大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)1772号 判決

被告人 村上一雅

〔抄 録〕

職権によつて調査すると、

(一) 原判決が原判示第一及び第二事実につき証拠として挙示している被告人の検察官に対する各供述調書のうち、昭和四十二年二月十三日付供述調書は、これに被告人が署名押印することを拒否したため、被告人の署名及び押印を欠いていることが明らかである。右供述調書は被告人自身が作成した供述書ではなくして被告人の供述を録取した書面であるから、これに被告人の署名も押印もない場合には、刑事訴訟法第三百二十二条第一項所定の書面としての要件を欠くものであり、かかる供述調書を同条項によつて証拠とすることは許されない。もつとも、供述者の署名及び押印を欠く供述録取書であつても、当事者の同意があるときはこれを証拠とすることを妨げないけれども、原審第五回公判調書によれば、前掲昭和四十二年二月十三日付供述調書の取調請求に対し弁護人は単に証拠調に異議がない旨の意見を述べただけであつて、同法第三百二十六条第一項の同意をした事跡は存しないのであり、単に証拠調に異議がない旨の前記陳述をもつて証拠とすることの同意があつたものと解するのは本件の場合相当でない。従つて、右供述調書は証拠能力を欠くものと断ぜざるを得ず、原審が右供述調書を証拠として取り調べ、しかも判決にこれを引用したのは、正に違法の措置というべきである。しかし、既に説示した如く、右供述調書を除外しても爾余の原判決挙示の証拠により原判示各犯罪事実を優に認定することができるから、右の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないので、これをもつて破棄の理由とはしない。

(二) 原判決は、その法令適用において、原判示第一の猥褻図画販売罪と同第二の猥褻図画販売目的所持罪とを刑法第四十五条前段の併合罪として処断しているが、刑法第百七十五条にいう猥褻文書図画等の販売とは、これらの物の不特定又は多数人に対してする目的に出た有償譲渡をいうのであるから、同条前段所定の販売罪は、かかる行為が多数回反覆されることを当然予定しているものと解すべく、また、同条後段所定の販売目的所持罪は、販売の準備行為を処罰の対象とし、販売のために日時、場所、対象物を異にして所持が反覆されることもこれまた当然予定しているものと解すべきであるから、同条の叙上法意にかんがみるときは、販売の目的をもつて猥褻文書図画等の所持を開始した者が、その一部を他に販売し、残部をなお手許に所持している場合には、残部の販売目的所持の点は販売行為と包括して評価されるべきことは勿論であるが、その所持する全部を販売し終つた後において更に販売の目的をもつて同種物件の所持を開始した場合であつても、右所持が先の販売行為における同一の継続的な一個の販売意思に基づいて開始されたと認められるときは、やはり後の販売目的所持の点は既往の販売行為と包括して同条前段後段に該当する一罪を構成するものと解するのが相当である(当裁判所昭和四十一年十一月二十九日判決東京高等裁判所判決時報十七巻十一号二四五頁参照)。本件についてこれを見るに、事実誤認の論旨に対する判断の項において説示した事実関係にかんがみると、被告人の原判示第一の猥褻図画販売の所為と同第二の猥褻図画販売目的所持の所為は、一連の販売意思に基づいて敢行されたもので、その間において犯意の中断はなかつたものと認められるから、右二個の所為は包括的にこれを一罪と評価すべきものであり、原判決がこれを併合罪として処断したのは法令の適用を誤つたもので、その誤りは本件の処断刑に差異を生ぜしめており、判決に影響を及ぼしていることが明らかであるから、原判決はこの点において破棄を免かれない。

(栗田 沼尻 近藤浩)

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