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東京高等裁判所 昭和41年(行コ)61号 判決 1970年5月20日

控訴人・被告 小金井市固定資産評価審査委員会

指定代理人 岡本正 外二名

訴訟代理人 三谷清

被控訴人・原告 鈴木敏文

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は、第一、二審を通じて被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、左に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

控訴代理人において次のとおり述べた。

「一、固定資産評価審査委員会の手続について

固定資産評価の審査は、固定資産の評価が適正か否かを審査する手続であるが、そのためには、先ず第一に自治大臣の定める固定資産評価基準(地方税法三八八条一項)に基づき評価が適正になされているか否かにつききわめて専門的、技術的な手続による審査が行われなければならず、第二に、右審査の申出の期間が制限され(地方税法四三二条一項)、しかも審査は申出の日から三〇日以内になされることを必要とされている(同法四三三条一項)関係上、一時に多量の申出を迅速に審査することが要請されている。それ故、右審査手続につき、審査請求申出人の要求があれば、口頭審理を行うべき旨の規定はあつても(同法四三三条二項)、右要求のあるかぎり必ず全面的に口頭審理をしなければならないと解すべきではなく、このような場合でもなお書面審理を原則とし、ただ書面によつて十分尽せなかつた審査申出の理由を口頭で述べる機会を与えるとか、あるいは、口頭陳述により申出の真意を正確に把握する等、書面審理を口頭審理によつて補なえば即ち足りるという趣旨の規定にすぎないものと解すべきである。したがつて、口頭審理とは称しても決して原判決の述べるごとき民事訴訟手続に準じた口頭弁論方式を採る必要はないのである。

二、被控訴人に固定資産評価の計算根拠を示すことの要否について。

すでに述べたように、本件審査手続において控訴人は右計算根拠を被控訴人に示したが、仮に示されたことが認められないとしても次のような理由によつて、その必要はないのである。

即ち、元来固定資産評価の計算根拠は、専門的、技術的なものであるから、審査請求申出人が特に計算根拠自体に不審を抱いているような特別な場合を除いては、計算根拠を示したとしてもこれによつて審査請求申出人の審査請求申出に役立つものではない。本件審査手続において被控訴人が審査請求申出の事由として主張した点は、(1) 本件のような居住用の土地を一般売買時価によつて評価することは違憲である。(2) 評価に当つて取得価格の上昇率等を参考にすべきである。(3) 土地と家屋とにそれぞれ課税することは二重課税である。(4) 鈴木小金井市長の所有地の評価額が本件土地の二分の一に評価されている根拠が分からない。(5) 評価される土地と駅との距離は自動車所有者の多い今日評価に参酌されるべきでない。(6) 本件土地は角地であり、商業には適するが、騒音、ほこりが多く居住には適さないから評価は高すぎる。(7) 本件土地界わいは車の通行量が多い等環境が悪いことなどであつて、評価の計算根拠とは関係ない事項のみであつたのであるから、計算根拠を示す必要はなかつたし示さなかつたとしても、被控訴人の審査請求申出事由の主張になんら支障を与えたものではない。」

被控訴人は次のとおり述べた。

「一、控訴人の当審における主張一、二中、控訴人が本件審査手続において、審査請求申出の事由として(1) 乃至(7) のごとき主張をしたことは認めるが、その余はすべて否認する。

二、被控訴人が、本件審査請求申出に及んだのは、本件評価が高すぎるから、その計算方法、根拠を知り検討したかつたためであり、したがつて、審査手続においても、評価の高すぎることを述べ、控訴人に対して小金井市長に計算根拠その他資料を明示、提出させることを求め、右明示、提出があればこれを十分に検討する予定であつた。前記(1) 乃至(7) の主張も右計算根拠等が明らかにされればおのずから明らかになることである。しかるに控訴人は、被控訴人の求めに拘らず審査手続の当初なんら小金井市長に対してこれを明示、提出することを命ぜず、被控訴人が書面をもつて再度求めたのになおこれを命ずることをしないのみならず、小金井市長から再答弁書の提出があつても、被控訴人にその内容を知らせないまま本件審査決定に及び、しかも、その審決書においても右計算根拠等を明らかにした理由を付していないのであるから、以上の審査手続は違法である。」

証拠関係は、控訴代理人において甲第八乃至一二号証を提出し、当審証人斉藤肇、同林茂夫の各証言を援用し、被控訴人において当審証人毎熊康尚、同市橋億太郎の各証言を援用し、右甲号各証の成立を認めると述べたほか、原判決事実摘示どおりであるからこれを引用する。

