東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)88号 判決
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〔判決理由〕(審決を取り消すべき事由の有無について)
二 本件審決は、本願発明と引用明細書記載の発明とを対比するに際し、緩衝剤の使用目的ないし機能の相違を誤認し、両者は技術思想を異にするものであるにかかわらず、本願発明をもつて引用明細書記載のものから容易に推考しうるものとした点において、判断を誤つた違法があるといわざるをえない。すなわち、本願発明の特許公報、引用明細書及び本件弁論の全趣旨によると、本願発明は、前掲要旨記載のような緩衝剤の水溶液にソルビン酸を溶解させるものであり、緩衝剤を使用するのは、ソルビン酸と緩衝剤との間に行なわれるイオン交換作用により、水に難溶なソルビン酸の溶解度が増大されるとともに、そのpH値を八〜三の範囲に保ち、溶存しているソルビン酸を長期にわたり安定化しうるためであるのに対し、引用明細書記載の発明は、酸素の排除下または不活性ガスもしくは抗酸化剤の存在下において、pH3.6〜6.6の範囲に保つため、緩衝剤溶液中にソルビン酸を懸濁させ、これに苛性ソーダを添加することにより、ソルビン酸及びその塩の分解を防止し中和を円滑に進行せしめて安定なソルビン酸塩をつくるものであり、この方法においては、ソルビン酸遊離アルカリ、ソルビン酸塩の三者共存の状態にあるものであつて、緩衝剤を用いるのは、ソルビン酸とアルカリとの中和反応が不均一相で激しく行なわれるため、右アルカリの作用を緩和して、ソルビン酸が破壊されるのを防ぐためであることを認めることができ、他に右認定を左右すべき証拠はない。
右認定の事実によると、本件審決のいうように、本願発明と引用明細書記載の発明との差異は、単にソルビン酸塩を生成するためのカチオン交換剤の差異にすぎないということができないことが明らかであり、また、本願発明は緩衝剤の水溶液中にソルビン酸を混合する点において引例Cと軌を一にするものでもなく、本願発明と引用明細書記載の発明とは、緩衝剤使用の目的及びその機能の点で全く相違し、両者は技術思想を異にするものといわざるをえず、引例AのpH値の規定も、右の結論を左右すべきものでないこともまた明らかである。
したがつて、右誤認の事実を前提として、本願発明をもつて引用明細書記載の技術内容に基づいて容易に推考しうるものとした本件審決は、進んで本願発明の作用効果の点について検討するまでもなく、判断を誤つた違法のものといわざるをえない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張のような違法のあることを理由に、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は理由がある。よつて、原告の請求を認容する。(服部高顕 石沢健 滝川叡一)