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東京高等裁判所 昭和42年(う)1315号 判決 1970年11月10日

本店

神奈川県川崎市有馬字東耕地二千八百一番地の三理研電子株式会社

右代表取締役

安永宗一郎

安永宗明

本籍並びに住居

東京都大田区田園調布四丁目二十八番地の四

会社々長

安永宗一郎

昭和五年五月三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、昭和四十二年四月十九日横浜地方裁判所が言渡した有罪の判決に対し各弁護人緒方浩から適法な控訴の申立があつたので当裁判所は次のように判決する。

主文

原判決を破棄する。

被告人安永宗一郎を罰金参百五拾万円に処し、

被告会社を罰金四百五拾万円に処する。

被告人安永が右罰金を完納することができない

ときは、金五千円を壱日に換算した期間同被告

人を労役場に留置する。

原審に於ける訴訟費用並びに当審に於ける訴訟

費用中、証人小島昭、同若月誠に対する支給分

を除くその余は、被告人安永及び被告会社の連

帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人緒方浩提出の控訴趣意書及び各控訴趣意補充申立書に記載された通りであり、之に対する答弁の要旨は、東京高等検察庁検事古谷菊次提出の答弁書に記載された通りであるから、茲に之らを引用し、之に対し次のように判断する。

なお、本判決に於ける略語例は次の通りである。

三十七年度は、昭和三十七年一月一日以降同年十二月三十一日迄をいう。

三十八年度、三十九年度、四十年度は、昭和三十八年、同三十九年、同四十年に付て順次右に準ずる。

銀行等の金融機関の名称に付て。

三菱、住友、富士、第一、埼玉、神戸、三井、東海、北国、都民、三和、広島、香港上海、横浜、朝日、七十七、協和、東京は、夫々その文字を冠する銀行(例えば、三菱は三菱銀行)を意味し、その文字に続く文字の内、本店は当該銀行の本店(例えば、三菱・本店は三菱銀行本店)を、地名は当該銀行の当該地名を冠した支店(例えば、三菱・渋谷は三菱銀行渋谷支店)を意味し、

城南は、城南信用金庫、

神相は、神戸相互銀行、

日相は、日本相互銀行、

東相は、東京相互銀行、

勧銀は、日本勧業銀行、

日銀は、日本銀行、

日信は、日本信託銀行、

安信は、安田信託銀行、

中信は、中央信用金庫、

を夫々意味し、之らに続く文字の内、本店の文字及び地名の意味は、夫々前掲銀行等の例に準ずる。

税務記録第58号上申書は、安永宗一郎作成の昭和四十一年六月十八日付、昭和三十八年一月一日以降同年十二月三十一日迄の事業年度に於ける簿外取引並びに簿外資産及び負債に付ての上申書をいう。

税務記録第59号上申書は、右同人作成の昭和四十一年六月十八日付、昭和三十九年一月一日以降同年十二月三十一日迄の事業年度に於ける簿外取引並びに簿外資産及び簿外負債に付ての上申書をいう。調書は、当審に於ける受命裁判官の証人尋問調書を意味し、之に冠せられた人名は、当該証人の氏名を意味する(例えば、坂寄調書は、当審に於ける受命裁判官の証人坂寄繁に対する尋問調書)。

検供は、検察官に対する供述調書を意味し、之に冠せられた人名は、当該供述者の氏名を意味する(例えば、高木政郷検供は、高木政郷の検察官に対する供述調書)。

質問顛末書は、大蔵事務官の質問顛末書を意味し、之に冠せられた人名は、質問を受けて供述した供述者の氏名を意味する(例えば、半田幸一質問顛末書は、大蔵事務官の半田幸一に対する質問顛末書)。

銀行調査書は、大蔵事務官松田勝春作成、昭和四十一年七月二十日付、税務記録第152号銀行調査書をいう。

三十八年度元張は、被告会社の昭和三十八年度総勘定元帳(当庁昭和四十二年押第四二九号の九号)をいう。

三十九年度元張は、同じく昭和三十九年度総勘定元張(同押号の一二号)をいう。

三十九年度売上経費帳は、同じく昭和三十九年度売上経費帳(同押号の一〇号)をいう。

各会社名の接頭若しくは接尾の(株)は、株式会社を意味し、(有)は、有限会社を意味する。

控訴趣意第一点(法令違反の主張)に付て。

所論に鑑み、本件起訴状記載の公訴事実と原判決認定の犯罪事実とを対比すると、三十九年度の被告会社の実際所得額及び逋脱所得額に於て各八十二円、実際法人税額及び逋脱法人額に於て各四十円、原判決の認定額は起訴状記載の当該金額より増加していることが認められるが、それは、当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述に依れば、城南・目黒の須藤明名義、普通預金口座に於て発生した三十九年度上半期利息八十二円(城南・目黒支店長岡田孝三証明書、三三六丁五段目参照)を、起訴状に於ては誤つて三十八年度の計上漏れ受取利息に計上したのを、原判決に於てその誤を正し、三十九年度の計上漏れ受取利息に計上したことに由来することが明白であり、原審検察官は、既に原審第四回公判期日に於て右の誤に気付き、起訴状記載の公訴事実中、三十八年度の被告会社の実際所得額を八十二円減額する旨訴因の変更を請求し、被告人側は右訴因の変更は異議が無い旨述べ、原裁判所は右訴因の変更を許可する旨決定し、その際原審検察官としては、右訴因の変更請求と共に併せて、起訴状記載の公訴事実中、三十九年度の被告会社の実際所得額を八十二円増額する旨訴因の変更を請求すべきことを失念したが、原裁判所は、判決に於て、

三十八年度に付て、右の如く変更された訴因に基づき、被告会社の実際所得額及び逋脱所得額を各八十二円、実際法人税額及び逋脱法人税額を各四十円、起訴状記載の当該金額より減額して認定すると共に、

三十九年度に付て、右に対応し、訴因の変更請求は無かつたが、被告会社の実際所得額及び逋脱所得額を各八十二円、実際法人税額及び逋脱法人税額を各四十円、起訴状記載の当該金額より増額して認定した

ことが、一件記録上認められる。

而して、右の如く被告会社の三十八年度の実際所得額から減額され、三十九年度の実際所得額に増額されるべき八十二円が、城南・目黒の須藤明名義、普通預金口座に於て発生した三十九年度上半期利息八十二円に相当することは、前掲城南・目黒支店長岡田孝三証明書を含む殆ど総ての証拠が取り調べられ且前掲訴因の変更が為された原審第四回公判期日に於ては被告人側にも当然判つていた筈であり、従つて、前掲訴因の変更が為された訴訟経過に鑑みれば、之に対応し、訴因の変更請求は無いが、三十九年度の実際所得額が起訴状記載の当該金額より八十二円自動的に増加することは、被告人側にも当然判る筈であるから、原判決の叙上措置を目して、訴因制度の趣旨に反し被告人の防禦に実質的な不利益を惹起し、その訴訟上の権利を侵害したと非難するのは失当である。

原判決には所論の瑕疵は存せず、論旨は理由がない。

同第三点(事実誤認の主張)に付て。

所論はその前提として、原判決が証拠として挙示した税務記録第58号及び第59号各上申書は、東京国税局係官が偽造したか又は被告人安永を強制して作成された文書である旨主張する。

然し、右各上申書は、被告人安永の記名及び押印が有る同人作成名義の供述書であつて、その供述が同被告人に不利益な事実の承認を内容とするものであるところ、

(一)  同被告人は、原審第一回公判期日に於て、被告会社の簿外売上高を右各上申書記載の通りに摘示した本件起訴状記載の公訴事実はその通り相違無い旨陳述し、

(二)  同被告人及び原審弁護人は、原審第三回公判期日に於て、検察官が取調を請求した右各上申書を含む証拠書類及び証拠物の総てに付て、証拠書類は之を証拠とすることに同意し、証拠物の取調には異議が無い旨の意見を述べ、

(三)  坂寄調書に依れば、右各上申書は、公認会計士坂寄繁が被告会社から依頼を受け、東京国税局に赴いて、同局が被告会社から差し押えた三十八年度及び三十九年度各元帳、三十九年度売上経費帳を含む諸帳簿を閲覧し、売上に付ては、売上先、口座別に之を分解し、他方被告会社の裏預金関係を調査し、売上先から裏預金口座に入金されているものを拾い上げ、不明な諸点に付ては同局係官の説明を受け、自ら調査できない諸項目に付ては同局係官から関係資料を見せて貰つた結果に基づき作成したものであつて、各上申書の初頁(八三一丁及び八三五丁)を除く爾余の部分の文字及び数字は、安永宗一郎の記名部分を含めて坂寄繁若しくは同人方の事務員の手書に成り、書面が出来上つてから坂寄繁が書面の概略を被告人安永に説明し、同被告人は納得のうえでその記名欄の名下に自ら押印したこと、従つて、同被告人は之に盲判を押したのではないことが明白であり、所論の如く、東京国税局係官が擅に安永宗一郎名義を用いて書き上げ、同人の印顆を昌用し押捺して作成したとか又は同人を強制して作成させたと疑うべき事実は全く無いことが認められ(四十三年九月十七日付松田調書及び当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述参照)、

(四)  同被告人自らも、四十一年八月二十六日付検供に於て、右各上申書は、公認会計士坂寄繁に調べて貰い、自分が検討して作成提出したもので、内容に相違がない旨供述している位であつて、

所論は殊更真実を歪曲して関係者を誹謗する不当極まる妾言というの他なく、右各上申書が真正且任意に作成された被告人安永の供述書であることに疑を挾むべき余地は寸毫も存しない。

進んで、所論が原判決の事実認定に誤が有る旨主張する

その一 簿外売上高

その二 簿外支出高

その三 簿外受取手形

の諸項目に付て審按する。

その一、簿外売上高に付て。

三十八年度及び三十九年度各簿外売上高に付て、所論が事実誤認を主張する諸項目並びに当審に於ける事実取調の結果事実誤認の疑の存する諸項目を検討し、三十八年度簿外売上高を本判決末尾の別表一摘示の通り認定し、三十九年度簿外売上高を同別表二摘示の通り認定するが、その認定の理由は左記の通りである。

別表一、三十八年度簿外売上高に付て。

1  山形大学に対する二十五万二千円

銀行調査書に依れば、

(1)  三十八年一月三十一日三菱・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、同年同月二十二日山形大学振出の小切手に依り二十五万円が入金され(二〇五丁六段目)、

(2)  同年八月十四日住友・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、山形大学振出、富士・本店払の小切手に依り二千円が入金され(一九七丁一段目)

た事実が認められるが、三十八年度元帳には、山形大学との取引に付て、三月四日九万五千円の売上、五月三十一日当座預金へ九万五千円入金の旨の記載が有る丈で、右二十五万円及び二千円に夫々照応する売上及び入金の記載が無い。

所論は、右のうち二十五万円は、被告会社が同大学に対し三十七年十一月末日に発送して販売した記録計の代金に相当し、被告会社の同大学に対する発送書、納品書、代金請求書等の提出並びに同大学の買受物品検収、会計上の諸手続を経て代金支払小切手が被告会社に到達する迄少くとも一箇月を要する実情から推して、その売上は三十七年度に属する旨主張する。

然し、

(一)  若し所論の如く、右記録計の売上が三十七年度に属し、唯その入金が三十八年一月に持ち越されたものとすれば、該代金二十五万円が三十八年度期首売掛金に計上されなければならない筈のところ、税務記録第58号上申書中、山形大学に対する期首売掛金は零と記載されていること及び

(二)  弁第五号証(山形大学工学部会計係回答書)に依れば、同係が注文し納入を受けたものの代金は、その都度早急に支払つていると認められること

に徴すると、被告会社が同大学に対し右記録計を発送した時期は如何様にもせよ、同大学に於ては三十八年一月に入つてから該物品を検収確認したうえ遅滞なく同年同月二十二日前記二十五万円の小切手を振り出して支払を為したもので、従つて、被告会社の同大学に対する該物品の給付完了、即ち売上は三十八年一月に行われていると認めるのが相当であり、過年度売上の所論は採るを得ない。

5 大成建材(株)に対する八千九百円

銀行調査書に依れば、三十八年四月三十日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月二十二日大盛建材(株)振出、第一・銀座払、八千九百円の小切手が入金された事実が認められるが、(一九三丁四段目)、三十八年度元帳には、大盛建材(株)は固より、大成建材(株)若しくは大成建材工業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、一件記録に依れば、被告会社は電子応用の計測器、記録器、計量器、測定装置等の計器類の製造及び販売を営業目的とする会社であるところ、本件の売上先と考えられるものの内、大成建材工業(株)は、弁第五四号証(三十九年六月二十二日大成建材工業(株)の社名を変更した(株)イイクボ取締役社長飯窪幸長証明書)に依れば、三十八年四月二十五日八千九百円の小切手を振り出して支払を為した事実が無く且同会社は所謂土建業者であつて、被告会社の製品を購入する如き事実の無いのは固より、被告会社との取引関係は皆無であることが認められ、爾余の大盛建材(株)若しくは大成建材(株)にしても、その社名から推して被告会社の製品を購入する如き業種に属するものとは思われないから、本件の八千九百円が叙上諸社に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難い。

仮に、本件小切手が所謂廻し小切手であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由がある。

6 オリジン電気(株)に対する二万二千二百円

銀行調査書に依れば、三十八年四月三十日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月二十五日オリジン電気(株)振出、埼玉・池袋払、二万二千二百円の小切手が入金された事実が認められる(一九三丁五段目)。

所論は、右二万二千二百円は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する

按ずるに、三十八年度元帳には、オリジン電気(株)に対する売上として、

<省略>

計十七件、八十八万三千円が記載されているが、弁第六号証(オリジン電気(株)回答書)添付の被告会社から仕入明細書三十八年度分(VO2)に依れば、計上十一件、九十一万円の仕入をした事実が認められ、被告会社が申告した公表売上高八十八万三千円は実際売上高九十一万円より二万七千円少く且三十八年度元帳には本件の二万二千二百円に照応する売上及び入金の記載が無いから、原判決が公表売上高と実際売上高との差額二万七千円以内である二万二千二百円を以て簿外売上高と認定したことに過誤は無く、之を二重計上であるとする所論は採るを得ない。

9 昭和測器(株)に対する一万七千円

銀行調査書に依れば、三十八年六月四日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年五月三十一日(株)昭和測器研究所振出、第一、神田駅前払、一万七千円の小切手が入金された事実が認められる(一九三丁九段目)。

而して、三十八年度元帳には、(株)昭和測器研究所との取引に付て、十一月二日三十万六千円の売上、同月五日受取手形に依り三十万六千円入金の旨の他、四月九日一万七千円の売上、六月二十八日当座預金へ一万七千円入金の旨の記載が有り、之と本件の一万七千円とは金額的に一致するが、この両者は入金日及び入金先が異なるから、別個の取引に属し且三十八年度元帳には本件の一万七千円に照応する売上及び入金の記載が無いから、本件の一万七千円が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

なお、売上先の名称は、(株)昭和測器研究所と表示するのが正当である。

10 トヨタ商会に対する五千五百円

銀行調査書に依れば、三十八年六月二十二日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、トヨタ商店振出、神戸・姫路払の小切手に依り五千五百円が入金された事実が認められるが(一九三丁一二段目)、三十八年度元帳には、トヨタ商店との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた見積書綴(証第一六号―検符二三の一六)中には、被告会社の豊田商店に対する三十八年四月八日付高速平衡記録計ER/G型の修理代五千五百円の見積書一通(H一八五号)が存し、この修理受注日付及び修理代見積額と本件の入金日付及び入金額とを比較対照すると、本件の五千五百円は、被告会社が豊田商店の注文を受けて右記録計を修理した代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

なお、売上先の名称は、豊田商店と表示するのが正当である。

11 (株)中央理研に対する四万九千五十円

銀行調査書に依れば、

(甲) 住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、(株)中央理研振出、富士・小舟町払の小切手に依り、

(1) 三十八年七月二日三千六百円(一九三丁一三段目)、

(2) 同年七月二十四日八千一百円(一九三丁二〇段目)

(3) 同年八月三十一日六千三百円(一九四丁四段目)、

(4) 同年九月七日五千八百五十円(一九四丁六段目)、

(乙) 住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、(株)中央理研振出、富士・小舟町払の小切手に依り、

(1) 同年一月二十五日六千三百円(一九九丁一七段目)、

(2) 同年三月九日三千六百円(二〇〇丁一九段目)

(3) 同年同月十八日六千三百円(二〇〇丁一二段目)

(4) 同年同月二十三日九千円(二〇〇丁一四段目)

が夫々入金された事実が認められるが、三十八年度元帳には、(株)中央理研との取引に付て、二月七日三千六百円の売上、三月一日当座預金へ三千六百円入金の旨の記載が有る丈で、右(甲)の(1)乃至(4)及び(2)の(1)乃至(4)の合計四万九千五十円に夫々照応する売上及び入金の記載が無い。

而して、当審に於て取り調べた高木政郷((株)中央理研代表取締役社長)検供に依れば、(株)中央理研は、測定器、顕微鏡等の理化機器類の販売を営業目的とする会社で、三十八、九年頃被告会社からXY軸記録計用紙を何回かに亘り仕入れた事実が有ること、(株)中央理研は、富士・小舟町を主な取引銀行としているが、同会社が三十八、九年頃に小切手を振出しその小切手が被告会社の預金に入金されているとすれば、それは右記録計用紙の仕入代金の支払に充てられたものに相違なく、(株)中央理研が一万円未満の小切手を金融機関でない被告会社に換金して貰う為めに振り出した事実は更に無いことが認められ且三十八年度元帳に記載されている前記三千六百円の売上は、前記(甲)の(1)及び(乙)の(2)の各三千六百円と金額的には一致するが、入金日及び入金先が異なるから、それらとは別個の取引に属し、従つて、本件の八口、合計四万九千五十円は、凡て被告会社が(株)中央理研に販売した記録計用紙の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

13 松村創に対する六百円

銀行調査書に依れば、三十八年七月十二日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月四日松村創振出、第一・麻布払、六百円の小切手が入金された事実が認められるが(一九三丁一六段目)、三十八年度元帳には、松村創との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、松村創の業種及び同人が被告会社の製品を購入したことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であるから、本件の六百円が松村創に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件小切手が所謂廻し小切手であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

14 (有)西村秀久堂に対する四千五百円

銀行調査書に依れば、三十八年七月十六日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月十二日(有)西村秀久堂振出、三菱・中野払の小切手に依り四千五百円が入金された事実が認められるが(一九三丁一八段目)、三十八年度元帳には、(有)西村秀久堂との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた西村亀之助((有)西村秀久堂代表取締役社長)検供に依れば、(有)西村秀久堂は、文房具の御小売を営業目的とする会社で、四十二年頃迄に被告会社と約三回取引した事実が有ること、(有)西村秀久堂は三菱・中野と長年当座取引をしているが、本件の小切手は、同会社が被告会社から用紙類を買つた仕入代金の支払に充てられたものに相違なく、被告会社とは右三回位の取引関係丈で、手形割引、小切手換金等の関係は皆無であることが認められるから、本件の四千五百円は、被告会社が(有)西村秀久堂に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

15 (有)竹本電機製作所に対する八万円

銀行調査書に依れば、三十八年八月十四日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月同日(有)竹本電機製作所振出、城南・渋谷払、八万円の小切手が入金された事実が認められるが(一九三丁二二段目)、三十八年度元帳には、(有)竹本電機製作所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の小切手は、被告会社の(有)竹本電機製作所に対する貸金の返済として受領したものであつて、同会社に対する売上代金ではない旨主張する。

按ずるに、弁第九号証の一、二(何れも(有)竹本電機製作所代表取締役竹本増蔵証明書)に依れば、(有)竹本電機製作所は、被告会社から注文を受けて納品する立場に在つて、被告会社からその製品を購入した事実の無いこと及び本件の小切手は、(有)竹本電機製作所が盆の節季の支払に窮して被告会社から金員の融通を受けるに当り被告会社に差し入れたるものであることが認められ、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果にしても、叙上認定を覆して本件の小切手が被告会社の(有)竹本機製作所に対する自社選品の売上代金に該当すると認めるに足りる証拠は無い。

所論は理由が有る。

16 (株)新進商店に対する三千九百六十円

銀行調査書に依れば、三十八年八月十四日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月七日(株)新進商会振出、三井・三田払、三千九百六十円の小切手が入金された事実が認められるが(一九三丁二三段目)、三十八年度元帳には、(株)新進商会との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた小泉是教((株)新進商会営業担当者)検供に依れば、(株)新進商会は、電子計算機用品等の販売を営業目的とする会社で、曾て被告会社から計測器の記録用紙類を仕入れて日本電気(株)に取次販売した事実の有ること、本件の小切手は、(株)新進商会が日本電気(株)の依頼を受けて被告会社から右記録用紙類を買つた仕入代金の支払に充てられたもので、(株)新進商会が斯る程度の額面の小切手を被告会社に割り引いて貰つたり、換金して貰つた事実は無く、その程度の金には困つていなかつたことが認められるから、本件の三千九百六十円は、被告会社が(株)新進商会に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

なお、売上先の名称は、(株)新進商会と表示するのが正当である。

22 板倉化工機械に対する二万二千五百円

銀行調査書に依れば、三十八年十月五日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年七月四日板倉化工機械振出、城南・本店払の小切手に依り二万二千円が入金された事実が認められるが(一九四丁一六段目)、三十八年度元帳には、板倉化工機械との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

それ故、本件の二万二千五百円(入金は二万二千円)は被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨の二重計上の主張は採るを得ないが、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、板倉化工機械の業種及びそれが被告会社の製品を購入したことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であり且本件の簿外売上高とされている金額と入金額とは一致しないから、入金に係る二万二千円が板倉化工機械に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件小切手が所謂廻し小切手であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は結局理由が有る。

24 日本測器(株)に対する一千二百五十九万五千一百三十円及び

25 (株)小沢製作所に対する二百二十七万一千二百五十円

一 日本測器(株)に付ては、銀行調査書に依れば、

(甲) 住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、日本測器(株)振出、第一・神戸払の約束手形に依り、

(1) 三十八年十一月二日七十四万九千八百八十四円(一九五丁二段目)、

(2) 同年十二月十日四十二万五百八円(一九五丁一五段目)、

(3) 三十九年二月十日八十万六千三百円(一九六丁六段目)、

(4) 同年三月十日一百二十六万四千八百円(一九六丁一四段目)、

(乙) 住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、日本測器(株)振出、住友・神戸払の約束手形に依り、

(1) 三十八年七月十日六十六万三千五百二十円(二〇一丁一五段目)、

(2) 同年八月十日四十九万七千六百八十円(二〇一丁一八段目)、

(丙) 三菱・自由ヶ丘の豊田宏昌名義、普通預金口座に、日本測器(株)振出、第一・神戸払の約束手形に依り、

(一) 三十九年四月十三日一百十五万三千二百十円(二〇七丁一段目)。

(2) 同年五月十三日四百二万二千九百八十円(二〇七丁二段目)、

(丁) 三井・自由ヶ丘の豊田宏昌名義、普通預金口座に、日本測器(株)振出、第一・神戸払の約束手形に依り、

(1) 同年六月十日一百二十六万二千八百三十二円(二一一丁二段目)、

(2) 同年七月十日二十万一千八十円(二一一丁三段目)

