大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(ラ)604号 決定 1967年2月22日

抗告人 山村祥

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、「原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める。」というのであり、その理由の要旨は、「本件競売の目的物は山源興業株式会社の所有ではなく、抗告人の所有である。しかるに建物登記簿上右会社の所有であるように載つているため、右会社を債務者とする本件強制競売手続において、本件競落許可決定が言い渡されたのである。このように債務者の所有に属さず、抗告人の所有に属する物件に対してされた本件競落許可決定は違法である。」というのである。

抗告人の抗告理由は、本件建物は登記簿上は債務者山源興業株式会社の所有名義になつているが、実際は抗告人の所有に属する、ということを前提とする。しかし、強制競売手続の目的物件になつている不動産の所有権の争いについては民事訴訟法が特に第三者異議の訴訟(同法第五四九条)を設けていることと、このような実体上の争いについては口頭弁論にもとづく判決手続で決着をつけるのが望ましいということとを合わせ考えると、強制競売手続の目的物件になつている不動産は登記簿上の記載にかかわらず実は自己の所有であるということをいつて競落許可決定に対して即時抗告をすることは許されない、と解するのが相当である。これは、実定法上は、(一)右のように強制競売の目的物件に対して所有権を主張する者は民事訴訟法第六四八条(したがつて同法第六八〇条第一項)の利害関係人にあたるか、(二)強制競売手続の目的物件は実は債務者の所有でないということは同法第六七二条の異議の理出のいずれかにあたるか、という問題である。(一)の点については、第六四八条第二号に「債務者」とあつて「所有者」となく、第四号に「不動産上権利者として其債権を証明し云々」とあつて「不動産上所有者として其所有権を証明し云々」とないことからみて消極に解すべきであり、(二)の点についても、第六七二条第一号が執行機関が調査できる執行法上の事項(強制執行の一般要件が欠けていることなど)を指しているものと解すべきであることからいつて、やはり消極に解すべきである、と考える。

以上の理由によつて本件抗告理由は排斥をまぬがれない。

その他記録を精査してみても、原決定を取り消さなければならないような違法は見あたらない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 新村義広 裁判官 中田秀慧 裁判官 高橋正憲)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例