大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)1633号 判決

被告人 松本三樹雄

〔抄 録〕

論旨は、被告人は自動車を運転して制限最高速度毎時四〇キロメートルの本件現場道路を時速三五キロメートルで進行中、自車の右前方約四・四メートルの個所に被害者両名が道路を右から左へ道断しようとして出て来るのを始めて発見し、急停車の措置を講ずる間もなく、自車を被害者等と衝突させて死亡させる結果になつたのであり、それまでは擦れ違う自動車に視野を遮られて被害者等を発見することができなかつたのであるから、本件は不可抗力による事故であつて、原判決が被告人は前方及び左右注視の義務を怠つた業務上過失あるものと認めたのは事実の誤認であるというのである。

しかしながら、原判決挙示の証拠によれば、被告人の原判示業務上過失致死の事実即ち被告人は普通乗用車を運転し幅員一〇・七メートルの原判示道路上を時速約三五キロメートルで進行して現場にさしかかつた際、前方及び左右を注視し、進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務を怠り北方約五〇メートル先の交差点で方向転換をしている自動車の動静にのみ注意を奪われ、右前方に対する注視をおろそかにしたまま進行した過失により、前方道路上を右側(東側)から左側へ向け横断歩行中の被害者二名(いずれも当時四年)を発見するのがおくれ、右前方約四・四メートルの至近距離においてはじめて同人等に気付き、急制動ないしは避譲などの措置にでるいとまもなく自車前部を右両名に衝突転倒させてこれを車体下部及び前部に巻込み前進しよつて原判示の如く両名を死亡するに至らしめた事実を肯認することができ、記録を調査し当審事実取調の結果に徴しても右認定を覆えし、所論のようにこれが不可抗力によるものであることを認めることができない。すなわち、被告人は被害者幼児等の発見がおくれた理由として当審公判廷において、原判示道路の左側を中心線寄りに北進中、本件事故現場の約八〇メートル手前(南)で一台のダンプカーと擦れ違い、更に進行を続けるうち、現場の先の交差点で方向転換をしている車があるのに気付いたが、現場の約一五メートル手前及び同約五メートル手前でそれぞれ一台の自動車と擦れ違つたところ、最後に擦れ違つた自動車の蔭から被害者等が自車の右前方四メートル余のところに跳び出して来たといい、原審及び当審における証人松本イセ子(被告人の自動車の同乗者)は、事故発生直前一台のダンプカーが道路の右側端を対進して来たのと擦れ違い、それから約五〇メートル遅れて八百屋が野菜を運んだりするのに使う自動車が一台中心線の近くを対進して来て擦れ擦れに通つて行つたが、これと擦れ違つてから突然車の前に被害者等の姿が現われたというのであるが原審及び当審における証人岩本シノの供述を前後総合すれば、当時、現場の約五〇メートル南方で道路の西側(左)から東側(右)に横断しようとして北方路上を見ると、幼児二名が現場附近の道路東側端に道路の方を向いて立つていたが、その時自分の前を左から右へ南進する一台のダンプカーがあつたのでこれをやり過ごした後、道路を斜め左(東北方)に向つて自転車を押しながら横断し現場の南方約三六メートルの道路東側端に達し、その間前記幼児二名も道路から西に横断し始めたのを見たが、別段危険を感ずることもなかつたのでその後は幼児等の姿を目で追うこともなく道路東側端で自転車に乗り北進し、(右ダンプカー以外に対進車両があつたことには気付かずに)現場附近の道路東側にある道路の入口あたりに来て子供達がもう横断し終つたと思われる頃衝突音を聞いて本件事故を知つたというのであつてこれを当審における現場検証の結果に照らして考察すると被害者両名は現場道路の東側端に立つて南進するダンプカー一台をやり過した後、道路を右から左へ横断し始めたが、そのとき更に道路北方、すなわち同人等の右方から二台の自動車が相前後して南進して来たのに気付き、道路上に立ち止つてその通過するのを待ち、これをやりすごした上再び前進し最後に通過した自動車の背後から、北進する被告人の自動車の進路前方に歩み出たものと認められ、被告人が当時その進路の前方左右に対する注視を怠らなかつたとすれば、現場附近は見透しの利く直線の舗装道路で当時車両の交通量は少く前記ダンプカーと、約五〇メートル遅れて後続する二台の自動車との間には、被告人の自動車と対進する車両はなかつたのであるから、右ダンプカーと擦れ違つた後、現場道路東側端から被害者幼児二名が道路を左側に向つて横断し始めたが北方から二台の自動車が相前後して南進して来たのでこれをやりすごすため路上に立ち止つてその通過するのを待つていたことに気付くとともに、かかる情況下において、かような低年齢の幼児等が横断を急ぐの余り、やり過ごした車両と反対の方向から進行して来る車両の動静に注意することなく、やり過ごした車両の直後から不用意に横断を開始して右対進車両の進路側方に進出することがあることはたやすく予測し得るところであるから、これに備えて予め警音器を鳴らして警告するとともに減速徐行し、臨機急停止乃至避譲する等の措置を講ずることにより、優に衝突等の事故の発生を防止することが可能であつたものと認められる。しかるに被告人は前示のように右前方に対する注視を怠つたまま時速約三五キロメートルで進行したため、被害者等を発見するのがおくれ、至近距離で発見したが上叙の措置を講ずるいとまなく本件事故をひきおこすに至つたものであるから業務上過失の責を免かれず、到底これを不可抗力に帰することはできないものといわなければならない。原判決の事実認定は正当であつて、論旨は理由がない。

(遠藤 吉田信 大平)

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