が夫々入金され、住友・渋谷支店長朝江清証明書に依れば、三十九年一月十日住友・渋谷の内藤信次名義、銀行預け金口座に、一百五十五万二千一百四円が入金され(二八五丁裏下段)た事実が認められ、以上の合計一千二百五十九万四千八百九十八円に現金に依る入金額二百三十二円を加えた総計一千二百五十九万五千一百三十円が簿外売上高とされているが、三十八年度元張には、日本測器(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、日本測器(株)専務取締役能野勝一供述書、同添付の被告会社製造に係るXY軸記録計等の仕入明細書三十八年度分に依れば、被告会社からの仕入は無いが、東京都千代田区神田小川町一の十、三勢ビル内の東栄電機産業からの仕入として、

日本測器(株)本社に於て、一百十万五千三百六十八円、

同会社大阪営業所に於て、一千二百三十二万三千五百五十四円、合計一千三百四十二万八千九百二十二円が有り、この総仕入額に付て、同年度期中の値増額一百八十円を加算し、値引額五千九百七十二円及び仕入の重複記載額六十六万円を除算すると、一千二百七十六万三千一百三十円を仕入れている事実が認められる。

二 (株)小沢製作所に付ては、銀行調査書に依れば、

(甲) 住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、(株)小沢製作所振出、神戸・名古屋払の約束手形に依り、

(1) 三十八年十一月十一日三十二万九千八百五十円(一九五丁三段目)、

(2) 三十九年二月十日七十九万八千円(一九六丁七段目)、

(乙) 住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、

(1) 三十八年三月十九日、東栄電機商事振出、神戸・東京払の約束手形に依り十万二百六十円(二〇〇丁一三段目)、

(2) 同年七月一日、三菱モンサント化成(株)振出、三菱・本店払の約束手形に依り四十五万三千六百十九円(二〇一丁一一段目)、

(3) 同年同月同日、三菱化学工業(株)振出、東海・東京払の約束手形に依り二十二万一千二百四十一円(二〇一丁一二段目)、

(丙) 三十九年八月十五日城南・目黒の白川博名義、別段預金(一時預り口)口座に、(株)小沢製作所振出、神戸・名古屋払の約束手形に依り三十六万九千円(二二〇丁一一段目)

が夫々入金された事実が認められ、以上の合計二百二十七万一千九百七十円から三十七年度分入金額七百二十円を控除した残額二百二十七万一千二百五十円が簿外売上高とされているが、三十八年度元帳には、(株)小沢製作所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、(株)小沢製作所経理係長田島忠男上申書、同添付の被告会社製造に係るXY軸記録計等の仕入明細書三十八年度分に依れば、被告会社からの仕入は無いが、東京都千代田区神田小川町一の十、三勢ビル内の東栄電機産業から総計二百二十七万一千二百五十円を仕入れている事実が認められる。

三、叙上日本測器(株)本社及び大阪営業所の東栄電機産業からの仕入高合計一千二百七十六万三千一百三十円、(株)小沢製作所の東栄電機産業からの仕入高二百二十七万一千二百五十円の総計は一千五百三万四千三百八十円と成るところ、三十八年度元帳には、「東栄電機産業」に対する売上事実の記載は無いが、「東栄電機」に対する売上として、一月八日以降十二月四日迄、計三十五件、一千一百六十万九千一百四十二円の記載が有るから、若し、東栄電機産業が真に実在し、被告会社からその製品を買い受けたうえ之を日本測器(株)及び小沢製作所に販売した事実が有り且右三十八年度元帳の記載に誤が無いとすれば、被告会社の日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対する簿外売上高であると認定されている取引金額は、その内右元帳に東栄電機に対する売上として記載されている一千一百六十万九千一百四十二円の限度に於て、実質的に公表帳簿に売上として記載され、既に当該年度に於て課税済であるものを簿外売上高に二重計上した過誤が有るや思料されない訳ではない。

そこで、以下、右東栄電機産業の実在性の有無及び三十八年度元帳中の東栄電機に対する売上の記載の正否を審究する。

(一)  東栄電機産業の実在性の有無に付て。

当審第八回公判期日に於ける証人田丸誠次及び被告人安永の各供述に弁第六〇号証(東栄電機産業名義の封筒)を綜合して考察すると、東栄電機産業は、柴田勝を経営責任者とする実在の非法人業者であつて、東京都千代田区神田小川町一丁目十番地三勢ビル及び同都渋谷区桜ヶ丘三十二番地相互第五ビル内に営業所を設け、被告会社からその製品を一旦買い取つたうえ、完成品はその儘で、未完成品には手を入れて、之を他に販売していたことを認め得べきが如くである。

然し、抑、被告人安永は、本件捜査の段階に於て、東栄電機産業は、被告会社が法人税を逋脱する方法の一つである売上除外の為めに使用した架空の売渡人名義の一つであり、東栄電機産業名義を使用して売上除外をした売上先は、日本測器(株)、(株)小沢製作所等である旨供述し(四十一年六月十一日付被告人質問顛末書、同年八月二十六日付被告人検供各参照)、原審公判廷に於ても、東栄電機産業名義を使用して日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対し為した売上除外の事実を含む本件公訴事実を全面的に自白し乍ら(原審第一回公判調書参照)、当審に至つて初めて、東栄電機産業は真に実在し、被告会社の日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対する売上除外と認定されている取引は、被告会社が一旦東栄電機産業に対し売り渡した物品を、東栄電機産業がその名に於て且その計算に於て更に日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対し売り渡した取引に該当し、被告会社の東栄電機産業に対する右物品の売渡は、被告会社の公表帳簿にその旨記載されてある旨主張し、曾て本件捜査の段階から原審公判廷を通じ右の旨を主張しなかつたのは、日本測器(株)及び(株)小沢製作所そのものに対する売上の事実が公表帳簿に記載されていない以上、それが売上除外と認定されても巳むを得ないが、精々罰金刑で済む位に考え、敢えて争わなかつた旨弁疏するのであるが、同被告人は、原審判決に於て、罰金刑ではなく、執行猶予付とはいえ懲役刑の言渡を受けたに拘らず、控訴趣意書に於ては、東栄電機産業の実在性を主張していないのは勿論のこと、東栄電機産業名義を使用して日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対し為した売上除外の事実に関し、単に日本測器(株)に対する三十九年度簿外売上高の計算違を主張するに止まり(四十三年三月一日付反論及び補充申立書参照)、何等の主張を為さず、当審第四回公判期日の最終弁論の段階に至つて突然東栄電機産業の実在性を主張し初めた経緯に徴すると、同被告人の右弁疏は輙く措信し得ない。

加之、

(1)  東栄電機産業の営業所が置かれてあつたという三勢ビルは、三勢地所(株)の所有建物であるが、三勢地所(株)は、同ビルの一部を東栄電機産業に対しては勿論のこと、柴田勝や田丸誠次にも賃貸した事実の無いこと(当審ヌ第八回公判期日に於ける証人百木敏郎の供述及び当審に於て取り調べた三勢ビルの移転先名簿各参照)、

(2)  同じく相互第五ビルの一室は、被告会社が自社の社名を宣伝する目的を以て、被告会社が同ビル所有者たる相互ビル(株)から賃借し、権利金及び賃料を支払い、同所に於ては被告会社製品の販売は行われていなかつた事実(四十年八月三十一日付、四十一年五月十四日付各被告人質問顛末書、相互ビル(株)取締役社長西郷之厚上申書、同添付の各書面参照)、

(3)  東栄電機産業名義に依つては所轄税務署に対し納税に関する申告は為されず、固有の銀行口座も無かつたものの如く、田丸誠次は、東栄電機産業名義で被告会社の製品を販売するに当り、被告会社営業部の肩書付名刺を使用し、被告会社営業担当者青木隆平を同行し若しくは販売先に差し向け、売買の契約書類、代金領収書等には売渡人名義として被告会社を表示した事例が少くない事実(前記当審証人田丸誠次の供述参照)、

(4)  右田丸証人の供述に依れば、東栄電機産業は、その営業所を三十七年七月頃神田の三勢ビルから渋谷の相互第五ビルに移転したというに拘らず、前記能野勝一供述書及び田島忠男上申書に依れば、日本測器(株)及び(株)小沢製作所に於ては、三十八年度中に、被告会社の製品を右神田の三勢ビル内の東栄電機産業から仕入れており且日本測器(株)はこの神田の三勢ビル内の東栄電機産業からの仕入に際し、東栄電機産業に対する連絡その他を一切被告会社にしていた事実及び(株)小沢製作所は被告会社との取引に於て、三十九年三月迄被告会社が東栄電機産業名義の領収書等を使用することに不審を抱いていた事実

等に徴すると、東栄電機産業が真に実在した旨の前記当審証人田丸誠次の供述も亦措信するに足りない。

結局、東栄電機産業は、被告人安永が本件捜査の段階に於て自供した如く、被告会社の簿外売上に際し、売渡人名義として使用した名称に過ぎず、実在性が無く、その実体は被告会社そのもので、東栄電機産業名義に依る売上金は悉く被告会社に帰属していたものと認めるのが相当であり、記録及び当審に於ける事実取調の全結果を考慮に容れても、叙上認定を覆すに至らない。

(二)  三十八年度元帳中の東栄電機に対する売上の記載の正否に付て。

当審第八回公判期日に於ける被告人安永の供述、土肥調書、金子調書、松田調書(四十五年七月二十八日付)並びに当審に於て取調べた

(1)  被告会社に関する三十八年度法人税決議書綴一冊(証第三五号)

(2)  東京国税局収税官吏大蔵事務官百木敏郎外五名の調査事蹟書

(3)  左記各銀行の証明書

<省略>

(4)  左記の者の上申書、証明書若しくは回答書と之らに添付の書面

(有) 平沢製作所代表取締役平沢喜久雄(上申書)

大日本製糖(株)財務課長堀川勝夫(上申書)

財団法人電力中央研究所財務室経理課副長山根慧支(証明書)

財団法人癌研究会事務局長白瀬五郎(証明書)

東産業(株)経理担当者田村誠(上申書)

動力炉核然料開発事業団財務部長小野喜重郎(証明書)

カール・ツアイス(株)チーフ・アカウンタント、クアン・ピ・チ(回答書)

東京工業試験所長太田暢人(証明書)

電気試験所長森英夫(証明書)

世紀産業(株)管理課長笠井敏子(上申書)

中央電気通信学園長田中一郎(証明書)

日本製線(株)経理課長田中実(回答書)

を綜合し且三十八年度元帳の売上科目欄に記載された文字及び数字の筆跡と爾余の諸科目欄に記載された文字及び数字の筆跡とを比較対照すると、三十九年四月頃川崎税務署法人税担当官の大蔵事務官土肥達己、同金子清、同内田照臣が被告人会社に赴いて法人税に関する一般調査を実施した際に被告会社から任意提出を受けて預かり調査した時の被告会社の三十八年度総勘定元帳の記載内容と、現に押収されている同会社の三十八年度元帳の記載内容とは、その各売上科目欄に於て、現に押収されている三十八年度元帳には、「東栄電機」に対する売上事実として一月八日以降十二月四日迄、計三十二件、一千一百六十万九千一百四十二円の記載が有るが、右一般調査の際に調査した三十八年度総勘定元帳には、右「東栄電機」に対する売上事実の記載が無く、その代り平沢SS等を売上先とする売上高合計に於ては右に全く一致する売上事実の記載が有り、被告会社に於ては、右一般調査の際に任意提出した三十八年度総勘定元帳の返還を受けた後、その売上科目欄中、平沢SS等を売上先とする売上高合計一千一百六十万九千一百四十二円の売上事実を、被告人の指示に依り、左記三十八年度総勘定元帳改竄対照表記載の如く、「東栄電機」を売上先とする同一金額の売上事実に改竄し、以て「東栄電機」に対する売上事実が公表帳簿に記載済であるかの如く仕倣した事実が認められるから、現に押収されている三十八年度元帳中の「東栄電機」に対する前記売上事実の記載は誤であり、従つて、該元帳には、「東栄電機」に対する売上事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていないものとして取り扱わなければならず、延いては、該元帳中「東栄電機」からの入金事実の記載も全く虚構のものと認めなければならない。

<省略>

<省略>

<省略>

被告人安永は、右改竄前、即ち三十九年四月頃一般調査の際に調査を受けた三十八年度総勘定元帳に記載されてあつた平沢SS等を売上先とする一月八日以降十二月五日迄、計二十件、一千一百六十万九千一百四十二円の売上事実は、遊告会社が一旦東栄電機産業に対し売り渡した物品を、東栄電機産業がその名に於て且その計算に於て更に平沢SS等に対し売り渡した取引に該当し、その東栄電機産業から平沢SS等に対する販売は、売買の契約書類、代金領収書等に売渡人名義として被告会社名が表示され、代金は一応直接被告会社に振り込まれた為め、一先ず被告会社から直接平沢SS等に対し売り渡した旨記帳して置いたが、右調査の終了後東栄電機産業の経営責任者柴田勝から、税務対策上、真実に合致する様記帳を更正して欲しい旨依頼されて、被告会社から一旦東栄電機産業に対し売り渡した趣旨に記帳を更正したのであつて、その計二十件、一千一百六十万九千一百四十二円は、東栄電機産業が平沢SS等に売り渡した最終販売価額そのものではなく、同年度中に被告会社が東栄電機産業に対し卸売した卸売価額の合計額に相当し、この中には東栄電機産業が平沢SS等に渡した物品の他、東栄電機産業が日本測器(株)、(株)小沢製作所等に売り渡した物品の卸売価額も包含されている旨主張する。

然し、既に(一)に述べた如く、東栄電機産業には実在性が無く、東栄電機産業名義に依つては所轄税務署に対し納税に関する申告は為されていないから、右主張は前提を缺く全く虚構の弁というの他なく、寧ろ被告会社の日本測器(株)、(株)小沢製作所等に対する売上除外の事実を隠蔽しようとする被告会社の税務対策上窮余の策として公表帳簿の記載が改竄されたと認めるのが相当であり、記録及び当審に於ける事業取調の全結果を考慮に容れても、叙上認定を覆すに至らない。

然らば、日本測器(株)本社及び大阪営業所の東栄電機産業からの仕入高合計一千二百七十六万三千一百三十円、(株)小沢製作所の東栄電機産業からの仕入高二百二十七万一千二百五十円は、その全額が被告会社に於て架空の東栄電機産業名義を使用して日本測器(株)及び(株)小沢製作所に対し自社製品を販売した簿外売上高に相当し、日本測器(株)に付ては右金額の載囲内の金額を簿外売上高と為し、(株)小沢製作所に付ては右に照応する金額を簿外売上高と為した税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

27 戸部電機(株)に対する四千七百六十五円

銀行調査書に依れば、三十八年十一月十六日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月十五日戸部電機(株)振出、神相、本店払、四千九百六十五円の小切手が入金された事実が認められるところ(一九五丁七段目)、三十八年度元帳には、戸部電機(株)との取引に付て、

<省略>

計二件、五千八百五十円の売上、十一月十五日五千八百五十円入金の旨の記載(但し、その入金は当座預金か受取手形か、摘要欄不記入)が有る。

所論は、本件小切手は右計二件、五千八百五十円の売上金から八百八十五円を値引して受領したもので、本件の四千七百六十五円(入金は四千九百六十五円)は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、戸部電機(株)との取引に於て、右計二件、五千八百五十円の他に本件の四千七百六十五円(入金は四千九百六十五円)に照応する取引が有つたことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であり且当審に於て取り調べた小林太郎(戸部電機(株)社員)検供(四十四年五月二十六日付)に依れば、戸部電機(株)に於ける支払は、原則として毎月五日締切、翌月十五日払である事実が認められるから、右計二件、五千八百五十円の内、九月七日の五千二百六十五円の略全額が十一月十五日本件小切手に依り支払われたことを首肯するに足り、然りとすれば、所論値引の事実に付ての確証は無いが、本件小切手が右計二件、五千八百五十円とは別個の取引に付ての代金支払の為めに振り出されたものとは未だ断定し難い。

所論は結局理由が有る。

28 金属材料技術研究所に対する五千円

銀行調査書に依れば、三十八年十一月十六日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年二月十五日金属材料技術研究協会振出、三菱・恵比寿払、五千円の小切手が入金された事実が認められ(一九五丁八段目)、この「金属材料技術研究協会」は「金属材料技術研究所」の誤記かとも思料されるが弁第五八号証(金属材料技術研究所長河田和美証明書)に依れば、同研究所に於ては被告会社に対し本件小切手に依り五千円を支払つた事実の無いことが認められるから、右は誤記ではなく、従つて、該小切手入金の事実は金属材料技術研究所に対するその額面金額相当の売上を証明する資料とは成らない。

而して、三十八年度元帳には、金属材料技術研究所との取引に付て、十月十五日以降十二月四日迄、計四件、四十万六千二百円の売上、十一月十三日以降十二月二十九日迄、計四件、四十万六千二百円の当座預金へ入金の旨の記載が有り、同研究所と取引関係の有つた事実は認められるが、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、本件の五千円に照応する売上が有つたことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であるから、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯し難い。

夫故、之を簿外売上高に計上した原判決の事実認定は失当である。

29 日本科学技術振興会に対する二十五万円

銀行調査書に依れば、三十八年十一月三十日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、同年同月二十八日日本学術振興会振出、三井・上野払の小切手に依り二十五万円が入金された事実が認められるが(一九五丁一二段目)、三十八年度元帳には、日本学術振興会との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に取り調べた増田末太郎(日本学術振興会総務部会計課長事務取扱)陳述書、同添付の日本学術振興会三十八年度物品受入票写、三井・上野支店証明書、同添付の小切手写、見積書綴(証第一八号―検符二三の七)中、被告会社の日本学術振興会に対する三十八年十月五日付XY軸記録F/3V型の代金二十五万円の見積書一通(o四二四号)の存在に徴すると、本件の二十五万円は、被告会社が三十八年十月三十一日財団法人日本学術振興会研究員小島稔に納入販売した右記録計の代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤はない。

なお、売上先の名称は財団法人日本学術振興会と表示するのが正当である。

31 石井電機商会に対する十七万五千円

銀行調査書に依れば、三十八年十二月二十四日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、石井電機商会振出、北国・野町払の約束手形に依り十七万五千五百円が入金された事実が認められ(一九五丁一七段目)、石井電機商会代表者石井栄一回答書添付の被告会社からの仕入明細書に依れば、三十八年十月二十八日小型高速平衡記録計ER/J2型、代金十七万五千五百円を仕入れ、満期日同年十二月二十四日、北国・野町払、十七万五千五百円の約束手形に依り右代金を支払つた事実が認められるから、本件の簿外売上高は、十七万五千円ではなくて、税務記録第58号上申書記載通り十七万五千五百円である。

夫故、右金額の範囲内の金額を簿外売上高と為した原判決の事実認定に誤は無い。

33 精衡産業(株)に対する二万三千円

銀行調査書に依れば、三十八年五月十五日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、同年同月同日精衡産業(株)振出、日相、菊川払の約束手形に依り二万三千円が入金された事実が認められるが(二〇一丁三段目)、三十八年度元帳には、精衡産業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、弁第一三号証の一(精衡産業(株)石田毅証明書)、二((株)精衡社証明書)に依れば、精衡産業(株)乃至(株)精衡社は、被告会社からその製品を購入した事実は固より、被告会社と取引の事実も無いことが認められるから、本件の二万三千円が精衡産業(株)乃至(株)精衡社に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件約束手形が所謂廻し手形であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該約束手形入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

34 (株)東邦プレス製作所に対する一万円

銀行調査書に依れば、三十八年六月十五日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、同年同月同日(株)東邦プレス製作所振出、都民渋谷払の約束手形に依り一万円が入金された事実が認められるが(二〇一丁八段目)、三十八年度元帳には、(株)東邦プレス製作所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の約束手形は、(株)東邦プレス製作所が(株)祥報社宛に振り出した支払手形を右(株)祥報社の為め被告会社が割り引いて取得したものであつて、(株)東邦プレス製作所に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

按ずるに、弁第一四号証の一、二(何れも(株)東邦プレス製作所代表取締役社長三ツ谷信栄証明書)に依れば、(株)東邦プレス製作所は、被告会社からその製品を購入した事実が無いこと及び本件の約束手形は、(株)東邦プレス製作所がその取引先である(株)祥報社宛に支払の為め振り出したものであることが認められるから、本件の一万円が(株)東邦プレス製作所に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件約束手形が所謂廻し手形であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該約束手形入金の事実よりして直ちにその額面相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

25 竹内企業(株)に対する七万三百円

銀行調査書に依れば、三十八年六月二十七日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、竹内企業(株)振出、東相・本所払の約束手形に依り七万三百円が入金された事実が認められるが(二〇一丁九段目)、三十八年度元帳には、竹内企業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の約束手形は、竹内企業(株)が(株)祥報社宛に振り出した支払手形を右(株)祥報社の為め被告会社が割り引いて取得したものであつて、竹内企業(株)に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

按ずるに、弁第一五号証の一(竹内企業(株)代表取締役竹内直秀証明書)に依れば、竹内企業(株)は、被告会社からその製品を購入した事実が無いことが認められ、之と同号証の二(本件約束手形の表、裏各面の写)とを綜合すると、正に所論の主張事実を認めることができるから、本件の七万三百円が竹内企業(株)に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件約束手形が所謂廻し手形であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該約束手形入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

36 日新電機(株)に対する六万円

銀行調査書に依れば、三十八年七月三日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、日新電子工業(株)振出、勧銀・大久保払の約束手形に依り六万円が入金された事実が認められるが(二〇一丁一三段目)、三十八年度元帳には、日新電子工業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の約束手形は、日新電子工業(株)が(株)祥報社宛に振り出した支払手形を右(株)祥報社の為め被告会社が割り引いて取得したものであつて、日新電子工業(株)に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

按ずるに、弁第一六号証の一(日新電子工業(株)経理課長吉地厚生証明書)、二(日新電子工業(株)総務大森秀次郎証明書)に依れば、日新電子工業(株)は、被告会社からその製品を購入した事実が無いこと及び本件の約束手形は、日新電子工業(株)がその取引先である(株)祥報社宛に支払の為め振り出したものであることが認められるから、本件の六万円が日新電子工業(株)に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件約束手形が所謂廻し手形であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該約束手形入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

