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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)133号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実〕<前略> 一 特許庁における手続の経緯

原告は、実用新案登録第五六〇、八七五号「起毛糸」(昭和三十三年十一月六日実用新案登録出願、昭和三十七年一月八日実用新案登録)の実用新案権者であるところ、被告は、昭和三十七年七月三十一日、原告を被請求人として、登録無効の審判を請求し、昭和三七年審判第一、五六七号事件として審理されたが、昭和四十一年七月十五日、「本件実用新案の登録は、無効とする。」旨の審決があり、その謄本は、同年八月三日原告に送達された。

二 本件登録実用新案の要旨

ナイロンその他の合成繊維よりなる糸その他毛、綿等の適当の糸を芯糸1と止め糸2とを使用して数条ないし十数条を引き揃えた繊維束を連続して多数の輪奈状Aに形成せしめた飾糸Bを適宜の起毛機を使用して、各輪奈状部を切断して、全面に起毛部4を形成させた起毛糸の構造。(別紙図面参照)

三 本件審決理由の要点

本件登録実用新案の要旨は、前項掲記のとおり(ただし、「芯糸1」とあるのは「芯糸2「、「止め糸2」とあるのは「止め糸1」と訂正)と認められるところ、請求人の提示し、その成立に争いのない刊行物、「編物百科」(一九五八〜九年度版)第三四八〜九頁「第九四科変り毛糸について」(東京都文京区金富町十番地、株式会社日本ヴォーグ社、昭和三十三年十月十五日発行)(以下「引用例」という。)には、「ループヤーン」の項として、「アストラカン」の写真とともに、「アストラカン、パイヤーンなどともいいます。モヘヤ毛糸を使つたワナ糸で光沢があり腰がつよく、美しい巻毛になつています」の記載が、「タムタムヤーン」の項として、「タムタム糸」の写真とともに、「良質のモヘヤに、ナイロンやモヘヤ糸をからませたもので、このからみ糸がネップ(こぶ)ヤーン(タムタム・ネップ)のものもあり、又、ラメをからませたタムタムシルバーがあります。アストラカンのループが、毛糸に変つたものです。伸びはありません。ザックリと編んで装飾用に用いられます。手織にしてタテ、ヨコとも粗く織つてもよいでしよう。大きな木ワクに針を並列に打つた簡単な機具でショールを作りますと豪華なものが出来ます。」の記載がある。上記「ループヤーン」の項中「モヘヤ毛糸」とあるが、「モヘヤ毛糸」は、三〜四条の毛糸糸条を引き揃えたものが普通である。また、「タムタムヤーン」の項中「ナイロンやモヘヤ糸をからませたもの」とは、ループ糸構成の常識からみて、芯糸と止め糸とを使用して多数の輪奈状を形成していることを意味しているものと認められる。さらに、同項中「アストラカンのループが、毛足に変つたものです。」についてみるに、この「アストラカン」とは「ループヤーン」の項の説明からみて、「ループヤーン」を意味し、「毛足に変つたものです」とは、客観的には、(イ)各ループ(各輪奈状部)を鋏で切断するか、(ロ)各ループ(各輪奈状部)構成の各糸条を形成している各繊維を一本一本引き抜くか、あるいは、(ハ)適宜の起毛機を使用して各ループ(各輪奈状部)を切断するか等が一応考えられるが、糸に起毛して輪奈を消失させることを意味することにはかわりはなく、しかも、起毛糸製造の常識からみれば、(ハ)の適宜の起毛機を使用して各ループ(各輪奈状部)を切断する手段が、鋏による切断とか、各繊維の引抜きに比較して、むしろ極めて一般的な慣用手段と認められる。そして、「タムタム糸」の写真および「タムタムヤーン」の項の記載全体から、或程度の長さを有する起毛が認められる。換言すれば、引用例には、毛糸を、芯糸2'と止め糸1'とを使用して三〜四条を引き揃えた繊維束を連続して多数の輪奈状A'に形成せしめた飾糸B'を、各輪奈状部を利用して全面に起毛部4'を形成させた起毛糸が記載されているものと認められる。そこで、本件登録実用新案と引用例記載のものとを対比してみると、両者とも起毛糸であつて、毛糸を、芯糸(2、2')と止め糸(1、1')とを使用して引き揃えた繊維束を連続して多数の輪奈状(A、A')に形成せしめた飾糸(B、B')を各輪奈状部を利用して全面に起毛部(4、4')を形成させた点で全く一致する。さらに、作用効果においても、両者間に格別の差異は発見できない。ただ、①繊維束の構成に関して、前者が糸を数条ないし十数条引き揃たえたに対し、後者は糸を三〜四条引き揃えた点および②起毛手段に関して、前者が、適宜の起毛機を使用して各輪奈状部を切断したに対し、後者は、起毛手段を具体的に明確にしていない点で、両者間に一応差異が認められるが、①の点は程度の差であり、②の点は上記したように、起毛糸製造の常識からみて、適宜の起毛機を使用して各輪奈状部を切断することが、極めて普通の起毛手段である点よりみれば、この手段を採用しても、この点に考案があるものとは認められない。

以上のように、全体として前者が、後者と相違する点は、当業者が必要に応じて適宜容易に変更または採用できる程度の構造上の微差に過ぎなく、前者は後者に類似するものと認める。したがつて、本件登録実用新案は、その登録出願前に国内に頒布された引用例に容易に実施できる程度に記載されたものに類似するものであり、旧実用新案法(大正十年法律第九十七号)第三条第二号に該当し、その登録は、同法第一条の規定に違反してなされたものであるから、無効とすべきものである。<後略>

〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 本件において、本件審決を取り消すべき事由があるといえるかどうかは、引用例(その記載内容自体については、当事者間に争いがない。)に開示された技術的内容が本件審決認定のとおりであるかどうかにかかつていることは、本件における当事者双方の主張、とくに原告の主張に徴し明らかなところである。

よつて、この点について審究するに、当事者間に争いのない引用例の記載内容と<証拠>を参酌して考量すると、引用例の「タムタムヤーン」の項中の「アストラカンのループが毛足に変つたものです。」とは、本件審決が解釈認定したように、毛糸を芯糸と止め糸とを使用して、三〜四条を引き揃えた繊維束を連続して多数の輪奈状に形成せしめた飾糸を各輪奈状部を利用して全面に起毛された状態にあることを示すものと解するを相当とする。原告は、この点につき、右文言は、「タムタムヤーン」がアストラカンにおけるループの代りに毛足を設けたような外観を有することを表現したものである旨主張し、証人S、同I及び原告本人の各供述中には、この主張に副う趣旨の部分があるが、右各供述部分は、前掲各証拠及び右文言そのものに徴し、たやすく信を措きがたく、他に前記のように解することの妨げとなるべき適確な証拠資料はないから、原告の前示主張は、採用に由ないものというほかない。

(むすび)

三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものといわざるをえない。よつて、これを棄却する。

(三宅正雄 中川哲男 武居二郎)

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