理由

一、控訴人の本案前の主張についての当裁判所の判断は、左の訂正をするほか、原判決の理由一記載のとおりであるからこれを引用する。

原判決一七丁うら七行目「仮に原告か」とあるのを削り、「成立に争いない乙第二乃至第九号証、原審証人鴨下利一郎、同村越武彦並びに弁論の全趣旨によれば、原告(被控訴人)は、」を加え、同一八丁おもて四行目「あつたとしても」を削り、「認められるが、同時にこれらによれば、原告が本件審査決定を真に違法と思いその取消しを求めているものであり、単に前述の悪意の攻撃のためにのみ本訴に及んでいるものでないこともまた明らかであるから、たとえ、原告が本来慎むべき前述のごとき行為に及んだという右事情があつたとしても、」を加える。

二、本案についての判断

1  被控訴人が小金井市本町六丁目一七〇〇番地六宅地一七五・二〇六六平方メートル(以下本件土地と略称する)及び同地上所在の家屋番号同町九七〇番七木造瓦葺平家建居宅一棟建坪一〇一・六八五平方メートル(以下本件家屋と略称する)の所有者であり、その固定資産説の納付義務者であること、小金井市長が地方税法三四一条六号にいう基準年度である昭和三九年度の固定資産の評価に基づいて被控訴人の同年度の固定資産税の課税標準たる価格として本件土地につき金額一二一万一五八〇円、本件家屋につき金額七〇万四四八六円と決定し、小金井市備付の固定資産課税台帳にそれぞれ右決定価格を登録して昭和三九年四月一日から二〇日までの間、右固定資産課税台帳を関係者の縦覧に供したこと、その後本件家屋の登録価格を金額六八万四〇六八円に修正して、同年四月二八日に被控訴人に通知したこと、被控訴人が右登録価格(単に評価と称する場合も同じ)につき不服があることを理由に、同年四月三〇日控訴人に対し、審査請求の申出をし、かつ口頭審理の手続により審査することを申請したこと、控訴人は同年五月一九日及び同年六月五日にそのつど被控訴人、小金井市評価員等の出席を得て口頭審理をしたうえ、同年六月八日右審査請求を棄却する決定をし、同月九日その旨被控訴人に通知したことはいずれも当事者間に争いがない。

2  被控訴人は右審査手続(審査決定自体については後記3に判示する。)に違法があると主張するので判断する。

(一)  口頭審理手続について

先ず固定資産評価に対する審査請求の審理についての口頭審理の意義について検討する。

(イ) 地方税法四三三条は「審査を申出た者の申請があれば、特別の事情がある場合を除き、口頭審理の手続によらなければならない(二項)。口頭審理の手続による審査は公開して行わなければならない(六項)。」と規定し、そのかぎりにおいて行政不服審査請求の審理が、一般に書面審理を原則としている(行政不服審査法二五条一項)ことの例外をなしている。また、地方税法や、同法四三一条に基づく小金井市固定資産評価審査委員会条例(以下本件条例と略称する。引用部分は本判決添付別紙参照。)には、審査請求申出人や相手方の口頭審理への出頭(地方税法四三三条三項、本件条例七条一、二項)、口頭審理における双方の弁論・資料の提出等(同条例七条二、四、六項)にかんして相当詳細な規定が定められており、審査請求申出人や相手方の「弁明書・反論書の提出・交換」等についての行政不服審査法二二条、二三条の規定は、本審査手続には準用されていない。これら法令の諸規定を照らしあわせると、固定資産評価審査の審査手続では、審査請求申出人の申請があれば口頭審理を原則とし、しかも口頭審理の場合には右申出人と相手方である市町村長側を相対立する両当事者として、双方に平等の立場で攻撃防禦を尽させ、更に双方の弁論及び証拠調はすべて口頭審理の場において口頭によつてしなければならないという意味での口頭審理方式までが要請されていると考える余地が全くないとまではいえない。