37 (株)入江製作所に対する五万七千二百円

銀行調査書に依れば、三十八年一月十九日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、(株)入江製作所振出、三和・室町払の小切手に依り五万七千二百円が入金された事実が認められるが(一九九丁一五段目)、三十八年度元帳には、(株)入江製作所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、弁第一七号証((株)入江製作所代表取締役入江照四回答書)中には、三十七年一月一日以降三十九年十二月三十一日迄の期間中(株)入江製作所と被告会社との取引に付て調査の結果、本件の五万七千二百円に該当する取引は無い旨の記載が存するが、当審に於て取り調べた中田耕三((株)入江製作所社員)検供に依れば、(株)入江製作所は、理化学機器の製造、販売等を営業目的とする会社で、三十八年一月十日被告会社からXY軸記録計用紙百本を五万七千二百円で購入し、品物と引替にその代金を本件の小切手で支払つた事実が有ること、(株)入江製作所は、三和・室町を主な取引銀行としているが、五万七千二百円程度の小額の小切手を銀行でない被告会社に換金して貰わなければならない程金繰に困つていた事情は無く且斯る依頼の事実は無いこと、弁第一七号証の回答書は、中田耕三が簡単に買掛仕入帳に基づき調査したところ、被告会社からの買掛の事実が見当らなかつた為め、その旨の報告を受けた総務部長が作成して提出したものであり、更に銀行勘定帳に基づき現金(小切手を含む)買の有無を調査した結果本件の五万七千二百円に該当する取引事実が有り、該回答書の記載は明らかに問違であると判明したことが認められるから、本件の五万七千二百円は、被告会社が(株)入江製作所に販売した右記録計用紙の代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申告書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

38 北洋精機(株)に対する九千五百円

三十八年度及び三十九年度各元帳には、北洋精機(株)との取引事実として、

<省略>

計三件、二十六万六千八百五十円が記載されているが、北洋精機(株)代表取締役香川幸緒上申書、同添付の被告会社からの買掛帳、三十八年度分の写(但し、その五三二丁記載の年度区分37は38の誤記と認める)に依れば、

<省略>

計五件、二十七万六千三百五十円の仕入をした事実が認められ、被告会社が申告した公表売上高二十六万六千八百五十円は実際売上高二十七万六千三百五十円より九千五百円少く且三十八年度元帳には本件の九千五百円に照応する売上及び入金の記載が無いから、之が簿外売上である旨の税務記録58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

39 (株)日本ポテンシヨン・メーターに対する三千円

銀行調査に依れば、三十八年一月二十五日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、(株)日本ポテンシヨン・メーター製作所振出、三菱・中野払、三千円の小切手が入金された事実が認められるが(一九九丁一七段目)、三十八年度元帳には、(株)日本ポテンシヨン・メーター製作所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主帳する。

按ずるに、弁第五六号証((株)日本ポテンシヨン・メーター製作所代表取締役鍵本晃証明書)に依れば、(株)日本ポテンシヨン・メーター製作所は、被告会社から部品の支給を受けて可変低抗器を組み立て之を被告会社に納入する立場に在つて、被告会社からその製品を購入した事実の無いことが認められ、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、本件の三千円が(株)日本ポテンシヨン・メーター製作所に対する被告会社製品の売上代金であることは認め難く、仮に、本件小切手が所論廻し小切手であるとしても、之に関する取引関作の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

40 日興理化工業(株)に対する二千七百円

銀行調査書に依れば、三十八年二月二十日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、日興理化工業(株)振出、三菱・神田払、二千七百円の小切手が入金された事実が認められるが(二〇〇丁二段目)、三十八年度元帳には、日興理化工業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

それ故、本件の二千七百円は被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨の二重計上の主張は採るを得ないが、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、日興理化工業(株)の業種及びそれが被告会社の製品を購入したことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であるから、本件の二千七百円が日興理化工業(株)に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件小切手が所謂廻し小切手であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は結局理由がある。

41 小松電気商会に対する五千八百五十円

銀行調査に依れば、三十八年二月二十日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、小松電気商会振出、三菱・秋葉原払、五千八百五十円の小切手が入金された事実が認められるが(二〇〇丁二段目)、三十八年度元帳には、小松電気商会との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、小松電気商会は、その店名から推して被告会社の製品を購入する如き業種に属するものとは思われるが、弁第一八号証(小松電気商会書信)に依れば、小松電気商会は被告会社との取引に付て心当が無いことが認められ、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、小松電気商会が被告会社の製品を購入したことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であるから、本件の五千八百五十円が小松電気商会に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、仮に、本件小切手が所謂廻し小切手であるとしても、之に関する取引関係の確証が無い本件に於ては、該小切手入金の事実よりして直にその額面金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

44 中央大学に対する一百一万円

銀行調査書に依れば、三十八年三月六日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、中央大学振出、三和・神田払の小切手に依り一百一万円が入金された事実が認められるが(二〇〇丁八段目)、三十八年度元帳には、中央大学との取引に付て、十二月三日二千円の売上、同月十一日当座預金へ二千円入金の旨の記載が有る丈で、右一百一万円に照応する売上及び入金の記載が無い。

而して、中央大学官財部用度課回答書添付の被告会社からの仕入明細書に依れば、三十八年二月十八日被告会社から極座標記録計及びXY軸記録計各一台を計一百一万円で購入し、三月六日三和・神田払の三十二万円及び六十九万円の小切手でその代金を支払つた事実が認められるから、本件の一百一万円は、被告会社が中央大学に販売した右記録計二台の代金に該当し且三十八年度元帳に記載されている前記二千円の売上は、被告会社が同年八月二十一日から九月九日迄の間に同大学に見積書を提出して即納した記録紙二千円(単価五百円のもの四本)の売上に該当し、右一百一万円とは別個の取引と認められるから(証第一七号―検符二三の九中の見積書M三七一号参照)、本件簿外売上高に誤算は無い。

46 (株)呉造船所に対する三十万八千円

銀行調査書に依れば、三十八年四月十日住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、同年同月同日(株)呉造船所振出、広島・呉払の約束手形に依り三十万八千円が入金された事実が認められるが(二〇〇丁一九段目)、三十八年度元帳には、(株)呉造船所との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の約束手形は、(株)呉造船所が理化電機商会宛に振り出した支払手形を右理化電機商会の為め被告会社が割り引いて取得したものであつて、(株)呉造船所に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

按ずるに、弁第一九号証((株)呉造船所資金部長川野一生証明書)、当審に於て取り調べた瀬尾鉄夫(理化電機商会代表者)検供、佐藤寿一((株)呉造船所次長)検供、同添付の(株)呉造船所約束手形発行承認簿、同回収簿、約束手形の耳三葉、支払整理カードを綜合すると、

(1) (株)呉造船所は、被告会社からその製品を購入した事実は無いこと、

(2) 理化電機商会は、被告会社の中国代理店で、被告会社の製品である記録計等の販売を業とし、之を(株)呉造船所に納入しており、この場合被告会社に対しては買掛を立て、(株)呉造船所に対しては売掛を立てて取引を決済し、(株)呉造船所に対する売上代金の受取手形は、之を理化電機商会に於て取引銀行へ振り込んだり又はその儘被告会社に送付していること、

(3) (株)呉造船所は、理化電機商会から三十七年六月電子管記録計一台を四十五万円で、同年七月温度計一台を八十八万五千円で夫々購入し、その代金計一百三十三万五千円を、七十二万七千円、三十万円、三十万八千円の三口に分割し、理化電機商会宛に三通の約束手形を振り出して同商会に支払を為しているが、右記録計及び温度計は何れも被告会社の製品で、理化電機商会が一旦被告会社から仕入れたうえ更めて理化電機商会から(株)呉造船所に納入販売したものであること、

(4) 本件の約束手形は、右三通の約束手形の内一通であり、(株)呉造船所がその取引先である理化電機商会宛に支払の為め振り出したものを、理化電機商会が被告会社に対し買掛代金の支払の為め送付したものであることが認められる。

とすれば、本件の三十万八千円が(株)呉造船所に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、それは理化電機商会に対する売上代金ではあるが、同商会に対する売上は三十七年度以前に属することが明白である。

所論は結局理由が有る。

48 英和精工(株)に対する二十二万五千円

銀行調査書に依れば、三十八年二月十三日三菱・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、英和精工(株)振出、満期日二月十日、十一月十三日扱、三和・桜川払の約束手形に依り二十二万五千円が入金された事実が認められるが(二〇五丁七段目)、三十八年度元帳には、英和精工(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の二十二万五千円は、三十七年度の売上に属する旨主張する。

按ずるに、弁第二〇号証(英和精工(株)代表取締役河部勇回答書)、同添付の被告会社からの仕入明細書に依れば、三十七年九月二十九日被告会社からXY軸記録計F/3型一台を二十二万五千円で購入し、同年十一月十日二十二万五千円の約束手形でその代金を支払つた事実が認められ、之と、前記銀行調査書に依れば、本件約束手形の扱日が十一月十三日、満期日が二月十日と成つているところ、右仕入明細書中には、三十九年五月十三日XY軸記録計F/3型一台を二十二万五千円で仕入れ、同年六月十日同額の約束手形に依り支払をした旨の記載は有るが、叙上三十七年十一月十日振出に係る二十二万五千円の約束手形の他には本件の約束手形に該当すると思われる約束手形に依る支払の事実が記載されていないことに徴すると、本件の二十二万五千円は三十七年度の売上に属するものと認めるのが相当である。

所論は理由が有る。

49 三田村理研工業(株)に対する八十四万円

銀行調査書に依れば、住友・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、

(甲) 三十九年三月二日三田村理研工業(株)振出、三和・本郷払の約束手形に依り二十八万円(一九七丁一〇段目)、

(乙) 三田村理研工業(株)振出、日相・小石川払の約束手形に依り、

(1) 同年四月十五日二十八万円(一九七丁一三段目)、

(2) 同年六月一日二十八万円(一九七丁一四段目)

が夫々入金された事実が認められるが、三十八年度元帳には、三田村理研工業(株)(元帳の記載「三田村理化」は「三田村理研」の誤記と認める)との取引に付て、四月二十三日三十一万五千円の売上、五月三十一日受取手形で三十一万五千円入金の旨の記載が有る丈で、右(甲)及び(乙)の(1)、(2)の合計八十四万円に夫々照応する売上及び入金の記載が無い。

それ故、本件の八十四万円の全額が被告会社の申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨の二重計上の主張は採るを得ないが、三田村理研工業(株)代表取締役佐渡龍一上申書、同添付の被告会社からの仕入先元帳写、三十八年度に依れば、

<省略>

計三件、八十四万円の仕入をした事実が認められ、実際売上高八十四万円の内三十一万五千円は被告会社が申告した公表売上高として記帳されているから、その差額五十二万五千円を簿外売上高であると認めるのが相当であつて、所論は右公表売上高三十一万五千円の限度に於て理由が有る。

50 新川電機(株)に対する二十二万五千円

銀行調査書に依れば、三十八年三月四日三菱・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、十月三十日新川電機(株)振出、満期日三月二日、三菱・広島払の約束手形に依り二十二万五千円が入金された事実が認められるが(二〇五丁九段目)、三十八年度元帳には、新川電機(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件の二十二万五千円は、三十七年度の売上に属する旨主張する。

按ずるに、弁第二一号証(新川電機(株)福岡出張所長横田恒房回答書)、同添付の被告会社からの仕入明細書に依れば、被告会社からXY軸記録計F/3型一台を二十二万五千円で購入し、三十七年十月三十一日その代金二十二万五千円を支払つた事実が認められ、之と、前記銀行調査書に依れば、本件約束手形の振出日が十月三十日、満期日が三月二日と成つていることに徴すると、本件の約束手形の振出日は三十七年十月三十日、満期日は三十八年三月二日であり、本件の二十二万五千円は三十七年度の売上に属するものと認めるのが相当である。

所論は理由が有る。

51 東京工業大学に対する二十万円

銀行調査書に依れば、三十八年三月二十八日三菱・渋谷の被告会社名義、普通預金口座に、同年同月二十二日東京工業大学振出の小切手に依り二十万円が入金された事実が認められる(二〇五丁一九段目)。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、三十八年度元帳には、東京工業大学との一月一日以降、右小切手振出日の三月二十二日迄の取引事実として、

<省略>

計五件、八万五千六百三十円の売上及び計八件、九万四千三百三十円の入金の記載は有るが、本件の二十万円に照応する売上及び入金の記載が無い。

然し、当審に於て取り調べた東京工業大学経理部長福田文夫回答書謄本、同添付の被告会社からの仕入明細書三十八年度分に依れば、右期間内の取引事実として、

<省略>

計二件、二万六千円の仕入をした事実が認められる丈で、本件の二十万円に照応する仕入及び支払の事実は認められない(尤も三月二十三日XY軸記録計一台、代金二十五万円を発注し、同月三十日その納入を受け、三井払の小切手に依り右代金を支払つた事実は認められるが、之は本件の小切手振出日以後の取引であるから、本件の二十万円とは関係が無い)。

とすれば、本件の二十万円に付てはその発生原因に釈然としないものが有るが、之を以て同大学に対する三十八年度簿外売上高と即断することは相当ではない。

所論は結局理由が有る。

54 キヤノン・カメラ(株)に対する三千円

銀行調査書中には、本件の三千円に付て銀行入金の旨の記録は無いが、当審に於て取り調べた西沢正夫(キヤノン・カメラ(株)社員)検供に依れば、キヤノン・カメラ(株)は、三十八年中に被告会社から代金三千円相当の品物を購入し、三月二十日付の小切手でその代金を支払つた事実のあること、キヤノン・カメラ(株)は、三千円程度の小額の小切手を被告会社に換金して貰わなければならなかつた様な事情は無く、斯る程度の金員を被告会社から借り受けて之を返済した事実も無いことが認められるから、三十八年初頭から三月頃迄の間に被告会社がキヤノン・カメラ(株)に対し三千円相当の売上をした事実が有つたものと認められる。

然るに、三十八年度元帳には、キヤノン・カメラ(株)との取引事実として、

<省略>

計二件、三万五千五百五十円の記載が有る丈で、本件の三千円に照応する売上及び入金の記載が無いから、之が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

56 東京大学に対する二十六万円

銀行調査書に依れば、三十八年十二月二十八日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、東京大学振出、日銀払の小切手に依り二十六万五千円が入金された事実が認められるが(一九五丁二二段目)、三十八年度元帳には、東京大学との取引事実として、

<省略>

売上計十五件、一百六十一万四千一百五十円、入金計十一件、一百三十四万九千一百五十円の記載が有る丈で、本件の二十六万円若しくは二十六万五千円に照応する売上及び入金の記載が無い。

所論は、未入金に係る右2、10、11、15の計四件、二十六万五千円が三十八年の年末決済として本件の小切手に依り一括して支払われたのであるから、本件の二十六万円(入金は二十六万五千円)は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、

(1) 一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、東京大学が被告会社から一口で二十六万円若しくは二十六万五千円に相当する物品購入をしたことを窺わせる事実に付ての証明は皆無であること、

(2) 三十八年度元帳に依れば、入金は必ずしも売上の順序に依つておらず、本件の二十六万五千円は官庁御用納の十二月二十八日に入金されていること、

(3) 三十八年度元帳に依れば、東京大学との取引事実としては、同大学付属の諸研究機関、例えば、生産技術研究所、航空研究所、応用微生物研究所、天文台、物性研究所、海洋研究所等との多数口に上る多額の取引事実が記載され、所謂「東京大学」との取引事実との弁別が必ずしも明確ではないこと

に徴すると、所論は強ち理由が無いでもなく、本件の二十六万円(入金は二十六万五千円)に付てはその発生原因に釈然としないものが有るが、之を以て同大学に対する三十八年度簿外売上高と即断することは相当ではない。

所論は結局理由が有る。

61 その他の入金二百八十四万六千六百十四円

銀行調査書に依れば、

(甲) 住友・田園調布の被告会社名義、普通預金口座に、

(1) 三十八年六月四日輸出為替買取代金四十五万一千二百八十六円(一八三丁二段目)、

(2) 同年七月二十五日東外TC/a二十八万四千三百九十円(一八三丁三段目)、

(3) 同年十二月二日二十一万一千四百八円(一八三丁六段目)、

(4) 同年同月十一日東外十六万四千五百三十円(一八三丁七段目)、

計四口、一百十一万一千六百十四円が入金され、

(乙) 住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、

(1) 同年七月十二日、振出日同年同月十日、三井・広小路払、二十八万円の小切手(一九三丁一五段目)、

(2) 同年九月二十三日、振出日同年同月十七日、三和・本郷払の小切手に依り五十万円(一九四丁一二段目)、

(3) 同年十月十九日、振出日同年八月七日、香港上海、東京払の小切手に依り二十一万円(一九四丁二〇段目)、計三口、九十九万円が入金され、

(丙) 住友・蒲田の豊田明名義、普通預金口座に、

(1) 同年三月九日勧銀・神田払の振替手形に依り二十五万円(二〇〇丁九段目)、

(2) 同年同月同日勧銀・神田払の小切手に依り三十二万円(二〇〇丁九段目)、

(3) 同年同月二十八日郵便局振出の十万円及び七万五千円の各小為替証書(二〇〇丁一六段目)、

計四口、七十四万五千円が入金され

た事実が認められ、以上の合計二百八十四万六千六百十四円が簿外売上高とされている。

所論は、本件の二百八十四万六千六百十四円に付ては売上に関する具体的証拠を缺き、該金員は、被告会社が社外の海外出張研究者等の為め立替払した金員の返済として受領入金したものである旨主張する。

按ずるに、本件の二百八十四万六千六百十四円が凡て簿外売上高とされているに拘らず、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、その売上先に付て具体的明確性を缺くことは正に所論の通りであるが、税務記録第58号上申書及び被告人質問顛末書(四十一年六月十八日付)に依れば、右は抑その回収先が詳かでない簿外売上高を一括計上したものと認められる許りでなく、その内の若干、例えば、

(甲)の計四口、一百十一万一千六百十四円は、

(1) 被告人質問顛末書(四十年八月三十一日付)中、右は多分輸出した商品の売上を除外した分であると思う、輸出取扱商社は、利康商事(株)、大倉商事(株)、東産業(株)等であると思う旨の供述記載

(2) 松田調書(四十四年六月二十七日付)中、右は凡て銀行内振替を意味するNBの符号を付して入金されており、被告会社が自社製品を輸出した商品代金と思われる旨の供述記載

(3) 小林調書(四十三年十一月十九日付)中、(甲)の(1)の四十五万一千二百八十六円は、外国部扱で入金されており、被告人に糺したところ、外国為替、外国小切手を入金したものであるとの説明が有り、(甲)の(2)乃至(4)の計三口、六十六万三百二十八円に付ても宛と類似の説明が有つた旨の供述記載

(4) 前掲松田調書に依り、被告会社が自社製品を輸出した事実を窺わせる証拠と認められるインヴオイス綴一冊、現金出納関係小切手支払受領証綴一冊、海外照会書綴二冊、発送文書控二冊、日記帳一冊、請求書綴一冊(当審に於て取り調べた証第二三号乃至第二八号―検符一五、三二、五一の一、二、二四の一、五三、五二)の存在

を綜合すると、被告会社が三十八年中に自社製品を輸出して取得した売上代金であることを窺うに足り、

(乙)の(2)の五十万円は、松田調書(前掲及び四十四年七月十一日付)に依れば、被告会社が三十八年中に自社製品を東京大学工学部職員鵜戸口英善に販売して取得した売上代金であることを窺うに足り、之らを含む本件の二百八十四万六千六百十四円が簿外売上である旨の税務記録第58号上申書の記載は首肯することができる。なお、右金員が被告会社に於て社外の海外出張研究者等の為め立替払した金員の返済として受領した金員である旨の主張事実に付ては、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴ても、之を確認するに足るべき証拠は皆無である。

所論は理由が無い。

別表二、三十九年度簿外売上高に付て。

4 日本測器(株)に対する一百二十万九千七百六十円

銀行調査書に依れば、

(1) 三十九年八月十日三井・自由ケ丘の豊田宏昌名義、普通預金口座に、同年二月十日日本測器(株)振出、満期日同年八月十日、第一・神戸払の約束手形に依り九万五百六十円(二一一丁四段目)、

(2) 同年九月十五日城南・目黒の須藤明名義、普通預金口座に、同年四月十八日日本測器(株)振出、満期日同年九月十日、第一・神戸払の約束手形に依り一百十一万二千四百三十二円(二一四丁二段目)が夫々入金された事実が認められ、右の合計一百二十万二千九百九十二円に現金に依る入金額六千七百六十八円を加えた総計一百二十万九千七百六十円が簿外売上とされている。

所論は、被告会社の日本測器(株)に対する実際売上高一千八十六万二千七百十六円の内一千十五万一千一百七十二円は被告会社が申告した公表売上高であるから、この差額七十一万一千五百四十四円を簿外売上高と認むべく、本件は四十九万八千二百十六円が過大に計上されている旨主張する。

按ずるに、日本測器(株)専務取締役能野勝一供述書、同添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、日本測器(株)本社に於て、一百九十六万四千六十八円

同会社大阪営業所に於て、九百八十三万六千四百六十八円

合計一千一百八十万五百三十六円の仕入が有り、この総仕入額に付て、同年度期中の値増額六百七十六円を加算し、値引額一万八千一百五十六円、仕入の重複記載額二十二万円及び返品額一百七十一万一千五百円を除算すると、九百八十五万一千五百五十六円を仕入れている事実が認められ、他方、三十九年度売上経費帳には、日本測器(株)との取引に付て、三月十六日以降十二月二十四日迄、値引額三千一百四十円を除算して、計五十五件、一千六十三万八千三十二円の売上が記載され、この限りに於ては、被告会社が申告した公表売上高は、実際売上高を七十八万六千四百七十六円上廻り、簿外売上高は存しないことと成る。

然し、前掲能野勝一供述書、同添付の被告会社製造に係るXY軸記録計等の仕入明細書三十九年度分及び日本測器(株)総務部回答書(四十一年五月四日付、六一七丁)に依れば、東京都千代田区神田小川町一の十、三勢ビル内の東栄電機産業からの仕入として、

日本測器(株)本社に於て、同会社下関営業所買掛分を含めて五十三万一千八百円、

同会社大阪営業所に於て、一百十四万二千八十円、

合計一百六十七万三千八百八十円が有り、この総仕入額に付て、同年度期中の値増額四千円を加算し、値引額二十五万一千七百二十円及び返品額四十四万円を除算すると、九十八万六千一百六十円を仕入れている事実が認められる。

而して、先に、三十八年度簿外売上高の別表24(日本測器(株)の項)及び25((株)小沢製作所の項)に付て説明した通り、右東栄電機産業は、被告会社の簿外売上に際し、売渡人名義として使用されたに過ぎず、その実体は被告会社そのもので、東栄電機産業名義に依る売上金は悉く被告会社に帰属していたことが明白であるから、右東栄電機産業名義に依る売上高九十八万六千一百六十円は即被告会社の実際売上高に該当するものと言うべきところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、東栄電機産業及至東栄電機との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていないから、右九十八万六千一百六十円は、日本測器(株)に対する簿外売上高と認定すべきものである。

とすれば、前記の如く、被告会社が申告した公表売上高は、被告会社名義に依る実際売上高より七十八万六千四百七十六円上廻るから、この金額を右東栄電機産業名義に依る簿外売上高から控除した残額十九万九千六百八十四円を以て日本測器(株)に対する被告会社の簿外売上高と認定するのが相当であり、原判決の認定は一百一万七十六円を過大に計上した点に於て誤が有り、所論は理由が有る。

