東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)155号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕本件訴が、原告から訴訟委任を受けた弁理士Sによつて昭和四十一年十月十九日提起されたことは本件記録上明らかであるところ、<証拠>によれば、同弁理士は、特許庁に審判官として在職中、昭和三十九年六月九日本訴において、その審決の取消しが求められている、同庁昭和三九年審判第二〇八一号審判事件について合議体を構成すべき審判官に指定されて、昭和四十年三月三十一日退官するまで、その任にあつたことを認めうべく、右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、病気その他の事由により合議体の一員であつた期間中に右事件の審理に全然関与しなかつたような特別の事情の認められない本件においては、右審判事件は同弁理士が、弁理士法第八条第二号にいう、特許庁に在職中取り扱つた事件に該当し、同人は本訴についてもその業務を行なうことを禁ぜられているものであり、本件訴の提起は同条の規定に違反する行為といわなければならない。
そこで、本件訴の提起行為の効力について判断するに、弁理士法第八条第二号の規定の趣旨とするところは、一つには弁理士の同条違反の行為を禁止することによつて、相手方当事者の利益保護を図るにあると解されるから、同条違反の訴訟行為は、相手方当事者がこれに異議を述べることなく訴訟手続を進行させた場合に限り有効と解すべきところ、被告に異議のある本件訴の提起は弁理士法第八条第二号に違反する無効のものといわざるを得ない。
原告は、弁理士法第八条違反の行為は単なる職務規律違反にすぎず、弁理士法上の懲戒事由に該当することあるに止まり、訴訟上の行為の効力に影響を及ぼすべきでないと主張するが、同条の趣旨が相手方保護にあること前説示のとおりである以上違反者をして弁理士法に定める懲戒に服せしめれば足りるということはできないから、右主張は採用できない。また、原告は同弁理士は本件審判手続において単に形式上審理に関与したにすぎないと主張し、同人が本件審決自体に関与しなかつたことは当事者間に争いのない事実であるが、<証拠>によれば同人が本件審判事件の主任審判官として審理に関与し、現実にその職務を行なつていた事実を認めるに十分であるから、右主張も採用の限りでない。さらに原告は同弁理士による訴の提起が無効であるとしても本訴においてこれを追認するとしているけれども弁理士法第八条の趣旨が相手方の利益保護にもある以上当該相手方がその違反行為に異議を述べ終始その効力を争つている本件においてこれを本人の追認によつて有効とするに由ないものといわなければならない。
以上のとおり、本訴の提起は弁理士法第八条第二号の規定に違反してなされた無効のものであるから、これを不適法として却下すべきものと……する。(小沢文雄 三宅正雄 影山勇)