しかしながら、第一に、右審査手続は、一面司法手続に類する性質があるとしても、その本質は、あくまでも固定資産税の適正・迅速な賦課・徴収という公益目的実現のための行政手続の一環であり、したがつて審査請求申出人と相手方とを相対立する当事者として平等の立場で攻撃防禦を尽させるとか、これを必ず司法手続における口頭弁論に準ずる口頭審理方式を踏んで弁論、証拠調を行わなければならないとするような本質上の要請はないのである。また、第二に、後述するように、固定資産の評価、したがつてまたその審査手続には、計算的、技術的な要素を含む部分も多いので、手続のすべてにつき、口頭審理を要するとすることは、その性質上必ずしも相当でない。更に、第三に、右審査請求申出の期間には、一定の制限があり(地方税法四三二条一項)、ある一定の時期に多量の右申出のあることが当然予想できるのに、これを審査する委員会、委員の定数は原則として三名、特別の場合でも一五名(この場合は各三名により五部会が構成され、各一部会が審査に当る)にすぎず(地方税法四二三条一、二、八項)、しかも審査は申出の日より三〇日以内に完了することが要求されている(同法四三三条)から、前述のような口頭弁論に準ずべき口頭審理を要求することは事実上無理である。第四に、口頭審理についての前記各法令の諸規定も、口頭審理をする際の、関係人への期日の告知、(同法四三三条二項、本件条例七条二項)、口頭審理の公開(同法同条六項)、口頭審理における弁論、資料の提出、審理方法等(同法同条三項、同条例同条三、四、六項)を定めたものにすぎず、これらの諸規定から、遡つて、口頭審理を通じてのみすべての弁論、資料の提出、審理等がなされなければならないとまでは必ずしも解し得ないのみならず、むしろ地方税法四三三条一項には「委員会は、………必要と認める調査、口頭審理その他事実審査を行い」と規定され、口頭審理と他の調査、審理と併行総合して行い得べきものと解し得る余地が十分ある。以上第一乃至四の諸点を考え合わせると、固定資産評価審査の審理手続は、いわゆる職権主義を基調とし、書面審理、口頭審理その他の事実調査を随時取り入れて適正な評価額を発見し、もつて迅速に評価の適否を判定すべきものであり、たとえ口頭審理の申請があつても、民事訴訟におけるように当事者を対等の立場にある両当事者として口頭審理を通じてのみ攻撃、防禦を尽させるというような意味での口頭審理方式をとることは、手続の本質からも、法令上からも、必しも要請されていないものと解するのが相当である。

(ロ) しかし、同時に、後述するように、固定資産の評価は、複雑な手順と計算によつてなされ、納税者はその算出の方法、過程を知りえないのが通常であるから、委員会が審査請求申出の真意を把握し、また審査請求申出人に申出事由を十分述べさせ、もつて審査手続の公正と能率化とを図るために、審査委員会は一般の調査、審理のほか、みずからあわせて口頭審理をなし得べきものと定めると共に、もし審査請求申出人よりの申出があれば、特別の事情がないかぎり口頭審理を行うことを要するものとし(地方税法四三三条一項二項)ているのであつて、その口頭審理の内容方式も前記の目的意図を達するに必要な程度の充実が本件条例七条の規定によつて図られているものと解すべきである。

(ハ) 以上のとおりであつて、本件の場合、審査申出人の申請にもかかわらず口頭審理がなされなかつたというわけではなく、口頭審理が二回にわたつて行われたことは当事者間に争いがないのみならず、被控訴人主張のような厳格な意味での口頭審理方式はそもそも必要としないのであるから、たとえ本件審査手続において、「弁論や審査のための資料のすべてが口頭審理において提出されたものではなく、したがつて口頭審理だけを切りはなしてみると、控訴人が審査請求の申出事由や資料の提出を尽し得たとはいいえず、また口頭審理にあらわれた弁論や資料のみでは審査決定をするには十分でなかつた」としても、これだけをもつてただちに口頭審理方式の違背とし、本件審査手続に瑕疵があつたということはできない。

(二)  (固定資産評価の根拠、計算過程等を明らかにすることについて。

(イ) 固定資産の評価は、適正な時価を算定することにあり、その基準、実施方法及び手続は地方税法三八八条以下及び固定資産評価基準(本件については自治省告示昭和三八年第一五八号)の定めるところによつて行われるが、その概略は次のとおりである。即ち、土地については、<1>地目に分け、<2>宅地については、各宅地について評点数を付ける。<3>評点数は、市街地域においては「市街地宅地評価法」によつて件ける。<4>右「評価法」の実施は、先ず、当該宅地と同種の地区の宅地中主要街路の沿接地から標準宅地を選定し、これに路線価を付ける。路線価は、適正時価に基づき、また「画地計算法」により定める。<5>標準宅地の評点数に「比準法」を用いて当該宅地の比準割合を乗ずることにより右宅地の坪当り評点数を付け、これに宅地地積を乗ずることにより右宅地の総評点数を付ける。<6>評点一点当りの価格は、宅地の指示平均価格に宅地の総地積を乗じ、これをその宅地の総評点数で除した額に基づいて市町村長が定める(指示平均価格は、当該市町村の総評価見込額を総宅地面積で除した額に基づき自治大臣又は知事が指定した額である。)。<7>評点一点当りの価格に当該宅地の総評点数を乗ずる(宅地以外については省略)。なお、家屋についても、建物の種類を分け、評点数を付け、評点一点当りの価格を定める等、土地と同様の方法、手順により評価される。