6 大和電機(株)に対する六十二万八百五十円

銀行調査書に依れば、

(甲) 三十九年三月九日住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、

(1) 同年同月二日大和電機(株)東京営業所振出、住友・蒲田払、五千八百五十円(一九六丁一一段目)、

(2) 大和電機(株)振出、住友・蒲田払、七千円の小切手(一九六丁一三段目)

(乙) 同年十月十七日城南・目黒の山本清二名義、別段預金(一時預り口)口座に、同年七月二十三日扱、大和電機販売(株)振出、満期日同年十月十五日、住友・天満橋払の約束手形に依り六十万八千円(二二一丁一〇段目)が夫々入金された事実が認められるが、三十九年度売上経費帳及び元帳には、大和電機(株)及び大和電機販売(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた渡部忠彦(大和電機(株)東京営業所長)検供、堤伸行(大和電機販売(株)専務取締役)検供、津田邦彦(大和電機販売売(株)代表取締役)検供に依れば、

(1) 大阪市西区靱本町一丁目七十五番地に本店を置く大和電機(株)の東京営業所は、

三十九年二月二十九日被告会社にXY軸記録計の修理を依頼し、その修理代金七千円を前掲(甲)の(2)の小切手で支払い、

同年三月二日被告会社からXY軸記録計用紙十巻を購入し、その代金五千八百五十円を前掲(甲)の(1)の小切手で支払つた

こと、大和電機(株)は、斯る程度の小額の小切手を他処で換金して貰わなければならなかつた様な事情は無く且斯る換金依頼の事実は無いこと、

(2) 現在堤伸行が専務取締役をしている大和電機販売(株)は、大阪市東区京橋前之町二番地に本店を置き津田邦彦が代表取締役をしている大和電機販売(株)の東京営業所が四十年三月東京の大和電機販売(株)として独立したものであるが、右独立前の三十九年中に大阪の大和電機販売(株)の東京営業所は、被告会社からXY軸記録計を購入し、大阪本社は東京営業所の要請に依り七月十七日被告会社宛に前掲(乙)の約束手形を振り出して、その代金六十万八千円を支払つたこと、弁第三八号証(大阪市東区京橋前之町二番地大和電機販売(株)代表取締役津田邦彦回答書)中、当社は被告会社と取引は無い旨の記載は、右津田が大和電機販売(株)入社以前の取引関係の詳細を知らない為め、東京営業所扱の取引事実を遺脱したもので、内容的に誤であることが認められる。

とすれば、被告会社は、

(1) 大和電機(株)に対し、三十九年二月二十九日に七千円、同年三月二日に五千八百五十円、計二件、一万二千八百五十円を売り上げ、

(2) 大阪の大和電機販売(株)に対し、同年中に六十万八千円を売り上げ

乍ら、この各売上事実を公表帳簿に記載していないのであるから、その合計額に当る本件の六十二万八百五十円が、売上先及び売上区分に於て原判決の認定と相違するものが有るにせよ、その全額が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定は、売上区分は別として、その余の点に於ては誤が無い。

従つて、売上先の名称及び売上高は、

大和電機(株)に対し一万二千八百五十円

大和電機販売(株)に対し、六十万八千円

と認定するものが正当である。

8 伸和電気(株)に対する五百八十三万六千八百十五円

銀行調査書に依れば、

(甲) 城南・目黒の高島茂名義、別段預金(一時預り口)口座に、伸和電気(株)振出、富士・神田払の約束手形に依り、

(1) 三十九年六月二十九日四十万五百円(二二〇丁二段目)、

(2) 同年八月八日五十九万三千円(二二〇丁七段目)、

(乙) 四十年一月二十九日城南・目黒の田丸恵二名義、別段預金(一時預り口)口座に、伸和電気(株)振出、富士・神田払の約束手形に依り八十六万三千八百九十円(二二二丁八段目)、

(丙) 城南・目黒の平田春夫名義、別段預金(一時預り口)口座に、伸和電気 振出、富士・神田払の約束手形に依り、

(1) 三十九年十一月十九日十八万九千円(二二二丁二段目)、

(2) 四十年二月二十七日三十万円(二二二丁九段目)

(3) 同年五月十九日四十六万五千八百円(二二三丁八段目)、

(丁) 横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に、伸和電気(株)振出、富士・神田払の小切手若しくは約束手形に依り、

(1) 三十九年八月二十六日小切手に依り五千八百五十円(二〇三丁九段目)、

(2) 同年九月十一日約束手形に依り五十万円(二〇三丁一〇段目)、

(3) 同年十月十日約束手形に依り五十万円(二〇三丁一三段目)、

(4) 同年十一月十一日約束手形に依り四十七万五千八百九十五円(二〇三丁一七段目)、

(戊) 三菱・自由ケ丘の坂田光雄名義、普通預金口座に、伸和電気(株)振出、富士・神田払の約束手形に依り、

(1) 四十年二月十日五十万円(二〇八丁七段目)、

(2) 同年三月十日三十一万円(二〇八丁八段目)

が夫々入金された事実が認められる。

所論は、伸和電気(株)に対する実際売上高は五百六十四万七千七百八十五円であるから、本件は之との差額十八万九千三十円に付て簿外売上高が過大に計上されている旨主張する。

按ずるに、伸和電気(株)との取引に付ては、伸和電気(株)代表取締役野本和雄上申書、同添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、伸和電気(株)は、被告会社から一月十日以降十一月十九日迄、計十件、五百六十四万七千七百八十五円を仕入れ、その円一万一千八百円を六月三日当座預金で支払い、千八十円を十月五日現金で支払い、四百九十一万四千九百三十五円を右(甲)の(1)、(2)、(乙)、(丙)の(2)、(3)、(丁)の(1)乃至(4)、(戊)の(1)、(2)の約束手形若しくは小切手に依り支払い、七十一万九千九百七十円が同年度末の買掛金残高と成つていることが認められるところ(右仕入明細書中の買掛金合計額五百六十四万七千八百十五円及び買掛金残高七十二万円は何れも三十円を過大計上した誤算である)、三十九年度売上経費帳には五月二日一万一千八百円の売上、同年度元帳には六月四日当座預金へ一万一千八百円入金の旨の記載が有る丈で、右仕入明細書中この一万一千八百円の仕入及び支払を除くその余の仕入及び支払に夫々照応する売上及び入金の記載は無いから、実際売上高五百六十四万七千七百八十五円と右公表売上高一万一千八百円との差額五百六十三万五千九百八十五円が被告会社名義を使用した簿外売上高であると認められる。

進んで、所論が簿外売上高に過大に計上されている旨主張する十八万九千三十円(正しくは、十八万九千円)に付て考察を加えるに、前掲野本和雄質問顛末書、伸和電気(株)営業担当者相原和三郎質問顛末書、同会社経理担当者渡辺考一質問顛末書、松田調書(四十三年六月二十七日付及び同年九月十七日付)、当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述、伸和電気(株)の三十九年一月一日以降六月二十日迄の買掛帳(証第一四号)を綜合すると、

(1) 伸和電気(株)は、四月十五日斎藤鋳業所から被告会社の製品であるSP/JVと称する機械一台、代金二十一万円相当を一割引の代金十八万九千円で購入し、七月十五日前記(丙)の(1)の約束手形に依りその支払をしていること、

(2) 斎藤鋳業所は、被告会社の売上除外の為め売渡人名義として使用されたに過ぎず、その実体は被告会社そのもので、斎藤鋳業所名義に依る売上金は被告会社に帰属していたこと、

(3) 現に、SP/JVと称する機械は被告会社に対して発注され、被告会社々員の要請に依り斎藤鋳業所で伸和電気(株)に納入され、本件の約束手形は前記渡辺孝一が被告会社の目黒事務所へ持参していること

が認められるから、所論の十八万九千円は被告会社の伸和電気(株)に対する売上金に該当し、従つて、被告会社名義を使用した実際売上高五百六十四万七千七百八十五円に当然加算されるべきものと認めるのが相当であるところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、所論十八万九千円に照応する売上及び入金の記載が無い許りか、斎藤鋳業所との取引としても何等の記載がないから、之を被告会社名義を使用した簿外売上高五百六十三万五千九百八十五円に加算した五百八十二万四千九百八十五円が伸和電気(株)に対する総簿外売上高であると認める。

それ故所論過大計上の主張は採るを得ないが、原判決が認定した簿外売上高五百八十三万六千八百十五円は、公表売上高一万一千八百円を二重に計上し且前掲誤算分三十円を過大に計上しており、所論はこの過大計上額一万一千八百三十円の限度に於て結局理由が有る。

11 (株)第一科学に対する十六万九千四十円

銀行調査書に依れば、

(甲) 富士・自由ケ丘の小宮山隆名義、普通預金口座に、

(1) 三十九年七月二日、(株)第一科学振出、振出日同年六月十七日、三井・本店払、六千三百円の小切手(一九二丁一段目)、

(2) 同年十月二十四日、(株)第一科学振出、振出日同年同月二十日、三菱・神楽坂払、一万九千五百円の小切手(一九二丁六段目)、

(乙) 同年七月二十日城南・目黒の宮下嘉利名義、別段預金(一時預り口)口座に、(株)第一科学振出、振出日同年三月二十三日、満期日同年七月二十日、三井・本店払の約束手形に依り七万八千円(二二〇丁五段目)、

(丙) 同年八月一日住友・田園調布の井田三郎名義、別段預金口座に、(株)第一科学振出、三井・本店払の小切手に依り一万一千七百円(二一八丁八段目)、

(丁) 四十年二月十九日横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に、(株)第一科学振出、満期日同年同月二十日、三菱・神楽坂払の約束手形に依り五万一千二百円(二〇四丁七段目)が夫々入金された事実が認められる。

按ずるに、(株)第一科学代表者志智金弥回答書、同添付の被告会社からの仕入明細書、三十九年度分に依れば、

<省略>

計十三件、十六万九千四十円の仕入を為し、その内1乃至11の計十一件、十六万六千七百円を右(甲)乃至(丁)の小切手及び約束手形、計十六万六千七百円に依り支払い、同年度末の残高は12、13の計二件、二千三百四十円であることが認められるところ、三十九年度売上経費帳には、(株)第一科学との取引に付て、右の内11乃至13の計三件、八千五百四十円の売上の記載が有り、この八千五百四十円は三十九年度確定申告書(証第二号)に未収の売掛金として計上されているが、その余の1乃至10の計十件、十六万五百円に夫々照応する売上の記載が無い。

とすれば、被告会社が申告した公表売上高八千五百四十円は実際売上高十六万九千四十円より十六万五百円少く、この差額十六万五百円を簿外売上高と認めるのが相当であり、本件簿外売上高十六万九千四十円は、公表売上高八千五百四十円を二重計上した点に誤算が有る。

13 (株)新進商会に対する一千六百二十円

銀行調査書に依れば、三十九年十月二十四日城南・目黒の石崎克彦名義、普通預金口座に、同年五月十九日(株)新進商会振出、富士・三田払の小切手に依り一千六百二十円が入金された事実が認められるが(二一五丁六段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、(株)新進商会との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた小泉是教((株)新進商会営業担当者)検供に依れば、先に別表一、三十八年度簿外売上高の16((株)新進商会の項)に付て説明したところと同様、本件の一千六百二十円は、被告会社が(株)新進商会に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

15 吉沢精機工業(株)に対する一万三千五百円

銀行調査書(二一九丁一〇段目)及び松田調書(四十四年六月二十七日付及び同年九月二十六日付)に依れば、三十九年六月六日、城南・目黒の高島明名義、別段預金(一時預り口)口座に、吉沢精機工業(株)振出の一万三千五百円の小切手が入金された事実が認められる。

所論は、右一万三千五百円は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、吉沢精機工業(株)との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、三月二十六日一万三千五百円の売上、同年度元帳に五月三十日現金で一万三千五百円入金の旨の記載が有り、之と本件の一万三千五百円とは金額的に一致するが、本件の一万三千五百円は小切手に依り入金されているから、この両者は別個の取引に属するものと思料されない訳ではない。

然し、弁第二七号証の二(吉沢精機工業(株)証明書)及び当審に於て取り調べた結城修(吉沢精機工業(株)社員)検供に依れば、

(1) 吉沢精機工業(株)は、三十九年五月三十日被告会社に対し自社振出、朝日・根津払の小切手に依り一万三千五百円を支払つているが、右小切手は吉沢精機工業(株)が被告人会社から購入した物品の代金支払に充てられたものであること、

(2) 吉沢精機工業(株)は、三十九年五月三十日被告会社に対し右小切手に依り一万三千五百円を支払つた他には同額の支払をした事実がないこと、

(3) 吉沢精機工業(株)が現金払をするのは支払額が一千円以下の場合であつて、一千円を超える場合は小切手又は約束手形に依り支払つていること、なお、同会社は、一万三千五百円程度の小額の小切手を金融機関ではない被告会社に換金して貰わなければならない程金繰には困つていなかつたこと

が認められるから、三十九年度元帳に、五月三十日現金で一万三千五百円入金の旨の記載は、当座預金へ入金の旨の誤記であつて、本件の一万三千五百円は、被告会社が申告した公表売上高と重複していると認めるのが相当である。

所論は理由が有る。

17 山洋電気(株)に対する三千六百円

銀行調査書に依れば、三十九年六月十二日城南・目黒の竹田文雄名義、別段預金(一時預り口)口座に、山洋電気(株)から三千六百円が入金された事実が認められるが(二一九丁一一段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、山洋電気(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、弁第二九号証(東京都豊島区巣鴨六丁目千三百四十九番地に本店を置く山洋電気(株)取締役社長山本浩回答書)、当審に於て取り調べた臼田昭太郎(右山洋電気(株)庶務課長)検供、佐野昭二(同都港区芝浜松町一丁目十一番地に本店を置く山洋電気(株)代表取締役)検供に依れば、

(1) 豊島区の山洋電気(株)は、被告会社から注文を受けて自社製品を納入する立場に在つて、被告会社からその製品を購入した事実の無いこと、

(2) 港区の山洋電気(株)は、三十九年六月八日被告会社からXY軸記録計用紙千枚を三千六百円で購入し、同年同月同日山洋電気(株)振出、富士・青山払の小切手に依り右代金を支払つたこと

が認められる。

とすれば、本件の三千六百円の売上先は、豊島区の山洋電気(株)ではなく、港区の山洋電気(株)であることは明白であり、三十九年度売上経費帳及び元帳には、山洋電気(株)との取引事実も亦、金額の如何を問わず、全く記載されていないから、所詮之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定は、売上先は別として、その余の点に於ては誤が無い。

従つて、売上先の名称は、山洋電気(株)ではなく、山洋電気(株)と認定するのが正当である。

18 荒木電機工業(株)に対する一百四十九万八千五百円

銀行調査書に依れば、

(1) 四十年三月十九日横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に、三十九年十一月十日荒木電機工業(株)振出、満期日四十年三月二十日、住友・神田駅前払の約束手形に依り四十七万二千五百円(二〇四丁一三段目)、

(2) 四十年四月一九日城南・目黒の田丸恵二名義、別段預金(一時預り口)口座に、荒木電機工業(株)振出、住友・神田駅前払の約束手形に依り六十九万三千円(二二三丁六段目)

が夫々入金された事実が認められる。

所論は、本件は、被告会社が申告した公表売上高の他には取引事実が無いのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、荒木電機工業(株)との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、一月三十日以降十二月三十一日迄計九件、二百二十二万一千三百八十円の売上、同年度元帳に四月十三日以降八月二十六日迄計四件、二百二十二万一千三百八十円受取手形に依り入金の旨の記載が有り、右売上及び入金の記載は、荒木電機工業(株)取締役社長荒木一雄回答書(三九〇丁乃至三九三丁)添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分の仕入及び支払の記載と完全に一致するから、この限りに於ては、本件の一百四十九万八千五百円が不当計上である旨の所論は理由が有るかに思料される。

然し、右荒木一雄上申書(四六四丁乃至四七〇丁)、同添付の仕入帳写三十九年度分に依れば、荒木電機工業(株)は、平和電機商会から被告会社製品を九月二十一日以降十二月二日迄計六件、一百四十九万八千五百円仕入れ、その内一百十六万五千五百円を年内に右(1)、(2)の各約束手形に依り支払い、三十三万三千円が同年度末の買掛金残高と成つていることが認められるところ、被告人検供(四十一年八月二十六日付)、被告人質問顛末書(同年六月十一日付)、青木隆平質問顛末書、松田調書(四十四年七月十一日付及び同年九月二十六日付)、当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述を綜合すると、平和電機商会は、被告会社の売上除外の為め売渡人名義として使用されたに過ぎず、その実体は被告会社そのもので、平和電機商会名義に依る売上金は悉く被告会社に帰属していたことが明認される。

とすれば、本件の一百四十九万八千五百円は即被告会社の荒木電機工業(株)に対する売上金に該当すると認めるのが相当であるところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、荒木電機工業(株)との取引に付て、前掲二百二十二万一千三百八十円の記載が有る丈で、本件の一百四十九万八千五百円に照応する売上及び入金の記載が無い許りか、平和電機商会との取引としても何等の記載が無いから、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足りる。

所論は理由が無い。

22 五十嵐淳に対する四万七千五百円

銀行調査書(二二〇丁八段目、九段目、二一三丁六段目)及び代金取立手形記入帳(証第二一号の四頁五段目)に依れば、三十九年八月十三日城南・目黒の山本三郎名義、別段預金(一時預り口)口座に、五十嵐淳から三井・目黒払の他行手形に依り国庫金四万七千五百円が入金され、同年同月十八日之が城南・目黒の平田春夫名義、普通預金口座に入金された事実が認められるが、三十九年度売上経費帳及び元帳には、五十嵐淳との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、松田調書(四十四年九月二十六日付)、当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述に依れば、本件の四万七千五百円は、その入金の経緯に鑑み、大学若しくは官公庁からの入金と思料されるとのことであるが、若し然りとすれば、国庫金出納を取り扱う日銀代理店を通じて支払者を突き止めることができた筈であるに拘らず、この点の立証が為されていないこと、更に一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に鑑みても、五十嵐淳の業種及び同人を介して大学若しくは官公庁が被告会社の製品を購入したことを窺わせる事実に付ての証明が皆無であることに徴すると、本件の四万七千五百円が五十嵐を介しての大学若しくは官公庁に対する被告会社製品の売上代金であるとは認め難く、又その入金の経緯に鑑み、本件が所謂廻しに依るものとも認められないから、右入金の事実よりして直にその金額相当の売上が有つたとは断定し難い。

所論は理由が有る。

24 扇屋電機産商に対する二千九百二十五円

銀行調査書に依れば、三十九年八月二十一日城南・目黒の山本三郎名義、別段預金(一時預り口)口座に、扇屋電機産業(株)から二千九百二十五円が入金され、同年同月二十六日之が城南・目黒の平田春夫名義、普通預金口座に入金された事実が認められるが(二二一丁一段目、二一三丁九段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、扇屋電機産業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、本件は、取引事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

按ずるに、弁第三二号証(扇屋電機産業(株)回答書)中には、扇屋電機産業(株)は被告会社とは取引が無い旨の記載が存するが、当審に於て取り調べた小川凌二(扇屋電機産業(株)社員)検供に依れば、本件の二千九百二十五円は、扇屋電機産業(株)が被告会社から購入した物品の代金として小切手に依り支払つたものであること、扇屋電機産業(株)は、斯る小額の小切手を他社に換金して貰わなければならない様な事情は無く且斯る換金依頼の事実は無く、被告会社とは貸借をする様な親しい関係は無く、三十九年度の取引と言つても、二千九百二十五円の仕入一回程度のものに過ぎないこと、弁第三二号証の回答書の記載は事実に反し間違であることが認められるから、本件の二千九百二十五円が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。なお、売上先の名称は、扇屋電機産業(株)と表示するのが正当である。

所論は理由が無い。

25 富士電波工業(株)に対する九万五千円

銀行調査書に依れば、三十九年八月二十九日城南・目黒の犬飼克己名義、別段預金(一時預り口)口座に、富士電波工機(株)振出、富士・東部練馬払の約束手形に依り九万五千円が入金され、同年九月九日之が城南・目黒の平田春夫名義、普通預金口座に入金された事実が認められ(二二一丁二段目、二一三丁一一段目)、右調査書中、富士電波工業(株)とあるのは、証拠調の結果富士電波工機(株)の誤記と認める。

所論は、右九万五千円は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、富士電波工機(株)との取引に付ては、三月五日以降十二月十日迄、計十二件、二百七十四万四千九百七十五円の売上、五月二十日以降十二月十一日迄、計六件、二百六十万一千二百円受取手形に依る入金の旨の他、三十九年度売上経費帳に、三月五日九万五千円の売上、同年度元帳に四月二十日受取手形に依り九万五千円入金の旨の記載が有り、之と本件の九万五千円とは金額的に一致するが、本件の約束手形は振出日及び満期日が不詳で且入金日が元帳記載の入金日と異なるから、この両者は別個の取引に属するものと思料されない訳ではない。

然し、弁第三三号証の一(富士電波工機(株)取締役社長斎藤基房回答書)添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分及び同号証の二(右斎藤基房証明書)に依れば、

(1) 富士電波工機(株)は、三十九年三月十一日以降十二月十八日迄の間被告会社から計十三件、二百七十四万四千九百七十五円の他、三月十一日熱膨張検出器一台、代金九万五千円を購入し、同年四月二十日、満期日同年八月三十一日、富士・東部練馬払、九万五千円の約束手形に依りその代金を支払つたこと、

(2) 富士電波工機(株)に於ては、三十九年度中は、額面金額九万五千円の約束手形は、右四月二十日発行の一通の他には発行していないこと、

が認められるから、本件の約束手形は、三十九年度元帳記載の受取手形と同一の手形であつて、本件の九万五千円は、被告会社が申告した公表売上高と重複していると認めるのが相当である。

所論は理由が有る。

27 東和産業(株)に対する二千九百二十五円

銀行調査書に依れば、三十九年十月二十三日住友・田園調布の黒沢順一名義、普通預金口座に、同年同月八日東和産業(株)振出、日信・田村町払の小切手に依り二千九百二十五円が入金された事実が認められるが(一八七丁一〇段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、東和産業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

所論は、東和産業(株)は、被告会社が部品を仕入れる仕入先であつて、被告会社の製品を購入する業者ではなく、本件は、売上事実が皆無であるのに売上高に計上されている旨主張する。

然し、少くとも三十八年度元帳並びに三十九年度売上経費帳及び元帳に関する限り、被告会社が東和産業(株)から部品を仕入れた事実は認められないから、東和産業(株)は、被告会社が部品を仕入れる仕入先である旨の所論主張事実は輙く肯認し難く、弁第三五号証(東和産業(株)代表取締役脊黒正男回答書)に依れば、東和産業(株)は前に二、三回被告会社と取引をした事実があることが認められるから、本件の二千九百二十五円は、被告会社が東和産業(株)に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足りる。

