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東京高等裁判所 昭和42年(う)435号 判決 1967年5月29日

本店

茨城県水海道市三坂町一、三五二番地

日本産業株式会社

右代表者代表取締役

和田三郎

本籍並びに住居

神奈川県藤沢市藤沢九七番地

会社役員

和田三郎

明治四一年一〇月二〇日生

右の者らに対する法人税法違反被告事件について、昭和四一年一二月一〇日横浜地方裁判所が言い渡した有罪判決に対し、原審弁護人からそれぞれ控訴の申立があつたので、当裁判所は検事塚谷悟出席のうえ審理してつぎのとおり判決する。

主文

原判決中被告人和田三郎に関する部分を破棄する。

被告人和田三郎を懲役六月に処する。

この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は、全部被告人和田三郎の負担とする。

被告日本産業株式会社の本件控訴を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人菅原幸夫名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

所論は、原判決の量刑が不当に重いと主張するに帰するところ、所論に徴して記録並びに証拠物を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して検討するに、各証拠によれば、被告会社は砂、砂利の生産販売を業とする法人であるが、同会社は、他の多くの同種業者と異り、砂、砂利を他から仕入れることなく、殆んどを自ら採取して販売する関係上、多大の利潤をあげていたにもかかわらず、代表取締役たる被告人和田は、その業務に関し、原判示の如く、架空仕入れ、その資金の架空借入れに対する架空利息の支払い、架空現場費等々の架空経費の計上、車両売却利益、雑収入の計上逋脱等、平素から虚偽の記帳操作、証憑書類の作成等不正の方法を弄しておいて、あらかじめ脱税を企て、原判示の如く多額の法人税を免れたものであることが認められ、その態様、脱税額その他諸般の情状に照らせば、所論犯行の動機、業界の実情、税率その他の税務政策のほか、本件発覚後、重加算税五〇三万一、〇〇〇円を含めて脱税額全額を完納している事情(なお、重加算税の賦課徴収と罰金刑とが、いわゆる二重処罰の関係にあるものでないことは、最高裁判所判例((昭和三五年(あ)第一、三五二号、同三六年七月六日第一小法廷判決等))の趣旨に徴して明らかである。)等、所論を考慮に容れても、原判決が被告会社に対し罰金六〇〇万円の刑を科した量刑は不当に重いものとはいえず、したがつて、論旨は、被告会社についてはその理由がないが、これを被告人和田についてさらに検討するに、とくに本件発覚後における本件およびその後の課税に対する納税の状況、改悛の情況等諸般の情状に照せば、原判決が同被告人に対し懲役六月に処し、刑の執行を猶予したことはともかく、その猶予期間を五年の長期間とするの要を認めがたく、さらに、被告人を保護観察に付することは、本件犯行の罪質と被告人の年令、資質、境遇にかんがみ、同制度本来の趣旨にそわないのみならず、無用の負担を科するものというべきであるから、結局、同被告人に対する原判決の量刑は不当たるに帰し、論旨は、同被告人についてはその理由がある。

よつて、被告日本産業株式会社の本件控訴は、その理由がないから、刑事訴訟法第三九六条に則りこれを棄却し、被告人和田三郎の本件控訴はその理由があるので、同法三九七条、第三八一条により、原判決中同被告人に関する部分を破棄し、同法第四〇〇条但書を適用して当裁判所においてただちに判決する。

原判決が被告人和田に関して適法に認定した事実を法令に照らせば、右は昭和四〇年法律第三四号付則第一九条、同法律による改正前の法人税法第四八条第一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、その刑期範囲内において同被告人を懲役六月に処し、刑法第二五条第一項により、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予し、原審における訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文により、その全部を同被告人に負担させることとし、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 三宅富士郎 判事 石田一郎 判事 金隆史)

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