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東京高等裁判所 昭和42年(く)141号 決定 1967年12月26日

少年 W・H(昭二三・四・二〇生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、抗告申立人両名(連名)作成名義の抗告申立書および抗告申立人駿河哲男作成名義の抗告申立補充書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して次のように判断をする。

一  本件刑事保護事件記録中の関係証拠および当審における事実取調の結果によつて、少年に対する強姦致傷の非行事実の成否を検討するのに、少年は昭和四二年八月○○日夜、かねて知り合の、懲役三犯の前歴をもつ西○弘○郎(三四歳)から「女の子を連れてきて、寝るようにしてくれ」と頼まれ、同夜一〇時頃通行中の映画館案内係の○井○子(一六歳)に対し「ドライヴに行こう」といつて西○の運転する自動車に誘い入れ、三人で羽田、川崎方面を車で走り回つた上、翌△△日午前二時半頃東京都豊島区○○×丁目の旅館内に連れ込み、少年は○子に「寝るんだ、着かえろ」と命じて同女の陰部を手指で弄び、続いて西○は同女と関係し、そのため同女に処女膜裂傷を生ぜしめ、少年は西○から現金一、〇〇〇円をもらつたことを認めうるが、一方、○子は、敢て逃げ帰ろうともせず、少年から「家に帰るか」と聞かれて「遅くなつたから家に帰ると叱られるので帰りたくない」といつたこと、また同女も西○から現金一、〇〇〇円をもらつたことも認められるので、少年と西○弘○郎が共謀の上、暴行を加えて同女の反抗を抑圧し、強いて姦淫し、その結果、傷害を負わせたとの事実を認めるには、いささか証拠が不十分と考えられる。

二  従つて、原決定が少年に対して強姦致傷の非行事実を認めたのは違法といわねばならないが、刑事保護事件記録によれば、少年に対する公衆に著るしく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反、軽犯罪法違反の非行事実を認めうる以上、刑事保護事件記録のほか少年調査記録を精査し、少年の前歴、行動歴、右非行の罪質、態様、動機、少年の年齢、性行、家庭の事情、生活環境、非行後の情況、本件非行の社会的影響など諸般の情状を総合考察した上、なお少年を中等少年院に送致するとの決定を維持しうるかどうかを検討する必要がある。

なお、前示のごとく強姦致傷の非行事実は証拠不十分として認めなかつたけれども、その際の少年の言動、即ち被害者と旅館に赴く途中、少年が自動車内で被害者を殴打し、またマッチの火を同女の髪に近付けて脅かしたこと、同女と別れた翌日、少年は同女の勤務する映画館に現われ「俺とつき合つてくれ」といつたので、同女は恐れて警察に届出たことなどは、少年の行動歴、性行、生活環境を判断する一資料となしうるであろう。

ところで、原決定も「少年院送致の理由」として説明するように、少年は前に窃盗保護事件により東京家庭裁判所で保護観察に付せられたことがあり、また昭和四〇年頃から世話になつていた池袋周辺の○○組の幹部のところに止宿し、その後昭和四二年七月からは女の子と同棲してアパートや旅館を泊り歩きパチンコ店などに出入して徒遊しているうちに本件非行を犯したこと、保護者(母)や五人の兄たちも少年の更生に相当の努力を払つてきたものの、少年の方でこれらの人達の言うことをきかず、保護者たちもその方途に迷つていることが明かに認められる以上(当審における事実取調の結果に徴するも、右の事実を左右することはできない)、少年に対しては中等少年院に収容して健全な社会性及び勤労意欲を促進させるように教育する必要があると考えられる。

三  従つて少年を中等少年院に送致することとした原決定は相当であつて、前示のように少年に対して女の子を連れてくるように頼んだ年長の西○弘○郎が不起訴になつたとしても、少年に対する右処分が不当であるとは考えられないから、本件抗告は理由がない。

よつて少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により本件抗告を棄却することとし、主文のように決定する。

(裁判長判事 河本文夫 判事 東徹 判事 藤野英一)

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