所論は理由が無い。

28 新電子工業(株)に対する一万九千二百五十円

銀行調査書に依れば、三十九年九月十一日住友・田園調布の被告会社名義、別段預金口座に、

(1) 同年同月五日新電元工業(株)振出、三菱・丸の内払の小切手に依り七千五百五十円(二一八丁一段目)、

(2) 同年同月同日新電元工業(株)振出、埼玉・丸の内払の小切手に依り七千八百円(二一八丁二段目)、

(3) 同年同月同日新電元工業(株)振出、日相・本店払の小切手に依り三千九百円(二一八丁二段目)

が夫々入金された事実が認められ、原審検察官の証拠説明書中、新電子工業(株)とあるのは、証拠調の結果新電元工業(株)の誤記と認める(新電子工業(株)との取引事実に付ては、新電子工業(株)取締役社長山本和一回答書記載内容と三十九年度売上経費帳及び元帳の記載内容との間に食違は無く、簿外売上は存しない)。

所論は、右の合計一万九千二百五十円は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、三十九年度売上経費帳及び元帳には、新電元工業(株)との取引事実として、

<省略>

売上計七件、二万五千六百五十円、入金計二件、六千四百円の記載が有り、右の内3乃至7の計五件、一万九千二百五十円は三十九年度確定申告書(証第二号)に未収の売掛金として計上されている。

他方、弁第三四号証(新電元工(株)取締役社長和田真梶回答書)添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、

<省略>

計七件、二万五千六百五十円の仕入をした事実が認められる。

右両者を対照すると、前記(1)乃至(3)の小切手は、その振出日及び額面金額に徴し、新電元工業(株)が右3乃至7の計五件、一万九千二百五十円の仕入代金支払の為めに振り出した三通の小切手と同一の小切手であると認められるから、本件の一万九千二百五十円が新電元工業(株)から現実に支払われ、被告会社に現実に入金されているに拘らず、三十九年度確定申告書に未収の売掛金として計上されていることに釈然としないものが有るが、之が被告会社に於て申告した公表売上高と重複していることは明白である。

所論は理由が有る。

29 東京大学に対する一万五千円

銀行調査書に依れば、三十九年九月十一日住友・田園調布の被告会社名義、別段預金口座に、同年同月九日東京大学振出、日銀・本郷払の小切手に依り一万五千円が入金された事実が認められる(二一八丁四段目)。

而して、東京大学との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、五月二十九日一万五千円の売上の記載が有る許りでなく、先に別表一、三十八年度簿外売上高56(東京大学の項)に付て説明したところと同様、三十九年度売上経費帳及び元帳に依れば、入金は必ずしも売上の順序に依つておらず且東京大学との取引事実としては、同大学付属の諸研究機関との多数口に上る多額の取引事実が記載され、所謂「東京大学」との取引事実との弁別が必ずしも明確ではないことに徴すると、本件の一万五千円は、三十九年度元帳には之に対応する入金の記載が無いが、之を以て同大学に対する三十九年度簿外売上高と即断することは相当ではない。

夫故、之を簿外売上高に計上した原判決の事実認定は失当である。

30 電気研究所に対する一万一千八百円

銀行調査書に依れば、三十九年九月十一日住友・田園調布の被告会社名義、別段預金口座に、同年同月同日電気試験所振出、日銀・日比谷払の小切手に依り一万一千八百円が入金された事実が認められ(二一八丁五段目)、右調査書中、電気研究所とあるのは、証拠調の結果電気試験所の誤記と認める。

所論は、右一万一千八百円は、被告会社が申告した公表売上高中に記帳され、当該年度に於て課税済である旨主張する。

按ずるに、電気試験所との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、二月二十九日以降十月二十九日迄、計九件、一百六万二千一百円の他、七月三十一日一万一千八百円の売上の記載が有る許りでなく、当審に於て取り調べた新井義治(工業技術院電気試験所総務部会計課長)検供、同添付の同試験所契約原簿及び支出簿、東京地方検察庁検察事務官上西明の同庁検事小野昇宛捜査報告書、同添付の小切手写に依れば、工業技術院電気試験所は、三十九年七月十七日被告会社とXY軸記録計D/4型の修理を契約し、同年八月四日その納入を受け、同年九月四日本件の小切手に依り右修理代金一万一千八百円を支払つた事実が認められるから、本件の一万一千八百円は、被告会社が申告した公表売上高と重複していることは明白である。

所論は理由が有る。

31 (株)中央理研に対する四千五百円

銀行調査書に依れば、三十九年八月一日住友・田園調布の井田三郎名義、別段預金口座に、(株)中央理研振出、富士・小舟町払の小切手に依り四千五百円が入金された事実が認められるが(二一八丁九段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、(株)中央理研との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた高木政郷((株)中央理研社長)検供に依れば、先に別表一、三十八年度簿外売上高の11((株)中央理研の項)に付て説明したところと同様、本件の四千五百円は、被告会社が(株)中央理研に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

32 日本ビクター(株)に対する三千円

銀行調査書に依れば、三十九年七月二日富士・自由ケ丘の小宮山隆名義、普通預金口座に、同年六月三十日日本ビクター(株)振出、富士・小舟町払、三千円の小切手が入金された事実が認められるが(一九二丁一段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、日本ビクター(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、日本ビクター(株)は、その社名から推して被告会社の製品を購入する如き業種に属するものと思われ、現に、三十八年度元帳には、日本ビクター(株)との取引に付て、五月十日三十八万五千円の売上、六月二十日受取手形に依り三十八万五千円入金の旨の記載が有り、過去に取引実績が有ることに徴すると、本件の三千円は、被告会社が日本ビクター(株)に販売した自社製品の売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

33 (有)星理化学器械店に対する七十七万九千八十五円

銀行調査書に依れば、

(1) 三十九年七月七日富士・自由ケ丘の小宮山隆名義、普通預金口座に、同年六月十七日(有)星理化学器械店振出、七十七・芭蕉の辻払の小切手に依り三千八百二十五円(一九二丁二段目)、

(2) 同年九月二十一日城南・目黒の北村信二名義、別段預金(一時預り口)口座に、(有)星理化学器械店振出、七十七・芭蕉の辻払の小切手に依り一万一千七百円(二二一丁六段目)、

(3) 四十年一月十一日横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に、(有)星理化学器械店振出、七十七払の代手に依り六十七万五千円(二〇四丁一段目)

が夫々入金された事実が認められる。

所論は、(有)星理化学器械店に対する簿外売上高は六千一百六十五円であるから、本件は之との差額七十七万二千九百二十円に付て簿外売上高が過大に計上されている旨主張する。

按ずるに、(有)星理化学器械店との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、十月二十三日七百二十円の売上が記載され、他方(有)星理化学器械店代表取締役星春見回答書(四四三丁乃至四四六丁)添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、被告会社の公表売上高中に記帳されていない分として、

<省略>

計四件、六千一百六十五円の仕入をした事実が認められるに過ぎないから、この限りに於ては、六千一百六十五円が被告会社名義を使用した簿外売上高であると認められ、七十七万二千九百二十円が過大計上である旨の所論は理由が有るかに思料される。

然し、右星春見上申書(五五七丁乃至五七一丁)、同添付の理工電機製作所からの仕入明細書三十九年度分に依れば、(有)星理化学器機店は理工電機製作所から被告会社製品を、

<省略>

計四件、七十七万二千二百円仕入れ、その内

2及び3の計一万一千七百円を前掲(2)の小切手に依り支払い、

4の六十七万五千円を前掲(3)の代手に依り支払い、

前掲(1)の小切手は被告会社からの仕入2及び3の計三千八百二十五円の支払に充てられていることが認められるところ、右上申書、被告人質問顛末書(四十年八月三十一日付、四十一年六月十一日付)、被告人検供(四十一年八月二十六日付)、松田調書(四十四年七月十一日付)、当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述を綜合すると理工電機製作所は、被告会社の売上除外の為め売渡人名義として使用されたに過ぎず、その実体は被告会社そのもので、理工電機製作所名義に依る売上金は被告会社に帰属し、右計四件、七十七万二千二百円の取引は、(有)星理化学器機店に於て、被告人安永の依頼に依り理工電機製作所からの仕入として取引した分であることが認められる。

とすれば、右七十七万二千二百円は即被告会社の(有)星理化学器機店に対する売上金に該当し、被告会社名義を使用した実際売上高六千一百六十五円に当然加算されるべきものと認めるのが相当であるところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、右七十七万二千二百円に照応する売上及び入金の記載が無い許りか、理工電機製作所との取引としても何等の記載が無いから、之を被告会社名義を使用した簿外売上高六千一百六十五円に加算した七十七万八千三百六十五円が(有)星理化学器機店に対する総簿外売上高であると認める。

それ故所論過大計上の主張は採るを得ないが、原判決が認定した簿外売上高七十七万九千八十五円は、公表売上高七百二十円を二重に計上しており、所論はこの過大計上額七百二十円の限度を於て結局理由が有る。

37 寺田東太郎に対する三十一万五千円

銀行調査書に依れば、三十九年十月七日城南・目黒の竹田伸二名義、別段預金(一時預り口)口座に、寺田東太郎振出、神戸・北九州払の約束手形に依り三十一万五千円が入金された事実が認められるが(二二一丁八段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、寺田東太郎との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

而して、当審に於て取り調べた寺田東太郎((株)旺計社代表取締役)検供、福岡地方検察庁小倉支部検察事務官野村政一の同庁検事岩崎栄之宛、寺田東太郎の妻寺田シツからの電話聴取報告書、見積書綴(証第一七号―検符二三の九)、代金取立手形記入帳(証第二一号の三頁四段目)を綜合すると、

(1) (株)旺計社は、以前は旺計社と称し個人経営であつたが、四十二年十月二日株式会社組織と成つたもので、個人経営当時も現在も、工業計器並びに自動機器の部品の販売、整備を営業目的としていること、

(2) 個人経営当時の旺計社は、三十八年か三十九年に一回と四十年か四十一年に一回と計二回被告会社からXY軸記録計を一台宛購入した事実が有り、第一回目は三十八年九月四日被告会社から寺田東太郎宛にF/3V型二台、代金単価三十五万円の見積書(M三七八号)が提出され、一割値引の三十一万五千円で手形決済が行われていること、

(3) その手形は、振出人は旺計社こと寺田東太郎、名宛人は被告会社、満期日は三十九年九月三十日、額面金額は三十一万五千円、第一裏書人は被告会社、第二裏書人は竹田伸二で、城南・目黒から取立に廻り、全信連・北九州、八幡信用金庫を通じて交換されていること、

(4) 旺計社に於ては、被告会社を含めて他処に手形割引を依頼し又は他処から手形割引を依頼された事実が無いこと

が認められるから、本件の三十一万五千円は、被告会社が三十八年九月四日付の見積書に基づいて三十九年中に旺計社こと寺田東太郎に自社製品を販売した売上代金に該当すると認めるのが相当であり、之が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

38 理経産業(株)に対する六十九万七千五百円

銀行調査書によれば、四十年四月十九日横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に、三十九年十一月三十日理経産業(株)振出、満期日四十年四月二十日、三菱・新橋払の約束手形に依り六十九万七千五百円が入金された事実が認められるが(二〇四丁一九段目)、三十九年度売上経費帳及び元帳には、理経産業(株)との取引事実は、金額の如何を問わず、全く記載されていない。

按ずるに、理経産業(株)との取引に付ては、理経産業(株)代表取締役石川忠造回答書添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、理経産業(株)は、被告会社から六月二十七日以降八月二十四日迄、計三件、二十一万六千六百円を仕入れ、その内

十四万四千四百円を、八月十日、満期日十二月十日、三菱・新橋払の約束手形に依り、

七万二千二百円を、十月十日、満期日四十年二月十日、三菱・新橋払の約束手形に依り

夫々支払つた事実が認められ、右二十一万六千六百円は、被告会社名義を使用した簿外売上高ではあるが、右各約束手形と前掲約束手形とは別個の手形であることが明白であるから、右二十一万六千六百円は、本件の六十九万七千五百円には含まれない別個の売上である。

而して、当審に於て取り調べた北村重忠(理経産業(株)社員)検供に依れば、理経産業(株)は、三十九年十月十二日平和電機商会から被告会社の製品であるXY軸記録計一台を代金六十九万七千五百円で購入し、十一月三十日前記約束手形に依りその支払をしている事実が認められ、この事実と先に別表二、三十九年度簿外売上高の18(荒木電機工業(株)の項)に付て説明した平和電機商会と被告会社とが同一体である事実とに徴すると、右六十九万七千五百円は即被告会社の理経産業(株)に対する売上金に該当すると認めるのが相当であるところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、右六十九万七千五百円に照応する売上及び入金の記載が無い許りか、平和電機商会との取引としても何等の記載が無いから、之が簿外売上高である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足り、原判決の事実認定に誤は無い。

39 東京通商(株)に対する二十二万五千円

銀行調査書に依れば、四十年一月四日城南・目黒の田丸恵二名義、普通預金口座に、東京通商(株)振出、三十九年九月二十九日扱、満期日四十年一月五日、広島・東京払の約束手形に依り二十二万五千円が入金された事実が認められるが(二一七丁五段目)、東京通商(株)との取引に付ては、三十九年度売上経費帳に、一月十一日以降四月二十三日迄、計五件、二十四万九千七百円の売上、同年度元帳に、

二月五日当座預金へ前年度未収売掛金一万七百円(三十八年度確定申告書、証第一号参照)、

二月二十九日受取手形に依り二十二万円、

六月二日当座預金へ二万九千七百円

各入金の旨の記載が有る丈で、本件の二十二万五千円に照応する売上及び入金の記載が無い。

所論は、本件の約束手形は、東京通商(株)の為め被告会社が割り引いて取得したものであつて、東京通商(株)に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

然し、被告会社の納品書複写簿綴(証第五号)中には、三十九年六月二十三日東京通商(株)にXY軸記録計E/3型一台、代金二十二万五千円を納入した旨の記載の有る納品書複写が存すること及び本件の約束手形が割引に依り被告会社に取得されたにしては、その入金日が手形の満期日の僅か一日前に該当し、手形割引の時期としては相当でないことに徴すると、本件の約束手形は、被告会社が東京通商(株)に納入販売した右記録計の代金の受取手形であると認めるのが相当であり、本件の二十二万五千円が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足りる。

所論は理由が無い。

40 東京電材(株)に対する四百万円

東京電材(株)取締役社長永田基義回答書添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度分に依れば、東京電材(株)は、十二月三日被告会社から記録計用記録紙十三万九千円及び記録計用送り装置八十万円(以上、計九十三万九千円の他、記録計の本体二台、代金二百八十万円及び記録計用対数増巾器三台、代金一百二十万円(以上、計四百万円)の納入を受け、同月二十一日、右前者の代金九十三万九千円を額面九十三万九千五百円の小切手に依り支払つた他、

(1) 東京電材(株)振出、満期日四十年五月三十一日、額面一百五十万円、

(2) 東京電材(株)振出、満期日四十年五月十七日、額面一百五十万円、

(3) 目黒電波(株)振出、満期日四十年五月三十一日、額面一百万円

の各約束手形に依り右後者の代金計四百万円を支払つた事実が認められるが、三十九年度売上経費帳及び元帳には、東京電材(株)との取引事実に付て、右前者に照応すると思われる二口、計九十三万九千五百円の売上及び入金の旨の記載が有る丈で、右後者の二口、計四百万円の売上及び入金の旨の記載は無い。

所論は、本件の記録計本体及び記録計用増巾器は三十九年十二月三日当時に於ては製品としては未完成で、前掲各約束手形は手付として交付されたに過ぎず、その売上は四十年度に属する旨主張する。

然し、前掲回答書に依れば、本件物品の納入時期が三十九年度内であること及び本件各約束手形に依る支払金額が本件物品の代金全額に相当し、その一部でないことに徴すると、本件物品は三十九年十二月三日納入時に於て既に製品として完成し、右納入の時点に於て給付の完了、即ち売上が行われたと認めるのが相当であり、本件の四百万円が三十九年度の簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足りる。

42 日本電子(株)に対する三万二千円

日本電子(株)取締役社長風戸健二回答書添付の被告会社からの仕入明細書三十九年度に依れば、日本電子(株)は、被告会社から

<省略>

計四件、五十三万二百円の仕入をした事実が認められるところ、三十九年度売上経費帳には、日本電子(株)に対する売上として、右仕入明細書1、3、4に夫々照応する記載が有るが、2に照応する記載は無く、その代り八月二十九日二万八千の売上が記載され、之と右2の六万円との差額三万二千円が簿外売上高とされている。

所論は、右仕入明細書2の六万円は、日本電子(株)に於て、ライオン商事(株)からの仕入額三万二千円を誤つて被告会社からの仕入額に算入計上したのであるから、結局簿外売上は無い旨主張する。

按ずるに、弁第五五号証の一(日本電子(株)経理部長石田功の請求書送付の件と題する書面)、二(日本電子(株)の被告会社に対する請求書)、三(日本電子(株)取締役社長風戸健二の訂正依頼と題する書面)、四(日本電子(株)の被告会社からの仕入伝票)、五(日本電子(株)のライオン商事からの仕入伝票)、六乃至八(各検収通知書)に依れば、正に所論の主張事実を認めることができ、被告会社が申告した公表売上高は実際売上高と完全に一致し、簿外売上は皆無であることが明白である。

所論は理由が有る。

43 共栄電子に対する三十四万円

銀行調査書に依れば、四十年三月九日城南・目黒の田丸恵二名義、普通預金口座に、共栄電子測器(株)振出、満期日同年同月十日、中信・神田払の約束手形に依り三十四万円が入金された事実が認められ(二一七丁一〇段目)、原審検察官の証拠説明書中供栄電子(株)とあるのは、証拠調の結果共栄電子測器(株)の誤記と認める。

而して、三十九年度売上経費帳及び元帳に依れば、共栄電子測器(株)との取引事実として、

<省略>

計三件、三十九万七千円の記載が有る丈で、本件の三十四万円に照応する売上及び入金の記載はない。

所論は、本件の約束手形は、倒産寸前の状態に在つた共栄電子測器(株)の為め四十年一月頃被告会社が割り引いて取得したものであつて、共栄電子測器(株)に対する売上代金の受取手形ではない旨主張する。

然し、当審に於て取り調べた半田幸一(現在の共栄電子測器(株)代表取締役)質問顛末書及び中信・神田支店長松本秀夫証明書添付の約束手形写並びに見積書綴(証第一七号―検符二三の九)中の一通(M三九三号)を綜合すると、

(1) 半田幸一が現在代表取締役をしている共栄電子測器(株)は曾て東京都板橋区蓮沼町に本店を置いた共栄電子測器(株)とは別法人であつて、旧共栄電子測器(株)は不渡手形を出して四十年十月十日に倒産したこと、

(2) 旧共栄電子測器(株)の代表取締役は久保田敏郎で、同会社は、被告会社からXY軸記録計を購入した事実が有り、その価格は当時一台三十五万円であつたこと、

(3) 前記約束手形は、旧共栄電子測器(株)代表取締役久保田敏郎が振出日白地、満期日四十年三月十日、支払場所中信・神田と記載して平和電機商会宛に振り出した額面金額三十四万円の約束手形であること

が認められ、右の諸事実と、

(4) 前記約束手形が割引に依り被告会社に取得されたにしては、その入金日が手形の満期日の僅か一日前に該当し、手形割引の時期としては相当ではないのみならず、旧共栄電子測器(株)の倒産はそれより約七箇月後の事に属し、未だ倒産寸前の状態にはなかつたこと、

(5) 先に、別表二、三十九年度簿外売上高の18(荒木電機工業(株)の項)に付て説明した平和電機商会と被告会社とが同一体である事実とに徴すると、本件の約束手形は、被告会社が平和電機商会名義を使用して旧共栄電子測器(株)に販売したXY軸記録計一台の売上代金の受取手形として取得したものと認めるのが相当であるところ、三十九年度売上経費帳及び元帳には、本件の三十四万円に照応する売上及び入金の記載が無い許りか、平和電機商会との取引としても何等の記載が無いから、之が簿外売上高である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯するに足りる。

所論は理由が無い。

なお、売上先の名称は共栄電子測器(株)と表示するのが正当である。

44 その他の入金二百十一万七千一百十四円

銀行調査書に依れば、

(甲) 住友・田園調布の被告会社名義、普通預金口座に、

(1) 三十九年一月二十日七十万三千七百一円(一八三丁八段目)、

(2) 同年三月十八日四十万一千五百二十円(一八三丁一〇段目)

計二口、一百十万五千二百二十一円が入金され、

(乙) 同年十月二十四日富士・自由ケ丘の小宮山隆名義、普通預金口座に、同年同月二十日振出、第一・荏原払、四千三百円の小切手が入金され(一九二丁七段目)、

(丙) 住友・渋谷の内藤信次名義、普通預金口座に、

(1) 同年一月二十四日、同年同月二十日振出、広島・東京払の小切手に依り二十二万五千円(一九六丁二段目)、

(2) 同年三月二十四日小切手に依り六千五百円(一九六丁一九段目)

計二口、二十三万一千五百円が入金され、

(丁) 三菱・自由ケ丘の山岡和夫名義、普通預金口座に、

(1) 同年九月二十五日八万四千七百二十六円(二〇九丁一段目)、

(2) 同年同月三十日十五万七千五百円(二〇九丁二段目)、

(3) 同年十月七日一万二千九百円(一〇九丁四段目)、

計三口、二十五万五千一百二十六円が入金され、

(戊) 同年五月二日城南・目黒の平田春夫名義、普通預金口座に、十八万四千四百円が入金され(二一二丁七段目)、

(己) 同年十一月二十一日住友・田園調布の被告会社名義、別段預金口座に、三十三万四千五百六十七円が入金され(二一八丁六段目)た事実が認められ、以上の合計二百十一万五千一百十四円が簿外売上高とされている。

所論の要旨、本件の二百十一万七千一百十四円(入金は二百一万五千一百十四円)が凡て簿外売上高とされているに拘らず、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、その売上先に付て具体的明確性を缺くこと、税務記録第59号上申書及び被告人質問顛末書(四十一年六月十八日付)に依れば、右は抑その回収先が詳かでない簿外売上高を一括上したものと認められることは、何れも先に別表一、三十八年度簿外売上高の61(その他の入金の項)に付て説明したところと同様であり、その内の若干、例えば、

(甲)の計二口、一百十万五千二百二十一円は、別表一、三十八年度簿外売上高の61(その他の入金の項)の(甲)(計四口、一百十一万一千六百十四円)に付て挙示した証拠(但し、小林調書は、四十四年一月十六日付及び同年同月三十日付と読み替える)を綜合すると、被告会社が三十九年中に自社製品を輸出して取得した売上代金であることを窺うに足り、

(己)の三十三万四千五百六十七円は、松田調書(四十四年六月二十七日付及び同年七月十一日付)に依れば、クリーン・ビルの買取代金であることを窺うに足り、

之らを含む本件の二百十一万五千一百十四円(原判決認定の二百十一万七千一百十四円は誤算と認める)が簿外売上である旨の税務記録第59号上申書の記載は首肯することができる。なお、右金員が被告会社に於て社外の海外出張研究者等の為め立替払した金員の返済として受領した金員である旨の主張事実に付ては、一件記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、之を確認するに足るべき証拠は皆無である。

