売をしなければならないものでもない。即ち競売物件の選択・変更或いは個別競売か一括競売かはいずれも執行裁判所の自由裁量に属し法律上の売却条件をなすものではない。従つて執行裁判所が適当と認めるときは利害関係人の合意を要することなく競売物件を変更できるものと解せられる。殊にこれを本件についてみると本件請求債権は二、六五七、〇〇四円のところ、(ハ)の建物の第五回目の最低競売価額は三、二七六、〇〇〇円であつたが競買の申出がなく、これを従来と同一割合で逓減し最低競売価を定めると請求債権額より下回る虞れがあつたため、第六回の競売期日で競売物件を変更して(イ)の建物の最低競売価額を一四、五九五、〇〇〇円と定めて競売を続行し、その後、昭和四一年五月九日の競売期日に五、五五〇、〇〇〇円で競買の申出があつたことが認められるのでたとえ(ハ)の建物を個別競売したことによりその敷地である(ロ)の土地に法定地上権が発生するとしても競買申出金額が請求債権と執行費用との合計額より多額であるから民事訴訟法第六七五条一項により(ロ)の土地との一括競売は許されず原裁判所が(イ)の本件建物のみの個別競売をなしこれの競落を許可したことは適法といわなければならない。従つて原裁判所の競売には民事訴訟法第六七二条第三号に該当する違法があると主張する抗告人の主張は理由がない。

二、次ぎに、抗告人は本件競売物件の前所有者兼債務者株式会社ニユープラスチツクスは破産宣告を受け、抗告人が破産管財人に選任せられたことは昭和三九年七月七日上申書を提出しているので原裁判所は了知しているに拘わらず同年八月二六日の競売手続続行決定において債務者兼所有者を「株式会社ニユープラスチツクス・代表取締役川村幸雄」と表示し爾後の競売手続を続行したことは正当な当事者適格を誤認し脱落した違法があると主張し、本件記録によれば抗告人の右主張事実を認めることができるが然し、右競売手続続行決定ならびに爾後の各競売期日の通知はすべて抗告人宛に送達されていることが認められるので原裁判所は抗告人に不利益を与えたものとはいえない。

よつて抗告人のこの点の主張も採用できない。

以上のとおり抗告人の本件抗告は理由がなくその他本件記録を精算しても原決定を取消すべき違法を見出すことができないので本件抗告を棄却する。

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