東京高等裁判所 昭和42年(う)233号 判決 1967年5月09日
主文
本件控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は、被告人の負担とする。
理由
第二点について
所論は、要するに、軽犯罪法は、軽い犯罪を規制しているものではあるが、その各法条は、実質的に法益侵害に連なり、その意味で実質的違法性に裏づけられていなければならないことは、憲法第三一条からみても当然であるにかかわらず、被告人の本件各公衆電話ボツクス内立入行為は、電話機自体の機能を害するものでないのはもとより、他人の私的な通話を妨げるものでもなく、なんら法益侵害に連なるものではないから、原判決がこれに軽犯罪法第一条第三二号を適用して被告人を処罰したことは、明らかに判決に影響をおよぼす法令適用の誤をおかしたものであるというのである。しかしながら、原判示のような行為は、一般公衆が電話ボツクスの電話機を利用して自由に通話し得る利益を侵害する可能性のある状態を生ぜしめるものであつて、この面だけからみても、所論の実質的違法性を帯びたものであることが明らかである。したがつて、原判決が被告人の原判示各行為に軽犯罪法第一条第三二号を適用して被告人を処罰したことは、刑罰法条を拡大解釈して適用したものとはいえないのであつて、所論のような理由のもとに法令適用の誤として論ずることはできない。論旨は、理由がない。
第三点について
所論は、要するに、原判決は、その理由において、被告人が「通話以外の目的で入ることを禁じている……電話ボツクス内に……ビラを置く目的で入つたもの」と認定しているだけで、通話の目的がなかつたことまでを認定していないのであるが、通話以外の目的と通話の目的とが併存している場合には、本件のような電話ボツクスが「入ることを禁じた場所」に当たるとはいえず、少なくとも、その立入は、「正当な理由」があるものといわなければならないのであるから、原判決は、理由を附せず、また理由にくいちがいがあるものであるというのである。しかし、法令の解釈上も、通話以外の目的と通話の目的とが併存する場合に電話ボツクスに入ることが全面的に許容されるとは、解することができないから、この点だけからも、所論は、採用し得ないところであるばかりでなく、原判示事実を通読するときは、原判決は、本件各行為につき、被告人が当時通話の目的がなく、単にデイトクラブのビラを置く目的で電話ボツクス内に入つたことを判示したものと解せられるのであつて、原判決援用の証拠上はもとより、原審に現われたあらゆる証拠を検討しても、被告人に当時通話の目的があつたとは認められないのであるから、いかなる点からみても、原判決の理由の記載に所論のような違法があるとはいえない。論旨は、理由がない。<後略>(関谷六郎 堀義次 内田武文)