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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)52号 判決 1968年8月16日

原告

ザ・ランダー・カンパニー・インコーポレーテッド

右代表者

ウオーレス・テイード・リュー

右代理人弁護士

湯浅恭三

大場正成

同   弁理士

池永光弥

工藤吉正

被告 特許庁長官

荒玉義人

右指定代理人

城山鉄雄

ほか一名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

原告のため、本判決に対する上告の附加期間を三か月と定める。

事実《省略》

理由

一、原告主張の請求原因一、二の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで原告の主張三について検討する。

(Ⅰ) その(一)の主張について。

(一)  本件において、審査については本願商標が引用商標との関係で旧商標法第二条第一項第一一号の規定に該当することを理由として、拒絶の査定がなされたのに対し、抗告審判においてはこれと異なり本願商標が同様の関係で右同条同項第九号の規定に該当することを理由として、同趣旨の審決がなされたことは、被告の認めるところであり、また右審判において、審決が右のごとく査定と異なりその理由としたところについて、これを請求人(原告)に示し、意見書を提出する機会を与える手続をとらなかつたことも、被告のあえて争わないところである。

原告は、以上の点から本件審決は旧商標法第二四条の準用する旧特許法第一一三条第一項の規定に違反してなされた違法のものであるという。

(二)  しかしながら、右旧特許法第一一三条第一項にいう「拒絶ノ査定ニ対スル抗告審判ニ於テ其ノ査定ノ理由ト異ル理由ヲ発見シタル場合」とは、出願以来審査官において拒絶理由を通知して出願人に意見書提出の機会を与え、あるいは異議申立の理由に示されこれに対する答弁書提出の機会を与えるといつた処置が一度もとられたことのない全然新たな拒絶理由を抗告審判で発見した場合のことをいつているのであつて、審査の段階で拒絶理由の通知がなされ、あるいは異議申立において出願を拒絶すべき理由として挙げられ、これに対し意見書または答弁書提出の機会が与えられたが、拒絶査定の理由とされなかつた事項を抗告審判で採用し、拒絶を維持する審決をする場合は、前記第一一三条第一項の規定に該当しないものと解すべきである(審査の段階で拒絶理由通知がされたが拒絶査定の理由に採用されなかつた理由で拒絶相当との審決をした場合に関する大審院昭和四年(オ)第四一八号同年六月八日判決大審院民事判例集第八巻五八七頁参照、拒絶理由通知に対する意見書提出の機会を与えた場合と異議申立に対する答弁書提出の機会を与えた場合とで、取扱を異にすべき理由はない。)。

(三)  ところ本件につき審査において、昭和三五年一〇月二七日出願公告の決定がなされ、昭和三六年三月二三日その公告があつたところ、これに対し同年五月一七日訴外株式会社伊勢半から登録異議の申立がなされたものであることは、前記一のとおり当事者間に争いなく、そして<証拠>によれば、被告の主張するように右の登録異議申立書には、本願商標が引用商標との関係で旧商標法第二条第一項第九号に該当し、また同第一一号にも該当する、との理由によつてその登録は拒絶せらるべき旨が記載してあり、この異議申立書の副本は四〇日の期間を指定して答弁書提出の機会を与える旨の書面とともに、昭和三六年八月二八日当時出願人たる原告に送達されたこと、なおまた原告はこれに対し、昭和三七年一月八日右のいずれの理由も失当であるとする答弁書を提出していることが認められる。

したがつて、審判における手続に違法があるとする原告の三の(一)の主張は理由がないものというべきである。

(Ⅱ) その(二)の主張について。

(一) <証拠判断省略>

(二) そこで右両商標の類否についてみる。

両商標は……外観においては相違し、類似しないものといえるが、称呼および観念についてつぎのように考えられる。

(1)  まず、本願商標の称呼、観念について考察するに、それが……比較的平易な英文字から構成されているところからすれば、その文字全体によつて「エリザベスポスト」の称呼および観念(その観念内容は後記のとおり)を生ずることは一おう肯定されよう。

