大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)898号 判決

被告人 山中巳年雄 外三名

〔抄 録〕

原審が、検察官が昭和四〇年九月二八日付書面をもって取調の請求をした物のうち、検察事務官上田政夫が昭和四〇年一月二八日横浜市南区花の木町二丁目二八番地マーベル株式会社事務所において差し押えた番号32ないし40につき、弁護人の異議を理由ありと認め、取調請求を却下した理由が、裁判官が発する捜索差押許可状に記載することを要求されている「差し押えるべき物」の表示は、捜索差押を受ける者において執行の際右表示その他の許可状の全記載と照合して何が差押を許された物件であり何が然らざる物件であるかの判断を下すことができる程度のものでなければ憲法三五条の要請に答えた差押物件の明示とはいえないところ、本件につき東京簡易裁判所裁判官が発した捜索差押許可状には、被疑者須田公策に対する恐喝被疑事件について左記のとおり捜索及び差押することを許可するとして、捜索すべき場所として「横浜市南区花の木町二丁目二八番地マーベル株式会社事務所及び附属建物」、差し押えるべき物として「本件に関連あるメモ、帳簿書類、往復文書、預金通帳、印鑑等」という記載があるのみであって、これによっては、マーベルにおいて何が差押を許された物件であり何が然らざる物件であるかの判断を下すに由がなかったと認められるのであり、その他執行に立ち会ったのがマーベルの社員葉山茂ほか四名であって、須田公策自身ではなく、右葉山等において須田公策に対する恐喝被疑事件の内容を知っていたことを認めるに足りる証拠のないことをも併せ考えると、前記許可状は憲法の要請する差押物件の明示を欠いた違法な令状であるということ及び右許可状に基づき実際に行なわれた差押が、品名にして三四七点、数量にして一四〇〇余の多量のものであって、恣意的無差別な違法の執行であるということの二点にあることは、原審の昭和四一年一月一三日付決定理由書によって明らかであるが、右のうち、捜索差押に立ち会った者が被疑事件の内容を知っていたか否かが捜索差押の適法か否かを決定する一つの要素であるかのようにいう点は、検察官、検察事務官または司法警察職員が裁判官の令状を得て行なう捜索差押には刑事訴訟法一一三条の準用がなく、その準用が認められている同法一一四条二項により、捜索の対象とされる邸宅、建造物等の住居主若しくは看守者またはこれらの者に代るべき者その他隣人または地方公共団体の職員等をも立ち会わせてすることができることになっていること等にかんがみれば、当を得たものとはいい難く(本件のマーベルの場合は同会社の総務課長木下茂、経理部長葉山茂こと金英漢等が立ち会ったのであるが、同会社において須田公策以外に立会人を求めるとすれば、右木下、金等は最適の者であったと認められる。)差し押えるべき物が特定されているか否かは、結局、当該許可状の記載自体によってこれを決するのほかはないものというべきである。これを本件マーベル事務所における差押についてみるに、許可状の記載は前記のとおりであって、これに被疑事実の内容が記載またはこれを記載した別紙が添付してあったわけではないが、被疑事実が、マーベルの取締役社長である須田公策がマーベルが平岡に対し両社間の取引に関連して金銭的請求権を有することに藉口して平岡側の者を脅迫し、金員を喝取したことを内容とするものであって、その性質上差押の対象が広範囲に亘ることもやむを得なかったと認められる事情があり、右の捜索差押が捜査の初期に行なわれたことであって、差し押えるべき物の表示が概括的であることを避けられなかったとみられること、差し押えるべき物として列挙された物のうち帳簿書類については、これをなお限定的に表示する余地がなかったとはいえないにしても、一応その対象を例示、列挙したうえ、これに「本件に関連ある」との限定を付したものであることを考え合わせると、右許可状の差し押えるべき物の記載は、やむを得ないものとして是認できるものであり、これを目してその特定に欠けるところのある違法な許可状ということはできない。かりに右許可状に基づく差押の執行が恣意的無差別に行なわれた事実があっても、そうだからといって許可状そのものを違法な許可状ということができないことは、もちろんである。

