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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)3号 判決

一 特許庁における本件審査、審判手続の経緯、本願実用新案の要旨および本件審決の理由の要旨についての請求の原因第一項および第二項の事実は、すべて当事者間に争いがない。

右争いのない事実と成立について争いのない甲第一号証(本願実用新案の明細書および図面)および同第二号証(引用にかかる実用新案公報)とによれば、(一)本願実用新案の要旨は、「従来の公知公用の硝子戸において、その親桟の硝子対面部をプラスチツク薄板にて被覆しあるいはこのプラスチツク薄板とプラスチツク小桟と連結一体となしたるものを親桟の硝子対面部に取り付けてなる硝子戸の構造」にあり(別紙図面参照)、その明細書中、考案の詳細なる説明の項には、従来の硝子戸はその桟木が木製であるため、その桟木等の上に集積したほこりははたきなどで払つても取り除きがたく、水拭きすればあとが残つて汚れとなる欠点があつた、本願実用新案は、従来の木質の小桟にかえて、表面が滑らかで吸湿性のないプラスチツク製の小桟3とし、親桟1も、硝子に対面してほこりが付着集積し汚れやすい硝子対面部2をプラスチツク製薄板4で被覆し、止め金でとめ、ほこりが集積しても落ちやすく水拭きしてもあとが残らないようにしたものである、親桟被覆のプラスチツク製薄板4は硝子対面部2に相当しつぎつぎ連接したものを嵌合被覆すればよい、また、小桟3は、従来のもののように親桟1に植え込まずとも、被覆用プラスチツク製薄板4に連接保持させれば足りるから、ここにおいて、小桟3と薄板4とが連結した一つの連合体の型ができるので、必要上大量生産しようと思えば、この連合物をプラスチツク成型法にて成型すれば、製作手数少なく、採算上有利で均一優秀なものを製作しうる旨記載されていること、(二)一方、本件審決引用刊行物に記載された「合成樹脂製戸枠用材」の実用新案は、本願実用新案の出願前の日である昭和三二年九月九日出願公告されたものであり、戸枠を合成樹脂(プラスチツク)製としたものの特定の構造にかかるものであること、その戸枠用材は、合成樹脂特有の優れた耐蝕性を有し、一般に戸枠が風雨にさらされる場合が多いため金属製あるいは木製戸枠において長期使用中外観が損われかつ次第に腐蝕される欠点があつたのを改良したものであり、これを押出機によつて成型することができる旨記載されていることが明らかである。

二 原告は、プラスチツク製用材の表面が滑らかで吸湿性のないものである点に着眼して、このプラスチツクを親桟の硝子対面部被覆用薄板に用いまたはこの薄板と小桟とを連結一体としたものを親桟の硝子対面部に取り付けてなる硝子戸の構造にかかる本願実用新案は、プラスチツクの耐蝕性に着眼した引用例の戸枠とは、技術思想を異にし、これから当業者のきわめて容易に考案しうるものではないと主張する。

本願実用新案は、(一)硝子戸の親桟の硝子対面部をプラスチツク製薄板で被覆するか、あるいは、(二)硝子対面部を被覆するプラスチツク製薄板とプラスチツク製小桟とを一体にしたものの該薄板を親桟に取り付けたことを要旨とするものであるから、まず、(一)の点を引用例の戸枠用材と対比して考える。本願実用新案において用いられるプラスチツクは、ただ単に表面が滑らかで吸湿性がないという条件を具備しさえすれば、他はいかなる性状のものでもよいといいうべきものでないことは自明であり、その登録請求の範囲の項においても、ひろくプラスチツクという以外に何らその限定がされていないから、せいぜい戸の桟の素材として適切な性状のプラスチツクと解しうるに過ぎない。この場合何が適切かは必ずしも明らかでないばかりでなく、原告が強調するプラスチツクにおいて表面が滑らかで吸湿性のないものも従来からきわめて有り触れており、一方、親桟の硝子対面部に適宜な性状のプラスチツクを用いれば、ほこりの除去、水拭き等が幾分容易になりうるとしても、本願実用新案におけるように、従来公知公用の戸について親桟の硝子対面部をただ単にプラスチツクの薄板で被覆するというだけで、しかも、その効果として目指されたものが桟に集積するほこりの除去、水拭きの便と押出成型の可能というにとどまり、その被覆の態様構成については何ら限定がされていないというものにあつては(なお、原告は、少数製作の場合においても、親桟に小桟取付け用の小穴を穿設する従来の方法に比し、プラスチツク製薄板に小桟取付け用の切込みを設ける本願実用新案に工作上利点がある旨主張するが、要旨の前記(一)の点に関してはそのような切込みを設けることは、当然のことで利点というに足りないし、明細書にも何ら説明されていないところである。)、戸枠(本願実用新案の親桟に相当する。)用材に合成樹脂を用いることが引用例により本願実用新案の出願前公知であり,そこに押出成型についても示されており、また、物にほこり等がつかないようにし、時に応じ水拭きができるためには、表面が滑らかで、吸湿性、あるいは、それ自体ほこり等を吸着する性質などを持たない素材で被覆することが望ましいことは、いうまでもないことである以上、本願実用新案はプラスチツクの新しい用い方としても、親桟の硝子対面部におけるプラスチツク製薄板による被覆としても、特に考案力を要するほどの考案とは認められない。引用例の合成樹脂製戸枠用材が、一面で合成樹脂の耐蝕性に着目し従来の金属製あるいは木製の戸枠の風雨にさらされ損傷しやすい欠点を改良しようとするものであるとしても、これと本願実用新案とを対比して考えるのに、プラスチツクを用いる部分が戸枠(親桟)かその一部である親桟の硝子対面部かであること、そこにプラスチツクを用いる場合、それが戸枠(親桟)ないしその硝子対面部にいわゆる耐蝕性を付与するために用いられているのか、プラスチツクの表面が滑らかで吸湿性がないことに着目しほこりの除去、水拭きの便を得るために用いられているのか、用い方として区別できない常態になることが明らかであることおよび引用例の戸枠用材を用いる戸が常に本願実用新案にかかる戸と別種のものであるとは前掲甲第一、二号証より認めえないことが明らかであることから、両者は、プラスチツクの用い方ないし原告のいわゆる自然力利用の技術思想として、別異のものではないとするのが相当である。

三 本願実用新案の前記(一)の点について、右のとおり引用例から当業者のきわめて容易に考案できる程度のものといいうべき以上、(二)の点について判断するまでもなく本願実用新案を登録すべきものではないとした本件審決は、正当であり、原告主張のような違法はないということができる。一の実用新案の登録請求の範囲が登録すべきでない部分を含む場合には、その余の部分について登録要件の存否等について考慮するまでもなくその実用新案の登録は許されるべきでないからである。したがつて、その主張の違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がないものというほかはないから、これを棄却することとする。

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