大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1053号 判決

被控訴人は右調停はその前提となる事項につき錯誤があつたと主張するので判断する。

本件建物につき、控訴人が株式会社八十二銀行に債権極度額金一二〇万円の根抵当権を設定し、前記調停成立の頃金二一〇万円の債務を負担していたことは当事者間に争いがなく、右争いない事実と証拠によると、右調停手続において、控訴人、被控訴人間で、控訴人は被控訴人に本件建物を買い取つてもらつて本件土地を明渡すこととなり、買取価格について調停が進められ、その前提として右建物の価格が問題となつたが、その際控訴人は本件建物に前述の抵当権の設定されていることを全く被控訴人や調停委員に明かさず、また被控訴人を代理していた銭坂喜雄弁護士は失明しているため登記簿の右抵当権の記載に気付かないで前述のごとき負担はないものと誤信し、調停両当事者も委員会も右負担のないものとし、その前提のもとに調停手続を進め、更に右負担のない建物としての価額の鑑定をなし、その鑑定額(第一回三八万七四一六円、第二回八三万九〇〇〇円)を基礎に、両調停当事者間で黙示のうちに本件建物に抵当権の負担のないことを了承の上右代金を四七万円として右売買をする旨の調停の成立にいたつたこと、もし当時被控訴代理人において右抵当権の存在についての前記誤信がなかつたならば到底右金額による買取りの合意にいたつてはいなかつたこと、したがつて右調停においては、本件建物に抵当権の負担がないということは一方その合意の前提事項であつたとともに、そのことは表示された動機であつたことが認められる。

控訴人本人の供述中、右認定に牴触する部分は信用し難く他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、右調停は、その前提事項にかんし、要素の錯誤があつて無効であるといわなければならない(なお、右調停が無効であつても、一旦右調停成立によつて訴の取下げとみなされ終了した前記松本支部昭和四〇年(ワ)第八四号事件が復活することはない。)

(荒木 長利 田尾)

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