東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)89号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決にはその主張の点に判断を誤つた違法がある旨主張するが、その主張は理由がないものというほかはない。すなわち、
引用例中に、シスー一・四結合含量の多いポリブタジェンの合成ゴムとしての優秀性について本件審決認定のとおりの記載があること、及び天然ゴムがその優秀性の故にタイヤの製造その他のゴム工業において慣用されていたが、各種の性質を有する合成ゴムの開発に伴い、これらがそれぞれ単独又は天然ゴムとの併用により、天然ゴムの代替品若しくは増量ないしは改質剤として使用されるに至つたことが当業者の熟知するところであることは、原告の認めて争わないところである。
原告は、合成ゴムと天然ゴムが配合される場合に、配合物の性質は一般に二成分中の劣等成分の方へ近づき、これは発熱性及び屈曲寿命において特に著しく、このことは当業者の技術常識であるが、本願発明方法による高シスーポリブタジェンと天然ゴムとの配合物は、予期に反し二成分の性質の平均より優れた性質を示すと主張するが、<書証>によれば、天然ゴムとシスーポリブタジェンの配合物の抗張力、伸長率、三〇〇%モジュラス、硬さ、永久歪、引裂抵抗、屈曲抵抗、反撥弾性、ウイリアムス摩耗量、発熱性は、いずれも両成分の配合割合の按分比例による算術的平均値を示すことが認められる。<書証>によると、本願発明の配合物の試験の結果中第一図の八〇°Fにおいて行なわれたものの抗張力と第四図に示される押出率だけが算術的平均値を超えるのみであり、その他は抗張力(二〇〇°F)、伸長率およびブローアウトまでの時間について(第一図ないし第三図において破線の引き方の誤つているものは正しく引き直してみると)、算術的平均値か、あるいはそれより劣る値を示す場合があることが認められ、本願発明の特許公報によれば、その第二表に示された本願発明の配合物の発熱性および反撥力は、いずれも算術的平均値よりも悪い値を示し、天然ゴムとマルジョンポリブタジェン又はスチレンープタジェンゴムとの配合物に比べ特に優れたものとは認められず、<書証>中第四表には、シスーポリブタジェンと天然ゴムの等重量の配合物について、発熱が算術的平均値より0.6℃低いことが記載されているが、他の配合割合について記載がなく、前顕<書証>に照らし合わせ、特に著しい効果とも認め難く、他に前記認定を左右し、原告主張のような本願発明の顕著な効果を認めることのできる証拠はない。
原告は、本願発明による配合物から作られたタイヤトレッドは、天然ゴム単独で作られたものよりも、耐亀裂性及び耐摩耗性に優れると主張し、<書証>に示された走行試験の結果によれば、天然ゴムとシスーポリブタジェンの等重量の配合物について、右主張事実が認められるが、対比すべきシスーポリブタジェン単独で作られたタイヤトレッドの試験結果が明らかにされていないうえ、その他の諸性質については優劣は不明であるから、これだけでは本願発明の著しい効果を認めることはできない。
原告は、本願発明方法による配合物は、文献に示された天然ゴムとスチレンーブタジェンゴムとの配合物に比べ、多くの物理的性質において優れていると主張するが、スチレンーブタジェンゴムとシスーポリプタジェンとは物理的性質が異なるうえ、スチレンーブタジェンゴムの方がシスーポリブタジェンより化学構造上天然ゴムとの違いが大きいから、シスーポリブタジェンを配合した本願発明方法の配合物の方が、スチレンーブタジェンゴムを天然ゴムに配合したものよりも、よりよい物理的諸性質を示すことは当然であり、このような比較方法によつては、原告主張のように当業者の予想しえない顕著な効果を認めることはできないものといわなければならない。
原告は、本願発明の配合物は良好な加工性を示すと主張し、前記認定のようにその押出速度の優れていることと<書証>の記載によれば、右主張事実を認めることができるが、このことは、参照例にも混合物はポリブタジェン単独よりさらに良好な可塑度を有する旨の記載があることから明らかなように、シスーポリブタジェンの混合物に特有の現象ではないから、当業者が容易に予想しえたことということができるので、これにより推考の困難性を理由づけることはできない。
原告は、引用例および参照例から本願発明の方法による配合物の優秀性を予測することは困難であると主張するが、シスーポリブタジェンは、引用例記載のような優れた物理的性質を有するうえ、参照例記載の通常構造のポリブタジェンよりも一層天然ゴムに近似した構造の合成ゴムであるので、参照例から、本願発明方法による製品の諸性質について詳細な数値までは予想できないとしても、それが優れた物理的諸性質を有することは予想できるというべきであり、この主張も採用できない。
(むすび)
三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法があるとして本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。
(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)