大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)1833号 判決

被告人 吉原三郎

〔抄 録〕

原判決が判示全事実につき挙示する関係証拠を総合すると、被告人は、原判示第一の日時・場所において、同人を次期町長選挙に当選させる目的で、茨城県猿島郡岩井町神田山下部落の被告人の後援会主催のもとに、同会員約六〇名が参集して開かれた「町政を聞く会」に出席した際、選挙人または選挙運動者である出席会員全員に飲酒してもらうため、二級清酒一・八リツトルびん入り一〇本(単価五〇〇円、価格合計五、〇〇〇円相当。以下同種の清酒については、単に「清酒」と略称する。)を持参し、これを、同会の事実上の主催者であり、かつ、選挙運動者である羽富治郎平に宿託し、同人は、その情を知つて、これを受託したものであることが認められ、当審における事実の取調の結果に照らしても、右認定を覆すことはできない。もつとも、所論は、被告人の後援会は解散し、現存しない旨を主張し、原審記録および当審における事実の取調の結果中には、右主張にそうごとき証拠もないわけではないけれども、原判決の挙示する原審証人石塚文雄、同円崎菊一、同大久保武の公判廷における各供述、検察官に対する羽富治郎平(二通)、石塚文雄、松崎福市、浦和計介、円崎菊一、倉持武雄、根本一茂(昭和四一年八月一一日付)、落合政雄、大久保武、古矢裕吉(同年七月二六日付)、飯田峰次郎、横張兵一郎、関文蔵の各供述調書を総合すると、被告人の後援会は、同人が昭和二六年、同三〇年、同三四年、同三七年に行なわれた各岩井町長選挙に立候補したのを契機として、昭和二六年ころから逐次岩井町内の各部落に、被告人を支持しその当選を得させるため投票ならびに投票取りまとめ等の選挙運動を行なうことを主たる目的として、その部落の選挙人または選挙運動者により、結成されたものであつて、会長、副会長、連絡要員たる役員若干を置くほか、規約、事務所等もなく、もちろん会費等の徴収もなく、そして、同後援会の活動としては、主として、被告人の町長選挙に際し、同人の「町政を聞く会」あるいは「新年会」、「忘年会」等の名目で会員の集会を開き、被告人を招待して、同人の意見発表や、会員の要望などを伝え、その機会に、会員の勧誘やその結束強化をはかるものであつて、そのための会員名簿を新たに調整することもあるが、しかし、被告人の選挙のとき以外は、ほとんど活動や行事をしないで、有名無実のごとき存在と化してしまうものであること、被告人は、これら後援会の結成を歓迎・助長こそすれ、その解散を指示するなどのことは、全くなかつたことが認められる。してみれば、被告人の後援会は、専ら町長選挙に立候補した被告人を当選させるため、同人のために投票ならびに投票取りまとめ等の選挙運動を行なうことを主たる目的とする選挙人または選挙運動者の集合団体であつて、このことは、神田山下部落の右後援会のみならず、後記認定の被告人の各後援会も全く同様の団体であることは、右証拠によりこれを肯認することができる。そして、被告人が、前記1のように次期町長選挙に立候補する決意を固め、着々その準備をすすめていたことや、右後援会主催の「町政を聞く会」に出席した後援会員である選挙人または選挙運動者らに飲酒させるため、多量の清酒を右羽富治郎平に寄託したことなどに、原判決挙示の前記証拠によつて認められるところの、「町政を聞く会」における被告人および後援会役員の言動等あわせ考えると、被告人は、次期町長選挙に当選を得る目的をもつて、右出席会員に対し、自己のために投票ならびに投票取りまとめ等の選挙運動を依頼し、その報酬として供与されたい趣旨で、本件清酒を選挙運動者である羽富治郎平に寄託したものであつて、しかも、羽富治郎平は、その情を知つてこれを受託したものであることは、十分肯認することができるうえに、その清酒は、相当の経済的価値があり、十分その対価となりうるものであり、その寄託は、単に、慣習上社交儀礼としてなされたものであるとは、とうてい解されない。もつとも、本件清酒を右羽富治郎平に寄託した前記認定事実に照らすと、被告人は、本件清酒を右羽富治郎平の所有に帰せしめ、その自由処分を同人にまかせる意思でこれを寄託したものではなく、右「町政を聞く会」に出席した選挙人または選挙運動者である後援会会員に飲酒させるため供与されたい趣旨で、これを右羽富治郎平に寄託したものであつて、同人も、また、同様の趣旨でそれを受託したものであることは、まことに明らかであるから、右寄託は、公職選挙法第二二一条第一項にいわゆる「交付」であつて、「供与」ではないと解すべきである。したがつて、原判決が、これを「供与」と認定したのは、事実を誤認したものであつて、この誤認は、判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は、この点において理由がある。

(吉田作 堀 金子)

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