ところでまた、本願商標を構成する「Elizabeth」(エリザベス)の文字は、わが国において英国女王の名また欧米女性の名をあらわす語としてあまねく知られているところ、右商標におけるようにこれに「Post」(ポスト)の文字(この語は最も普通には郵便ばこを意味するものとして、またよく部署の意味でも用いられ、前者の意味では通常の日本語となつている。)を加えて「Elizabeth Post」と一連に書いても、その全体として独自の意味を持つた一つの語となるとか、全体が一体的なものとして独自の印象を与えるというようなものではなく(一般世人にとつては、「Elizabeth」と「Post」がどういう関係にあるのか、どういうふうに結びつくのかが理解しにくいと考えられる)、すなわち右のような意味で両者が不可分に結びつけて用いられたものと直感、理解せしめるものではないのであつて、それは前記のよく知られ、印象づける「エリザベス」に、それとのつながり、関連の不明な「ポスト」の語を併加したものとして受けとられ、しかもむしろ両者間の異別感を覚えさせるというのが一般であろう。

かように、本願商標において「Eliza-beth」と「Post」とは密接強固に結合して不可分の一体をなしているものではなく、しかも「エリザベスポスト」の全体としては商標名として長めのものとなることを考えると、それが取引上使用される場合に、商標の前部を構成していて、前記のように顕著で印象が強く、加うるに指定商品の性質上これとの間にふさわしさないし親近性をも感じさせる「エリザベス」の部分によつて略称せられ、観念せられることが多いであろうことは否定すべくもないところというべく、すなわち、本願商標からは――前記のように、「エリザベスポスト」の称呼また「エリザベス」に「ポスト」を組み合わせたものとしての一つの観念を生ずることは肯定されるにしても、そのほかに、――「エリザベス」の称呼、観念もまた生ずるものというべきである(なお、そのほかに「ポスト」の称呼また観念をも生ずるものと見るべきかどうかは別として。)。

原告は、本願商標は一体不可分のものとしてのみ考察されるべく、従つて「エリザベスポスト」の称呼、観念をのみ生ずるという。ところで原告は、その一体不可分性の理由として、本願商標は原告会社の化粧品の創始者「Mrs. Elizabeth Post」の姓名を採択した個人名であつて、常に連記して使用されすでに一体的結合たるの認識を生じている趣旨をいうが、甲第七ないし第一一号証によつて、たやすく「Elizabeth Post」が個人名として一体的結合のものであると、わが国一般に知れている事実を認めることはできない。また原告はこの点について、化粧品について周知著名な、登録第二四〇、一六八号商標「ELIZABETH ARDEN'S VENETIAN」があるのにかかわらず引用商標が登録されたことは、「Elizabath」が他の語と一体に結合していることを物語るものであるというが、仮りにその主張のような登録関係があるとしても、直ちに以て本願商標における「Elizabeth」と「Post」との一体的結合関係の存在の事実を裏付ける資料とはならないことはいうまでもないことであり、なおまた原告は、本願商標が現に取引界で右両商標とならんで、それぞれにまぎれることなく区別されて通用しているというが、かような事実を認むべき何らの資料もない。

以上のとおり原告の主張は理由がなく、本願商標からは前記のとおり「エリザベス」の称呼、観念をも生ずるものとなすべきである。

(2)  一方引用商標の構成は前記認定のとおりであるから、これにより「エリザベス」の称呼および観念が生ずることは明らかであり、してみれば本願商標と引用商標とは、「エリザベス」の称呼、観念を共通にし、相類似する商標であるというべきである(なお原告は、その主張の終りの部分で、本願商標と引用商標との差異を主張しているが、その主張自体によつて明らかなように、それは要するに本願商標の一体性、個人名としての一体性(すなわち一体のものであるとする一般の認識)を前提とするものであるところ、本件においてはこの前提が容認されないこと前記のとおりであるから右主張は採用すべくもない。)。

(三) そして右両商標の指定商品が相牴触することは前記によつて明らかであり、また引用商標が訴外株式会社伊勢半の有する登録商標であることも前記のとおりであるから、本願商標は旧商標法第二条第一項第九号に該当するものというべく、これと同趣旨のもとに、その登録を拒絶すべきものとした審決は相当であつて、原告の主張は理由がない。

三  以上のとおりであるから、審決の違法を主張してその取消を求める原告の請求は理由なきものとして棄却す………る。(多田貞治 古原勇雄 杉山克彦)

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