東京高等裁判所 昭和41年(ラ)595号 決定 1967年5月04日
抗告人(原告) 島尻豊 外一名
被抗告人(被告) 信州名鉄運輸株式会社
被抗告人(補助参加申出人) 信州名鉄運輸労働組合
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人らの負担とする。
理由
本件抗告理由の要旨は「被抗告人信州名鉄運輸労働組合は、本件参加申出の理由として抗告人ら両名は被抗告組合の執行委員にありながら、組合の分裂を企図、策動したので、組合から除名され、従つて被抗告人信州名鉄運輸株式会社においてユニオンシヨツプ協定に基づき抗告人ら両名を解雇したものであるから、被抗告組合は、本件訴訟に重大な利害関係を有すると主張しているが、右主張は理由がない、すなわち、(一)抗告人ら両名の除名を提案した被抗告組合幹部武井貞雄、花岡正雄、佐藤文雄、城倉成美らは、当時全国自動車運輸労働組合(全自運)の信州名鉄運輸支部(名鉄支部)所属組合員でありながら、被抗告会社と通謀の上、右全自運からの脱退或いは分裂を企図、策動し、そのため全自運から当時権利停止の処分を受けていたものであるから、右の者らが分派活動として、全自運名鉄支部の名において組合大会を開催し、抗告人ら両名を除名したとしても、かかる除名は手続的にも、実体的にも無効であり、また被抗告会社と通謀してなされた点において不当労働行為である。(二)全自運名鉄支部は、その幹部たる前記武井らが右のように権利停止処分を受けたので、当時、再建大会を開き、適法に再組織されて現在に至つているものであるところ、武井らの分派活動派も亦全自運名鉄支部を名乗つていたが、その後被抗告組合名に改めたものである。しかして、前記のように再組織された現在の全自運名鉄支部と被抗告会社との間にはシヨツプ協定は存しない。従つて、抗告人ら両名に対する解雇の効力を争う本訴の勝敗が決しても、何ら被抗告組合の利害に消長はなく、本件参加の必要も、理由もない。(三)民訴法六四条により補助参加をなし得る者は、訴訟の結果について利害関係を有する第三者でなければならない。その訴訟の結果は、本案判決の主文で示される訴訟物たる権利または法律関係の存否であり、またその利害関係とは法律上のものでなくてはならない。ところで、本件訴訟は解雇無効確認及び賃金支払請求の訴であつて、抗告人ら両名と被抗告会社との間に限られた権利関係が訴訟物であるから、本件訴訟の結果について、被抗告組合の法律上の地位或いは権利は何ら左右されるところはない。被抗告組合が本件参加申出の理由として主張するところは、全くの感情的利害にすぎない。従つて、本件参加申出は民訴法六四条の要件を欠く、」というにある。
よつて考えるに、原審における被抗告組合代表者の審尋結果等一件記録によれば、被抗告組合は、被抗告会社の従業員約八〇〇名よりなるものであり、もと名称を全国自動車運輸労働組合信州名鉄運輸支部と称していたが、右旧名称当時の昭和四一年三月二〇日、臨時組合大会において、抗告人ら両名に重大な統制違反があるとして組合から除名する旨決議し、これが通告を受けた被抗告会社は、同月二八日、ユニオンシヨツプ協定に基づくものとして、抗告人ら両名を解雇したものであり、抗告人ら両名と被抗告会社間で右解雇の効力が争われている本件訴訟の結果如何によれば、抗告人ら両名は依然被抗告会社の従業員であることになり、従つて、被抗告組合としては、組合の組織の維持、強化に障碍を受けることがあるものとの疎明が得られ、右疎明を覆すに足るものはない。しかして右のような労働組合の組織の維持、強化に関係があるということは、団結権の保障の趣旨からして、被抗告組合が本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するとなすに足るものである。右除名及びこれに基づく解雇の有効無効は右本案訴訟で判断さるべきところであつて、本件参加申出の許否に当つて判断する限りのものではなく、また、抗告人ら主張のいわゆる再組織後の全自運名鉄支部と被抗告会社との間にシヨツプ協定の存しないことは上記判断に影響を来さない。よつて被抗告組合が被抗告会社を補助せんとする本件参加申出を許した原決定は相当であつて抗告人ら両名の本件抗告は理由がないから、訴訟費用につき民訴法九四条、八九条を適用の上、主文のとおり決定する。
(裁判官 岸上康夫 小野沢龍雄 田中永司)