所論は理由が無い。

その二 簿外支出高に付て。

三十八年度及び三十九年度各簿外支出高に付て、所論が、原判決に於て之を損金に計上しなかつたことに事実誤認が有る旨主張する諸項目を検討し、三十八年度簿外支出高中当審に於て新たに損金として計上すべきものを本判決末尾の別表三摘示の通り認定し、三十九年度簿外支出高中当審に於て新たに損金として計上すべきものを同別表四摘示の通り認定するが、その認定の理由は左記の通りである。

一 (有)黒川電気に対する、

別表三の1 計二口、六十万六千円

別表四の1 三十三万二千一百五十円

三十八年度及び三十九年度各元帳には、(有)黒川電気からの買掛金を、

三十八年十一月十一日 三十三万六千円

同年十二月十日 二十七万円

三十九年四月十日 三十三万二千一百五十円

何れも支払手形に依り支払つた旨の記載が有り、右記載に照応する如く、

(甲) (株)理化電機研究所振出、振出日白地、富士・自由ケ丘払、(有)黒川電気宛、

(1) 満期日三十九年三月二十四日、額面金額三十三万六千円の約束手形(弁第四九号証はその写)

(2) 満期日同年四月十五日、額面金額二十七万円の約束手形(弁第五〇号証はその写)

(乙) 同年四月十日被告会社振出、満期日同年五月三十一日、富士・自由ケ丘払、(有)黒川電気宛、額面金額三十三万二千一百五十円の約束手形(弁第五一号証はその写)

が存在し、原判決は、右計三口の買掛金は架空仕入に基づき、右三通の約束手形はこの架空仕入を実際の仕入らしく装う為めに振り出されたものであると認定しているところ、所論は、右計三口の買掛金は凡て実際の部品仕入に基づき、右三通の約束手形は実際の部品仕入代金支払の為めに振り出されたもので、唯当時(有)黒川電気に於て即時現金払を希望した事情が有つて、被告会社がその都度所要の現金を支払い、手形裏書の方式を採つて(有)黒川電気から譲渡を受け所持するに至つた旨主張する。

按ずるに、前記計三口の買掛金が架空仕入に基づき、前記三通の約束手形が架空仕入を実際の仕入らしく装う為めに振り出されたものである事実を認定する証拠としては、被告人検供(四十一年八月二十六日付)、被告人質問顛末書(同年六月十一日付)中その旨の自白の他には、銀行調査書に依り認められる如く、該約束手形が何れも(有)黒川電気代表取締役小島昭を第一裏書人として、

(甲)の(1)及び(2)は、架空人岩崎弘昌を第二裏書人として城南に取立委任裏書され、城南・目黒の岩崎弘昌名義、通知預金口座に、

(1)は、三十九年三月二十三日(一七四丁一段目)、

(2)は、同年四月十四日(一七四丁二段目)

夫々入金され、

(乙)は、架空人堀木伸二を第二裏書人として横浜に取立委任裏書され、同年五月三十日横浜・祐天寺の堀木伸二名義、普通預金口座に入金され(二〇二丁三段目)

ており、右岩崎弘昌及び堀木伸二名義の各預金口座は何れも被告会社の所謂裏預金口座である事実が存するに過ぎない。

而して、本件犯則事件に於て、右岩崎弘昌、堀木伸二名義の各預金口座を含む所謂裏預金口座が法人税逋脱の手段として使用されている事実は、被告人が右検供及び各質問顛末書中に於て自認しているところであるが、先に別表一の三十八年度簿外売上高及び別表二の三九年度簿外売上高中の諸項目の若干に付て説明した如く、被告会社の所謂裏預金口座に入金されている金員の総てが悉くは法人税逋脱を目的とする簿外売上金ではなくて、例えば、

公表売上高の全部若しくは一部(別表二の11、(株)第一科学、15、吉沢精機工業(株)、25、富士電波工機(株)、28、新電元工業(株)、30、電気試験所の各項参照)、

取引先に対する貸金の返済として受領した金員(別表一の15、(有)竹本電機製作所の項参照)、

取引先の為め割り引いた手形金(別表一の34、(株)東邦プレス製作所、35、竹内企業(株)、36、日新電子工業(株)の各項参照)、

も含まれているから、前記各約束手形が所謂裏預金口座に入金されている事実よりして直にその額面金額相当の架空仕入が有つたとは断定し難い。

尤も、各小島調書に依れば、

(1) (有)黒川電気代表取締役小島昭は、三十二年三月心臓疾患に依り手術を受けて以来健康が勝れず、三十八年及び三十九年当時に於ては病院に入院若しくは通院し、営業に専従することができなかつた事実

(2) 前記各約束手形に限り、満期日に於ける決済を待たず、即時現金化して支払われた理由に付て釈然としないものが有ることが窺われるが、

右(1)の点に付ては、小島調書(四十四年四月十一日付)に依れば、小島昭は、三十二年四月以降三十三年二月末頃迄入院して手術を受け、三十九年四月再発し同年六月頃迄通院し、同年八月以降十一月迄入院したものの、三十八年から三十九年四月の再発迄の健康状態は必ずしも悪くなく、現に三十八年度元帳並びに三十九年度売上経費帳及び元帳に依れば、

三十八年度に於て、少くとも計十口、一百万円余、

三十九年度に於て、少なくとも計十口、一百七十万円弱

に相当する物品が(有)黒川電気から被告会社に納入販売されている事実も認められるから、本件当時小島昭は細々乍らも営業を持続していたものと言うべく、本件は一口当りの金額に徴しても、同人の当時の境遇下に於て決して有り得べからざる底の取引であつたとは輙く断じ難く、

又(2)の点に付ては、三十八年度及び三十九年度各元帳に依れば、(有)黒川電気に対する被告会社買掛金の支払は、本件の計三口の他に、三十八年度に於て、

小切手に依るもの計十口(内、十五万円以上一口、五万円以上六口、三万円以上三口)、

支払手形に依るもの計二口(内、二十万円以上及び十万円以上各一口)、

三十九年度に於て、

小切手に依るもの計九口(内、十万円以上二口、五万円以上四口、二万円以上三口)、

支払手形に依るもの計三口(内、二十万円以上、十五万円以上、十万円以上各一口)、

受取手形に依るもの一口(六十三万円余)

諸口払に依るもの一口(十万円)

有り、前記各約束手形に限り、満期日に於ける決算を待たず、即時現金化して支払われたことは、その各額面金額(三十万円以上二通、二十万円以上一通)に照し奇異の感が無いでもなく、小島調書(四十四年四月十一日付)中、それらは何れも若月誠から現金で大量に廉価で仕入れたダイオード等の代金であつた為め、特に被告人安氷に依頼して即時現金払をして貰つた旨の供述は、若月調書中、三十八年度及び三十九年当時(有)黒川電気に対し一度に大量のダイオードを販売した事実は無い旨の供述と喰い違うが、小島調書(四十四年十月三日付)に依れば、(有)黒川電気が被告会社に納入販売したダイオード等は、若月誠の他三、四名からも現金で廉価に仕入れていると言うに在り、

結局各小島調書は必ずしも全面的には措信できないとしても、本件が被告人安永と小島昭との馴合に基づく架空仕入に因るものである事実を確認するに足りるものと迄は断じ難く、前掲被告人の自白は十分な補強証拠を缺くものと認めざるを得ない。

所論は結局理由がある。

二 諸大学及び研究機関に対する

別表三の2 一百二十万円

別表四の4 一百二十万円

所論は、被告会社が三十八年度及び三十九年度に於て、諸大学及び研究機関に対し、

<省略>

委託研究費として右の如く支出した各年度当り一百二十万円は、各当該年度の損金として計上すべきものである旨主張する。

然し、斯る支出は本来経費として損金に計上すべきものであるから、納税義務者は之を寧ろ過大に計上して公表帳簿に記載し、若し公表帳簿に記載しない簿外支出が有れば、税務官吏の調査を受けた際進んでその旨申述し、以て課税所得金額の軽減を図るのが通常であるところ、被告人安永は、本件犯則事件の調査に際し、

二十八年度に於て、交際費等として月額十万円、年額一百二十万円、

三十九年度に於て、交際費等として月額十五万円、年額一百八十万円

を夫々簿外支出した旨申述した丈で、その他に所論の如き委託研究費の簿外支出をした旨申述しなかつた為め、調査担当官は、右被告人が申述した三十八年度の年間支出高一百二十万円、三十九年度の年間支出高一百八十万円に付てその支出事実を証明する資料は無く且支出先が具体的に明確でなかつたに拘らず、兎も角もその申述通りに、三十八年度一百二十万円、三十九年度一百八十万円の支出を簿外経費と認定し、之を各当該年度の損金として認容したことは、松田調書(四十四年九月二十六日付)並びに税務記録第148号三十八年度脱税額計算書第149号同上説明資料及び同第150号三十九年度脱税額計算書、第151号同上説明資料中、調査所得(調査による増減金額)の説明書7一般管理費計上漏れの項(二四丁及び六七丁)に依り明白であるのみならず、記録を精査し且当審に於ける事実取調の結果に徴しても、所論委託研究費の簿外支出の事実を認めるに足りる証拠は皆無である。

所論は理由が無い。

三 青木隆平に対する

別表三の3 一百二十万円

別表四の5 一百二十万円

荒井美法に対する別表四の6 九十万円

所論は、被告会社が三十八年度及び三十九年度に於て、被告会社々員青木隆平に対し営業活動経費として支出した各年度当り一百二十万円、三十九年度に於て、同社員荒井美法に対し営業活動経費として支出した九十万円は、何れも各当該年度の損金として計上すべきものである旨主張する。

然し、斯る支出は本来経費として損金に計上すべきものであるから、納税義務者は之を寧ろ過大に計上して公表帳簿に記載し、若し公表帳簿に記載しない簿外支出が有れば、税務官吏の調査を受けた際に進んでその旨申述し、以て課税所得金額の軽減を図るのが通常であるところ、被告人安永は、本件犯則事件の調査に際し、

三十八年度に於て、青木隆平に対し簿外給与として月額一万五千円、年額十八万円、

三十九年度に於て、青木隆平に対し年間八十八万九千円、荒井美法に対し年間十七万五千円を何れも簿外販売費として、

夫々支出した旨申述した丈で、その他の所論の如き営業活動経費の簿外支出をした旨申述しなかつた為め、調査担当官は、兎も角も右被告人の申述通りに、三十八年度十八万円、三十九年度一百六万四千円の支出を簿外経費と認定し、之を各当該年度の損金として認容したことは、松田調書(四十四年九月二十六日付)及び当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述並びに税務記録第148号三十八年度脱税額計算書、第149号同上説明資料及び同第150号三十九年度脱税額計算書第151号同上説明資料中、調査所得(調査による増減金額)の説明書7一般管理費計上漏れの項(二四丁及び六五丁以下)に依り明白であるのみならず、三十八年度元帳及び三十九年度売上経費帳に依れば、

三十八年度に於て、青木隆平に対し、同人の旅費、交通費名義に依り、計十一件、五千六百五十円、

三十九年度に於て、

青木隆平に対し、同人の旅費、交通費名義に依り、計十五件、十万八千七百四十円、

荒井美法に対し、同人の旅費、交通費名義に依り、計五件、五万九千一百三十円

を夫々支給している事実が認められるから、青木調書中、正規に営業活動経費の支給を受けなかつた旨の供述は措信できない。

所論は理由が無い。

四 讃岐技研工業に対する別表四の2 一千二百十万八千円

亀井調書及び弁第五三号証(讃岐技研工業経営者亀井久夫の三十九年度ビジネス・ダイヤリイ写)に依れば、亀井久夫は、三十九年初頭以降四十年十月頃迄大阪市浪速税務署管内に於て、讃岐技研工業の名称を以て増巾器、記録装置、変換器、検出器等の製造、販売を営み、右製造品を被告会社に販売する他、被告会社の注文を受けて機械部品を他より調達し被告会社に納入販売していたこと、三十九年度に於ける両者間の取引内容は、左記一覧表摘示の通りであることが認められる。

<省略>

<省略>

<省略>

所論は、右一覧表記載の諸項目の内、1、2、8、10、12、16の各項目は、予めに被告会社が讃岐技研工業に一百万円単位の纒つた額の金員を仕入代金の前渡として交付し、納入を受けた時点に於て、現実に納入を受けた物品の仕入代金額と対当額にて相殺し、十二月三十日不足代金額一百十万八千円(一覧表の22)を現金に依り交付し、以て相殺勘定を結了したのであつて、一覧表上段記載の納入金額計一千三百八十七万八千四百六十円と同表下段記載の仕入金額計一百七十五万三千九百六十円との差額一千二百十二万四千五百円(但し、所論に従えば、一千二百十万八千円、この食違は一覧表記載の17乃至20の諸項目に付てのビジネス・ダイヤリイの記載と三十九年度売上経費帳の記載との間に一万六千五百円の誤差が存することに因るものである)は、実際の仕入代金であつて、架空仕入に基づくものではない旨主張する。

然し、斯る仕入代金支払の為めの支出は本来仕入代金として損金に計上すべきものであるから、納税義務者は之を寧ろ過大に計上して公表帳簿に記載し、若し公表帳簿に記載しない簿外支出が有れば、税務官吏の調査を受けた際進んでその旨申述し、以て課税所得金額の軽減を図るのが通常であるところ、被告人安永は、本件犯則事件の調査に際し、三十九年度に於て、讃岐技研工業に対し三百五十万円の貸付金が有る旨申述した丈で、その他に所論の如き一千二百十万円を超える仕入代金の簿外支出をした旨申述しなかつた為め、調査担当官は、兎も角も右被告人の申述通りに、三十九年度に右三百五十万円の支出を貸付金計上漏れと認定し、之を同年度の損金として認容したことは、松田調書(四十四年の六月二十七日付、七月十一日付、九月二十六日付)並びに税務記録第150号三十九年度脱税額計算書、第151号同上説明資料中、調査所得(調査による増減金額)の説明書10貸付金の計上漏れの項(八三丁以下)に依り明白であるのみならず、

(1) 抑、所論の如く年間一千二百十万円を超える多額の仕入代金が有り且前記一覧表1、2、8、10、12、16、22記載の如く一回に一百万円以上の大金が支出されているとすれば、納税義務者としては、その旨を公表帳簿に記載するか、少くとも之に関する証憑書類を整備保存し置くのが税金対策上寧ろ当然の措置であるに拘らず、之より少額の仕入代金に付ては、帳簿に記載し且証憑書類を整備保存して置き乍ら、それらと比較に成らない遙かに多額の所論仕入代金に付ては、公表帳簿に記載が無く且注文書、代金領収書等の証憑書類が全く存しない許りか、逆に讃岐研工業名義の白紙の領収書用紙(証第三一号)が被告会社に於て発見されたという事実は、真実は所論主張の仕入が無かつたことを首肯させる有力な徴憑であると言つて過言ではなく、

(2) 亀井調書に徴しても、所論前渡金授受の経緯、該金員と讃岐技研工業から被告会社に納入販売された物品の代金との相殺勘定が極めて漠然として具体性を缺き、該調書は必ずしも全面的には措信し難く、

(3) 当審に於て取り調べた東京国税局査察部長大石幸一の東京高等検察庁検事古谷菊次宛、「亀井久末に関係する滞納額等調べの送付に付て」と題する書類綴中、浪速税務署長提出の亀井久夫所得調査カード及び住吉税務署長回答書に依れば、亀井久夫は、三十九年度確定申告書に於て同年度の営業所得を二十万円しか申告しておらず、三十八年度、三十九年度、四十年度の各所得税を課せられておらず、従つて、同人は、三十九年度に於ては、所論の如く年間一千二百十万円を超える規模の物品の製造、販売を逐行する資力を有しなかつた事実を窺うに足りる

から、所論は理由が無い。

五 日本測器(株)に対する別表四の3 計二口、三十二万円

所論は、被告会社は、日本測器(株)に対する売上代金のリペイドとして、同会社に対し、

三十八年度売上代金に付て二十五万円

三十九年度売上代金に付て七万円

を夫々支払つており、右は損金として計上すべきものである旨主張する。

然し、

三十八年度売上代金に付ての二十五万円は、日本測器(株)専務取締役能野勝一供述書、同添付の被告会社製造に係るXY軸記録計等の仕入明細書中、東栄電機産業からの仕入分及び日本測器(株)総務部回答書(四十一年五月四日付、六一七丁)に依れば、先に別表二、三十九年度簿外売上高の4(日本測器(株)の項)に付て説明した通り、之を日本測器(株)本社仕入分と同会社大阪営業所仕入分とに分割し、内、

二万一千四百円を三十九年一月二十三日本社の三十八年一月以降十二月迄の東栄電機産業からの仕入金額の値引として支払を受け、

二十二万八千六百円を三十九年一月二十九日大阪営業所の三十八年一月以降十二月迄の東栄電機産業からの仕入金額の値引として支払を受けた

ことに処理してあり、値引の対象と成つている仕入金額は何れも三十八年度の仕入金額ではあるが、値引の処理が行われたのは三十九年度であるから、何れも三十九年度の東栄電機産業からの総仕入金額(既ち、被告会社の東栄電機産業名義に依る総売上高)に付て除算されるべきもので、重ねて三十九年度の損金として計上すべき理由は無く、

三十九年度売上代金に付ての七万円は、前掲能野勝一供述、同添付の被告会社からの仕入明細書及び弁第五九号証(日本測器(株)総務部回答書、四十二年十二月十九日付)に依れば、之を日本測器(株)本社仕入分と同会社大阪営業所仕入分とに分割し、内、

一万三千六百円を四十年八月四日本社の三十九年一月以降十二月迄の被告会社からの仕入金額の値引として支払を受け

五万六千四百円を四十年八月七日大阪営業所の三十九年一月以降十二月迄の被告会社からの仕入金額の値引として支払を受けた

ことに処理してあり、値引の対象と成つている仕入金額は何れも三十九年度の仕入金額ではあるが、値引の処理が行われたのは四十年度であるから、何れも四十年度の被告会社からの総仕入金額(即ち、被告会社の総売上高)に付て除算されるべきもので、三十九年度の損金として計上すべき理由は無く、

所論は理由が無い。

その三 簿外受取手形に付て。

所論は、原判決が税務記録第59号上申書掲記の左記各簿外受取手形、

<省略>

の各額面金額相当の簿外売上が有る旨認定したのは誤であると主張するが、松田調書(四十三年六月二十七日付)及び当審第二回公判調書中証人松田勝春の供述に依れば、右各簿外受取手形は三十九年度期末の簿外資産として処理せられ、同年度の簿外売上高には計上されていないことが認められ、本件起訴状及び原判決に於ても、之が同年度の簿外売上高であると認定されていないことは、一件記録上明白であり、所論は、本件犯則事件に於ける被告会社の所得が所謂損益計算法に依り確立されているに拘らず、損益勘定と貸借勘定とを混同し、貸借勘定に於ける資産に属する簿外受取手形を、損益勘定に於ける益金に属する簿外売上に直接結び付ける誤を犯したものである。

所論は理由がない。

その他所論が縷々主張するところは、何れも証拠に基づかず若しくは証拠の趣旨を曲解して独自の見解を展開するものに他ならないから採るを得ず、原判決摘示の犯罪事実は、

その一 簿外売上高に関し、

三十八年度に於て、一百八十二万九千六百十五円、

三十九年度に於て、一百二十六万七千二百十六円

を夫々過大に計上し、

その二 簿外支出高に関し、

三十八年度に於て、六十万六千円

三十九年度に於て、三十三万二千一百五十円

を夫々損金に算入しなかつた

過誤に対応して、右各年度に於ける実際所得金額、之に対する法人税額、逋脱所得金額、之に対する逋脱法人税額に夫々誤認が有る他は、原判決挙示の証拠を綜合すれば十分に之を認定することができ且記録を精査し、当審に於ける事実取調の結果に徴しても過誤は認められない。

然し、原判決は、右の如く、実際所得金額を、

三十八年度に於て、二百四十三万五千六百十五円、

三十九年度に於て、一百五十九万九千三百六十六円

夫々過大に認定した結果之に対応して右各年度に於ける実際法人税額、逋脱所得金額、逋脱法人税額を夫々過大に認定した瑕疵有るを免れず、この瑕疵は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、量刑不当の控訴趣意(控訴趣意第二点)に対する判断を須いず、刑事訴訟法第三百九十七条、第三百八十二条に則り原判決を破棄し、同法第四百条但書に従い、当裁判所に於て次の通り自判する。

当裁判所が認定する犯罪事実は、原判決摘示の犯罪事実中、

第一に付て

実際所得金額を、三千九百七十二万七千四百四十六円、

之に対する法人税額を、一千四百四十八万八千六百七十円、

免れた法人税額を、一千一百六十四万九百四十円、

第二に付て、

実際所得金額を、三千四百十一万四千四十八円、

之に対する法人税額を、一千二百四十七万九千一百円、

免れた法人税額を、九百五十八万二千四百四十円、

と、夫々変更して認定する他は、原判決摘示の通りである。

なお、各年度の実際所得金額に対する法人税額及び免れた法人税額の計算内容は、別表五記載の通りである。

右の事実は、

原判決挙示の各証拠、但し、

1 被告人安永宗一郎の当公判廷に於ける供述とあるのを、同人の原審第一回、第四回各公判調書中の供述記載と読み替え、

2 証拠物の押収番号昭和四十二年押第一六号を、当庁昭和四十二年押第四二九号と読み替え、

3 干根和子を千根和子、永田基蔵を永田基義、佐賀島津商事有限会社河井作成押印を佐賀島津商事有限会社川合作成押印、東京電機リベートの件を東栄電機リベートの件、原判決書四枚目三行目の七月一六日付を七月一四日付と、夫々誤記を訂正する

他は、左に掲げる証拠に依り之を認める(括弧内は対応する犯罪事実を示す)。

一 当審第二回公判調書中、証人松田勝春の供述記載及び同証人に対する当審受命裁判官の各尋問調書(全般)

二 当審第八回公判期日に於ける被告人安永、証人田丸誠次、同百木敏郎の各供述並びに証人金子清、同土肥達己に対する当審受命裁判官の各尋問調書(別紙一の24、25、別表二の4)

三 左記の者の各検供

高木政郷(別表一の11 二の31) 西村亀之助(別表一の14)

小泉是教(別表一の16 二の13) 小林太郎(二通)(別表一の27)

中田耕三(別表一の37) 西沢正夫(別表一の54)

渡部忠彦(別表二の6) 堤伸行(別表二の6)

津田邦彦(別表二の6) 佐野昭二(別表二の17)

臼田彦太郎(別表二の17) 小川浚二(別表二の24)

寺田東太郎(別表二の37) 北村重忠(別表二の38)

四 弁第五号証(山形大学工学部会計係回答書、別表一の1)、弁第六号証(オリジン電気(株)回答書、別表一の6)、弁第三五号証(東和産業(株)代表取締役背黒正男回答書、別表二の27)、弁第五九号証(日本測器(株)総務部回答書、別表四の2)