右のごとく、固定資産の評価は、複雑なしかも計算を含む手順を経てなされるのであるが、納税者としては、固定資産課税台帳を閲覧して評価額を知り、その額に不服の念を抱いたとしても、いかなる根拠と計算によつて右額に達したかは、通常殆どこれを知りえないのみならず、不服のある納税者は右台帳閲覧後、比較的短期間内に、審査請求の申出をすることを要求されているのである。したがつて、審査請求申出人は、申出にあたり自らもその不服の対象である評価の根拠や計算を明らかに指摘できないことが多からざるをえず、また時には委員会から評価の合理的な根拠が示されさえすれば不服の解消することのありうることも容易に推測できるのである。

以上のような次第であるから、審査請求の申出があつたときは、委員会は、先ず、申出人に対し、申出人が評価に対する不服事由を明らかにするために合理的に必要な範囲で、評価の根拠、方法、手順等を了知できるような措置をとるべきである。即ち、土地についていえば、前述の手順のうち、すくなくとも、当該土地の地目をどう見たか、市街地域とみたか否か、「市街地宅地評価法」の実施に当つては、標準宅地をどこにとり、路線価をいくらに定めたか、「比準率」をいくらとしたか、その結果当該宅地の評点数をいくらと付けたか、評点一点当りの価格とその算出の一応の根拠(但し、総評価見込額の根拠はこれを明らかにする必要がない)等を、自ら、もしくは市町村長あるいは固定資産評価員をして、口頭審理を通じ、あるいは書面をもつて、申出人に明らかにし、これによつて申出人の不服事由の陳述ないし主張に遺憾なからしむべきであつて、もし、委員会がこれを怠るときはその審査手続は公正を欠き、違法たるを免れないといわなければならない。

(ロ) そこで本件審査手続について判断する。

本件審査請求申出が昭和三九年四月三〇日になされ、同年五月一九日、六月五日の二回にわたつて口頭審理が行われたこと、市長側から答弁書(乙第二号証)、再答弁書(乙第一〇号証)が委員会に提出されたが、委員会はその写しを被控訴人に送付する等の措置をとらなかつたことはいずれも当事者間に争いなく、右争ない事実と成立に争いない乙第一乃至一一号証、原審における被控訴人本人尋問の結果によると次の事実が認められる。

「被控訴人は審査請求申出の際、その申出事由として先ず、『いかなる理由により評価がそれぞれ本件評価額になつたか根拠なし』と述べ、更に『小金井市長の所有地の評価に比し本件評価が倍額であることは根拠なし』と述べた。市長側はこれに対し、答弁書に『画地計算及び宅地評点調査票』を添付して委員会に提出した。右答弁書には単に『本件評価は地方税法四〇九条、四〇三条による固定資産評価基準により適法になされたものである』旨記載されているにすぎず、答弁書に添付された前記調査票には、『本件土地の路線価として二一、六〇〇円及び一八、〇〇〇円(側方加算率七パーセント)、単位当り評点二一、六〇〇点及び一、二六〇点計二二、八六〇点総評点(単位当評点×地積)一、二一一、五八〇点』と記載されていた。しかるに、委員会は右答弁書及び調査票の内容を被控訴人に了知させる措置を講じなかつた。しかも第一回口頭審理において、被控訴人は、『時価により評価することは違憲ではないが、本件土地は居住地には適せず評価が高すぎる。評価方法に疑問があり、評価に不均衡があるのではないか』等の主張をしたのに対し、第二回口頭審理において、市固定資産評価員より、『本件土地を宅地・普通住宅地区とみたこと、市街地宅地評価法によつて評価算定したこと、標準地については小金井市本町六丁目一八二七番ノ四の宅地を選定し、その価格は二万三四〇〇円評点二三、四〇〇点と評価しこれに比準して本件土地に評点数を付したこと、指示平均価格は一万七四六二円であること』が明らかにされただけで、それ以上詳細にわたつての評価根拠は一切明らかにされず(しかも明らかにされた右指示平均価格も誤りであつて、真実は一万四七二七円であつた。)控訴人も、市長側にこれ以上の説明を求めず、自ら説明もしなかつた。右第二回口頭審理において、被控訴人は、『土地、家屋に別別に課税することは二重課税である』等主張しまた市長側に対し詳細な評価根拠の説明をなすべきことを求め、証拠調の申出をしたが、委員会はその必要なしとして口頭審理を終了した。そこで、被控訴人は同年六月八日付で、『一、市長所有地の評価及びその計算根拠、二、標準宅地の所有者が誰か、評価の計算根拠、三、路線価を定めた計算根拠、四、本件土地の評点数を付した計算根拠、五、評点一点当りの価格決定の計算根拠、六、指示平均価格及びその計算根拠、七、本件家屋についての評価についての同様の根拠』等の明示を求むる旨の書面を委員会に提出したところ、市長は、同日付の再答弁書を委員会に提出し、右再答弁書には、被控訴人が求めていた右一乃至七の各点について、具体的な、数式まで付して評価の方法、計算根拠が明示されていた。しかるに、委員会は、右再答弁書を被控訴人に送付するとか、閲覧させてその内容を同人に了知させる措置を全く講じないまま、同日付で本件審査決定に及んだ。」