また右許可状に基づいて差し押えられた三四七点の物を見てみると、マーベルの業務全般を点検する意図でもあったのかと疑われるくらいに網羅的であり、被疑事実との関連がないか、これがあっても極めて間接的な関係しかないと認められる物が相当数含まれていることは否定できないが、他方当時にあっては、被疑事実に直接の関係のあることが疑われ、これを差し押える必要のあったことを是認できる多数の物を包含したこともまた否定できないのであるから、許可状の許容する物の範囲を超えると認められる物についてその差押を違法であるとすることは可であるとしても、その全部の差押を違法であるといわなければならない理由はないというべきである。

本件において、原審が検察官の取調請求を却下した前記32ないし40の物は、検察官がこれによって証明しようとした事実によってみれば、ある時点における被告人須田の平岡に対する感情、意向、マーベルと平岡の間の金銭的関係、被告人須田と同山中及び同田中の間の金銭授受関係等を示している可能性のあるものであって、許可状にいう本件に関連のあるメモ、往復文書等にあたると認められ、これを差し押えた当時の問題としては、これを差し押えたこと自体を違法視する理由はなかったのであるから、これを違法に差し押えられた物であるとして却下した原審の措置は、法令に違背したものというべきである。しかし、それらの物は、いずれも昭和三九年二月末頃までのマーベルと平岡との関係、被告人須田と同山中及び同田中との関係を示すものであって、原判決の認定した事実によって明らかなとおり、マーベルと平岡との関係が同年四月以降特殊な発展をしていった過程のうちに恐喝罪及び恐喝未遂罪が成立するか否かが問題とされている本件の場合は、それらの証拠は訴因事実との関係において関連性と重要性の乏しいものであるから、その採否の如何が犯罪の成立に関係があるとは認められないので、前記の法令違背は、判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続における法令違反にあたるということはできない。

所論は、原判決が被告人山中の罪となるべき事実の第一につき証拠として掲げる三宅栄二、小川善三作成名義のメモ一通は、弁護人においてこれを証拠とすることに同意しなかった物であって、刑事訴訟法三二三条によっても証拠とすることができないものであるから、これを証拠として採用したことは違法であり、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反にあたると主張するものである。

よって検討するに、右メモ一通は、原審第二回公判において、検察官から三宅、小川が小切手を喝取された昭和三九年四月二七日の状況を証明するための証拠として取調の請求がなされたものであり、これに対しては、原審第六回公判において各被告人の弁護人から不同意の意見が述べられたが、同第九回公判において刑事訴訟法三二三条三号の書面としてその取調のなされたものであることを認めることができる。

原審証人平岡光生、同三宅栄二、同小川善三の各証言によれば、右メモは、三宅、小川の両名が被告人山中の指示に従い議員会館の被告人田中の室に金額一〇〇万円の小切手を持参した日である四月二七日頃の朝、後日機会があれば右小切手交付のことを恐喝事件として問題にする意図を有した平岡側の平岡専務が三宅に対し、当日の状況をよく記憶して帰り記録しておくように指示し、三宅がその指示のとおり議員会館から帰ったのち前記小切手を被告人山中に交付した前後の状況を記録し、翌二八日小川に閲覧させてその承認を受けたうえ、両名がサインをして平岡専務に手交しておいたとみられるものであり、当日の出来事を直ちに記録したものである点においては、その内容の正確性を担保するに足りる情況下において作成されたというを妨げないとしても、前記のとおりの意図を有した平岡専務の意を承けて作成されたものである点においては、その内容の信憑性につき反対尋問による吟味を必要とする点がないとはいえないのであるから、右は刑事訴訟法三二一条一項三号によって証拠とすることが許される書面であり、同法三二三条三号にいう「前二号に掲げるものの外特に信用すべき情況の下に作成された書面」にはあたらないというのが相当である。そして、本件の場合、右メモの作成者である三宅、小川の両名はそれぞれ原審公判期日において右メモの内容となっている事項について供述することができたのであるから、刑事訴訟法三二一条一項三号によりこれを証拠とすることもまた許されない性質のものであるといわなければならない。

そうとすれば、証拠とすることのできない右メモを証拠として取り調べ、これを判決に掲記した点において、原審の訴訟手続には法令の違反があることに帰するが、被告人山中の原判示第一の事実は、原判決の掲げる関係証拠のうち右メモを除くその余の証拠によっても十分に肯認することができ、前記法令違反は判決に影響を及ぼすことが明らかであるとはいえないから、論旨は結局理由がない。

(江里口 上野敏 中久喜)

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