五 増田末太郎陳述書、同添付の物品受入票写(別表一の29)

六 左記各銀行の証明書

別表一の24、25に付て

協和・茅場町 三菱・大手町 三井・目黒

協和・本店 富士・神田 住友・日比谷

安信・本店 横浜・大岡山 東京・銀座

富士・上野 住友・成城 三菱・神田

富士・自由ケ丘 住友・田園調布

別表一の29に付て

三井・上野(添付の小切手写を含む)

別表二の43に付て、

中信・神田(添付の約束手形写を含む)

七 東京国税局収税官吏大蔵事務官百木敏郎外五名の調査事蹟書(別表一の24、25)

八 左記の者の上申書、証明書若しくは回答書と之らに添付の書面(別表一の24、25)

(有)平沢製作所代表取締役平沢喜久雄(上申書)

大日本製糖(株)財務課長堀川勝夫(上申書)

財団法人電力中央研究所財務室経理課副長山根慧支(証明書)

財団法人癌研究会事務局長白瀬五郎(証明書)

東産業(株)経理担当者田村誠(上申書)

動力炉核燃料開発事業財務部長小野喜重郎(証明書)

カールツアイス(株)チーフ・アカウンタント・リアン・ピ・チ(回答書)

東京工業試験所長太田暢人(証明書)

電気試験所長森英夫(証明書)

世紀産業(株)管理課長笠井敏子(上申書)

中央電気通信学園長田中一郎(証明書)

日本製線(株)経理課長田中実(回答書)

九 三勢地所(株)の移転先名簿(別表一の24、25、別表二の4)

十 小林調書

四十三年十一月十九日付(別表一の61)

四十四年一月十六日付及び同年同月三十日付(別表二の44)

十一 検察事務官野村政一の福岡地方検察庁小倉支部検事岩崎栄之に対する電話聴取報告書(別表二の37)

十二 半田幸一質問顛末書(別表二の43)

十三 東京国税局査察部長大石幸一の東京高等検察庁検事古谷菊次宛「亀井久夫に関係する滞納額等調べの送付について」と題する書類綴全部(別表四の2)

十四 押収の

被告会社に関する三十八年度法人税決議書綴一冊(証第三五号、別表一の24、25)

伸和電気(株)の買掛帳一冊(証第一四号、別表二の8)

見積書綴三冊(証第一六号、第一七号、第一八号、別表一の10、29、44、二の37、43)

代金取立手形記入帳一冊(証第二一号、別表二の37)

インヴオイス綴一冊、現金出納関係小切手支払受領証綴一冊、海外照会書綴二冊、発送文書控二冊、日記帳一冊、請求書綴一冊(証第二三号、第二四号、第二五号、第二六号、第二七号、第二八号、別表一の61、二の44)領収書用紙三枚(証第三一号、別表四の2)

法律に照すと、被告人安永宗一郎の判示第一及び第二の各所為は、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)附則第十九条に依り、旧法人税法(昭和三十七年法律第四十五号に依り改正された昭和二十二年法律第二十八号)第四十八条第一項に該当し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であり、各所定刑中罰金刑を選択し、同法第四十八条第二項に依り各罪の所定罰金額の合算額以下に於て被告人を罰金参百五拾万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法第十八条第一項に依り金五千円を壱日に換算した期間同被告人を労役場に留置し、被告会社に対しては、法人税法(昭和四十年法律第三十四号)附則第十九条に依り、右旧法人税法第四十八条第一項、第五十一条第一項、刑法第四十五条前段、第四十八条第二項を適用して同会社を罰金四百五拾万円に処し、原審に於ける訴訟費用並びに当審に於ける訴訟費用中、証人小島昭、同若月誠に対する支給分を除くその余は、刑事訴訟法第百八十一条第一項、第百八十二条に依り、被告人安永宗一郎及び被告会社の連帯負担とすることとし、仍て主文の通り判決する。

検事 古谷菊次 公判出席

(裁判長判事 栗田正 判事 中村憲一郎 判事沼尻芳孝は病気の為め署名押印することができない。裁判長判事 栗田正)

別表一 三十八年度簿外売上高

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表二 三十九年度簿外売上高

<省略>

<省略>

<省略>

<省略>

別表三 三十八年度簿外支出高

<省略>

別紙四 三十九年度簿外支出高

<省略>

別表五 税額計算表

昭和三十八年度

<1> 総所得金額 三九七二七四四六

<2> 軽減税率適用所得金額 五〇〇二五〇〇

<3> その他の所得金額 三四七二四九四六

<4> <2>のうち二〇〇万円以下の金額 二五一八四一

<5> <2>のうち二〇〇万円を超える金額 四七五〇六五九

<6> <4>に対する税額 二四% 六〇四四一

<7> <5>に対する税額 二八% 一三三〇一八四

<8> <3>のうち二〇〇万円以下の金額 一七四八一五九

<9> <3>のうち二〇〇万円を超える金額 三二九七六七八七

<10> <8>に対する税額 三三% 五七六八九二

<11> <8>に対する税額 三八% 一二五三一一七九

<12> 法人税額 一四四九八六九六

<13> 控除税額 一〇〇二五

<14> 差引税額 一四四八八六七一

<15> 申告税額 二八四七七三〇

<16> 逋脱税額 一一六四〇九四一

昭和三十九年度

<1> 総所得金額 三四一一四〇四八

<2> 軽減税率適用所得金額 二八九三一〇〇

<3> その他の所得金額 三一二二〇九四八

<4> <2>のうち三〇〇万円以下の金額 二五四四二〇

<5> <2>のうち三〇〇万円を超える金額 二六三八六八〇

<6> <4>に対する税額 二三% 五八五一六

<7> <5>に対する税額 二七% 七一二四四三

<8> <3>のうち三〇〇万円以下の金額 二七四五五八〇

<9> <3>のうち三〇〇万円を超える金額 二八四七五三六八

<10> <8>に対する税額 三三% 九〇六〇四一

<11> <9>に対する税額 三八% 一〇八二〇六三九

<12> 法人税額 一二四九七六三九

<13> 控除税額 一八五三八

<14> 差引税額 一二四七九一〇一

<15> 申告税額 二八九六六六〇

<16> 逋脱税額 九五八二四四一

昭和四二年(う)第一三一五号

控訴趣意書

被告人 理研電子 株式会社

同 安永宗一郎

右者に対する法人税法違反被告事件につき、本弁護人は別添控訴趣意書記載の理由により原判決に対する不服の事由を陳述致します。

昭和四二年九月二〇日

右弁護人 弁護士 緒方浩

東京高等裁判所

第八刑事部 御中

控訴趣意書

目次

第一点 法令違反

第二点 刑の量定不当

(一) 国税庁査察の実態

(二) 刑の量定につき妥当性を欠く原因

(三) 被告人安永宗一郎の性格的殊質と業績

(四) 被告人の性格的特長と被害者学の基礎理論

(五) 中小企業に対する重税と企業資本の形成の実態

第三点 事実誤認(附属表計算書添付)

控訴理由書

原判決は、法令違反、事実誤認、量刑不当等の事由があるので、判決により原判決は破棄すべきである。

第一点 法令違反(刑事訴訟第三八〇条)

原裁判所判決理由第二の犯罪事実は、検察官の起訴状に記載された犯罪事実ではない。凡そ公判手続は、刑事訴訟法第二九一条の二乃至同法第二九三条によりて定められた手続によりて開始され、其の後の訴因の変更については同法第三一二条の手続を履践された上、其の後において審理判決すべきものであるに拘らず、其の手続を経ないまま判決をした違法を犯し、明らかに判決に影響を及ぼすべき事実がある。

即ち税額の算定基礎について起訴状の算定額と判決理由書の算定額とが異つておるのである。

即ちこれを記録に徴して表にすれば左表第一表、第二表の通りであつて第二表は法令違反に該当するのであります。

自昭和38年1月1日至同年12月31日納税額計算表………(第1表)

<省略>

自昭和39年1月1日至同年12月31日納税額計算表……………(第2表)

<省略>

第二点 刑の量定不当

原判決は、被告会社が昭和三八年度の脱税金税額一二、五六六、三〇〇円、昭和三九年度脱税金税額一〇、一九〇、〇八〇円合計二二、七五六、三八〇円也の脱税をしたとして

(一) 被告人会社に対し、罰金五、〇〇〇、〇〇〇円

(二) 被告人安永宗一郎に対し、懲役六月、但し判決確定の日から二年間懲役刑の執行を猶予する。

との判決をしております。

しかし控訴人は、左記理由によりて右刑の量定は、著しく不当苛酷に失し、本件事実に対する妥当なる刑の量定とは承服し難い。

(一) 国税庁査察の実態

原審における審理は、被告人の国選弁護人による弁護活動の為め、被告人の技術研究の実体を知らず、従つて会社経営の実態調査も行はず又国税庁査察員の査察報告書を鵜呑にし、其のまま起訴せられて検察官の起訴状を全面的に認めたことに因り重大なる事実誤認の結果に陥つた原因があるのであります。

本弁護人が押収証拠品を謄写の上精査したところに依れば、例へば商品の仕入欄に記載さるべき仕入支出金が、逆に売上金として収入金に計上されたり、又は既に過年度分(昭和三八年度、昭和三九年度)に利益として納税申告計算書に掲載され納税済の収入金が、納税洩れとされ起訴状に於て重復して脱税額として計上するが如き杜撰極まる捜査をしているのであります。

しかしこれは其の根底に於て、国税庁査察員の調査、告発状を基礎とし、それ以上の捜査をしなかつたか、又は調査する能力が無かつたため(激務のため)勢い国税庁査察員の調査のみを主展として、一々書類、伝票等の照合を為さずに告発状にのみを依存して、脱税額を計算したものであることは間違ない事実であると思料致します。

又原審裁判所は、膨大に亘る証拠品を一々轄査する余融も無かつたであらうし、被告人も自白していることであり、上申書や供述書等一応形式的証拠能力ある書類は、揃つているので、実質的真実発見の調査をすることなく、告発書や、上申書を過信して実態の究明をせず、只脱税額の膨大なることのみ眩惑し、重刑を課したものと思料致します。

本弁護人は、本件の如き性質を有する電子工学の最先端を行く僅か六、七〇名の工員、技術員を要する小町工場に等しい工場において、かかる莫大なる利益を挙げ得る工場、事業場を経験した実績がなくいくつかの電子工学干係の工場にも顧問としての調査をした業績を有して居る者ですが荒利益が六三パーセントもある工場は、未だ嘗て見た事もなければ、業者間に於ても左様な莫大な利益を挙げている事実を聞いた事がない。そこで控訴後約五ケ月に亘り、押収にかかる証拠書類を精査したところ、到る処において、強いて脱税額に計上されたと思惟せられる事実を発見したので、当然脱税額は、僅少となり引いては量刑に於ても、著しい影響を与へるものであると確信しているものであります。

弁護人の調査書は弁護人のみならず、公認会計士、税理士、税法学者等多数の協力と参与の結果作成したものでありますが、右調査書は、本控訴趣意書の理由の一部として添付致す事にしてあります。次に被告人、安永宗一郎名義の昭和四一年六月二七日付上申書及昭和四二年一月二三日付上申書は、何れも同被告人が作成したものではなく、国税庁査察員の作成したものに只何も判らず被告人が署名捺印したもので、其の内容に関しては本人は何も関知していないのであります。何故かと申せば、申上申書作成当時は、被告人会社の帳簿、伝票、其の他の会社の業務運営上の諸書類一切は査察庁に押収されて査察を受けており、被告人等は之を見る機会さへ与へられずに国税庁より検察庁更に裁判所と持廻はられておるので、上申書作成の可能性が全く封ぜられているまま査察員作成の上申書が只名議人が安永宗一郎となつた丈でありますから、これを同人の作成上申書として証拠することには異議があります。尚本件押収証拠品以外のもので国税庁が持去つた書類も未だに返還されずに困つている次第であります。

本人の署名ある文書といえども其の内容が刑訴法第三二一条の如き供述書の如きものならば別として、本件の上申書の内容は、全て計算書でありますから、押収されて本人が計算の仕様もないのに計算書を本人が作成出来得る筈がありません。この点も本審に於て究明を要する点であります。

(二) 刑の量定につき妥当性を欠く原因

凡そ刑の量定に当りては、犯罪の態様、被害法益の均衡、被告人の性格、事業の態様等各般の事情を綜合査覈の上決定すべきものであることは云うまでもないことであります。然るに原審に於ては、被告人安永宗一郎の性格、電子工学に対する研究の成果、会社経営に対する同人の態度等については審理することなく又本件記録上に於いても全く抽象性を帯びた供述に終始し、何等具体性がなく、只中小企業の発展の為めには資金的金融が必要であつたので、陰し財産を持つ必要があつたのみ供述しており、原審立会検察官の同情的質問に対してすら、適切なる答弁又は弁解も与えていない。この点が原審裁判官より改悛の情なき非国民であると説示せられて極刑に処せられた原因の一つでもありませう。

被告会社の業態、電子工学事業の総事業の具体的内容、被告人の会社経営の方針、並に其の規模等については後において詳述致します。

又証拠物も新に提出致します。

(三) 被告人安永宗一郎の性的特質と業績

本理由書要旨に於て、是非共申上げたい事は、安永宗一郎が開発、発明した測量、測定、測計装置は未だ「アメリカ」においてすら未完成の時代よりこの研究を始め、東京工業大学理学部電気工学科卒業後の昭和二九年に、若冠二四才にして日本において、始めて電子計量、計則、測定装置を完成し、爾来日夜を分たぬ研究を重ね、我国電子工学界の鬼才として学界に認められ、今日に至つた者であります。

この測量、測定、測計装置の用途はあらゆる産業、軍事等に利用せられておりますが、一例を挙げれば、若しロケツトを発射したとすれば、レーダーとの連装により其のロケツトの速度、位置、方向、着弾の距離等全て本器機によりて速時計量装置に表頭されて来るのであります。

従つて我国産業構造改善に不可欠の要具であり、現在、自衛艦や、工学部干係大学、官公庁研究所有名会社の研究所等に広く利用せられている製品であつて単純素朴なる計量器等ではありません。

従つて其の製品は、電子工学の先進国である「スイス」其の他の先進国等へも輸出せられ、其の上甚しきに至つては本人を外国が引抜かんとして誘惑したり、或は外国との共同出資によりて更に大規模な進んだ計量装置を作ろうではないかとの誘惑も受けております。しかし本人は日本を受し、自分の研究を愛し、研究の鬼となつて日夜研究の苦心を重ねているものであります。この点については本人の公判調書に於ても若干明記されているところであります。

産業界は、進歩も敢しく又競走も激しい。若し研究を怠り経理や金儲に頭を使つたり、脱税に苦労する時間があるならば、其れ丈の時間を新しい研究による新開発に発展しなければ産業界より立遅れて倒産する事になるので、経理の事等は一切女の子任せ放ちにしていたのであります。これは技術者がまじめであればある程左様であつて、左様なことは、只単に安永被告人一個人のみの問題ではなく、科学者一般に通ずる顕著なる一種の一般的類行というか性癖でありまして珍しいこと柄ではないのです。

(四) 被告人の性格的特長と被害者学の基礎理論

憲法第三〇条に於ては「国民は、法律の定めるところにより納税の義務を負ふ」とありまして被告人等は国税納入の義務のあることは充分承知しております。

昭和四二年二月二〇日第四回公判被告安永宗一郎本人尋問調書五七丁に

吾々の方も脱税ということに対しては決していゝとは思つておりません。これは国家の蓄積となり、やつぱりそれに基いて研究費、学校、官庁の予算の一部になりますから納めなければならないと思いますが、われわれの方としては、われわれが維持してつぶれないようにしなくちゃいけないという本能的なそういうものがあるわけです。

とにかく今回におきまして本税、重加算税、その他で貯へと云うものが大分減りましたけれども法律がそういうことになつている以上致し方がないと思つて全部納めました。……

今度の事で赤字になるようなことはございませんが、流動性の貯えというものが殆んど無くなつたと云うことは云えます。

一寸発展させると危くなります。

と述べてあります。

茲で考へなければならないことは、漸く最近に至つて問題になつて来た「被害者の科学的研究」即ち被害者学の基礎理論を学問の体系としてその光を本件に当てゝそれとの関連性を考察する必要があります。

刑法上の犯罪では、被害法益というものが、思考の出発点をなし其の際、その法益を亨受する主体というものは、理論上必然的に予定されていた筈であります。しかるに被害者の個性や其の潜在的特質についての考慮は、従来刑法学でも、犯罪学でも、全く周辺の部分に放置され、只裁判官の自由裁量による情状論としてだけ取り上げられていたものに過ぎないのが従来の実情であります。即ち被害者学に対す科学的理論的体系というものが、未熟のため左様な手段をとる以外道がなかつたのであります。

そこで考へなければならない事は、本件は一段刑法違反の犯罪と其の質を異にしておりまして、謂うならば、行政上(国家財政上)の行政罰であり、其の保護さるべき被害法益の被害者は国であり加害者は、被告人等であります。一般刑法犯に対する被害者に対しては調は通常強制的に被害事実の調査をするには、余りにも気の毒の程遠慮勝であつた。

従つて被害者の自発的協力か又は申立を待つて、侵害された被害者の感情をそこねることなく、個人的な関係を主とした加害者対被害者の関係という難点を解く資料、証拠を集収するのが至難の業であつたのです。

しかし被害者の価値意識、応報感情、その心情の深み次第で其の資料、証拠の入手が非常に左右され勝であることはいう迄もありません。加害者に対する被害者のにくしみが強ければ強い程、捜査も強力にし徹底し、犯人に対する非難を強化しようとする気持から無根の事実まで供述するか又は、虚飾に満ちた被害状況を報告して重い刑罰を期待している又一面においては被害者は、自分の落ち度をかくし、専ち相手の非を責めるという戦術にも出る。これは幾多の刑事事件を手がけた裁判官ならばこれを見落す筈はないと思います。本件について国税庁に対し査察発動の原因を究明したところ業者の密告であつたという。

機械文明を推進したのは、産業革命以後の資本主義的経済機構であるが、周知の如く尚現在において未発達の経済構造、近代化の遅れた我国の産業構造下に於ては多くの柔盾を孕でいる。景気の変動、産業スパイの活動、資本自由化の影響、業者間の友喰、それに伴う不況恐慌、果ては失業問題、社会不安による犯罪の激増と云う厳しい社会環境が現代の映像であります。

被告人安永宗一郎は、前回公判調査五五丁において、

中小企業でございますと最新式の技術と金の力が非常に影響してくると思います。

競争相手は、資本金一億以上、二〇億、三〇億という様な会社がわれわれと同じようなことをやつている。

五〇~六〇人の会社に、一〇、〇〇〇人ほどの力でぶつつけられると同じ品物を下廻る価格で出されると、とてもわれわれはやつて行けません。結局ネーム、バリューが吾々とまるきり問題になりませんから品物を売ると云うことになりますとたちまち売れなくなります。

私なんか技術屋ですから殆んど会社にいても論理なんかということよりも、技術をやつているわけですが、それを朝から晩までやつても間に合はないのです。それで会社が潰れても国家とというものは、全然面倒を見てくれません。

吾々の能力がないから潰れたんだということしかならないわけです。

と述べている。これが現代日本の産業界の実情であります。

そこで必死になつて二十四才から完成した電子測量計、測装置は、現代松下電気、横川電気等に其の技術を盗用せられて、前述のような死闘の苦しみを嘗めつゝ先ず「技術」と「金」の余融を図らうとしたところが却つて密告され、被害者たる国(国税庁)は五十人の人容をもつて一年半を要して安永一派の環境調書にかゝり、而も其の被害感情たるや、憎しみと応報の一点に集中し、無形偽造の上申書まで作成されるに至つては言語道断という外はありません。

公判調書においても告発する積りで調書に当りましたと記載されております。

従つて斯うした犯罪は生物学的(本人の知性)素質的諸要因と社会学的、環境要因とか重量的且つ輻輳的に作用して発生するものであるから、この二つの要因相互の発達的理解の上に立つて犯罪の性格を判断し、その上で刑の量定を判断すべきものであると思料致します。

被告人は、只無意識に一刻も早く計器業界の革進的新発見をしようと一切を顧ることなく、研究に没頭していたのであるから、原審裁判官の説示した如き、脱税して金儲をしようとし乍ら改悛の情が更にないなどと云うが如き、愚劣極まる非国民ではないのであります。本弁護人の見解に依れば、成程脱税の被害者は国であるにしても、憎悪と感情に因りて形成せられた被告人の犯罪は、其一面から観察すればむしろ被告人の方が被害者的存在であつたのではあるまいかと見なければならないかとも思います。

従つて、このまじめな科学者に対して、捜査官等が自ら犯した誤算極まる告発書や、上申書のみを信用し、現代激烈を極める産業構造の革進途上の谷間に生存する中小企業者の実態に一顧も与えず、極刑を課したことは仮令刑の執行を猶予したとは云え、被告人等としては到底承服出来得ない判決であると思料致します。

(五) 中小企業に対する重税と企業資本の形成の実態

法人税は利益の三〇パーセントでありますが、事業税、地方税(東京都の如き区民税)を加算しますと利益の五七パーセントが納税額であることは間違いありません。税額は各国によりて其の率は異つていますが、現在ではアメリカは戦争しているので別ですが日本が最高の税率を占めております。

企業資本について外国との比率を見ますと、西独逸は自己資本六三パーセントで日本は二七パーセントであります。

そこで増資の出来ない者は、借入金で経営せざるを得ない、借入金をするには銀行に対し担保を供し、日歩二銭から二銭八厘位の利息を支払はなければならず、無担保者は、如何かる優秀なる技術をもつても、企業を経営することは出来ない仕組になつておるのが産業界の実情であります。只絶対に儲かつて一番のんびり暮して、立派な建物をもつているものは銀行と保険会社丈で現在の制度を保持して行く限りにおいてはこれら決して潰れることはないのであります。

そこで被告人は、無意識の内に自己資金の充実を図り、研究の成果を発展向上させようと考へたことが、本件発生の動機となつたものであり、洵に哀むべき存在にあつたという外はないのであります。

従つて有能な科学者は、日本を逃避して外国に行き、現在米国丈でも五〇〇名を超へる科学者が米国の研究室や工場又は大学に於て教鞭をとると云うような現象が顕はれたのであります。

又企業にしても、日本を逃避して南米や台湾、香港に転出する者が続出しております。

これらの現象は、直接裁判所の問題ではなく、政治上の問題ですが、少くとも現代企業の映像が左様な状態であるから裁判所も現代日本の産業、殊に中小企業の在り方については多少たりとも見識は有つて戴き度いのであります。本年中に(八月現在)倒産した中小企業者は六四一件であり、年々増加の頻行に在ります。

私は、以前より中小企業に対する自己資本の蓄積の為めには少くとも利益の三〇パーセントは(資本金一億に満つるまで)免税にし、自己資金の増加を図るべきであると主張して来た者ですが、本年の本国会に於ては、これが具体化することになつた様です。未だ細部に亘る免税の率は未定ですが。

