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東京高等裁判所 昭和41年(ラ)423号 決定 1966年10月13日

抗告人 株式会社東京相互銀行

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

本件抗告の趣旨および理由は別紙のとおりである。

そこで本件記録を調査すると、本件競売物件は別紙目録<省略>(一)(二)の土地建物で(二)の建物は(一)の土地上に存すること、右各物件はいずれも奥富好道の所有に属し、昭和三七年三月二九日共同担保として抗告人のため根抵当権が設定され、同年四月一一日その登記を経たこと、抗告人は右根抵当権(請求債権元金一〇〇万円)にもとづいて右両物件につき本件競売を申し立てたところ、昭和四一年六月二三日午前一〇時の競売期日において小宮産業株式会社は右物件のうち(二)の建物のみにつき競買申出をなし、他に競買申出人はなく、原決定は右競落を許可したことが認められる。

以上の経過で本件建物が抗告人の所有に帰する場合、民法第三八八条の類推適用により、その敷地である(一)の土地に法定地上権が発生すると解すべきである。個別競売である以上、建物のみにつき競買申出をすることは何ら非議される理由はないのであるから、かかる競落人に法定地上権による保護を及ぼすべきでないとはいえない。

ところで、法定地上権の問題を生ずべき土地、建物の競売においては、それらが一括競売に付されない以上(一括競売に付すると否とは競売裁判所の裁量による。)、建物は法定地上権を伴うものとして、土地はその地上権の負担を受けるものとして適正に評価し、これをもつて各最低競売価額とするのでなければ、はなはだ不合理な結果になるといわなければならない。すなわち、建物所有を目的とする地上権は借地法等で強く保護され(物権である点で土地賃借権より一そう強い。)それ自体財産的価値を有するに至つていることは公知の事実であるから、これを全く考慮に入れないでは適正な不動産の評価といえないのであり、かかる評価額によるときは、地上権を伴う建物が不当に低廉な価額で競落され得る一方、その敷地も、地上権の負担があるため当初の最低競売価額では容易に競買人がなく、新競売を重ねることによりついに廉価に競落されざるを得ない結果となり、かくてはできる限り高価に売却すべき競売の目的に副わないのである。

そこで本件記録を見るに、鑑定人河野昇太郎の評価書によれば、本件(一)の土地は一〇三万五、〇〇〇円(坪当り一五、〇〇〇円)、(二)の建物は三九九、〇〇〇円(坪当り三万円。三九三、〇〇〇円と記載されているが誤記と認める。)と評価されているが、その理由、根拠は何ら示されておらず、結論たる価額のみが記載されており、ほかに評価理由を推測するに足りる資料は存在しないのである。右金額自体からは直ちに法定地上権を考慮しないものと断定はできないけれども、さりとてこれを考慮した形跡も見られない。

従つて、この点に疑いが存する以上、右評価額をもつて最低競売価額となし得ないというべく、これをたやすく採用して最低競売価額とした本件競売は、実質上最低競売価額を定めなかつたと同一に帰し、従つてまた最低競売価額の公告がなされなかつたことにもなるといわねばならない。

しかして抗告人は本件抗告におけると同旨の理由で競落期日に異議を述べたことが記録上認められるので、本件競落は民事訴訟法第六七二条第三号、第四号、第六五八条第六号に反するものとして第六七四条第一項によりこれを許すべきではなかつたのに、原決定はこれを許可したものであり、抗告人は債権全額の満足を得られないおそれがあるから、本件抗告は同法第六八一条第二項により理由があるものと認めて、原決定を取り消し、本件競落を許さないものとして、主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤完爾 浅賀栄 小堀勇)

別紙

抗告の趣旨

浦和地方裁判所川越支部が同庁昭和三九年(ケ)第一二号不動産競売事件につき昭和四一年六月三〇日言渡した競落許可決定を取消し、更に相当の裁判を求める。

抗告の理由

一、本件競売は昭和四一年六月二三日同支部庁舎にて後記物件目録表示の各物件の鑑定価額を最低価格として競売が行はれ、小宮産業株式会社が前記物件のうち第二物件目録の建物をその最低価額三九九、〇〇〇円で競落した。

二、ところで本件競売に係る物件は土地建物が一体として結合され、その土地は所謂建物の敷地に当るため、前記第一物件目録及び第二物件目録の土地建物を併せて全体としてこそ真に価値があるものである。仮に何等かの理由により、本件の如く、分割して競売するならば、最低競売価額の決定については本件の場合土地建物とも当然に法定地上権の問題を予め考慮算入すべきであるのに、全然これを考慮せずになされた鑑定人の評価を無批判に採用したことは適法な最低競売価額がなかつたことに帰し、法定売却条件に牴触して競売を許したものと云はざるを得ないこと。

前記鑑定の趣意を些細にみれば明らかである。

三、また、本件競売期日において、一体として結合された土地建物が共に上場された競売手続に参加し、通常ならば、土地建物を共に競売するところその建物の部分のみについて競売を申し出た競落人小宮産業株式会社の代理人小宮正久は本件競売事件に限らず、他の競売手続に於ても、屡々この競売場裡に顔を見せるところから同人が少くとも建物のほかにその敷地が上場されることを識らず、又は失念することは一般通念上到底考えられないところである。にもかかわらず同人が敢えて建物のみを競買した所為は、結果的に前記第一物件目録の土地に法定地上権を負担せしめ、その競落価額を激減することになるから物件全体をなるべく高価に売却しようとする競売制度と相容れないものである。従つて、債権者等の失うべき利益を無視してまでも競買人の保護を計るべきではない。

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