東京高等裁判所 昭和42年(う)760号 判決
被告人 佐藤清
〔抄 録〕
職権をもつて原判決の法令適用について調査すると、原判決は、原判示第二の所為につき道路交通法第一一七条の二第一号を、同第三の所為中被害者救護の措置をしなかつた点につき同法第一一七条を、同第三の所為中交通事故発生の日時場所等を警察官に報告しなかつた点につき同法第一一九条第一項第一〇号を、それぞれ掲げているが、正確な法令適用としては、原判示第二の所為につき同法第六五条、同法施行令第二六条の二、同法第一一七条の二第一号を、同第三の所為中被害者救護の措置をしなかつた点につき同法第七二条第一項前段、第一一七条を、同第三の所為中交通事故発生の日時、場所等を警察官に報告しなかつた点につき、同法第七二条第一項後段、第一一九条第一項第一〇号を、それぞれ適用すべきである。すなわち、原判決が掲げた各罰条には、同法第一一七条の二第一号につき第六五条の規定に違反した者、同法一一七条につき第七二条第一項前段の規定に違反したとき、同法第一一九条第一項第一〇号につき第七二条第一項後段に規定する報告をしなかつた者と規定され、各罰条の内容がこれらの各規定によつて補充されており、また、右第六五条の内容が同法施行令第二六条の二の「法第六五条の政令で定める身体に保有するアルコールの程度は、血液一ミリリツトルにつき〇・五ミリグラム又は呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラムとする。」との規定によつて補充されている関係にあるから、原判決が掲げた同法第一一七条の二第一号と同法第六五条、同法施行令第二六条の二、同法第一一七条と同法第七二条第一項前段、同法第一一九条第一項第一〇号と同条第一項後段の規定とが、それぞれ相俟つて、各罰条の構成要件を明確にしているものと解せられるからである。それ故、原判決が前記のとおり、同法第一一七条の二第一号、第一一七条、第一一九条第一項第一〇号のみを掲げ、これらの規定を補充する関係にある同法第六五条、同法施行令第二六条の二(第一一七条の二第一号につき)、同法第七二条第一項前段(第一一七条につき)、同法第七二条第一項後段(第一一九条第一項第一〇号につき)の規定を掲げなかつたのは、適用すべき法令の一部の適用を遺脱した法令適用の誤りがあることになるのである。そこで右の誤りが判決に影響を及ぼすか否かについて考えてみると、原判決が掲げた各法令は、基本たる罰条であつて、それぞれ、同法第一一七条の二第一号は、「第六五条(酒気帯び運転の禁止)の規定に違反した者で酒に酔い(アルコールの影響により車両等の正常な運転ができないおそれがある状態にあることをいう。)車両等を運転したもの」と、同法第一一七条は、「車両等の運転者が、当該車両等の交通による人の死傷があつた場合において、第七二条(交通事故の場合の措置)第一項前段の規定に違反したときは、」と、同法第一一九条第一項第一〇号は、「第七二条(交通事故の場合の措置)第一項後段に規定する報告をしなかつた者」と規定されており、同一の罰条の中に数個の規定の違反が併記されていて特定の規定を明示しなければ、いかなる規定の違反につきその罰条を適用したかが明らかとならない場合とは異なり、同法第一一七条の二第一号は、同法第六五条の規定に違反した者で酒に酔つて車両等を運転した場合、同法第一一七条は、同法第七二条第一項前段の規定違反の場合、同法第一一九条第一項第一〇号は、同法第七二条第一項後段の規定に違反した場合に、それぞれ限定されていることが明らかであるから、これらの罰条を掲げたことにより、同法第六五条、第七二条第一項前段又は第七二条第一項後段の規定に違反した場合につき右各罰条を適用する趣旨であることがおのずから明らかであると解せられ、右第六五条、第七二条第一項前段、同条第一項後段の規定の適用を遺脱したことは、判決に影響を及ぼすほど重大な法令適用の誤りとは認められない。次に、同法第一一七条の二第一号の罰条に関し、同法施行令第二六条の二の規定の適用を遺脱した点について考えてみると、右規定は、同法第六五条の内容を補充する規定であり、右第六五条の規定に違反し、酒に酔い車両等を運転した行為に対する罰条である右第一一七条の二第一号を掲げたことにより、同法施行令第二六条の二の規定により補充された同法第六五条の規定に違反した場合につき右罰条を適用する趣旨であることが看取できるから(原判決は原判示第二の事実につき呼気一リツトルにつき〇・二五ミリグラム以上のアルコールを身体に保有しと判示し、右施行令第二六条の二の規定の文言を引用している)、右施行令第二六条の二の規定の適用の遺脱も、判決に影響を及ぼすほど重大な法令適用の誤りではないものと解せられる。
(松本 真野 石渡)