原審証人鴨下利一郎、同村越武彦、当審証人斉藤肇、同林茂夫の証言中右認定に牴触する部分は信用し難く他に右認定に反する証拠はない。

以上認定事実によると、被控訴人も、本件審査請求の申出事由として、「時価による評価は違憲である」「土地・家屋に別別に課税することは二重課税である」等不相当な主張をもしているのであるが、基本的には、本件評価が高すぎること、その評価の計算根拠を知りえず、またその方法に疑問があつて、承服しがたいことを主張しているのであり、これに対して、控訴人は市長側に対し、第二回口頭審理において前述のごとく僅かに評価委員に前記程度の説明をさせたにとどまり、折角市長側から本件評価についての詳細な根拠や数式を明示した再答弁書が提出されているのに被控訴人にその内容を了知させるなんらの方法をとらないまま本件決定にいたつたものであり、被控訴人はそのためついに本件評価の具体的な計算根拠や過程を知らされないまま、したがつて、たとえ、これを知れば不服の点があり得る場合でもこれを本件審査手続において、具体的実質的に述べる機会を奪われたまま本件決定を受けるにいたつたことが明らかである。右は実質的に審査請求申出人に申出事由を述べさせるにひとしく審査手続の公正を欠くものであつて重大な審査手続の瑕疵であり、本件審査決定の取消事由となるものといわなければならない。

なお、本作審査は、審査請求申出の日より三〇日以内になすべきことと定められているが、右日時を厳守するために、手続の本質上の要請である右計算根拠等の明示等の省略の許されないことは勿論である(本件決定は現に右期限内になされていない。)。

3  審査決定自体について

乙第一一号証によると、本件審査決定においては、決定理由としては、単に「本件評価は固定資産評価基準によつて適法に評価されたものである。環境、用途、形状等に応じて評価したものであつて他に比較して評価が不均衡ではない。」等きわめて抽象的、簡単な記述があるにすぎないことが認められる。

およそ行政不服審査における裁決には理由を付すべきことは行政不服審査法四一条一項に規定されているところである。本件審査決定については特に右規定の準用はされていないが(地方税法四三三条七項)、それは決してその形式内容において自由であることを意味するものではなく、右決定については決定書の作成を要することは本件条例一〇条の明定するところであり、また審査請求の性質から見て相当の理由を付することはこれを要するものと解するのが相当である。そして右相当の理由とは、審査請求申出人が決定のよつて生ずる根拠を具体的に知りうる程度の理由であり、固定資産評価の前述のような構造、仕組からみて、市長が前記再答弁書でなした程度の評価方法、計算根拠にかんする具体的な説示を要するものといわざるをえない。蓋しこれがなされなければ、審査請求申出人としては、いかなる根拠で右決定がなされたかを知る手がかりがないからである。すると、本件審査決定に付された前掲記のごとき記述をもつてしては、決定に理由が付されたものとはいいえず、結局本件決定は決定に理由を付さなかつたという重大な瑕疵があり、取消を免れないというべきである。

三  以上のとおりであつて、本件審査決定は前項2、3いずれの観点からしても違法であるから、これを取消すべく、これと結論を同じくする原判決は結局相当である。よつて本件控訴を棄却し、控訴費用につき民事訴訟法第九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川添利起 裁判官 長利正己 裁判官 田尾桃二)

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