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東京高等裁判所 昭和42年(ネ)1139号 判決 1968年8月30日

控訴人 朝銀埼玉信用組合

右代表者代表理事 伊憲錫

右訴訟代理人弁護士 海老原茂

同 衣里五郎

被控訴人 Y

右訴訟代理人弁護士 猿谷明

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、≪証拠省略≫を総合すれば、控訴人は訴外Aに対し手形割引、手形貸付等の方(法)で融資をした結果、昭和四〇年一一月一八日現在において金六〇〇万円を越える債権を有していたことを認めることができる。

二、別紙物件目録記載の建物(本件建物という。)につき昭和四〇年一一月一九日千葉地方法務局木更津支局受付第一四六三八号をもってAより被控訴人に対し同日付売買を原因する所有権移転登記がなされていることは、当事者間に争がない。

三、よって右所有権移転登記がなされるに至った事情について考察するに、訴外A1が被控訴人の長女であること、A1はAと夫婦であったが、昭和四〇年六月九日協議離婚をしたことは当事者間に争なく、≪証拠省略≫を総合すれば、AはA1と昭和二八年一一月八日結婚したこと、その当時Aは埼玉県蕨市で古繊維加工業を営んでいたところ、取引の都合上昭和三〇年頃有限会社○○商事を設立し、会社組織で右事業を営むようになったが、その経理面の仕事は全面的にA1に担当させていたこと、しかるに昭和三七年頃からA1の放漫な支出も影響して借入金が増大し、経営が行詰ったので、Aは事業の転換を思立ち、昭和三八年春頃従前営業してきた土地、建物を有限会社○○商事の営業権一切とともに大口債権者であった同業者訴外水沢健治に代金一一〇〇万円をもって譲渡し、負債を整理した残額の一部をもって、将来の値上りを見越して千葉県木更津市内に田二筆合計三反二一歩および山林一筆二反六畝二八歩を購入し、さらに被控訴人が訴外堀切勲から買受けた木更津市××五三〇番地の土地上に被控訴人の一部出資を受けて本件建物を新築し、昭和三九年一一月頃完成をみたので、A1、被控訴人夫婦とともにここで生活をするようになったこと、被控訴人は当初Aと別に家を建てるつもりであったが、Aが一軒でよいというので、一部出資して本件建物を建築したものであって、建てた当時はこれをAと被控訴人との共有とする意思であったこと、Aは付近に工場を造って以前と同じく古繊維加工業を始め、A1がその経理を担当していたが、A1がその派手な性質から蕨時代の惰性で、融通手形を多く発行したため、事業が苦境に陥ったところから、夫婦間に破綻を生じ、協議の上離婚することになり、両名の間に昭和三〇年一月二九日に出生した長女A2の親権者をA1と定めた上昭和四〇年六月九日埼玉県蕨市長に協議離婚の届出をしたこと、右離婚に際しAは、これより先被控訴人との間でAの単独所有とすることの合意が成立していた本件建物をA2の将来を慮り、同人に贈与する意思を表明し、被控訴人とA1はこれに賛成したこと、しかし、Aは前記のとおり離婚の届出を一旦したものの、復縁の希望を捨てきれず、以前から有っていた控訴人よりの融資による新規事業を目論見、A1にも協力を求め、他に住居を求めてA1とともにこれに移り住み、離婚届出後の昭和四〇年七月一二日本件建物につき千葉地方法務局木更津支局受付第九七一九号をもってAの名義で所有権保存登記手続をし、これと同時に同日同支局受付第九七二〇号をもって被控訴人のために同日付抵当権設定契約に基づく債権額を金三五〇万円とする抵当権設定登記手続をしたが、その後自己所有の前記田二筆および山林一筆を売却し、昭和四〇年九月一日蕨市大字○字○○○にある被控訴人所有の宅地一筆および同地上の居宅兼倉庫一棟を買受け、控訴人よりは金五〇〇万円の融資を得て新事業に乗出そうとしたのも、右融資金の大半がA1の手によって消えてしまったため、実らずここにYは、復縁と事業の望を断ち、A1と離別するに至ったこと、Aは本件建物をA2に贈与したがA2名義に登記をすると、経済的に信用のおけないA1が親権を濫用して勝手にこれを処分するおそれがあったので、A1および被控訴人と話合の上、真実の所有者となったA2が成年に達するまで、被控訴人名義で登記し、被控訴人をしてこれを管理せしめることとし、前記のとおりAより被控訴人に対し売買を原因とする所有権移転登記手続をしたものであること、被控訴人およびその妻Y1は昭和四一年二月二一日A1の承諾をえてA2を養子としたことを認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫

四、右事実によれば、本件建物の所有権は前所有者であるAから贈与によりA2に移り、さらに信託的に被控訴人の所有とされたものであるところ、A、A2の親権者A1および被控訴人の三者が合意の上中間を省略してAから直接被控訴人に対し売買を原因とする所有権移転登記手続をしたものであるから、登記面の記載に従ってAと被控訴人との間の売買契約を取消すことによっては、右登記の抹消登記手続を請求することができないことは明らかであり、また、Aは、被控訴人に対し仮装行為を理由とする抹消登記手続請求権を有するものではないから、控訴人は、これを代位行使することはできないものといわなければならない。

五、そうすると、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、第一次的請求原因によるも、予備的請求原因によるもともに理由なく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仁分百合人 裁判官 石田実 川添万夫)

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