斯様に考え参りますと、増々被告人等に対する科刑は苛酷過ぎると信じて疑いません。而も脱税額と称して国税庁が認定した税金は間違つていたにしても完納して居る現在において、かゝる科刑をすることは、決して本人を改悛させるどころか、納税者の恨を受ける丈で国民より納得される裁判とは云えないでありませう。

第三点 事実の誤認(刑事訴訟法第三八二条)

(一) 原裁判所の判決理由は、国税庁の査察の結果による告発書が検察庁に提出され、検察官は、押収した膨大の書類を精査することなく、其の証拠物と査察官の告発状の通り事実(尤も昭和三八年度分所得については告発所得より七二円減少しているが)を踏襲、措信し、その通りの脱税ありとして起訴し、又裁判所は、証拠物の比較検討を加うる事なく、例へば伝票と帳簿との照合、昭和三八年度、昭和三九年度納税申告計算書と脱税告発状計算書との比較もせず、又重大なる証拠物たる安永宗一郎名義の上申書の作成の経緯、事情等をも審問せず、形式的証拠能力あるものゝみを証拠価値ありとして判断し、事実を誤認したものであります。

刑事訴訟においては、仮令形式的に証拠能力があつても実体的真実発見のためには各般の事情を精査し、其の綜合の上に立つて証拠の価値判断をしなければなりません。

然るに事説税等の如き計算事件については、やゝもすれば面倒なるためこれを怠り、査察員の報告書、告発審等を其のまゝ措信して断定を下すか大方の実情であります。

(二) 本件に対する原審誤認の主要なる事実は次の通りであります。

(1) 架空名義の個人の預金を全部被告会社の脱税利益として計上したこと

(2) 過年よりの累積利益を起訴年度の脱税金として計上したこと

(3) 起訴年度の利益収入は既に利益金として納税済であるものを重複して脱税利益に計上していること

(4) 仕入金として支出した金額を逆に売上金として収入に計上し脱税額の増額を図つたこと

(5) 被告人等の所持しない資料(国税庁押収物)によりて国税庁において作成された上申書が如何にも被告人等が証拠物に基き精算した如く装はしめるため、強いて被告人安永宗一郎名義の上申書二通を無形偽造せしめたこと

(6) 本件の如に基礎研究に必要なる研究の為めに要した費用は雑損金として認めると明言し乍ら証拠品がないとして告発書には全て支出算より除外したこと

以上の諸点については別添調査書に明細説明してあるため省略致します。前項の(一)乃至(4)は別添調査書によりて明になりますが、(5)項は被告人について或は証人によりて立証する以外に本控控訴趣意書の目的を達することが出来ないので別に証拠申請をする考へであります。

(6)項の点につきましては、昭和四二年二月二〇日公判に於ける証人坂寄策に対する検察官尋問四六において検察官は

検察官は、被告人を告発するという前提のもとに調べたわけですね。ところが収入支出の中でゞすね、はつきり証拠書類があつて証明できる部分もあるし、中には被告人はこれは申告しなければならんものであると認めているけれども、それに見合うような証拠がないと。こういつた場合は税金上の差額として処罰するということになると、証拠に基づいてやらなければならない。とすると脱税はしているけれども証拠がないとこう云うものを含んでいるので税務署で調べる額と査察官の方で調べる金額は多少違うことがあるという意味ですか。

証人はい。そうです。

この問答でも明な如く実際は支出しているが、証拠となるべく書類がないのでこれは止むを得ず収入として利益に計上しておかないと処罰されるので利益に計算したと述べております。

そこで被告人の電子計量、測定装置の発明、開発について今度陳述したい事があります。本件製品の如き精密機械の開発は、頭脳によるアイデア丈で完成するものではありません。東京大学のペンシルロケットから七年もかゝつて四段式宇宙ロケットの開発をしたのも幾度か大勢の科学者の協力と実験と膨大なる経費を使つて、漸くこゝまで開発したのに拘らず遂に失敗に帰しております。

本件電子測定、測量装置とてもこれと同じく、幾度かの実験を繰返して漸く昭和二九年に云はゞ素本的実験には成功しました。然し之を商品化し、其安全性に確信の持てるまでには行かないので、被告人は自個資本が少い乍らも研究、改良の必要上

(1)東京大学、東京工業大学の研究室に行き実験と研究の助言を求め

(2)理科学研究所

(3)電気試験場

(4)電々公社研究所

(5)東芝及日本電気研究所

等々幾多の権威ある研究所を訪れ、実験、研究を重ねて、始めて市販の製品を完成したのであります。ところがこれらの研究所に幾多の貴重なる注意や指導を受けて居り乍其の人々に対して何の御礼もすることをしないと云う釈には参りません。これは社会通念上許さるべき事柄であります。然し之に要した費用、支払に対して領収証を呉れという事は、人情として云い得る事柄ではありません。若し左様な事でも云うたら非常識な人物として今後の協力も差し控られる事は必定であります。

私共が旅行して大変御世話になつた女中に対し必ずチップを渡します。しかし領収証を受取つたことが御座いません。そこで女中にチップの領収証を呉れと云うような旅人が居たとするならば、その人は非常識な馬鹿者だとして後で笑はれるでせう。

これと同じく本件の製品完成に要したこれらの研究機関に支払つた莫大な金額を調査の折は一旦は雑損として認め乍ら証拠品のないため雑損として認められず、凡て利益に計上されて上申書まで作らせられたこと等も充分御考慮の上御判断を賜り度いのであります。

以上

別表一(一) 普通法人(特定の医療法人を除く。)及び人格のない社団等の分……昭四一・四・一以後終了事業年度分

<省略>

別表一

<省略>

原材料仕入価格一覧表(参考)

<省略>

昭和38 昭和39}年度理研電子株式会社調査書

<省略>

38事業年度(38.1.1 38.12.31)簿外貸借対照表修正

<省略>

39事業年度(39.1.1 39.12.31)簿外貸借対照表

<省略>

昭和四二年(う)第一三一五号

控訴趣意書補充甲立書

被告人 理研電子株式会社

同 安永宗一郎

右者に対する法人税法違反被告事件につき、本弁護人は昭和四二年九月二〇日提出の控訴趣意書に対し別紙補充申立書を提出致します。

昭和四二年一二月六日

右弁護人弁護士 緒方浩

東京高等裁判所

第八刑事部 御中

控訴趣意書補充申立書

第一、押収証拠物に基く計算問違の点について(事実誤認の補充)

被告会社理研電子株式会社の修正後の利益は、税務当局より提出された大蔵事務官松田勝春の作成に係る計算書類(証拠品十五修正損益計算書)によれば

売上金額 純利益 売上高純利益率

昭和三八年度 一三二、八五〇、〇一六円 四五、二五〇、八九四円 三四%

昭和三九年度 一三八、七四六、三九四円 三五、九一二、一七二円 二五%

となつているが右金額は、被告会社の査察終了以後の事業年度に於ける利益金の推移並びに日本銀行より発表されている同業種事業における昭和三八年及び三九年度の経営比率(注)に照らしても、売上高が比較的小規模であるにも拘らず其の利益率が非常に尨大になつていることは既に納税済である過年度分の利益まで対象事業年度の利益として組込れて計算された疑が充分あるので証拠書類を調査したところ左の如く数多くの誤りが発見されたので、査察官の計算による純利益は、信頼するに足りないものであると思います。

(注) 一、被告会社の昭和四〇年及び四一年の業績

売上高 純利益 売上高純利益率

昭和四〇年度 一二六、〇〇四、五七一円 一四、〇二四、二一七円 一一%

昭和四一年度 一八六、三〇一、七九五円 一二、三〇七、〇五〇円 七%

二、日本銀行統計局発表中小企業経営分折で電気器具製造業売上高純利益率

昭和三八年度 売上高純利益率 三・八%

昭和三九年度 売上高純利益率 四・四%

(一) 売上高の計上が二重になされている。

査察官の調査事績報告書二五頁には「売上については取引の事実を証する物件が三九年一二月期を除いては発見されなかつたので社長安永宗一郎の供述及び簿外預金の入金状況に基き反面調査ならびに書面照会を行つて売上計上洩れ三五、〇六五、六三九円を確定した」と記載されており、右金額は偶々昭和四一年六月一八日付被告会社安永宗一郎名儀の上申書八三三頁簿外売上金額三五、〇六四、六三九円と一致しておるわけであります。査察官は右金額を被告会社が当初申告した公表売上高九五、八〇八、一九七円に計上洩れ売上高三七、〇四一、八一九円(内犯則金額三五、〇六四、六三九円)を加算し、前記売上高一三二、八五〇、〇一六円を確定したのであります。

ところが右簿外売上高の中には既に会社が申告した公表売上高に記帳済のものも含まれているのであります。

具体的証拠をあげますと上申書八三三頁の昭和三八年度中に簿外売上高として計上されている小沢製作所に対する売上金三六九、〇〇〇円は、期末売掛金として記録され会社より上申書が提出されておりますが、この売掛金の入金は証拠番号一〇号被告会社の売上経費帳売上欄九丁目の中の売上欄に昭和三九年四月二日付で売上として計上されております。右のような場合三九年度の利益計算に於いては当然右金額課税済であるから昭和三九年の売上高より控除しなければならないものを、上申告書八三六頁に於いて簿外入金高の欄に三六九、〇〇〇円と記載させ二重に利益計算されております。

本件のような誤りが八三一頁上申書中左の如く一八ケ所合計五、八二九、八七五円であります。

昭和三八年度分

1 オリジン電気 二二、二〇〇円

2 竹本電気製作所 八〇、〇〇〇円

3 井竹加工機械 二二、〇〇〇円

4 セイコウ産業 二三、〇〇〇円

5 東邦プレス製作所 一〇、〇〇〇円

6 タケウチ企業 七〇、三〇〇円

7 日新電気 六〇、〇〇〇円

8 日本ポテシヨンメーター 三、〇〇〇円

9 日興理化工業 二、七〇〇円

10 三田村理研工業 八四〇、〇〇〇円

11 東京大学 二六〇、〇〇〇円

昭和三九年度分

1 五十嵐淳 四七、五〇〇円

2 フジ電波工業 九五、〇〇〇円

3 東亜産業 二、九二五円

4 新電元工業 一九、二五〇円

5 東京電機 四、〇〇〇、〇〇〇円

6 日本電子 三二、〇〇〇円

7 共栄電子 三四〇、〇〇〇円

これは査察当局が上申書を勝手につくり被告会社の印をおし、これを証拠として売上高を確定したわけであります。しかも右簿外売上高の中には回収先の不明なものが四、九六三、七二八円(上申書八三三及び八三六参照)含まれていますが預金入金の事実をすべて売上高として会社の損益計算の方法を誤認して形式的預金資産のみを利益計上したことに大いなる誤りがあります。

売上高は反面調査等の客観的証拠にその根拠を求むべきであり被告人の感知しない上申書に基づいて計算された売上高は信頼性のないものと考えます。

(二) 売上収益に対応する費用項目の把握が適切でないこと

査察官の調査事績報告書三一頁によれば「簿外仕入については、取引の事実を証する物件が発見されず、相手方の氏名も明らかでないので、社長の供述により二、五〇〇、〇〇〇円と確定した」と記載されているが、簿外売上三五、〇六四、〇〇〇円及び三一、四三二、〇〇〇円に対し夫々二、五〇〇、〇〇〇円宛しか計上されていないのは極めて小額であります。その裏付は社長の答弁に基づいております。売上については一部反面調査及び銀行調査などに基づいているが費用項目については、正確な調査が行われていない。すくなくとも脱税の調査、査察するに当つては客観的に証拠能力、証拠価値のある外部証拠を求める必要があります。

また査察官の調査事績報告書六七頁によれば「理研電子株式会社作成の上申書によると年間金八四〇、〇〇〇円の簿外経費もあるから上申書通り確定した」と記載されていながら上申書の中にはこの経費の欄が見受けられないしこれに該当する費用項目の計算し発見されないとして査察官の調査事績報告書六一頁に於いて千根製作所一、六四三、〇〇〇円並び黒川電気三三二、一五〇円が夫々架空仕入として否認されているが事実は千根製作所一六四、三〇〇円及び三三、二一五円のリベートを支払つておるにも拘らず一方的に否認されているのである。これなど査察官が増差所得を増大することのみを専念したあまり収益の計上洩れにのみ注意が集中し、費用項目を軽視するためから生ずるものであることは間違いない事実であります。

法人税法二二条第一項四によれば、法人の所得は、益金の額から損金の額を控除したものであり、一般に公正妥当な会計処理に従つて計算されることが本旨とされているが、右計算は、会計の根本原則たる費用収益対応の原則(期間の収益を正しく認識し、これに対応する費用を計上すること」に照らしても公正妥当な処置とは言えないのである。とくに売上については、二重の計算をしながら費用項目を過少に評価するというのは査察官か殊更事実を歪曲して自己の査察結果の功名を稼がんとする誠に賤しい計算方法と云う外ありません。

(三) 増差利益の確定が財産法に基く損益計算によつて行われたこと

査察官の調査事績報告書三三頁及び六九頁によれば「本件はP/L立証でB/Sを裏付けとしたものである。売上除外等の不正手段で得た資金は大部分を預金では握したが……B/S及びP/Lの不突合は、三八年度一四九、六九九円及び三九年度が八七、五〇二円である」と記載されているが、右の如く損益法に基く損金計算に正確性が認められないわけであるから公判に提出された調査経過等の報告書九一九及び九三一頁に示される如くP/LとB/Sの利益を強いて一致せしめて正当性を立証しようとしても納得できないものがある。むしろ右の調査書記載の如く預金の純増加が利益の洩れ分であるという考え方を柱として、これに簿外売掛金、簿外受取手形を加算し、純財産の増加額を計算し、これを脱税所得としてP/Lを無理に合致させたものである。

その証拠としては右に述べたように項目(一)及び(二)により明らかである。

(四) 財産法による損益計算を行うために前提となる期首財産及び期末財産の把握に誤りがある。

財産法による損益計算は、期首財産の在高と期末財産の在高を比較し、その間に発生する財産の純増加額を以つて利益と考える方法である。

査察官の調査経過等の報告書九一九頁九三一頁によれば脱税利益と簿外資産の増加は次の通りである。

昭和三八年度

預金増 二五、〇八八、三九六円

受取手形増 六、六八八、八三四円

売掛金増 三二一、五七九円

貸付金増 二、二八〇、一六八円

その他 一、四四〇、五七二円

計 三五、八一九、五四九円

昭和三九年度

預金増 二〇、三四二、一九三円

受取手形増 四、二七〇、〇三二円

売掛金の減少 △ 九四五、二九四円

貸付金の増加 一、五七九、八三二円

現金の増加 七、〇八二、七七五円

その他の減少 △ 一、四四五、四八九円

計 三〇、八八四、〇四九円

1 昭和三九年度に於いて手許現金が期首在高一、五〇〇、〇〇〇円から一躍七、〇八二、七七五円増加し期末在高が八、五八二、七七五円になることは常識的に考えられないものである。期末に定期預金の解約があつたにしても年末のことであるから、簿外仕入代決済に充当したとも簿外借入の返済に充当したとも考えられるものである。

2 売上計上済のものも簿外受取手形として計上し、利益の二重計算がなされた。被告会社の帳簿は、査察当時に於いては全くのドンブリ勘定で手形を受取つても、これを現金で売上げたものとして記帳していたため、簿外として手持をしていた手形も期末の財産の増加として把握され、二重に売上に計上されたことは上申書及び証拠第一〇号売上経費帳により明らかである。例へば

例1東京電機簿外売上四、〇〇〇、〇〇〇円、回収四、〇〇〇、〇〇〇円、期末受取手形四、〇〇〇、〇〇〇円となつているがこれは四〇年二月一日及び同年一二月三一日於いて売上計上済であるので二重計算となつている。

例2昭和合金に対する売上金三五一、〇〇〇円は、既に昭和三九年一〇月一七日で被告会社の帳簿に売上並び売掛金額が明らかに計上されておるにも拘らず再び上申書の簿外売上その他の金額の中に含ましめられかつ簿外受取手形として計上されるに至つては売掛債権を二重に計算したことになります。

以上の如く其の他については控訴趣意書添付計算書四丁(ロ)売上高記載の通りである。

3 貸付金昭和三八年度末及び三九年度末に於いて貸付金は夫々増加しているが三七年一二月三一日現在に於ける貸付金の残高確認については全く不問に付されている。期首在高を一方的に零と考え期末在高のみを確認したことに問題がある。

しかも調査事績報告書五四頁その貸付先は業況不振で行方不明であり貸金の回収は殆んど不能と判定される(その後貸倒となる)にも拘らず、担税能力なき財産を期末に計上し課税したのである。

(回収不能なる讃岐技研、三和塗装工芸の如し)

4 簿外架空支払手形の計上に誤りがある。例へば上申書中簿外支払手形として仕入を否認されている千根製作所への振出手形一六五、七七〇円は実際にリベートとして支払つたものであるにも拘らず簿外架空支払手形として資産に計上されている。

(調査経過等の報告書九一九頁、九三一頁)尚上申書八三七頁千根製作所一六五、七五〇円及讃岐研工業三五九、九〇〇円は現実に支払済であるに拘らず簿外支払手形に計上されているか如き事実がある。

5 銀行預金、定期預金の新規増加が、従前の定期の解約金であつたものにも拘らず営業収益として認識され、利益計算される可能性が充分に考えられる。まして被告会社のような小企業の場合には、社長個人の所得より蓄積された預金も会社預金と同一視される可能性があるので、期末預金の把握は問題ないとしても、期首預金在高の把握は容易でなくこれが実際よりも少く把握される可能性が多いため、財産法による損益計算では利益が過大に計算されることとなる。

6 簿外負債の未計上、凡そ裏仕入を認めながら一銭の簿外買掛金や簿外仮受金を認めないことには問題があります。先に損益項目の計算に於いて指摘したる如く売上のみ過大に計上し、費用項目は過少に評価するという過失を財産計算に於いても行つているものであります。つまり簿外負債については不問に付しておきながら、既に売上計上済のものまで財産として計上し翌期に於いてはこれを控除しないという問題に落ち込んでいるものであります。

7 昭和三八年簿外預金増加二五、〇八八、三九六円に対し、簿外利益三五、八一九、五四九円同じく昭和三九年度簿外預金の増加二〇、三四二、一九三円に対し、簿外利益三〇、八八四、〇四九円をみましても、脱税利益が簿外預金の増加を一〇、〇〇〇、〇〇〇円以上も上廻つております。売掛金及び受取手形は売上高の増加に比例して増加するものでありまして被告会社の如く売上高が一三〇、〇〇〇、〇〇〇円と横ばいの場合には、売掛債権が増加しないのが定石であります。従つて簿外財産の増加は簿外預金の増加とも考えますから(勿論預金が増加しても必ずしも利益とは限らない)この面からみても年間一〇、〇〇〇、〇〇〇円以上は、課税所得が多く計算されているものと考えられます。

財産法に基く損益計算も損益法に基く損益計算にも以上のような誤りが数多く発見されますのでここに計算された簿外利益は真実性のない金額でありますから公正妥当な立場から再度検討する必要があると考えます。

第二、第一審公判に顕れた記録上の矛盾について

(一) 公判記録五五頁によれば

弁護人「そういう大きいこと(税金を指す)はないでしよう。法人に対しての率というものは三割かかるんでしよう」という質問をしておりますが現行の税利では法人の利益に対し

法人税が三、〇〇〇、〇〇〇円までの利益に対しその二八%

三、〇〇〇、〇〇〇円超の利益に対し その三五%が課税される外同族会社に対しては留保金課税と称して配当や賞与として社外に処分しないで社内に留保蓄積しますとその蓄積が年一五〇万円をこえるとその超過分につき一〇%の税金が課税されることになります。

また都府県民税、市町村民税が、法人税額の一四、七%課税されますし、事業税が一、五〇〇、〇〇〇円までの利益に対し、その六%一、五〇〇、〇〇〇円から三、〇〇〇、〇〇〇円までに対し九%、三、〇〇〇、〇〇〇円超の所得に対しその一二%課税されますから、五五%位になるものと考えられます。

(二) 公判記録六四によれば

検察官

「商法なんかによると資本の準備金とか利益の中から準備金として蓄精するような方法が設けられておりますね、ご存じですか」

とありますが、商法の準備金は非課税ではないのです。勿論商法二八八条の二に規定する株式発行差金、払込剰余金、減資差益及び合併差益(同条は限定列挙)は、資本準備金と称して税法では非課税でありますが、商法二八八条に規定する利益準備金や、任意積立金(法により強制されない利益の積立を言う)は税法上課税扱となります。右の資本準備金のような非課税扱の準備金は、中小企業には発生することがないのであります。

また利益の中から準備金として積立てるという準備金は、商法にはそのような規定がなく、税法の中に規定されている価格変動準備金(在高品に対し六%及び有価証券に対し八%引当)や貸引当金(貸金の)がありますがこれを指しているものとも思われます。

この外いろいろの準備金がありますがこれらは大企業のためにあるもので中小企業には全く利用して効果のないものなのです。

それぞれの準備金は、一定の比率が適用される結果、何百億円、何千億円の有価証券を有する金融機関などは、価格変動準備金を何億何十億円と設定出来ますが、ましな有価証券も保有出来ない中小企業ではこの特典を利用出来ないのでありますし、利用しても金額的にはたいしたことはないのであります。また六四に検事は「準備金から資本に転換すれば税金がかからない一つの方法ではないか」と述べております。これは商法二九三条の三の規定による準備金の全部又は一部を取締役会の決議により組入れる方法や商法二九三条の二の規定による株式配当をさすものと考えられますが、準備金の資本組入にしても株式配当にしてもその原資となる準備金や任意積立金を留保するためには右商法二八八条の二の資本準備金を除いては、全部課税扱となるものでありますし、これらの準備金や積立金を資本に転換する手続をとれば、所得税法上配当所得とみなされ課税されるのであります。

若し検事の説示の如き準備金を資本に繰入れて株式の増加を図り得るとすれば何を好んで増資の苦心をする必要がありましようか。

また公判記録六四頁によれば

「利益の中から準備金をとるという方法をとらなかつたのは、利益を過少に計上した結果これらを控除すると公表利益がすくなくなり公表出来ないのですか」

と質問しておりますが、被告会社は勿論税法上の特典を過去に於いて利用していたし、その特典は限度一杯の利用をしても金額にしては僅少なものであります。被告会社が査察前に公表していた利益は三八年度八、八七七、七四三円、三九年度九、〇七〇、二六四円でありまして、これに対し価格変動準備金は三八〇、〇〇〇円、貸倒引当金一七六、〇〇〇円でありました。これをみても明らかでありますように検察官の質問は全く税務当局の数字を盲信し自ら調査することなしに求刑をしたものと考えられます。

第一審においては弁護人検察官共に尨大なる証拠品を全然精査することなく而も税務会計を知らずまた被告会社の経理について何等理解するところがなく、被告人も技術屋のため経理にうとい実情でございまして、原判決は盲人が盲人に質問してそれを一応眼開と称する査察官の調査のみを証拠として結論したものと考えます。

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