大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)86号 判決

一 原告主張の請求原因第一項から第三項までの事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで本件審決を取り消すべき事由について検討する。

(一) 引用例の附記第三項に「引き出した海水の比較的小部分を蒸発させるような速度で原料水を真空状の蒸発区域を通過させることにより原料水中の塩分または他の固形成分が蒸発の際に、濃縮するのを制限した………方法」という記載のあることは、当事者間に争いがない。

原告は、ここにいう「速度」とは蒸発速度をいうのであり、したがつて「引き出した海水の比較的小部分を蒸発させるような速度」とは、引き出した海水の量と比較的小部分を蒸発させる蒸気の量との割合すなわち蒸発割合を意味すると主張する。しかしながら、「引き出した海水の比較的小部分を蒸発させる」の語が蒸発割合を説明していることは明らかであり、これに続く「速度で」の語が「原料水を真空状の蒸発区域を通過させ」を修飾することは構文上明白であるから、ここにいう「速度」は原料水の通過速度を意味するといわなければならない。それ故、「引き出した海水の比較的小部分を蒸発させるような速度」の語句は原料海水の通過速度すなわち流速を蒸気割合と関連させて規定したものであり、この語句の後に「原料水を真空状の蒸発区域を通過させることにより原料水中の塩分または他の固形成分が蒸気の際に濃縮するのを制限した」と続けることによつてその流速を機能的に説明したとみることができる。したがつて、前記語句が原料水の蒸発割合を意味するという原告の主張は理由がなく、このことを前提とする原告のその余の主張は採用の限りではない。

(二) 蒸発器の水容量は蒸発器内に収容する原料水の量をいうものであつて、蒸気の発生に必要な熱に関するフアクターとは無縁のものであるから、蒸気の発生量は蒸発器の水容量とほとんど関係がないということができる。ところで、蒸発割合というのは蒸気の発生量と蒸発器に供給される原料水の量との割合をいうものであることは、当事者間に争いがない。そうしてみると、蒸発割合と蒸発器の水容量とはほとんど関係がないといわなければならない。したがつて、蒸発割合が定まつていても、蒸発割合のみから蒸発器の水容量は想定することができないものということができる。

本願発明における第二の要件すなわち蒸発器の原料水毎時供給量を該蒸発器の水容量の一〇ないし二〇倍、なるべくは一二ないし一八倍とすることは、毎時蒸発器に水が占める部分の何倍の原料水を供給するかという条件を定めたものであり、それは原料水の流速に関する条件を定めたものということができるが、別の観点からすれば蒸発器内における供給原料水の滞留時間に関する条件を定めたともいうことができる。

そして蒸発器の水容量は蒸発割合が定まつても当然に想定できるものではないことは前述のとおりであるから、引用例記載のように蒸発割合が定まつていても、そのことから蒸発器内の供給原料水の滞留時間が想定できることにはならない。

引用例に蒸発器内の供給原料水の流速が機能的にではあるが記載されていることは、さきに認定したとおりである。しかし、この流速は蒸発割合との関連で述べられているに過ぎず、それ以上の意味を有するものではない。この条件は蒸発器の水容量がどのようなものであつても成り立つのであつて、蒸発割合を一定としても、蒸発器の水容量を変えると、蒸発器内の供給原料水の流速ないし滞留時間も変るものである。成立に争いのない甲第一号証によれば、本願発明の第二要件は、引用例のような市販の蒸発器内で蒸留すると望ましくない沈澱が短期間内に起ることが避けられないので、蒸発器の原料水の毎時供給量をその蒸留器の水容量の一〇ないし二〇倍、なるべくは一二ないし一八倍、いいかえると滞留時間を一〇分の一ないし二〇分の一時間なるべくは一二分の一ないし一八分の一時間の範囲に限定しようとするものであることが認められるから、この流速は引用例に示された流速とは別の関係にあることが明らかである。そうしてみると、本願発明においては蒸発器内の供給原料水の滞留時間ないし原料水の流速は第二の要件によつて定まるのであつて、蒸発割合を規定した第三の要件によつて定まるのではないから、本件審決が本願発明の方法においては引用例に機能的に記載された海水の供給量ないし流速を具体的数値で第二の要件として規定したに過ぎないと判断したのは、両者の関係を誤認したものといわなければならない。

三 以上のとおりであるから、本件審決には原告主張の違法があり、この取消を求める原告の本訴請求は、理由がある。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!